紙の本
出会う人を間違っていなかったらと思わずにはいられない内容でした
2018/08/28 00:34
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Nagi - この投稿者のレビュー一覧を見る
私はリアルタイムで一連の事件の時代に生きていて、日比谷線や松本市とは縁もあったため、この事件当時に感じた世間の雰囲気を今でも鮮明に身近で起きた事件として記憶しています。
でも、その時代を生きてきた人でも知らないまま今日まで来てしまったことが多々あるのではないかと思わせる内容でした。
少なくても私はこの本で初めて知ったことが多かったです。
中川氏や土谷氏は、出会う人さえ間違っていなければ…本書の著者であるトゥー博士を始めとした方々と先に出会えていたら、日本が誇れるほどの素晴らしい化学者や医師であったかもしれません。
トゥー博士が、一個人として中川氏と15回にわたる面会や手紙を交わすやり取りを読むと、中川氏や土谷氏は、ある意味で「ごく普通の人」だと感じられました。
言い換えれば、誰もがひょんなことから道を踏み外す可能性を持っているとも思わせる怖さがありました。
中川氏はマインドコントロールから少しずつ解放され、世間からすればまだ記憶に新しい金正男氏のVXによる暗殺についても貢献しています。
恩赦を期待しての偽善かと問われたこともあるようですが、トゥー博士とのやり取りなどを見ると、彼は過去の行いへの悔恨と償い、同時に医師として化学に携わった人間としての自負心などが原動力となっていたのであり、決して減刑が目的ではなかったのだと感じられる内容のやり取りが書かれていました。
また、本書では、一般の人には意識されたこともないかもしれない、死刑囚に対する厳しい制約なども仔細に書かれています。
ごく限られた人とごくわずかな面会時間しか許されない中で、死刑囚は自分自身や犯した罪と向き合わざるを得ない環境の中で過ごしているのだと本書で初めて細かく知ることができました。
林氏や中川氏の能動的な捜査協力により、事件が起こるまでの経緯や動機の一部が推測され解明もされていたのだと解釈しましたが、やはり部分的でしかなく、全貌を把握しているのは麻原氏本人と、彼の側近で刺殺されてしまった村井氏だったようで、改めて村井氏が存命であればと思ってしまう記述もありました。
情報の重複や校正ミスなどが散見される本書ではありますが、「過去に起きた大きな事件の解説書」として読むだけでなく、トゥー博士と中川氏のやり取りの中から、自分の存在価値や承認欲求の満たし方を間違えてしまうと、またあの悲劇が起こりかねないという危機感を持たせる内容にも感じられました。
若い世代の人にとっては「歴史」に近い感覚でこの事件を受け止めている方もいるでしょうが、実は時代を超えて常に隣にある落とし穴でもあると感じてもらうきっかけになればという気持ちを湧き立たせる内容なので、若い世代の方にも読んでいただきたいと思う内容でした。
そして最後に、改めて被害を受けた方々やそのご家族ご遺族の皆さまに哀悼の意を表します。
電子書籍
非常に心に残る内容だった
2018/08/18 19:49
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:滝のしらたき - この投稿者のレビュー一覧を見る
オウムの事件が起きた頃、私はまだ小学生で漠然とした記憶しかないが、ひどいテロ組織だとは、思っていた。
13人の死刑執行を機に、オウム事件が気になりいつくかの本を読んでいて、これもその1つだったが、非常に心に残る内容だった。
中川智正がオウムの幹部で事件に関わっていた頃と今の自分は同世代に当たるが、彼が優秀で非常に真面目だったからこと、巻き込まれてしまったように思えてならない。これは林郁夫にも当てはまると思う。
中川智正の最後のメールには涙するものがあるし、死刑というものについても、とても考えさせられる。
結局麻原は何も話さず、村井も殺されてしまったので、全容解明は難しいが、同じように悲しい事件、被害者、加害者を生み出さないためにも、しっかりとした議論や考えが、ひとりひとりに求めらると思った。
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サリン事件に関わった医師の1人、中川死刑囚。執行されたこともあり、ようやくこの人のことを知ることができた。京都府立医大に入れたのだから秀才なのは間違いない。その人がどうして、というのは、もうひとりの医師林郁夫と並んで興味を持っていた。ただ、林郁夫は積極的な捜査協力もあって、無期懲役に減刑され、手記もまた出ているからある程度は知ることが出来てたが、中川に関しては余り知らなかった。結局麻原に帰依した部分などはよくわからなかったが、言葉の端々からは承認欲求が強かったのかなとは思ったりする。
