紙の本
すばらしい評伝だ
2018/10/08 02:45
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会人一年目で「ソヴィエト帝国の崩壊」を読んだ。その論理の透徹さとともに,著者略歴に驚かされた。すごい学歴なのに無職!どう考えても自分がこの間卒業した大学の政治社会学の教授陣よりも立派な学者なのに…と思ったのを覚えている。その後も時々書店で著作を見かける読んでいた。しかしこんなに真剣に社会科学の統合を目指していた立派な研究者とは知らなかった。著者に感謝した。本書は小室先生の伝記というだけではなくて,(小室流の)現代社会学入門にもなっている。その分読むのに苦労する箇所もあるが,その苦労は十分に報われる。評者は社会科学の曖昧さいい加減さに嫌気がさして,文転ならぬ理転をして理工学の研究者になってしまったが,この年にして再び社会科学を勉強したくなってしまった。
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人間小室直樹を本書で初めてようやく理解できました。
2022/04/09 00:03
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
一気読みです。写真が豊富で活字も大きくて読みやすく、著者の文章がまた読みやすく的確。小室直樹氏(1932年生、2010年没)の人生を活写してくれています。しかし、面白かったのはそれ故もありますが、何と云っても対象たる氏の際立った存在感のなせる業であることは云うまでもありません。評者的には同時代的にその著作やテレビ、雑誌で知るのみの存在でしたが、エキセントリックにしてユニークな人とは思いつつ、本書でその実相を初めて知りました。それにしても、彼の先駆的というか預言者的な考察は迫力があり、「社会組織」と「社会構造」の矛盾を危機の芽とするアノミー論についての例えば次の一文などはいまだ今日の日本にも妥当するように思えてなりません。
「小室は主張する。戦前日本人の連帯を支えていた頂点における天皇共同体が敗戦によって崩壊し急性アノミーが発生、他方、底辺における日本人の連帯を支えていた村落共同体が高度成長により徐々に解体して単純アノミーが発生した。この日本人を襲ったアノミーは、企業、官庁、学校という機能集団が共同体的性格を帯びることでいったんは収拾されたかにみえた。しかし、機能集団と共同体とは本来矛盾するものであるがゆえに、この矛盾が新たなアノミーを拡大再生産する。これが構造的アノミーであり、日本の危機の構造なのである、と。」(466頁)
「構造的アノミーは、・・・ 人びとが誠心誠意、真剣になって努力すればするほど、努力目標とは異なった結果を生ぜしめ、日本全体をもう一度破局に向けてまっしぐらに驀進させる社会的メカニズムを生み出す。」(276頁)
激面白の章は多々ありますが、試験官たる教授の意地悪で米国で博士号を取れず自殺を考えるまでに至った事件を含む第七章が秀逸であったことを付け加えておきたいと思います。なお、208頁で、この頃の渥美冷子氏(「冷」ではなく本当はサンズイだが環境依存文字のため表示できず)の写真が見たかった!
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ぜひ全集を
2019/02/25 18:25
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はるはる - この投稿者のレビュー一覧を見る
知る人ぞ知る偉大な学者だった、小室直樹博士の評伝。よくもまとめられたものだと思います。惜しむらくは、年などの誤植が散見されること。学問内容を知りたい方は、弟子になる橋爪大三郎、副島隆彦両氏の「小室直樹の学問と思想」を読んでください。できれば、どこからか全集が出版されるとよいですが。
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小室直樹博士がお亡くなりになりもう8年。博士から直接薫陶を受けた愛弟子たちや編集者の方々、同級生、親族からの取材により、著作群だけからは垣間見ることのできない舞台裏までをも開陳する形で、博士の毀誉褒貶な人生を1500ページもの大著で活写した超絶おすすめ本です。
会津時代(1930~40年代)の神童ぶりや極貧ぶりは、著作群からも断片的には分かるものの、時系列にドラマチック感満載で伝わってきます。大言壮語な物謂いなど生涯変わらないのだなと痛感します。一方で、子育てをする身となり、父親としての「権威」を示す努力、「甘え」の本来の意味など、実践のヒントになるはずです。また、博士の出生や系譜などの謎解きについても興味深い内容となっています。
京都・大阪・海外時代(1950~62年)このあたりは余り著作群になかった市村先生や平泉先生などを介した博士の思想根幹部分の醸成や、破天荒なエピソードなど面白おかしく綴りながらも、一流教師陣から可愛がられる天才ぶりも多分に伝わってきます。
