紙の本
不平等から平等へ
2020/07/11 13:38
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争や災厄によってもたらされる、富の流動について鋭く考察しています。世界情勢が不安定な今の時代で、いかにして格差是正を実現するのか考えさせられました。
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歴史の一つの見方
2020/03/27 13:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はアメリカ。スタンフォード大教授であり、歴史学、人類生物学等を専門分野している。
所得の富と分配の格差としての不平等、経済的な不平等は歴史的に見れば増加していくものであるが、いくつかの要因により不平等が減少することもある。その減少する理由を解き明かそうとするのが本書のテーマである。
大きな要因として戦争・革命・(国家の)崩壊・疫病を挙げ、世界の歴史を縦横断に考察している。その中で、戦争や革命などによる暴力的衝撃が不平等減少に影響する重要因子となっていると指摘する。20世紀の2回の世界大戦は顕著で唯一といってよいほどの事例である。しかし、この事例でもその後の経済発展、人口回復などの進展によって、平和な時代が維持されると、再び不平等は拡大、増加することになってしまう。それが現在の姿だ。
21世紀の今日、20世紀の大戦のような暴力的衝撃は期待できないだろう。すると、どのようにこの不平等問題を解決するのか。不平等が深刻化することの問題は多数の貧困問題であり、世代間の経済的、社会的流動性の低下であり、この影響は人間社会の社会経済発展に影響を及ぼし、有害なものになる。
およそ600頁に及ぶ大著であり、読み通すにも疲れる場面もあった。大凡読み終えたが、読後の印象は複雑だ。人類の歴史を不平等という観点から通覧し、考察することは歴史の一つの見方として興味深い。だが、先史時代から今日まで人類は確実に豊かになっている。故に、これほどまでに人口が増えた。人間の叡智をまず評価することも必要であろう。
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格差の歴史
2020/01/29 20:24
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類史が始まって以来、すでに不平等と暴力は存在していたことの詳説に加え、ジェンリッチとナチュラルの未来といった恐ろしい将来にも言及されている。アテナイにおける金持への累進課税は何故うまくいったのかを現代にも活かしてほしいものだ。
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平等って、何なんだろう一体。ということを考えさせられる。その指標で果たして良いのか?というのも最後まで問われるし、最後でひっくり返される感もある。「地獄への道は善意で舗装されている」その裏返しとして、「地獄の経験は平等に向けた道に繋がっている」のかもしれないし、そうでもないかもしれない。希望があるかと問われれば苦笑するしかない。個人的には第9章が好き。どうしたもんかね。
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# 格差の前著
格差の前兆は農耕などによる、余剰生産がある。ほかの例外をも書かれているが、ほとんどの不平等の始まりは農耕の余剰生産力によるものとしている。また、農耕は定住を前提としていて、富を蓄え、守ることができる。これも不平等が拡大する要因だ。
そしてリーダーシップの必要性も不平等を生む。メソポタミアのバグダード北部では、7000年前から階層化と暴力の後が見られる。農耕のエリート層がやがて階層化して、不平等の固定化を生んだ。
# ヨーロッパの不平等の歴史
ローマ帝国の繁栄の間は不平等が拡大し続けていた。これはローマ帝国の衰退とともにいったん不平等が縮小した。
次に拡大したのは封建制の間。これはペストによって大圧縮が起こった。
15世紀半ばからペストが衰えてくると、人口が拡大して、経済成長と都市化によって近代初期まで不平等が拡大した。
# 4騎士
1. 戦争
2. 革命
3. 疫病
4. 国家崩壊
このうち、戦争が興味深い。https://booklog.jp/users/daijyu#
# 戦争による格差縮小
戦争によって格差縮小がみられるのは古代アテナイと世界大戦だけだったとしている。共通するのは国家総動員体制な点。初期のアテナイは健康な男子全員が共同生活を行い、先頭に参加していた。これと同じような動員率が起こったのは二度の世界大戦まで待たなければならなかった。
例えば、中世の支配者は、自分の資本が壊滅するまでの動員をかけて戦争は行わなかった。ではなぜ二度の大戦は国家総動員となったのか?その理由の一つとして参政権の拡大との関係を上げている。マックスウェーバーを引用しながら、参政権の拡大によって、それまでは、支配層の存亡をかけた戦いだった戦争が、国家全体、国民全体の存亡をかけた戦いとなった。これによって、際限のないリソースの投下を可能にした。そして、際限のないリソースの投下は、資本財の壊滅を招き、結果的に不平等の圧縮につながったとしている。戦前にはなった戦後の平等化は、戦中の壊滅的な破壊と殺戮によって生まれた。
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不平等・平等化について
歴史的なデータから分析している
最近のITが発達している社会では
同様なことが起きても
また違った展開になるのかな
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一言でいうなら、大著である。それだけに読む者にもそれなりの労力が求められる。