著者は幾度も重ねた面会の中で中川の誠実な回答に満足していたようだ。実際彼の証言はサリン製造に関係して大変興味深いし、その中で警察機構が証拠の捏造をしている(オウムがやっていたことは確実だが、証拠として掴むのは難しいためだからだろうが)ことも示唆していて、彼らが死刑になったのは致し方ないにしても、解明されるべきことは残ったままになったなとは思う。著者の最後の一文に気持ち的には救われる。
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【覚めての告白】サリン事件への関与等により死刑判決を受け,2018年7月に執行がなされた中川智正。執行の直前まで行われた面会や文通を通し,オウム真理教が化学兵器へと手を染める課程やその内情に迫った作品です。著者は,コロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー。
当事者の独白として生々しい肉付けを伴うと,すでに情報としては知っていることでも改めて現実感を伴って感じられるものだなと痛感した作品。日本社会にとっても一連の事件は分水嶺であったと思うのですが,それらを振り返る上で大変貴重な一次資料であることは間違いないと思います。
〜私は6年間にわたって,彼と文通や面会をしてきた。彼を死刑囚としてでなく一人間として付き合ってきた。彼の今迄の犯罪を私は知っている。これらの罪は許されるものではない。しかし人間には誰にも明暗,または光と影がある。私は彼の「明」や「光」の片側だけと付き合っていたのかもしれない。彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し,私は一抹の哀悼を感ずる。〜
偶然が重なって現実を作り上げることの不可思議さを感じました☆5つ
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著者であるアンソニー・トゥー氏と中川智正元死刑囚との面会及びメールでのやり取りの記録と、そこから見えるオウム真理教幹部の役割や、サリンやVXなどの化学兵器、ボツリヌス菌や炭疽菌などの生物兵器開発の過程をまとめたもの。
死刑囚との対話の過程(手続き的なものを含めて)や確定死刑囚の処遇等々からして初めて知ることが多かった。また、中川氏の人となりについても、初めて触れる部分が多かった。ここまで情報交換をし、その上で一連の事件の考察ができたのは、著者が中川氏を一人の人間、もしくは科学者として敬意を払い、関係を丁寧に構築したこと、その信頼に中川氏が応えてきたことが大きいように思う。
最終章「中川氏最後のアクティビティ」では、昨年の金正男氏暗殺事件に関する論文執筆や発表について述べられている。25人の殺害に関与した(確定判決による)彼の罪は到底許されるものではないが、最後に論文という形で残したのは、一人の科学者として大きな意味を持つのではないかと思う。中川氏が願ったように、化学の知見を悪用して大きな過ちを犯す人が出ないよう、後世に語り継いでいきたい。
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許されるべき罪。恐ろしい兵器。隠されたままの真実。オウム事件に関しては麻原元死刑囚が何も語らなかった今、明らかにされない部分は多すぎる。しかし中川智正がアンソニー・トゥー博士に語った事件の内実は、オウム事件の解明、化学兵器、テロに対する研究の大切な資料にもなりうるだろう。アンソニー博士の中川に対する「人対人」の功績と言わざるをえない。
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中川智正はオウム真理教で松本智津夫の主治医を務め、サリンの製造に関わった元死刑囚である。
アンソニートゥーはサリン事件当時、科学の専門家として捜査に協力し、留置された中川と度々面会した。
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高橋シズエさんの「サリン関係の本は大抵読んだが、自分の知っていることが多かった。しかし先生の本には半分ぐらい知らないことがあった」との言葉の通り、中川氏と対話を重ねた化学者でなければ知り得ない、書けない情報が数多い。後世への教訓として残すべき名著。