その後の田無寮・藤美荘ー小室ゼミ時代は、不遇エピソードやハチャメチャな言動振舞いのオンパレード、一方で優秀なゼミ生たちによる社会科学の再建に向けた不断の努力や先生から吸収しようという情熱など読むほどに、その空間にいたかった羨望と、とても続かなかっただろうというアンビバレントな思いも過ります。
社会科学者になるわけでもない私には難解であった方法論の数々を、著者が改めて交通整理してくれていて、その中でも、第20章の夏期講座で博士が行なった「構造機能分析の使い方」は圧巻。橋爪先生との質疑応答での予定調和説と因果論について、これに一番しびれた。
その後の旧約時代や新約時代について、酒と病院と執筆と、少しゼミというサイクル期になるかと思うが、そこでのエピソードもある程度は知っていたものの、執筆については、編集者との関係性を種明かしされてしまったようで少し落胆。編集者という職業について無知・無理解を反省。
各著作本についてはコンプリートしているつもりの自分も、著者の整理によりエッセンスを分かりやすく取り出してくれていて、新たに読書する人には、大いなる指南書にもなるでしょう。
最後に、振り返れば、小室本を読み始めて30年以上経つのだが、自分でモデルを作って、自分で社会分析できているのかについては、まだまだ小室門下生としては落第点であろう。
改めて、博士の本を再読して、自家薬籠中のものとして、自分なりのモデルづくりをしていくきっかけにしたい。
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傑作。小室直樹の出生の秘密からプライベートまで含めあまりに魅力的な人物像と学識に圧倒される。平泉澄の塾にいたとは驚き。小室直樹の本で時折触れられた話(猫を食べた軍人を殴る)はやはり本人のことだったのかと驚く。ドラマ化出来そうな面白さ。
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小室直樹の前半生を膨大な関連書籍と関係者への聞き取りをもとに丹念に綴る評伝。夏目漱石の『坊っちゃん』や『三四郎』を思わせる読後感であった。超人的な頭脳を持ちながら決して利口に生きることのできない青年・小室直樹の青雲時代を著者は驚くほどやさしさに満ちた平易な文章で記す。あえて生硬な文章を避けたのは小室直樹を徹底的に調べ尽くしたという著者の矜持ではないか。大傑作である。
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分厚いのに一気に読んでしまった
30年近く前の高校生時代まだBook Offがなかった頃。古ぼけた古書店で古ぼけたカッパ・ブックスを何故か手にとった。『ソビエト帝国の崩壊』
夢中で読み、気づいたら小室直樹と名のつく古本を買い漁っていた。買える範囲の古本もなくなり、カッパ・ブックスの新刊を待ったなー。「要諦は」「腑に落とす」の口調がたまらなかったなー。
工学部に進んだのに気づいたら社会学、経済学の本ばかり読むようになっていた。橋爪大三郎さんの本もたくさん読んだ。
頭が悪いので専門書は理解できなかったけど僕も立派な小室ファミリーだった。
って本書の感想じゃないことばかりでごめん。でもさ似たような体験してない人はこんな本読むわけないし、読んだ人は自分の小室体験を強烈に思い出すだろうし。OK!
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本の内容とは関係ないが、これだけ高価な本でしおりひもが付いていないのは、どうかと思う。もうちょっとていねいに作れよと言いたい。
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希代の学者 小室直樹の伝記。一気に読めてしまう。
個人的に最も驚いたのは、時分が大学で法哲学をゼミで習った先生が、小室直樹と京大弁論部で同期だったということ。
もっとも天皇大好きの小室とは対立関係にあったような記載だが。。。。
小室ゼミが開催されていた頃の東大社会学の熱気も感じられる点もよい。
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小室直樹は小学校低学年にして辞書・漢籍の類いまで読み漁り、学校でも天才性を発揮していた。幼い頃に父が逝去。女手ひとつで育てられるがその母親も中学生の時に亡くなる。親友の渡部恒三〈わたなべ・こうぞう〉を始めとする支援者が現れ、小室は学業を成し遂げることができた。
https://sessendo.blogspot.com/2019/05/blog-post_5.html
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・小室は大事な本は最低10回は読め、大事な本は10冊買って100回読め、という。
・小室の本の読み方:1回目:赤いマーカーで線を引く。2回目:黄色いマーカーで線を引く。3回目:青いマーカーで線を引く。線を引くところがなくなったら、新しい本を買う。
・H15 論理の方法 社会科学のためのモデル
・尊敬する人:ヴェーバー、吉田松陰、橋本左内
・硫黄島 栗原忠通大将の教訓 は、小室自身はほとんど執筆に関わることはなかったようだ。
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この30年間、日本は、何一つ良いことがなかった。
