紙の本
冷静な分析
2022/10/01 15:59
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
SDG'sやカーボンニュートラルなどが大きな声で叫ばれている世の中で、情緒的で都合の良いまたびきデータで話をしているケースが大半である。そのような中で本書は冷静な分析をしている点に好感が持てる。特に同位体元素による年代測定の開発の話はサスペンス調で興味をそそられた。過去の気温と二酸化炭素濃度のグラフのみを注視すると、二酸化炭素濃度の上昇は気温上昇の原因ではなく結果のようにも見えるがどうだろうか?
電子書籍
地球の過去の気候変動について
2021/01/22 12:14
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
過去の気候についてどのように測定するのか、どういう結果が出たのかがよくわかる。その結果として現在の二酸化炭素濃度の上昇が多大な影響を気候に与えるということがわかり環境問題の大事さを感じた
紙の本
地球上の気候変動の「からくり」をわかりやすく説明してくれる一冊です!
2020/01/29 11:40
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、難解な知識を手軽に理解できると人気の講談社「ブルーバックス」シリーズの一冊で、同巻は、地球の気候大変動のからくりを明らかにした書です。地球の歴史を概観すると、これまでに恐竜が繁栄した超温暖化時代、その後の氷期、間氷期の繰り返しと、過去に地球の気候は激しく変動してきたことが分かっています。これらの変化には、実は、一定のリズムや規則性があることがわかってきました。この変動の鍵を握るのが、地球の表層における「炭素循環」と公転軌道要素の変化がもたらす「ペースメーカー」だというのです。最新の研究成果から導き出された気候変動のからくりをわかりやすく解説した貴重な一冊です!
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いやあおもしろい。古気候学。次々にいろいろなことが分かってくる。研究の歴史を踏まえて、最新の話題にまで触れていただいているので、よりおもしろく読むことができた。この歴史的な、研究者の人間ドラマ的な話が盛り込まれていなかったら、ちょっと読むのはしんどかったかもしれない。けれど、いろいろと偶然に左右されたりする人生にふれられているので、臨場感をもって研究の歴史を知ることができた。これを読む限りでは、やはりCO2は増えすぎているし、このままでよくないのは事実なようだ。いろいろな要因があって一筋縄ではいかないだろうが、CO2の発生をおさえることを考えていかなければならない。私のできることは、それを子どもたちに伝えていくことだろう。ちょうど、先日、授業で環境問題を扱ったので、いつも以上に熱く語ってしまった。
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地球の46億年を気候変動から振り返るような本かと思っていたのですが、この本は気候変動のサイクルを二酸化炭素などの温室効果ガス等から読み解く、その読み解きの歴史を紹介するものでした。この本を読む前に、大きな気候変動の流れは、別の本で把握しておいたほうが良いかも
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地球46億年気候大変動の謎に迫る・地球を「生命の星」に変えた大酸化イベントはなぜ起きたのか? ・温室効果ガスは現在のなんと6倍! 白亜紀の超温暖化を引き起こした犯人は? ・1000年以上大気から二酸化炭素をから二酸化炭素を隔離する驚異の熱塩循環とは ・最短で数年で10℃以上の寒冷化が起きた「意外な理由」 ・「温暖化が進めば、海面が10~60m上昇」最新シミュレーションの中身
