新事業企画・起業のための実践ブロックチェーン・ビジネス

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ブロックチェーンについて、技術解説本は数多あるが、ブロックチェーンのビジネスを考えるにあたって参考にできる本は意外に少ない。本書は今まで読んだブロックチェーン関連の本の中でもっともビジネス面で参考になる本である。

まずブロックチェーンの「本質」についての議論が行われる。ブロックチェーンを語るにあたり、正しく本質であるこの点に触れて、かつ冷静な分析で納得感のある内容が含まれているものも少ない。
著者は、ブロックチェーンの特徴を「改竄が難しいこと」「二重支払いが防止できること」「中央管理者が不要なこと」「スマートコントラクトが行えること」とまとめているが、非常に適切なまとめであると思う。この点は著者が本書の中でも何度か繰り返していることからわかるように重要なポイントである。これにより、「記録保存や履歴の共有」「価値の移転」「システム運用の信頼性の向上」「契約の自動失効」といったことが可能となる。そして、これらの機能ために、ブロックチェーン技術は仮想通貨だけでなく、資格証明や所有権の証明に使えると言われている。ブロックチェーンを語るにあたってこの認識の確認は重要である。

その認識確認の後で改めて、「そこで大事になるのが、この技術をどう使うかを冷静に考えることです。画期的な技術なので他に先駆けて導入しようという安易な考えではなく、現在のビジネスにどう活かせるのか、どう使えるのかと検討する姿勢です」と、当然だが、また忘れられがちでもある基本姿勢を確認している。著者はまた、パブリック型のブロックチェーンの課題として、取引認証の時間、大量取引の限界、情報秘匿性の問題、スマートコントラクトの法的拘束力、などその課題と限界についても適切に指摘している。ブロックチェーンでの正真性は担保されるものの、入力情報の正真性をどのように担保するのかという常に留意が必要な課題も挙げている。

著者が指摘する「複数のステークホルダーがいるなかで」「特定の誰かを信頼の起点にすることなく」「価値の保存や移転を可能にしたい」というようなブロックチェーンの特質が活かせる場合にブロックチェーンを使うべきである、というのはなぜブロックチェーンを使うのかという問いに対する基本的な考え方としては押さえておくべき共有事項である。同時にブロックチェーンまだまだ技術的には課題も多く、発展途上のものであることを意識しておくことが必要である。

また、ブロックチェーン、特にEthereumが提供するスマートコントラクトという概念もブロックチェーンの適用を考える上で非常に重要である。著者はスマートコントラクトを「デジタルに表現される資産を、予め定められたルールに従って、自動的に移転させる仕組み」と説明する。これに伴う法的拘束力の話まで深堀りされている。


こうした大枠の整理の後に続く技術論とビジネス論のまとめも端的によくできている。著者が混沌としたブロックチェーンの世界において貢献をしたいとする意志が伝わってくるようだ。著者はブロックチェーンハブというブロックチェーン関連企業に投資するインキュベーション企業を創業し���いるが、そこから得られたであろう実際的な知識と熱意が感じられる。

ブロックチェーンを語るにあたってよく言われるパブリック型とプライベート型の区別も非常に重要だが、これについてもよくまとめられている。この違いは、インターネットとイントラネットに比することができるのではと思う。つまり、パブリック型ブロックチェーンが世の中で広く使われたときに、TCP/IPというインターネットの技術がイントラネットにそのまま適用されたのと同じように、プライベート型ブロックチェーンがパブリック型の技術をそのまま使って実現されるかもしれないということだ。実現しようとすることが違うため、取り組むべき課題も異なるが、テンプレートや技術がそのまま流用可能となることで広まる可能性はある。また、多くの場合、ブロックチェーンの技術もオープンソースとして提供されるため、技術の進化のスピードはより速くなることが期待される。今はEthereumやHyperLedgerなど複数のプロジェクトがあり、それらも色々と進化・分岐しているが、広く使われるようになるといずれ収斂されていくのではないだろうか。そもそもインターネットも元々「インター」、つまり複数の異なるネットワークを接続するために構想され、ルーターもTCP/IP以外の複数のネットワークプロトコルをサポートして相互接続するための機器として生まれてきた。ブロックチェーン間の相互接続ということが課題として言われているが、ある程度の時間が経過した後には収斂が起こって同じ道を辿るのではないかと思っている。


