紙の本
作者の友愛精神・愛国心を堪能できる一冊
2022/10/15 13:27
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あした晴れるといいな - この投稿者のレビュー一覧を見る
敗北感漂うWWIIの戦禍を掻い潜り
「なぜ自分が死ななければならないのか」と問い続ける自伝的小説
目的を意識して行動する昨今の私達とは違い、志願して上記の命題に辿り着き、戦線でその問題の解答を得た作者の知見に胸を打たれました
Translate Tweet
投稿元:
レビューを見る
1940年5月-6月のドイツによるフランス侵攻のさなか、
3人乗りの偵察機の機長としてフランス軍に従軍している人物
(ほぼサン=テグジュペリと同一人物)の一人称による
思索的小説。
敗色濃厚のフランスで、主人公は前線付近の偵察のために
飛び立っていきます。
高高度による影響により機械あるいは身体に不調が現れ、
ドイツ軍の戦闘機隊の襲撃をかわしながらも、
なんとか偵察を終え主人公は帰還します。
死が日常のこととして眼前にある状況で、
自分が行う偵察は大勢にはなんら影響を
及ぼさないことを知りつつ飛行する主人公。
自分は何のために戦うのかを自問するなか、
「人間」のために戦うのであるという
回答を見出します。
ただ、ドイツの側も別の立場から「人間」のために
戦っていたのであり、そして、この考え方はえてして
「相手は人間ではない」などといった考えに
なりがちなのは注意しなければなりません。
そして結局、戦争とは
勝利したほうが「人道的な存在」であり
敗北したほうは「非人道的な存在」となる
という現代の現実が存在します。
投稿元:
レビューを見る
原書名:PILOTE DE GUERRE
著者:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(Saint-Exupéry, Antoine de, 1900-1944、フランス、作家)
訳者:鈴木雅生(1971-、フランス文学)
投稿元:
レビューを見る
“どんな人間であろうと、責任を感じながら絶望することなどできるわけがない” P. 251
悲観しながらも、なぜ前に進もうとするのか。現実から目を背けているわけではない。そう、責任があるからだ。覚悟とまで胸をはって言えなくても、それを投げ出したりはしない。僕らは最後の砦なのだから。
“なにをするべきか? 答えは無数にある。これを。あれを。あるいは別のことを。未来はあらかじめ決められてなどいないのだ。いかにあるべきか? これこそが重要な問題なのだ。精神があってはじめて、知性は豊かに生み出す力を持つのだから” P. 254‐5
いかにあるべきか? あるべき姿、ビジョンなんでもいい。これを思い浮かべることができなければ、現状とのギャップを見出すことなどできやしない。そして、それこそが、僕らが取り組むべきプロブレム。それさえはっきりすればあとは行動しかない。そういった行動が僕を築きあげていく。
投稿元:
レビューを見る
第二次大戦における作者の操縦士としての体験に基づきながら、自由な精神性が失われる「戦争」に対する強烈な批判と理不尽さに対して行動=戦う情熱を示している。「したがって、私が戦うのは、それが誰であれ、… 他の思想に対してある個別の思想だけを押しつけるものだ」(P296)のくだりが響く。
投稿元:
レビューを見る
サンテグジュペリの最後の作品。
出された当初は戦争真只中といふこともあり、民主主義からの返答と呼ばれてゐたやうだが、本人はそうした思想やらイデオロギーやらをもつてものを書いてゐたとは到底思へぬ。
ただひたすらに空を求め、彼にできること、さうせずにはゐられぬことを粛々とこなしてゐたにすぎない。それがばかげた作戦であらうと、とち狂つた戦争であつたとしても、彼は空を飛び、作戦をこなす。最後まで、空を目指し、そして考へ続けた。
軍人である以上、命令は絶対であり、ただ従ふより他ない。そして、相手を殺すといふことは自分も殺されるといふこと。無条件に死を受けれいることだ。しかし思想とは常に行動だ。考へることそのものが行動だ。彼にとつてそうせずにはゐられないもの、存在に対する慈しみだ。
この世に産み落とされてしまつた以上、誰かと関係せずにはゐられない。生まれ落ちた場所で、たくさんの人間と出会ひ、取り返しのつかない、体験と記憶を積み重ねていく。それが愛となり、犠牲となり、絆となる。存在とはさうしたものの積み重ね、結び目でしかない。その結び目は目に見えず、いとも簡単にほどけて消えてしまふ。しかし確かに存在する。
どんな人間であつても、その絆をもつといふ点では共通する。この名においてより集団として存在することはできない。
彼はさう信じてそして自らそのために死んでいつた。マルローが敗北のわかつてゐた戦争の中で《希望》と呼んでゐたもの、彼はそれはどんな時でも飛ぶことだつた。
投稿元:
レビューを見る
著者の実体験に基づく小説。フランス軍の偵察機パイロットとして戦争に参加する。海外文学の翻訳本としては読みやすいと思います。「光文社新訳文庫」。
「人が死ぬことができるのは唯一、それなしでは自分が生きられないもののためにだけだ」
印象に残った言葉です。
「ちいさな王子」が表の名作ならこちらは影の名作といったところでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