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アメリカの化学者、杜祖健(Anthony Tu/台湾出身)が元オウム真理教幹部・元死刑囚中川智正との交流を記した手記のようなもの。既知の内容も多々あり、また既述の内容が複数回述べられるなど、書籍としてはいかがなものかと思うところもあったが、興味深く、考えさせられることも多々ある本で、一気に読了してしまった。
Tu氏は毒物の化学的な側面からオウムとその関連事件に迫り、中川智正との交流を通じて元信者たち、死刑囚の心理にまでにじり寄ろうとしている。科学者らしい、あまり情緒的な表現を使わない文体ではあるが、中川、Tu両氏の敬愛と、死別への寂寥感が伝わってくる。
しかし、常人以上に心を通わせることができる人間が、なぜあんな殺戮に加担したのか、という疑念は大きくなる。これはたぶん、明快に説明することはたぶんできないのだろう。
もともと死刑制度には批判的な気持ちがあるので、そのことをもう一度考え直してみる契機にもなった。
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誰かに肩入れするのではなく、自分の知ったこと感じたことを率直に書いているという点で、貴重な本だと思う。
オウムに関して、こういうスタンスの本がもっと出てもよいのではないか。
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中川智正の視点からの証言として貴重な記録だと思う。
特に中川からの手紙が原文のまま掲載されている点や、中川の他のオウム関係者の印象を聞き出している点など。
彼自身は周りに載せられて、皆を喜ばせようとしていたら殺人にまで手を染めてしまったという印象。この本を読めば、そして彼にあった人々の印象としてもいわゆる「良い人」というイメージを持っていしまう。しかし彼の罪はあまりにも大きい。
殺人罪
坂本一家
落田薬剤師
VXによる大阪での殺人
松本サリン実行
地下鉄サリンのサリン製造
殺人未遂
滝本弁護士襲撃
VXによる襲撃2件
新宿駅青酸ガス
東京都庁小包爆弾事件
仮谷氏拉致監禁致死
こんな事件をなぜこんな人が、という使い古され、しかも答えのない問いを発するしかなく、著者が断っているように面会の趣旨が化学兵器によるテロ対策をそもそもの背景にしているため、中川自身の心情にまでは入り込んだ内容にはなっていないのがもどかしい。
どのように編集されたのかわからないが、同じ内容が重複して現れる部分があったり、重複した内容で書かれた事実が異なるのは全体の信ぴょう性にも関わるので不満。
ダンジック氏が中川に差し入れたのは150ドルなのか200ドルなのか?
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この本を読む前に、井上嘉浩を中心に書かれた「魂の遍歴」を読んでいたのだが、色々なところが食い違っていて興味深く読みました。
他の当事者から見た事実も千差万別で、まさに「藪の中」という感じです。
誰かが嘘をついているのか、本人から見たところはそれぞれ事実なのか、記憶が改変されてしまっているのか。
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地下鉄サリン事件は何より衝撃的だった。日本人の記憶に共有された事件として、誰もがあのときに自分はどういうことをしていたと語り合うことができるほど、大きく日本現代史に刻まれている。
そして事件発生後20年以上経った2018年7月、オウム真理教教祖麻原彰晃を含む13人の死刑が執行された。本書の主役である中川智正もその一人であった。ここに書かれている内容の一部は、彼の死刑後であれば公開してもよいとされたものであり、皮肉なことに望まない彼の死刑執行が本書刊行のきっかけとなったのである。
著者アンソニー・トゥー(杜祖建)は、毒物専門の化学者であり、サリン検出の方法を警察に伝えるなど、オウム事件の捜査に科学知識面で大いに協力した人物である。米国のコロラド州立大学の教授であるが、日本語にも堪能であったことから、それまでどこにも知見がなかった化学兵器を使った未曾有のテロの捜査において非常に重要な役割を果たした。その調査の過程で、著者は、麻原の主治医とも呼ばれた獄中の中川氏と親交を持つこととなった。本書は、著者と中川氏との手紙・メールでのやりとり、面会時の会話を元に、あの事件を振り返ったものである。親族以外でオウムの死刑囚に定期的に面会を行うことができたのは数少なく、本書はその貴重な情報をもとに生まれたものである。