本書のもつ価値のひとつは、第4章の金融分野および第5章の非金融分野のそれぞれのブロックチェーン・ビジネスに関する現時点での具体的なユースケースのまとめかもしれない。これらの章に書かれている中身自体はすぐに(もしくはすでに)賞味期限切れになってしまうのかもしれないが、現時点でのスナップショットとしてはどこよりもよくまとまっているのではないだろうか。
金融分野の事例として、ABRAの個人間送金、サトシペイのマイクロペイメント、エストニアのファンダビーム、米スキューチェーンの貿易金融、Tetherの法定通貨にペッグされた仮想通貨。日本国内についてもMUFGコイン、ブロックチェーン推進協議会のZen、みずほの貿易金融、モーニングスターやSBIリップル含むSBIグループ、日本取引所グループと日本IBM、NTTデータの貿易金融、飛騨信用組合の「さるぼぼコイン」、近鉄グループの「ハルカスコイン」、会津大学の学内通貨、日立ソリューションズやデジタルガレージのブロックチェーン実験、などがある。非金融分野についても、独ascribe社のコンテンツ流通システム、米ARTLERYや英MAECENASのアート作品流通、Spotifyに買収されたMediachain Labs社の音楽配信サービス、米Ujo社のConsenSys構築システムを使った音楽プラットフォーム、イスラエルのColu社によるデジタルコンテンツ管理システム、独ResonateのBigchainDBを使った音楽ストリーミングプラットフォーム、英Everledger社のダイヤモンド管理システム、オークネットとブロックチェーンハブによる中古車情報システム、米Walmartのサプライチェーン管理、Provenance社のサプライチェーン管理、米LO3 Energy社の電力取引、エナリス社の電力使用量管理、ライドシェアのコミューターズ、GMOインターネットの実証実験、米Open Bazzarの個人間取引マーケットプレイス、積水ハウスの賃貸契約情報管理、ソニーの教育データ管理、リクルートテクノロジーズの履歴書公証システム、ConsenSysが開発した予測市場プラットフォーム グノーシス、など多数の事例が挙げられている。


ブロックチェーンは仮想通貨のBitcoinから始まったこともあり、金融システムに大きな影響を与えるかもしれない。だからこそこれだけの注目を集めているともいえる。既存金融システムの核である銀行は「金融仲介」「信用創造」「決済」といった機能を持つことで成り立っているが、これまでその実現のために高コストのシステム、人材、店舗という3つのレガシーを保有してきた。ブロックチェーンが持つ特質は、このレガシーシステムをディスラプトしてしまうかもしれない。その結果、銀行はマーケットプレイス銀行にならざるを得ないと言われることもある。そのことをわかっているからこそ、銀行をはじめとする金融機関がブロックチェーン・仮想通貨に対しての取組みを加速している。
当然ながら保険業にも影響を与える可能性がある。保険料の支払いをスマートコントラクトによって執り行うなどでレガシーシステムが同じくディスラプトされるかもしれない。一方では、保険の対象が広がることによるビジネスの拡大にもつながる可能性がある。

金融システムを超えて、国家レベルでもいくつかの取組みが見られる。スウェーデンは、eクローナの発行を検討し、中国は仮想通貨への介入を強め、エストニアは「エスとコイン」の発行を検討している。また、日本銀行と欧州中央銀行がステラというHyperLedger Fabricを使ったプロジェクトを共同で開始しているという。

また、金融分野に続くであろう非金融分野でのブロックチェーンの応用として経済産業省によると次のような領域が挙げられている。カテゴライズが適切かどうか疑問もあるが、適用領域の可能性は広がっている、と言える。
①地域通貨・ポイント・電子クーポン
②土地登記・特許・文書管理・届出・投票
③サプライチェーン・貿易取引・貴金属・宝石管理・美術品真贋認証
④シェアリングエコノミー・CtoC・電子図書館・スマートロック・デジタルコンテンツ・チケット
⑤スマートコントラクト・遺言・エスクロー・会社清算・エネルギー管理・IoT