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地球は約46億年前に誕生したと言われます。その間には恐竜が全盛期を迎えた数億年前に現代よりも平均気温が7℃も高い時期があったり、一方では地球全域が氷で覆われた「スノーボールアース」という時期が存在するなど、気候変動は非常に振幅の激しいものであったことが分かっています。
その「からくり」と、どのようにしてそれほど過去の時代の気候を知ることが出来たのかを地球誕生直後から時間をさかのぼりつつ解説しています。
1000万年を超える時間スケールの変動では大気と大陸地殻との間での炭素のやり取りが、10万年程度の時間スケールでは大気と海洋との間での炭素のやり取りが支配的であり、2万年~4万年周期になると、実は地球の公転軌道の”ゆがみ”が重要となり、さらに数百年~数十年スケールの変動では、極域の氷の量が重要であるなど、取り扱う時間スケール、空間スケールのダイナミックさに圧倒されます。プレートテクトニクスが気候に影響を与えているなどという事実は本書を読むまでは全く想像もしていませんでした。
気候変動の研究の成果を分かり易く紹介した名著として「チェンジングブルー(大河内直彦著)」がありますが、その出版から10年以上が経過し、さらに最新の研究成果も盛り込んだ本書は、帯に書かれていた「大河内直彦氏絶賛」という文言や書名から受ける期待を裏切らない内容充実の1冊でした。
その著者が本書エピローグで、昨今の二酸化炭素濃度の上昇が過去の気候変動の振幅から考慮しても、非常に深刻なレベルであると警鐘を鳴らしています。地球温暖化が非常に深刻なステージに突入しつつあるという事実を再認識させられます。
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地球の気候学を俯瞰できる好著。観測機器の発達やサンプル採取の苦労から論理構成まで凝縮してある。
短いスケールの気候変動…主に大気海洋雪氷圏の循環で考える。エキソジェニックシステム。
1000万年超の長いスケールの気候変動…固体地球の中の循環で考える。マントルと地殻、プレートテクトニクスなど。エンドジェニックシステム。
「古代地球の温度を推定する」 化石には放射性同位元素がわずかに含まれている。試料採取方法やそこから分析用のガスを作るやり方の工夫を経て、放射性同位元素の割合で当時の気温がわかるようになった。しかし、地球が寒冷化したと思われる時期の海水温を復元したところ、マイナス3度というありえない数値が出た。原因を追究したところ蒸発した水蒸気に含まれる同位体の割合が水として運ばれるうちに「軽く」なり氷床として定着すること、温暖化が進んだ時にそれが溶け出し、海水に混ざることで同位体の割合に変化を与えていたことがわかった。分析を厳密に行うことで当時の海水温だけでなく、氷床の大きさもわかるようになった。
「暗い太陽のパラドックス」 太陽で起きている核融合反応は次第に加速するということが分かっている。太陽ができたての頃、太陽の明るさは現在の25-30%ほど暗かった、とされる。その状況下で太陽がきちんと地球を暖められたのか?が暗い太陽のパラドックス。計算上、二酸化炭素が今の10倍、メタンガスが50倍あれば保温効果で地球は古生物が生きられる範囲の温度になっていたはず。ただしこの問題には完全な答えは見つかっていない。
「大酸化イベント」 空気中の酸素は20-25億年前と5-7億年前の二回に分かれて濃度が上昇している。一回目と二回目の間にどうして10億年以上酸素濃度が上がらなかった時期があったのか(退屈な10億年)論争となっていた。この原因については結論が出ており、地殻の組成が変わり、二酸化炭素が大量に地殻に貯められる(炭素レザボア)ようになった。このレザボアが一杯になったところで貯めきれず空気中にでてきた二酸化炭素の濃度が上がり光合成により酸素濃度が上がった、というシナリオ。これを受けて5億年前に多彩な生物が登場したカンブリア爆発が起き、恐竜時代へ続く。白亜紀には二酸化炭素濃度は現在の6倍、2400ppmに達していたと推定される。当時、地殻プレートの動きが活発で現在の40-50%も動きが早かったと推測され、地殻から絞り出された二酸化炭素により濃度が上がったと考えれている。