中川氏は、医者でありながら、化学知識にも造詣が深く、またオウムの組織にも精通していた。中川氏との会話の中には、化学兵器・生物兵器の製造に関する調査のためもあったのだろうが、遠藤、土谷、村井、井上、青山、などの重要な関係者の役割や評価が語られる。その内容はとても興味深く、もう20年以上前のオウムサリン事件の背景で何が起こっていたかがよくわかるのである。
オウム真理教団は、サリンだけではなく、ボツリヌス菌、炭疽菌、VXガス、ソマン、タブン、マスタードガス、ホスゲン、シアンガス、など使えそうな毒物は何でも作ろうとしていた。しかし、人を殺すための道具である化学兵器を宗教施設内で生産するという行為を悪びれることなく営々と行っていたのは改めて驚く。その判断が宗教組織の中でどのようになされて実行されていたのかが気になる。しかし、本書ではその点については深く掘り下げられることはない。というよりも著者と中川氏との対話の中では、その点については語られることはなかったのかもしれず、それは中川氏自身にもわからないことだったのかもしれない。
著者が評価するように中川氏は良い人で、聡明である。学生時代の周りの評価も高かった。自分の犯した行為についても反省している。ただ、そこには心の葛藤らしきものがほとんど見られない。それは、彼らが化学兵器を作っていたときもそうだし、それを実際に使うときもそうであった。人は、そして著者も、あんなに良い人がなぜオウム真理教に入信して、あんな事件を起こしてしまったのかと言う。しかし、逆に実直で良い人でなければ、あのような行為には至らなかったであろうと改めて思う。また、著者は高学歴の信者がなぜ高卒の麻原に帰依したのかという疑問を呈しているが、それは高学歴であったからこそ帰依をしたと言うべきなのである。日本の教育システムにおいて高学歴であることは、教師の指示にはその理由を問うことなくまず従うことができる素養があるということを示すものである。そのような思考回路が、いわゆるよい大学に入るために試験でよい点数を取るためには有利に働くのである。もしくは、教育システムがそのような素養をもつ人を育てるのだと言ってもいいかと思う。もちろん、単純化しすぎた論理であり、たとえそれがオウム真理教に多くの高学歴の人物が入信した理由であったとしても一面に過ぎない。しかし、仮に日本人が全体として馴致されやすい集団だとすれば、それは国民的な一様性とともに、教育システムにも一因があると言ってもよいだろう。それは、オウム事件に深い根を下ろした課題にも改めて思える。
先に書いたように、中川氏にはあるべきであった躊躇いを少なくとも本書の記述の中からは感じ取ることができなかった。そしてオウム真理教が、集団としてサリンを実際に使うにあたってあまりにも躊躇いが見えないことに違和感を覚える。その行為の要請が宗教的な試練であり、結果としての死はその人にとっての救いですらあるという考えに囚われていたのだとは言える。だとしたしても、そのことは理解の範囲を超えてしまっていると言う方が正しい感覚だろう。もし、中川氏をはじめとした信者にその躊躇いと迷いがないことが麻原や教義への心理的依存であったとするならば、麻原には判断における何かの躊躇いがあったはずだ。それは中川氏もそのように感じている。
「中川氏はたびたび私に言った。
「麻原氏がちゃんと話してくれたらいいのですが、彼は法廷で十分話す機会がなく、やがては手続きの落ち度で刑が確定してしまった。麻原は今は言動不能で何も言えない状態になってしまった。麻原氏だけが知っていることが多く、彼でなければ真相がわからないことがたくさんあるのです」
これは事実であろう。麻原の健康状態・心理状態では、真意を聞き出すことは不可能である。多くの謎の答えが麻原の処刑と共に永遠に消滅するであろう」
この意味で、著者のオウムの裁判に対する評価は、結果についてはよしとするものの、そのプロセスに関して強く批判的である。少なくとも麻原の精神状態が破綻をしていて、裁判に耐えうる状態ではなく、結果としても多くの秘密が彼の死によってわからないままとなってしまった、ということに関しては残念なことだと考えている。その点に関していうと、内部から見たオウム真理教を撮った映画『A』、『A2』の監督であり著述家森達也と同じ考えである。本書の中で森達也の著書に言及している箇所があることから、おそらくはオウム真理教裁判のやり方を強烈に批判した『A3』を含むいくつかの彼の著書を読んでいるものと想像する。一方で、著者は森達也と違い、死刑執行についてはやむを得ないとの立場を取っているように思う。その原因には、被害者や検察への心理的共感もあるだろう。
