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紙の本
西成山王ホテル (ちくま文庫)
著者 黒岩重吾 (著)
片足に障碍を持ちながら山王町で水商売をする澄江は、年下で喘息持ちの高井と心を通わせるが…。「湿った底に」など全5篇を収録。「魂の観察者」と称された著者が、大阪西成を舞台に...
西成山王ホテル (ちくま文庫)
西成山王ホテル
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商品説明
片足に障碍を持ちながら山王町で水商売をする澄江は、年下で喘息持ちの高井と心を通わせるが…。「湿った底に」など全5篇を収録。「魂の観察者」と称された著者が、大阪西成を舞台に描く傑作短篇集。【「TRC MARC」の商品解説】
飛田、釜ヶ崎……、大阪のどん底で強かに生きる男女の哀切を直木賞作家が濃密に描く。『飛田ホテル』に続く西成シリーズ復刊第二弾。(花房観音)【商品解説】
収録作品一覧
湿った底に | 7−77 | |
---|---|---|
落葉の炎 | 79−147 | |
崖の花 | 149−214 |
著者紹介
黒岩重吾
- 略歴
- 1924-2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞。他の著書に『飛田ホテル』(ちくま文庫)。
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紙の本
焼け跡に住んでいた頃
2019/11/29 21:15
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
終戦後の焼け野原のあと、バラックが立ち並ぶ地域がどこまでも続いた。駅周辺の繁華街は飲み屋と売春宿の並ぶ地帯。高度成長期の夢や活力からは遠く離れたような、そこで働き、そこで暮らす人々にも物語はある。
母と二人暮らしで一緒の飲み屋で働いている女が、母の連れ込んだ男にちょっかいを出されるようになって家を出る。新しい勤め先の客でサンドイッチマンをしている男に希望を抱くが、やがて男は無謀な道に走ろうとする。
組織への締め付けが厳しくなって神戸から大阪に触手を伸ばしてきた時、そのお嬢と京都の大学生が知り合う。行き場のない恋愛に、刹那的な生き方が立ち塞がるが、作者はそれを悲劇としては描いていない。
妾をしていた母が死んで兄と暮らしてきて、たった一人のかけがいのない肉親のはずだったが、その兄は愚連隊で、どうしようもなく粗暴な狂犬のような男だった。妹を大事にしていると言いつつ、結局は自分の面子のことだけしか頭になく、この兄がいる限り妹は幸福になるどころか、どんどん身を沈めていくしかない。
売春防止法が制定されて、身の振り方を考えなくてはならなくなった女たち。別の道を目指す者もいれば、他の道はあきらめる者もいて、だがどういうわけか、みんな戻ってきてしまう。表面的には明るくあっけらかんとしているようだが、もしかすると自分でも気づかないうちに深い悲しみを抱えている。
会社勤めをドロップアウトして流れてきた男。この地で安らぎを得ることができそうだったが、また野心を持って生きたいという欲求も湧いてくる。わー、やめろよーって思う。もう少しだけ落ち着けと。
みな昔からそこに住んでいたにせよ、よそから流れてきたにせよ、少しでも上の生活を目指そうという意欲はあるが、どうにもままならず、他の場所ではもはや生きていけないことをさとる。そもそもにして、男は博打と酒と暴力、そして女にしか興味がない。それを女は軽蔑しつつも、男に尽くすことだけを生きがいと感じてしまう。
それもまた幸せとか言えるレベルではないようにも思えるが、それも土地の問題であると同時に、高度成長期戦後社会と戦前社会の対比でもあるだろう。それに経済的豊かさは変わったとしても、一人一人の内面はたぶんそんなに変わっているわけではない。まったく僕らの隣人として、どの物語でも苦しい思いが押し迫ってくる。