「中生代後の寒冷化」 そのころインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかってできたヒマラヤ山脈の形成により岩石風化が進み、二酸化炭素を固定したことが原因。
「南極の寒冷化と氷床の形成」 オーストラリアと南極大陸の間に海ができ、南極の周りを周回する寒流が出来上がったことが原因。中緯度で暖められた海水が南極に近づけなくなり、南極が冷えた。
「ミランコビッチサイクル」 ここまでで億年から数千万年単位の気候変動の原因は明らかになったが10万年周期で氷河期を繰り返す理由がわからなかった。そこで規則正しく起きる天���学的な要因が原因ではないかと考えられた。①地球の自転軸の傾きのブレ(4万年)、②太陽の周囲を回る軌道(離心率)のブレ(10万年)、③自転軸がコマの軸のようにゆらぐ歳差(2万6千年)を重ね合わせ、太陽から届く熱量が変化することが原因では、と考えられた。同位体分析の結果、ミランコビッチサイクルと氷床の量はよくリンクした。最近で最も氷床が発達したのは1万7千年前で海水面が現在より130m低かったとされる。これを達成するために必要な氷床の量と当時どこにそれがあったかの研究ではカナダに巨大氷床があったことが分かっている。
「深海と二酸化炭素」 表層の海水が冷やされ深海に沈み込む過程で大量の二酸化炭素が深海に送り込まれる。氷河期には二酸化炭素濃度は180-200ppm、間氷期には280ppm、という循環が繰り返されている。これは①氷床が解け、淡水が海に放出され、前記の沈み込みが止まる、②その結果二酸化炭素濃度が上がる、③湿潤な気候となり氷の素が供給され氷床が元に戻る、の繰り返し、と思われる。水温が下がれば海水に溶け込める二酸化炭素も増えるのでさらに二酸化炭素濃度が減る。現在、化石燃料の燃焼により二酸化炭素濃度は400ppmに達しており、今後どのような気候が表れるのか予想がつかない状態。
この10万年単位の気候変動には有機生物による二酸化炭素固着、などほかにもいろいろな要因が組み合わさり、精妙な仕組みになっている。
「急激に起きる寒冷化」 さらに細かく地球の温度を見ていくと10年ほどで10度程度の変動が起きることがある。その原因も氷床の量。ある科学者が海底の微生物化石に残った気候の痕跡を分析しようとして泥の中に丸い石があることに気づいた。氷床が地表を削りながら海に出、溶けていくなかで海に落とした石、と考えられた。氷床は自律的に成長と縮小を繰り返す。成長し大きくなった氷床は重みで地表との摩擦が増し、接地面が溶けやすくなる。陸地から滑り落ちる形で海にでることで氷床が減る。そこで寒冷化が起き…という先のサイクルを繰り返す。
「今後の地球気候」 二酸化炭素濃度がすでにサイクル外の400ppmに達していることから今後どのような気候となっていくか予想がつかない。数億年、数千万年の単位なら岩石風化などで固着される二酸化炭素も出てくるが急速な濃度上昇をすべて吸収するものではな
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地球科学の復習と、最新学説のアップデートのために購読。
感想としては、地球科学も、時間分解能が飛躍的に高まっている。数年や10年単位の変動をも説明しようとしている。
一方、大きなテーマは開拓されておらず、既存学説の補完や、隙間を埋める研究だなという感じ。20年前に漠然と感じた事が、やはりそうなったんだなあ。
ただ、面白いしこれからますます大事だからこれからもウォッチする。
以下、要点。
・炭素循環や、氷床の挙動が、気候変動を起こす。
・10万年周期で規則正しい起こる気温と温室効果ガスの変動の要因は、解明されていない。
・数年〜数10年という短い周期の気候変動は、氷床の融解が海洋の熱塩循環に作用して起こる。気温は10度くらい変化する。
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キースリングカーブ
