紙の本
文学の力を感じる
2021/11/30 21:02
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
震災から四年余りたった被災地を舞台に、天童さんが紡いだ素敵な物語。
海に潜って津波の被災者の遺品を回収するダイバーを主人公に、大切なものを失った人たちの喪失感、報道などでは伝えられない思いに迫っている。
作品の余韻に浸りながら、あとがきを読んでさらに感動。
「私たちはまだ本当のことを知らない。なのに、知る前に、かたづけられ、処理されて、大きな災害として「歴史」化される。つまりは、詳細を省略した記述可能な年表上の出来事として、閉じられてしまう気がしたのです」。
私たちが知らないことを文字にして、読者の心に伝えてくれる。天童さんの素晴らしいお仕事に感謝です。
紙の本
震災後の海の底
2019/03/25 09:30
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投稿者:touch - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても重いテーマ。
東日本大震災後の海に潜り、津波で流された遺留品を引き上げる仕事を依頼されたダイバーの物語。
震災後の陸地の様子は、TVなどで見ていたが、海の底がどうなっているのかは知らない。
この本に書かれているように、まだたくさんの物が置き去りにされているのだろう。
それらは、単に「モノ」ではなく、大切な「想い出」である。
それらの「想い出」を、危険を犯してまで持ち帰ろうとする主人公の心情が、丁寧に描かれている。
この本に、私は、ストーリーは全く違うが、『悼む人』と同質の匂いを感じた。
読んでいて、とても苦しくなってくるが、最後は少し灯りがともり、前向きに終わるところが救いである。
※ 最初の40ページほどは、復興中の街並みやダイビングの様子を、こと細かく描写している。
その様子が想像できないと、読み続けるのがちょっと辛いが(私はイメージしにくかった)、そこを過ぎるとグンと面白くなる。
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なんとも天童荒太らしい本。
震災で生き残った人は、贖罪の日々を送るのだ。すべては自然が起こした抗えようのない事実とはいえ、自分を責めるばかり。
主人公は海に潜り続ける。そこで見つけたものは、希望の光であって欲しい。大切な命、生きぬいて。
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【現地取材をして書かれた、著者の新たな金字塔というべき作品】震災と津波から四年半。深夜に海に潜り、被災者らの遺留品回収を続ける男の前に美しい女が現れ、なぜか遺品を探さないでくれと言う。
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途中苦しくて、ページをめくる手が進みませんでした。
「喪失」とか「死」とか、物理的な苦しさじゃない。ただ起こったことのあまりの大きさに、自分がこれからどう生きればいいのか、その出来事にどう接すればいいのかわからない。今こうして存在していることすらも、わからなくなってくる。
それが、8年前のあの日以降、東北の人々が背負った苦しみだったのではないか。あるいは、災害、テロ… 大切なものを突然失った人が負う苦しみなのではないか。この本を読んで自分なりにそんなことを考えました。
でも、荒れる海がいつかは凪ぐように、悲しみにも明ける日が来ます。忘れるんじゃなくて、風化じゃなくて、起きてしまったことを受け止めて、自分の身体の一部として、先へ進む。生きる。生かされている。
「失われた命への誠実な祈り」まで読んでほしい。この後書きをもって、物語は完結します。
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暗い海へ潜りながら、なにか分からないけど答えを探す・・・水底で必死に手探りするような始まりから、さいごは白い鳥の舞う空へと浮上していくのがよかった。爽快な感じはないけれど、頭上には光のある空がひろがっているんだと気づき直した、目をひらかされる感覚を舟作とともに味わえる。
終始おさえた筆致でありながら、海から上がった後抱き合う場面、指輪をめぐり会員が激昂する場面、長く潜り過ぎた舟作を文平がどやしつける場面・・・ふいに感情が噴き上がるときがある。その緩急が、この深く哀しい物語を読み進めるのを助けてくれた。
「みんな、少しずつ、大切な何かをあきらめているのだから。」
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3.11に真っ正面に向き合って描く、震災後小説。
主人公の舟作はダイバー。遺族からの依頼により立入禁止区域の海に非合法に潜り、遺族の遺品を回収する。