情報の真正性が問われる公共機関の記録ではブロックチェーンは有望である。
エストニアはe-Regidenceをブロックチェーンで運用しているという。ウクライナでもE-Governmentのプラットフォームでの記録にブロックチェーンを使うための取組みがなされている。米デラウェア州では会社登記にスマートコントラクトが導入されている。ジョージア、スウェーデン、ホンジュラス、ガーナでは土地投機にブロックチェーンの利用が検討されているという。いずれ投票などでも使われることになるかもしれない。そもそも国という概念を離れて非中央集権化したビットネーションを作ろうという話が出ている。

DAO (Distributed Autonomous Organization)という概念も新しい。会社の形態を、労働者がいる/いない-経営者がいる/いない、で2x2の4つのパターンに分類して、経営者のいなくても成立するDAOが可能になって、将来は経営者も労働者もいな���完全自動企業が生まれるというくだりは、考え方として整理されていてよかった。技術が組織の在り方に影響することが、経営の形の分類上で明示される形になっている。

ブロックチェーン関連企業への投資状況やブロックチェーンの仕組みを使ったICOについても短いながらもきちんと触れられている。ICOについてもそのメリットよりも課題や危うさについて強調されている。ICOに関しては、各国の対応もまだまちまちで、中国はICOは違法と判断、韓国では規制の方向に、アメリカも規制強化に向かっているようだ。

また、ブロックチェーンビジネスに関わる会計上の処理や法務関係も記載されているが、実際にビジネスをやるにあたって非常に役立つのではないか。法律面ではスマートコントラクトに関する法制度上の課題にも触れられている。

「仮想通貨」の扱いについても日本国内では、①前払い方式手段、②為替取引、③資金決済法上の仮想通貨、④ポイント、の4つのタイプが想定され、いずれに該当するのかを確認する必要がある。これはなかなか興味深いので読むに値する。特に資金決済方上の仮想通貨の定義については日本における確認が必要で、法律の文面とともに解説が付けられているので有用である。

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著者は、「分散合意形成に基づく認証や信頼の革新が行われる、というのが本質的なブロックチェーンの意義です」という。「中央集権的な管理主体なしで、信頼主体を必要としない仕組み、これを「トラストレス」と呼びますが、その仕組みが現実化しました」ー 「ブロックチェーンによるパラダイムの変化の意義を整理すれば、ブロックチェーンは中央管理体制を不要にすることが最大の意義です」

仮想通貨に関しては、国家経済活動に与える影響や、マイクロな経済圏の拡大といった観点を考えると、もしかしたらその影響はとても大きくなるかもしれない。また、通貨だけではなく、取引コスト低減の影響については、取引コストの発生が複数機能をひとつの組織とする意義であるとした「コースの理論」に沿うとすると、現行の組織がすぐに崩れるとは思わないが、新しい組織や社会の在り方に影響を与えるのかもしれない。

「既存業界にとっては、買い手と売り手の間で信用補完とか、取引コスト削減を理由にこれまで利益を享受してきたわけですが、ブロックチェーンはそんな既存業界へのチャレンジとなります」と著者が書くとき、大きなビジネスチャンスをそこに見ている。ー「ブロックチェーンは物理資産をデジタル資産とリンクし、移転売買を可能にします。この結果、物の売買が容易になり、価値の移転に伴う取引コスト、あるいは摩擦が大幅に削減され、ビジネスモデルが大きく変わる可能性があります」

インターネットは「情報交換のネットワーク」であるのに対して、ブロックチェーンは「価値交換のネットワーク」であると言われている。ブロックチェーンがインターネットのように社会影響を与えるのかどうかはまだわからないが、ふつふつとした盛り上がりを見せているのはわかる。この本に書かれていることの多くは、おそらく二年後にはほとんど意味がなくなっているかもしれない。

短期では、発展途上の技術であることをよく認識した上で、個別ユースケースに集中、中期では価値交換をブロックチェーン上で実施してスケールメリットが得られる。長期ではブロックチェーンが全産業に拡がり、社会インフラとなっている事情共をイメージすること。インターネット、モバイルによって大きく社会が変わったように、新しい技術によって社会が変わっていくもののひとつになるのかもしれない。ただ、正直なところでは、そこまで大きく社会が変わるのかどうか自信を持てないでいる。そのレベルであるからこそ、先行することでのビジネスチャンスがあるのかもしれない。

最後は、起業時の心得や、リーンスタートアップやビジネスモデルの大切さ、ストックオプションや資本政策の話まで、ベンチャー企業一般のあり方を語るところ、著者が読者に求め期待するところが見える。