1957年以降の大気中の二酸化炭素濃度の正確なデータ。1957年に310ppmだった濃度が現在は400ppmに達している。
ウォーカーフィードバック
地球表層の気候(気温)を安定させる機構。二酸化炭素濃度を一定の範囲に抑える仕組みとして、正(大気中の二酸化炭素濃度を上げる)と負(下げる)のフィードバックが働く。例えば火山ガスとして供給されることで二酸化炭素濃度は増加していき、温室効果によって気温も上昇する。この温暖化を打ち消す負のフィードバックをもたらすのが、岩石の「風化」作用。プレートテクトニクスなどによって地表に表れた岩石が、温暖化による海水蒸発と結果としてもたらされる降水が、それに含まれる炭酸によって、主たる造岩鉱物ケイ酸塩鉱物が風化を起こす。その過程で大気中の二酸化炭素は取り除かれ、生成された陽イオンや重炭酸イオンが最終的に炭酸イオンとして沈殿することで二酸化炭素が海洋に固定される。大気中の二酸化炭素が低下すれば、気温も下がる。そうすると降水も減り風化作用も抑えられる。ケイ酸塩風化が減少し、今度は大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。この二酸化炭素のやり取りによる気候安定化メカニズムが働いているのだ。
外的システムと内的システム
外的システムは短い時間スケールで影響する大気海洋雪氷圏。1000万年を超える超長期スケールで気候の形成をバックグランドで担う固体地球(核、マントル、地殻など)を内的システムがある。どちらも並んで作用している。現象のタイムスケールが違うだけだ。
地球酸化イベント
地球大気中の酸素濃度は20%、二酸化炭素は0.4%(例えば、火星・金星は95%以上が二酸化炭素、酸素は限りなくゼロに近い)。地球原初には火星・金星と同じく酸素がほとんど含まれていなかった。20〜25億年前の大酸化イベント(GOE、1/10万から1/100へ)、5〜7億年前の原生代後期酸化イベント(NOE)と呼ばれる酸素濃度の急上昇によって、現在と同レベルまでになった。宇宙ではありふれた元素である酸素は、二酸化炭素や酸化鉱物として地表あるいは地中に閉じ込められていた。
最初に誕生した「生物」。最初に酸素を合成する能力を獲得したシアノバクテリアによって、大気中に大量の酸素が供給されはじめた。酸素を原料にしてオゾン層が作られると、紫外線による同位体分別が起こらなくなり、還元的な鉱床による環境が消え、酸素が酸化に使われることなく大気中にとどまることができるようになった。シアノバクテリアによる供給と、表層岩石による消費。キープレーヤーは「プレートテクトニクス」。25億年より以前に始まっていた、表層地殻とマントルの水平移動と大陸縁での沈み込みの現象。すでにあった大陸地殻が苦鉄質岩(還元的、酸化によって酸素を取り除く)のものから、マントル由来のケイ長質岩のものに置き換わっていくことで、大気中の酸素の取り込みが抑えられ、酸素濃度が急激に増えていった(GOE)。バクテリア、植物は二酸化炭素を原材料にした光合成によって酸素を供給する。炭素を保管する炭素レザボア(有機物、岩石、海洋、大気)がプレ���トテクトニクスによって地表に次々と作られていった。十分な炭素貯蔵庫ができあがることで、大気中への二酸化炭素供給量が増大し、光合成のボトルネックが取り払われることによって、酸素濃度も急激に上昇した(NOE)。
カンブリア爆発
NOE後、生物進化速度が一気に加速し、約5億4千年前、1万以上の生物が誕生した。中生代三畳紀(約2億5千〜約2億年前)には地球史上最大の恐竜が誕生する。中生代の平均気温は22℃(現在は15℃)。恐竜全盛期の白亜紀では24〜29℃で、南北両半球のどちらにも氷床が存在しない「グリーンハウス・アース」(温室地球)。当時の温室効果ガスである二酸化炭素濃度は1000〜2400ppm。現在400ppmの6倍だ。プレートテクトニクスによって地球内部から大気へと供給される二酸化炭素の量が増大したことが要因。
スーパープルーム