GDPは、ほぼゼロ成長。
労働者一人当たりの生産性はG7で最低になった。
ストレスフルな環境で働き、労働者間の連帯もなくなり、
日々リストラに怯え、過ごすようになった。
世帯収入は、2割減り、子供の貧困も急速に増えた。
現在、労働者人口は、1年で80万人減っている。
これが、半世紀以上続くことが、確実にわかっている。
移民を当てにして、労働力不足を補えば大丈夫、労働生産性をアメリア並みにすれば、
大丈夫など、根拠がないまま、それが空体語(小室直樹氏の友人の山本七平の用語)として、
現在の日本に”空気”として、漂っている。
大学生は、どんどんバカになり、そして、貧しくなり、
現在、一日の勉強時間は平均20分、バイト時間は増え、疲労困憊、
半分の学生は、1ヶ月の読書量はゼロになっている。
20年前は簡単な算数が出来なくなったが、現在では、
教科書も読めなくなっている。
有名大学生が、平気で集団レイプを起こすにいたっている。
その理由が、「ノリで=空気」である。
こういった今の現状を、数十年前に的確に予言した人物がいた、
それが小室直樹氏だ。自身の学問的成果を、日本社会の分析に当て、
今の現状が、起こることを予言した。
また、その原因を、わかりやすい言葉で、読者に投げかけた。
この著書は、小室直樹氏の全ての学問的成果及び彼の思想がコンパクトにまとめられている。
そして、彼が歩んだ激烈な人生と、彼を支え、また翻弄された人達の、
愛と憎しみの書です。
この本を読めば、今の日本が、なぜ「こうなってしまった」のか、
よく理解することができます。そして、このような天才を活用できなかった学術世界に、
絶望するでしょう。
日本社会は、ある角度から見ると、減点主義が徹底している社会です。
多くの日本人は、満点の100点から始まりますが、
コミュニケーション能力、性格、
容姿、そして「場の空気を読む能力」等を基準にして、
日本社会の独特の価値感で、その人の価値・能力を判断されます。
周囲が「これはないな」と判断したら、容赦なく減点されます。
幼稚園、小学校、中学校、高校に進むにつれ、判断基準もシビアになります。
60点は一種の比喩ですが、そういう「基準」があることは事実だと思います。
基準以下と判断された人は、日本社会では、本当に生きにくいと思います。
この代表格が、小室直樹氏だったと思います。
よって、氏の人生を知ることが、今の生きにくい日本社会で生きる全ての
日本人の生きるヒントになるでしょう。
この著者、村上氏に感謝します。
これほどの評伝を書くのに、一体どれぐらいの時間をかけたんだろうと、
思いました。小室直樹氏の全著作、全論文、手に入るメディア―媒体を、
すべて読んだのだろう。また、小室直樹氏を支え、その弟子達にインタビューを
して、まとめ上げた、この著者は、超一��の評伝になっている。
この著作を超える小室直樹氏の評伝は出ないだろう。
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600ページ以上あるのだが、一気読み。
それ程、面白い。小室直樹という人物の生き様も、それを余す事なく描く本著も。天才と評される同氏の理論に触れるのではなく、人間小室直樹を赤裸々に語る。生活力なく、常識にとらわれず、不遜で不潔で女性も苦手。京大から阪大、フルブライト留学し、東大へと変遷を(上巻はここまで)。
ー 中学1年の時、皇国日本はアメリカに敗けた。アメリカの圧倒的な軍事力、それを支える経済力に。徹底的に学んだ。その目的は、二度と戦争に敗れないため。志は、冲天の勢い。内から湧き上がる情熱のままに、西洋近代文明の精華を学び尽くした天才。
出だしはこんな感じ。アメリカや戦争を意識したというのは往年の研究成果から見出し難いが、蔵書や京大時代の発言からは、やはり戦時の原体験、または会津の出自が思想を形作った側面はあるのだろう。
東大での田無寮生活。小室ゼミ創設においてのゼミ生との出会い。特に、橋爪大三郎が小室ゼミ最大の貢献者である事が述べられる。橋爪の真面目で几帳面な性格、類まれなる組織力の賜物による。ゴミ屋敷のような小室の部屋。衰弱して入院した際にゼミ生が掃除。その際、ゼミ生は統計学の知識を活かす。統計的過誤にはニ種類あって第一種過誤はある仮説が真であるのに棄却してしまう場合の失敗。第二種過誤は真でない仮説を採用してしまった場合の失敗。小室は大量のポルノ雑誌が見つかるのが堪らず病院を抜け出した。何だか、このコントラストが小室直樹の空気感を象徴するようだ。愛された天才。
小室直樹は言う。日本の大学は教育機関じゃなしに階層構成原理であると。日本は徹底的に無階級社会であるが、どこかに階層構成原理がなければ、社会が動かない。近代社会は産業社会であろうと、情報社会であろうと、みんな分業社会だから。戦前には頂点における天皇制と周辺における共同体構造の身分制度があった。従い、ある程度階層構成原理が日本にあった。ところが日本においては階層構成原理がなくなり、その空隙を大学が埋めたのだと。
小難しい思想や論理の天才性に本著はページを割かず、あくまで評伝の体をなす。しかし、生き様を通じて染み出すような論理を味わう事ができる。下巻を読むのが楽しみだ。