ある美しい女性から震災で行方不明になった夫が付けていた結婚指輪は何故か探さないで欲しいと舟作に依頼する。
震災で両親と兄を失った舟作。強烈なサバイバーズギルトと今を生きていきたいという生物としての強烈な命への執着。
震災で近しい人を失った誰もが感じるであろうそういった感情が、この小説に深く込められている。
震災後小説の代表の一つとして語り継がれていくべき秀作。
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震災後、そこで生きていく人たちのお話。
静かに、でも確実に人の気持ちを丁寧にすくっている物語だった。
2019.4.29
68
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震災後のお話。
きっと現実にもまだまだ様々な思いを抱えながら生きている人がいるのだろう。
おそらく福島の海を潜り、誰かの大切だったかもしれないものを見つけてくることを引き受けてい主人公。
生きること、これからのことを考える。
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2020.01.15~01.29
あとがきを読んで、泣いた。
作者がどんな気持ちでこれを書いたのか。それがわかったら、自然と涙が溢れた。
生き残った私たちが生きること、それがどんなに大変なのか、どんなに重要なことなのか。
考えて残りの人生を生きていく。
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震災ものは重くて自分自身が押し潰されてしまいそうになるため敬遠していたけれど
内容を知らずに偶然手に取った本とはいえ最後まで丁寧に読み遂げることができたのは僥倖だった。危険と隣り合わせの使命みたいなものに尽き動かれながらも、答えのでない疑問を胸に抱き、自問自答を繰り返しているのは主人公だけだはないだろう。
文章の重みをどっしりと胸に感じつつ、私も物語にどっぷり浸かり深い想いにとらわれたひとりだった。
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明記はされていませんが、3.11から4年半後の福島を描いた作品です。
そろそろ震災から10年を経ようとしています。この間、震災をテーマにした沢山の物語を出版されましたが、これまで積極的に手を出しませんでした。そんな本は多くないと思いますが「ブームだから」とか「売れるから」なんて思いで書かれた本だとすれば辛いだけですから。
この本はテーマを知らずに借りたのですが、10年を経て生き残った本なら今後は読んで行こうかと思います。
サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)がメインテーマです。ただそれをシンプル・ストレートに表すのでは無く、罪悪感と違和感の中間の様な、普段は表面に出ないのだけどある瞬間に急に湧き出す様な、そういう微妙さを上手く表現し、ありふれたテーマかもしれませんがリアリティーを感じます。
「悼む人」のイメージからもう少しスピリチュアルな方向の話かと思いましたが、そうでも無く。
最後は再生に向かう一歩で終わる、きっちりと震災の一面を描いた作品でした。
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遺された者の想いを描いた作品。この震災では多くの人が亡くなったが、その遺族は亡くなった人の数倍おり、死者に対する想いも遺族の数だけある。その想いは遺品に現れるが、それを海から取ってくる者にも当然現れる。
実際にこういうことをやってる人はいそうな気がする…月が明るい日の深夜に一回浜通りの海に行ってみたくなった。
地名は全く出てこないが、実際に被災した街が舞台になっていることがはっきりと分かる。舟作が潜っている海は福島第一原発近辺ということは明らか。私の被災地訪問の記憶からの推測だが、文平が住んでいるのは浪江や富岡で有志の会の会合が行われるホテルはいわきと思われる。そして化石掘りの話から舟作の故郷は歌津なのだろう。(違っていたら恥ずかしい)
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フィクションなの現実の福島の人たちの気持ちをしっかり伝えていると感じた。そして、同時に励ましているとも。著者による解説、あとがきから作品に対する想い、責任感、素直な迷いが伝わってきて、再び感動する。福島の再生には、気の遠くなるような時間が要する中で、引き続き書いて欲しいと願う。
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思ったより内面の描写が濃くてびっくり
重いテーマだからこそだとは思うが、難しく時間がかかってしまった。