白亜紀に活発化した火山活動は、地球内部の熱を逃がすための対流活動の中で、1億〜2億年に1度ほどの現象として起こる。地底2900kmというマントルの深部からわき上がった直径数千kmの火の玉「スーパープルーム」により巨大噴火が起き、地表で大量の溶岩が噴出することで巨大海台(巨大火成岩区LIPs)が形成された。
地球寒冷化
新生代、3400万年前ごろには南極に氷河が形成され、「氷室地球」(アイスハウス)への大転換が起こる。2億年前、ゴンドワナ大陸から分裂したインド亜大陸は5cm/年のスピードで北上し、5千万〜4千万年前にユーラシア大陸に衝突、地殻の隆起が延々と続き、ついにはエベレストを含むヒマラヤーチベット山脈が形成される。急激な造山活動に伴う風化作用(二酸化炭素→炭酸→岩石からの陽イオンが海に流れ込む→海には大気から二酸化炭素が溶け込み(重)炭酸イオンとなる→陽イオンと炭酸イオンが結合し炭酸塩鉱物が沈殿する)こそが地球を寒冷化に導いた要因だと考えられた。最新の知見では、アフリカ大陸とインド亜大陸がオフィオライト(超苦鉄質岩、Ca、Mgに富んだ超塩基性岩)でできた海洋地殻を持ち上げ陸上に露出させたこと、そのタイミングが熱帯の降水帯を通過するのに重なったことが急激な寒冷化を引き起こしたという考えが有力となっている。
南極大陸の氷床形成メカニズム
ゴンドワナ大陸の離合集散によって南極大陸は局地に動き、3400万年前に巨大な永続的な氷床が形成された。この巨大氷床は、海水を常時冷やしている超大型の巨大フリーザーであり、現在の気候変動にも多大な影響を与え続けている。
冷たい氷が存在する南極では、周りの海にも冷たい風が(カタバ風)が吹き、冷やされた海水は表面に海氷を形成する。氷は真水なので、その直下には氷結する際に放出された高塩分の水(ブライン水)が作られる。これは周りの水より密度が大きく、海中をどんどんと沈み込んでいく。これが海洋をかき混ぜるために重要な深層水となり、世界的な海洋循環を形成することで、地球全体の気候をバランスさせている。
地球に降り注ぐ太陽光熱は、低緯度では入射が大きく、高緯度では放射が多い。この収支バランスを取るように熱容量の大きな水の流れが低緯度から高緯度へと海流(暖流)となって、「熱の運搬役」の働きを担っている。オーストラリア大陸と南極が切り離されその間にタスマン海が広がるようになると、地球の自転の影響によって南極を取り囲む周南極海流(ACC)が生まれる。ACCは流幅40km以上、150kmの蛇行幅を持ち、しかも厚さが3000m以上、流量およそ毎秒1億トンという巨大海流で暖流をまったく寄せ付けない。それまで繋がっていた暖流による熱の運搬が遮断され、孤立した南極大陸は急速に寒冷化に向かったと考えられている。
ミランコビッチサイクル
地球の自転軸は公転面に対して23.4度傾いている。これは、地球の回転軸を月や太陽の引力が引っ張り起こそうとする現象で、コマの軸がゆっくりと、首をぐるっと回すように、およそ2万6千年の周期で一周するこの動きを歳差運動という。
オーストリア・ハンガリーに生まれたミランコビッチは、専攻を土木工学から応用数学に転向し、基礎化学、そして気候研究に進んでいく。天文学的な要因(公転軌道要素として、自転軸の傾斜角、離心率、歳差)を基にした気候区分毎の日射量計算を行い、その変化が長期の気候変動に影響を及ぼしていることを見出していく。
公転面に対する傾斜角は季節性の強さに変化を及ぼす。高緯度では傾きが大きいと夏に氷は融け、小さいと成長する。傾斜角は約4万年周期で22.0〜24.5度の間で変化している。離心率は公転の楕円軌道が真円に近づくかどうかで、1800万km以上もの距離の変化があり、地球が太陽から受け取る日射総量も変化する。太陽を中心としながら、影響を及ぼす各惑星からの引力によって、公転軌道が変化し、楕円の扁平率が変わる。この周期がおよそ10万年。最後が歳差。南北方向に少しつぶれたみかんのような地球は、高速回転しているコマのように回転軸もゆっくりと円を描く。太陽から離れるときは太陽に倒れかかるように。この周期は約2万6千年。この3要素の影響が重なり合って、気候変動の畝りのようなサイクルを生み出している。巨大氷床ができあがるのも、海抜が100m以上も下がるような変化もこのサイクルによって表れてくる。