「日本の国民は皆麻原は悪い奴だ、早く死刑にしろというが、弁護士達の意見は必ずしもそうではなかった。
彼らの意見をまとめてみるとこうなる。「政府は早く死刑判決にしたいので一審で技術的な点を利用してさっさと死刑判決にしてしまった。麻原に十分な弁護の機会を与えて��ない。オウムの被告はみな自分の刑を軽くしてもらいたいので、全ては麻原や村井の命令でしたと言っている。村井は殺されてしまったので、死人に口なしで多くの被告はみな村井の責任にしている」」
と著者が書くとき、あくまでそういう意見を持つ人がいるとするのみで、そこにおいて自分の意見を表明することを差し控えている。しかし、この文章を置くことで、暗黙に自らの微妙な立場において意見を表現しているとも言える。
この本を読むと、松本サリン事件の後に警察がもっと積極的に動いていれば、地下鉄サリン事件は防ぐことができた可能性があったことがわかる。一方で、彼らがもっと「うまく」やることができたなら、被害はさらに甚大になっていた可能性もあった。上九一色村の土壌からサリンの分解成分が検出されたことが読売新聞で報道されたことで、オウムはそれまでに製造していたサリンの大部分を廃棄したが、もしそうならずに、より多くのそしてより純度が高く危険なサリンが保存されていたら、死者や被害範囲はあの程度ではすまなかったはずだ。
可能性はあくまで過去の可能性であり、過去はすでに変えることはできず、そして、中川氏を含めて13人の声を聞くことももうできない。
著者はおそらくはその死刑判決を妥当であると考えながらも最後にこう書く。
「彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し、私は一抹の哀悼を感ずる」
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本来はここまでで、書評は終えるべきかもしれない。
改めて内容はよかった。しかし、あまりにも同じエピソードが複数の場所で重複して使われていることが多く、本としての完成度はひどいものだというしかない。編集者・校正者はいったい何をやってるんだと言いたい。その点は非常に残念。
例えば、VXガスの製造について、著者が「現代化学」に寄稿した記事を参考にして土谷が製造したこと、さらに中川氏が手紙でその記事がなくても最終的に自分で作ることができたであろうと伝えたこと。
例えば、中川氏が逃亡する菊池、髙橋、平田に対して、「忠実な信者を殺すようなことをしない」と言ったことに驚いたこと。
例えば、中川氏にサリン残留物の検出を助言したのが著者だったことを伝えて驚かれたこと。
こういった重要なエピソードが、二度目以降に出てくるときにも、いずれもあたかもこの本の中で新しい情報として書かれているかのように書かれている。もともと本の構成として、時間軸に沿って書かれているものではないので、そういったエピソードの置き方は前後関係含めて注意をする必要があるはずだ。著者は専門の物書きではないのだから、編集者はプロフェッショナルとして校正を通した完成度の向上に責任を持って自ら自信のある本として世に出していかなくてはならない。この本の編集者からは、この本をできるだけよいものにしようとする熱意、つまりは愛、を感じることができない。ここに書かれている情報はとても貴重で、素材として面白く、広く読まれるべきものなのに。とても残念だ。
要するに読まれるべき本のひとつ、ということ。文庫本にしたり改版する機会があれば、思い切って大幅に改版してほしい...。
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オウムの本はたくさん読んでいたけど、
死刑囚の方にターゲットした本は初めてだった。
反省をしてくださっていてよかった。
化学兵器はいかにして作られたか、
という話たちは興味深かった。
中川さんから見た教団幹部評価も。
他の死刑囚のかたの本も読んでみようかな
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ふとオウム真理教のことが気になり読んでみた。化学兵器を作り出す経緯など読めて面白かった。
優秀な人達が悪の組織で働かされ、こんな結果になり悲しいなぁ。