ヒトラー『我が闘争』に対する「民主主義からの返答」として高く評価される。という書評が気になってしょうがなかったので、「ちいさな王子」に続いて読んでみた。
1940/5/23の、電撃戦直後のフランス軍偵察飛行1日のお話。
両世界大戦とも早々に降伏しておきながら、戦勝国然としたフランスには、決していい感情は持ってなかったが、負け戦ながら、懸命に抵抗する姿勢に感銘を受けた。また、「民主主義陣営の中でも最強のやつ」としてアメリカの参戦を待ち望む雰囲気が、よく分かった。
P302 最後の一文
明日も、われわれはなにも言わないだろう。明日も、傍観者たちにとっては、われわれは敗者だろう。敗者は沈黙すべきだ。種子のように。
P296
私は信じる。《人間》の優越こそが唯一意味ある《平等》を、唯一意味ある《自由》を築きあげるものだと。私は《人間》の権利が各個人を通じて平等であると信じる。《自由》とは《人間》の上昇にほかならないと信じる。《平等》とは《同一性》ではない。《自由》とは個人を《人間》よりも賞揚することではない。したがって私が戦うのは、それが誰であれ、《人間》の自由をある個人にーあるいは個人からなる群れにー隷従させようとする者だ。
P67
ある女性を美しいと思うとき、私には言うべきことはなにもない。ただその女がほほえむのを見るだけだ。インテリ連中はその顔を説明しようとして、分解してからそれぞれの断片を分析するが。もはやほほえみそのものは見ていない。
投稿元:
レビューを見る
「人間の土地」や「夜間飛行」と同じスタンスで
読み進めていましたが、本作は負けると分かっている
戦争での不可能であろうと思われる任務である
偵察飛行を遂行し、帰還するまでが描かれており
その中で著者が思い巡らしたことが
書かれてるのか?と思っていたものの途中から
違和感を覚え…
「結局のところ、なぜ我々はいまだに戦って
いるのだろうか?《民主主義》のため?(中略)
ならば《民主主義陣営》のほかの連中も一緒に
戦ってくれればいいじゃないか!」(P179)と
他国を攻める姿勢になり、名指しはしないものの
アメリカを非難します。
すでにアメリカではベストセラー作家であった
著者のこの作品の目的は「祖国の立場を弁明し、
民主主義という大義を共有するアメリカがヨーロッパの
戦争に参戦するよう促すことである。」(P312)
でしたが、本作の発売前にアメリカは参戦し、
その後、「アメリカの読者はこの作品を、今や
戦友となったフランスの勇気ある戦いの記録として
熱狂的に受け入れた。」(P312)ということでした。
とても素晴らしい作品ですが、今後こういった
目的で書籍が作り出されることがないことを
願うばかりです。。
投稿元:
レビューを見る
1940年ドイツに侵略され敗北しつつあるフランス軍の偵察機に乗り、もたらした情報を有効に使う友軍がいない中を、帰還がほぼ絶望的な命令に従って出撃して生還した飛行を振り返るサン・テグジュベリの小説。この物語がフランスが降伏した後、亡命したアメリカで執筆されたことを差し引いたとしても、自由や平等について記された言葉は重い。「私は信じる。<人間>の優越こそが唯一意味ある<平等>を、唯一意味ある<自由>を築き上げるものだと。…<平等>とは<同一性>ではない。<自由>とは個人を<人間>よりも賞揚することではない。したがって私が戦うのは、それが誰であれ、<人間>の自由をある個人にーあるいは個人からなる群れにー隷従させようとする者だ」
投稿元:
レビューを見る
人は何のために生きて、何に命を賭けるのか。
人間とは?個人とは?
戦争体験から生まれた思考はとても哲学的で、はっとさせられる記述もあり、すぅっと読めます。
やはりサンテグジュペリは面白い。
ぜひ。
投稿元:
レビューを見る
解説にあるように、これはまさにイニシエーションの、通過儀礼の本だ。
こんなあからさまに素直な言葉を重ねていけるものかと驚いた。
人は肉体でもなく精神でもなく、行為だ、というあたりは感動した。プラトンよりもアリストテレスよりもデカルトよりも《人間》なのだ。
出撃というイニシエーションを通して全く世界が別のようにみえるその前とその後を描いている。
後半は正直言って、ちょっと長い。これは時代の、状況のズレによるものなのか、前提とするものが少し違うし、重ねるべき言葉の量も違うのだろう。
人は行為のなかにある。
投稿元:
レビューを見る
敗北感漂うWWIIの戦禍を掻い潜り
「なぜ自分が死ななければならないのか」と問い続ける自伝的小説
目的を意識して行動する昨今の私達とは違い、志願して上記の命題に辿り着き、戦線でその問題の解答を得た作者の知見に胸を打たれました
投稿元:
レビューを見る
いつかの『新潮』で山内志朗が面白いって言ってたから読んだ。
第二次世界大戦下で敗北が決定的なフランス。そのなかで敵地での偵察非行に向かう主人公。負けがわかっている(何も守るべきものがない)中で「何のために死ぬのか」という命題を問い続けた筆者の葛藤を自伝的に描き出した小説。
自分には内容が少し難しかったけれど、「人間は関係の結び目である」とか身体ではなく行為の中にその人が宿るみたいな印象に残るフレーズが多くて面白かった。
投稿元:
レビューを見る
メモ→ https://twitter.com/nobushiromasaki/status/1622795577468788736?s=46&t=tTGmNYAwZTJEVIRTMG8NmQ