1976年に出された論文において、天文学的要素の変化による日射量変動という「ペースメーカー」は、地球の気候システムの中にある「大気-海洋圏」「雪氷圏」「陸域」などのサブシステムに様々な影響を及ぼす。こうした影響が、二酸化炭素濃度の変化や海洋循環の変動などのさらなる変化をもたらし、シグナルが増幅したり変調したりして、結果として、氷床量が変化しているという研究結果が出され、ミランコビッチサイクルと実際の現象の整合が示されたが、一方でいまだに現象を説明できない未解明な謎が引き続き残されている。
消えた巨大氷床
「ペースメーカー」の存在は見つかったが、2、4、10万年という地球の公転軌道の変化がなぜ、間氷期と氷期を切り替えるスイッチとなるのか、そのからくりはまだ分からなかった。解かなければならなかったのは「氷床」だった。
海水準の痕跡が残る造礁サンゴ(海面近くに棲息しサンゴ礁を作る)を調べることで、最終氷期最盛期の最低海水準が130m(およそ2万年前)と分かった。これに相当する氷床は、すべてが氷雪に覆われていたカナダ全体、スカンジナビア半島とバルト海に存在した北欧氷床、そして南極大陸にあった。南極大陸では、水深が500m���上もある大陸棚の海底にまで拡大して巨大氷床ができあがっていた。
炭素ハイウェイ
少なくとも280万年にわたって、氷期と間氷期が交互に繰り返すミランコビッチサイクルは続いてきた。北半球高緯度の夏の日射量が決定的な働きをするサイクルは「北半球主導」である。自転軸の傾きによって南北半球は逆位相となり季節も反転するが、気候変化における位相はつねに同じ(南半球が氷期なら、北半球も氷期、間氷期でも同じ)だった。これは温室効果ガス、二酸化炭素によるものだ。気体である温室効果ガスは時間差はありながらも、全球に広がり一様に分布する。地球全体を包む温室効果ガスによって、全体が暖められ、気候の偏りを均していたのだ。
大気中の二酸化炭素濃度は、氷期に180〜200ppm、間氷期には280ppmとほぼ一定で繰り返していた。この定められたような100ppm前後の変化のリズムは、気温データの変化のリズムと驚くほどに一致を見せる。
このシステムのような二酸化炭素濃度の変化は、地表70%を占める海、炭素を貯蔵する巨大貯蔵庫としての海の働きによってもたらされている。100万年を超える超長期では、大気とマントルの間の炭素のやり取りが重要だったのと比して、10万年スケールでは固体地球との炭素のやり取りの変動は小さく、表層での循環、海と大気との間での二酸化炭素のやり取りが主要な要因になる。炭素貯蔵容量は大気のサイズを1としたときに、土壌が2.5倍、それと比べて、海は45倍以上もある。海の状態が大きく気候に影響を及ぼす。特に容量が大きい海洋中深層へ炭素を運ぶ(隔離する)のに3つのポンプが働く。水に溶けやすい二酸化炭素が炭酸に変わり海流によって深い部分に運ばれる「溶解ポンプ」。海洋表層に棲息する植物プランクトンが光合成によって二酸化炭素を有機物という固体に変化させ
る。植物プランクトンは動物プランクトン、小型・大型の魚類へと食物連鎖によって受け渡されていき、最後の出される排泄物として、数ミリから数センチほどの大きさとなって、深海へと沈降していく。これらの有機物は熱塩循環(海水温と塩分の違いによって生じる地球規模の海水循環)に乗せられて遠くに運ばれていくことで、大気との接触を平均で1000年以上断たれることになる。これが「有機物ポンプ」。もう一つの生物活動に関わるものが「炭酸塩(アルカリ)ポンプ」。炭酸カルシウムでできた貝類、造礁サンゴ、動物プランクトンが炭酸イオンの供給源となり、二酸化炭素が海に溶け込むのを助けている。