ブロックチェーン技術が社会に与えるかもしれない影響を考えるにあたって非常に役に立つ本。著者の想いをその表現ではなく中身からきちんと感じられる本である。

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新規事業のヒントを見つけるべく借用。
ポイントがわかりやすくまとめられている良著。

メモ
・ブロックチェーンは信用に関する問題を解決する技術。
・ビットコインはデジタル情報の改ざんが困難、中央管理者なしで運用できるという特徴をもつ仕組み。基盤技術がブロックチェーン技術。
・ブロックチェーンの最初のアプリケーションがビットコインだったという関係性。公開の場で所有移転を宣言する仕組み。中央に特定の管理主体を置く代わりに複数参加者による分散型の帳簿管理を可能とする技術。
・右側に続くブロックはハッシュ値でつながっている。ハッシュは文字数値をハッシュ関数によって変換した固定長のテキスト。ハッシュ値により、入力の改ざんなども検出できる。
・スマートコントラクトとは契約条件、履行内容をブロックチェーン上に記述することで第三者を介さずに契約を自動執行しようというもの。
・BCの③大機能　改ざん難しい、二重支払い防止、中央管理者不要→1履歴共有と記録保存　２価値移転　３契約自動執行
・１は資格の担保になる。所有権担保など。
　２は送金決済、地域通貨、デジタル化資産の実行に
　３は行政サービスの変革に。
　自律分散型組織を可能に。
・ネットが情報交換のネットワークであるのに対し
　BCは価値交換のネットワーク。
・信用に関する問題を解決する技術。
　　複数ステークホルダー
　　特定の誰かを起点とせずに
　　価値保存や移転を可能にするもの
・信頼、リスク、コストの分散を可能とするもの
・ハッシュ関数　一文字変えただけで全く違う結果になるもの。かつ一定の桁数になるというものが特徴
・ブロックチェーンは取引を行うすべてｎ参加者同士が直接繋がり、管理し合うネットワーク
・ブロックチェーンの課題
　決済完了に時間がかかる
　処理速度の問題
　秘匿性の問題（透明性が高い、丸見え状態、実名でなくとも誰かわかってしまう）
　ガバナンス課題、ポリシー策定やアップデートが困難分散的であるがゆえに合意形成が難しいことに
　仮想通貨を得るインセンティブに基づいてマイナーが存在し運営されている。
・管理者を置くプライベート型と複数管理者介在するコンソーシアム型。
・アプリ外観
　金融系　ビットコイン、スマートコントラクト
　非金融系　ゲーム、ポイントプログラム、デジタルコンテンツ、不動産、所有権管理
　地域通貨、電子クーポン、シェアエコ、C2C、スマートロック、遺言、エネルギー管理、IoT、貿易、投票
・ビジネス企画時の留意点
　本当にBC技術を使わなければできないのか
　入力情報のBC以前の正真性に問題なかったか（入力前の改ざんはどうしようもない）
　中央管理者不在の不便な点が何があるか（調査する人いない、相手の信用担保はどうする）
　仮想通貨ビジネス先行拡大によるイメージのさを考えたか（世間の誤解を認識しておくべき）
　技術成熟のタイムスケジュールを想定しているか

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ブロックチェーンビジネスのベンチャー育成を手がける会社が書いたもの

ブロックチェーンの技術から活用動向を幅広く解説
すでに世界各国いろんな分野で急速に普及している様が読み取れる

最後の
ブロックチェーンビジネスの作り方
は、ブロックチェーンの特徴を踏まえてビジネス化を検討する前提だが、
ブロックチェーンに関わらず
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ビジネスサイドから見たブロックチェーンについて解説しています。簡単な技術解説から始まり、現在のブロックチェーンビジネスにはどのようなものがあるか、そういったビジネスに対する投資動向、仮想通貨の会計上の扱いについて、知財について、といったことが書かれています。仮想通貨技術は最近出てきたばかりのイメージを持っていましたが、意外にも関連制度や法律は世界的に急速に整備されていることがわかりました。

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ブロックチェーンに関するビジネスサイドの方のための入右門書的な位置づけとしての本
法務や会計まで踏み込んで書いているのは良い点
技術的な出来る内容をイメージとして膨らませたいなら物足りないと思う