海洋の循環は、低緯度、中緯度で暖められた表層流が、海水温の低い高緯度帯に向かっていく。途中の蒸発や陸域への降水によって、塩分濃度が高まり、極域(北大西洋グリーンランド沖、南極大陸大陸棚周辺)でさらに冷却され、冷たく高塩分の重たい水が深海へと沈み込む。ひとたび沈み込んだ深層流は1cm/秒ときわめてゆっくりで海底を這うように移動する。約1000年かけて世界の海洋を循環する。海水は水深400mを境に表層(表層が最も高く温度が下がっていく)と深層(およそ4℃で海底まで一定)で分かれ、それぞれは混ざりにくい。この2つの層を攪拌し混ぜ合わせるのが、風の働きである。風によって表層の水が移動すると、それを補うために下層から水が湧き上がっ��くる。表層海流の沈み込みが起こっているのがグリーンランド沖ラブラドル海と南極海の2カ所だけだ。循環はベルトコンベアのように、北大西洋からスタートし、深海に到達し南下した後に太平洋に移動する。乱流(渦)によって徐々に表層に上がってきながら、インドネシアの狭い海峡を抜け、インド洋を渡って、大西洋に戻る。
ダンスガード-オシュガーサイクル
ミランコビッチサイクルよりもはるかに短い(1万〜11万年前にかけて25回)、数年から数十年単位で10℃近く気温が変化する超短期の気候変動がある。
地球気候全体に動的平衡をもたらす熱塩循環の機能低下による平衡崩れ、弱まりによって、北半球では寒冷化が進み、南半球では温暖化が進むという結果(例えば、ヤンガードライアイス期と呼ばれる寒冷イベント)をもたらした。北半球と南半球の逆位相の特徴が強く表れるようになってしまったということだ。
ハインリッヒイベント
同じように超短期の寒冷化を捉えたのがハインリッヒイベント。超短期寒冷化の発生を示すものとして、巨大氷床の流出による氷山由来岩屑の発見によって確認された。寒冷化が進み地殻上の氷床が大きく成長すると、地球内部からもたらされる熱が大気に放熱されず、地殻に面する氷床底部を溶かし、水の層を作る。これによって巨大氷床が海洋に流出した。北米大陸にあったローレンタイド氷床の一部が北大西洋に流出し、カナダ側から大量の淡水がアイスランド沖に供給されたことによって、海水の塩分濃度が急激に低下し、熱塩循環が弱まってしまったと考えられている。
巨大氷床の崩壊のような突発的なイベントによって、熱塩循環のような安定したシステムに乱れが生じる。南北半球にシーソーのように逆位相で表れる気候変動がごく短期間に引き起こされることがわかってきた。
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地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来。横山祐典先生の著書。世界中の名門大学で学ばれて世界中の研究所で研究員として気候変動についての研究生活をされてきた横山祐典博士のお話だからすごく説得力がある。温暖化が進めば自分が住む場所が水没するというシミュレーションを見ればびっくりする人も多いはず。気候変動や温暖化というキーワードに少しでも興味がある人が気候変動の第一人者である横山祐典博士から気候変動や温暖化を一から学べる良書。
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最新の研究結果が丁寧に説明されている。特に、新世代の気候変動のメカニズムが詳細にわかってきたと感じた。
大気中の酸素量は、25~20億年前の大酸化イベント(GOE)、7~5億年前の原生代後期酸化イベント(NOE)で急上昇した。25億年前までには本格的なプレートテクトニクスが始まっており、相当大きな大陸地殻が形成されていたが、鉄やマグネシウム、還元態硫黄を多く含む苦鉄質岩(玄武岩)でできていたため、大気中の酸素濃度は上昇しなかった。25億年前に大規模なプレートの沈み込みによってマントルに大量の水が供給され、玄武岩質のマグマがケイ長質岩に置き換わったため、酸素が消費されなくなり、大気中の酸素濃度が増加した。23億年前には、紫外線によって起きる硫化鉱物に刻まれたMIFの痕跡が消えていることから、オゾン層が形成されるほど潤沢な酸素が存在していた。GOE後に酸素濃度は現在の1%となり、生物のエネルギー経路が発酵から酸素呼吸へと変わる転換点であり、真核生物の生存限界であるパスツールポイントに達した。
GOE終了後の10億年間は、大気中の二酸化炭素が少なかったために光合成の量や酸素濃度の上昇が妨げられた。プレートテクトニクスの進行によって陸地の周りに水深の浅い海域が広がり、光合成生物によってつくられた有機物が堆積し、それが酸化されることで二酸化炭素の供給能力が高まり、酸素の生成が向上してNOEとなった。
植物化石の気孔の密度等から推測される白亜紀の二酸化炭素濃度は1000~2400ppmで、平均気温は24~29℃だった。パプアニューギニア東方のオントンジャワ海台やカリブ海台、ケルゲレン海台、ヒクランギ海台、マニヒキ海台などは白亜紀に形成されたもので、白亜紀中期は地球史においてもまれにみるほどに火山活動が活発な時期だった。また、白亜紀の火山分布から海洋プレートの沈み込み帯が現在の2倍広がっており、海面水準が50m以上高く、浅い海や広大な低地にサンゴ礁が広がっていたため、炭酸カルシウムが大量に蓄積され、これが大量の二酸化炭素を生成していた可能性がある。
地表に雨が降り注ぐと二酸化炭素は水に溶け込み炭酸となる。弱酸性の水には岩石から陽イオンが溶け出し、河川を通じて海に流れ込む(風化)。海には、大気から二酸化炭素が溶け込んだ重炭酸イオンや炭酸イオンが存在している。海の炭酸イオンと河川から流れ込んだ陽イオンが結合して、炭酸塩鉱物が沈殿することにより、大気中の二酸化炭素が除去される。インド亜大陸とユーラシア大陸が衝突したことによって隆起したヒマラヤ・チベット山脈が、この風化作用を起こしたため地球が寒冷化した。ヒマラヤ・チベット山脈の形成に先立って二酸化炭素が減少しているのは、海洋地殻での造山活動によって形成されたカルシウムやマグネシウムに富んだオフィオライトの岩石帯をアフリカ大陸やインド亜大陸が隆起させて風化されたため(8000万年前と5000万年前)。
3400万年前に南極大陸に氷床が形成されたことについては様々な仮説があるが、オーシャン・ゲートウェイ仮説が有名。オーストラリアと南極大陸の間にタスマン海が形成されると、周南極海流(ACC)が形成され、それまで東オーストラリアを流れていた熱帯からの海流が南極大陸に届かなくなったため、南極の寒冷化を促進させた。南極大陸に氷床が形成されたことにより、海面水準は70m以上低下した。
炭素が深海に運ばれるメカニズムは3つある。大気の二酸化炭素は海水に溶けて炭酸などに変わり、海流によって深い海に運ばれる(溶解ポンプ)。植物プランクトンが光合成によって固定した二酸化炭素は、食物連鎖によって大型の生物に取り込まれた後、排泄物として沈降する。これはバクテリアによって分解されて無機炭素として放出されるが、深層海流によって平均1000年以上隔離される(有機物ポンプ)。二酸化炭素が海水に溶けた炭酸は、貝類やクリオネによって炭酸カルシウムの殻として取り込まれる(炭酸塩ポンプ)。
過去数十万年間の気候変動は、溶解ポンプだけでは説明できないため、有機物ポンプや炭酸塩ポンプの変化があったと考えられる。氷期の氷床コアの中に、気温に反比例する量の鉄分が含まれており、現在の大陸棚が陸地だった時に河川や風によって運ばれていたと考えられる(鉄仮説)。海面の低下によって大陸棚が陸地になったため、サンゴが死滅して二酸化炭素の排出量が減り、その結果として海の二酸化炭素の取り込み能力が高まった(サンゴ礁仮説)。激しい風によって陸地から削り取られた土砂が海域に飛来し、ケイ酸が補われたことによって植物プランクトンの光合成が活発になった(ケイ酸リーク仮説)。氷期の二酸化炭素の濃度の低下は、どの仮説も単独では説明できないため、複数のメカニズムが作用することで起こったと考えられるが、詳細なメカニズムについてはコンセンサスが得られていない。
アンドレ・ベルジェらのコンピューターシミュレーションでは、大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超えている現在の状況では、今後5万年間は間氷期が続くと予想されている。