本書は、古代からの人類の悠久の歴史が、持てる者と持たざる者の不平等の歴史であること、両者の格差は拡大と縮小を繰り返してきたことを実証していく。そして、格差が是正され、平等化に近づくのは、常に暴力的事象の後であることを指摘する。すなわち、戦争、革命、国家の崩壊、疫病であり、著者のシャイデルはこれをもって「平等化の四騎士」と命名した。ただし、小規模な破壊やどちらかの一方的な勝利などは、平等化にほとんど影響しないか、限定的な効果しかない。四騎士の剣が振るわれるのは、壊滅的なまでの暴力のみである。
ここ数十年、世界のグローバル化に伴い、所得と富の不平等が広範囲に拡大している(それでも大戦前の不平等よりはマシだという)。それらを抑制する暴力的衝撃である四騎士が力を失ったからだとシャイデルは指摘する。壊滅的な戦争も、大規模な国家の崩壊も現在ではほとんどない。
ちなみに本書の原著は2016年にまとめられ、2017年に刊行された。このため、疫病の観点から、昨今のコロナ禍に関する考察はない。コロナ禍の一年、株や債券を持つエリート層はさらに富を拡大させた。本書の論理は間違いではないかという声が聞こえてきそうだ。
しかし、コロナはかつてのペストのように人口の何割もが命を落とす性質の暴力ではない。人口が減少し、労働力が不足して、賃金が上昇するということもない。コロナ禍で失われたのは労働力ではなく、仕事そのものである。コロナはむしろ貧しい人々に深刻な影響をもたらした。ただ、コロナが収束し、経済活動が再開されれば、労働賃金が増し、平等化が推し進められる可能性はあるだろう。
歴史家であるシャイデルが積み上げたデータは膨大である。特にジニ係数と所得シェア率に注目して論を組み立てていくのは非常に興味深い。また、戦前戦後の日本にかなりのページを割いているのも、我々日本人の好奇心をかき立てる。
高齢化や移民問題を重要な課題としつつ、シャイデルは不平等是正の処方箋をいくつか検討してみせる。しかし、歴史を省みて、暴力的な破壊なしにそれが達成されることに悲観的である。
シャイデルから渡されたバトンをどう未来につなぐか、まずは目の前のコロナ禍への各国の対応に注目していきたい。
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平等だった人間の狩猟採集社会は、農耕・牧畜で余剰生産と蓄積が可能になったことで、不平等化した。社会のしくみはレントとして不平等を維持・増加させる。過去、不平等を大きく減らしたのは、近代の戦争・革命や社会の崩壊・疫病、大きな厄災なしに起きたことはない。
如何に富を増やすかというテーマの本ばかり読んできたので、いかに不平等を減らすかという視点が新鮮でした。というか、いかに世の中、不平等に向けて染まっているか、ということを再認識しました。
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世界大戦により不平等が圧縮された歴史があるが、過去何度かにわたる戦争の中ではなかなか富は再分配されなかった
ペストや疫病でも、不平等は圧縮された
しかし、今後そのような大きな戦争は起こる可能性が低い(おこってほしくない)
そのようか中で開いていく格差をどのように埋められるのだろうか…
#速読
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歴史上のエビデンスから文明が平等化を平和裏に進めたことがないという事実は暗澹たる気にもなる。徳川~戦争~戦後処理にかけての日本への言及も多く非常に興味深い。
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まず、本書については一言で言うと、
『重い』(物理的にも、内容的にも)
ということに尽きる。
人類の歴史が始まって以来、人類の歴史は
持つ者と持たざる者との歴史
であると言って良いと思う。
本書をざっと読んでみて、平等を実現することがどれほど難しいということかが改めて確認できた。
農耕生活が始まる以前の
狩猟採取生活
が人類が最後に経験した平等であったのかもしれない。
本書で論じられる人類を平等化をさせる可能性のある四騎士
〇戦争
〇革命
〇崩壊
〇疫病
のうち、本当の意味である一定の社会を平等化できたのは
〇戦争→大量動員戦争である第二次世界大戦
〇革命→ソビエト連邦革命と中国共産党革命
だけだったのかもしれない。
〇崩壊(国の崩壊)
〇疫病(ペスト)
も多少の平等化は実現できたが、根本的な平等化とは程遠かった。
ただ、第二次世界大戦もソ連革命、中国共産党革命も圧倒的な暴力とその犠牲により成立しており、いずれも平等化されたからといって手放しで喜べるものではない。
では、今の社会で平等化は実現できるだろうか?
著者は悲観的である。
それこそ前述したような圧倒的な暴力による平等化は可能であろう。
つまり、それは核戦争などによって、
全人類が『平等』に死滅する
ということである。
この本を読んで、今までの人類の歴史では
「戦争や革命」はその固定化された社会を一旦リセットする
という役割があったということは、目からうろこが落ちる思いであった。
いずれにせよ、今の固定化された社会が平等化されるのはなんらかの大きな力が作用しなけれならないのであろう。かなり難しい問題である。
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拾い読みで読了。もっと一般向けの読み物っぽいものを期待したんだけど、想像より論文的で、網羅的で数字も詳細なんだけど、詳しすぎて途中から退屈になってしまった。学びとしては、疫病などで人口が減ると労働者不足で賃金が上がり、富裕層から庶民へ資本が移って不平等が圧縮されるということ。現在は世界的に不平等が広がっているんだけど、これから人口が減少するターンになるとそれが起きるのだろうか?
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・注釈なども入れたら800Pほどの大作.事例紹介が多くてかなり読み飛ばせるが.
・不平等の発生は資本が蓄積可能になっていることが前提(狩猟採取から農耕牧畜型の生活にシフト)
・それは経済発展と権力者による搾取的行為により拡大した.
・その解消には「暴力的衝動」が必要不可欠だったと歴史が語っている.歴史を見ると戦争・革命・崩壊・疫病.
・しかし暴力的衝動は相対的な格差を縮めたというだけで当然,人々の死や社会の混乱を引き起こしておりこれを迎合することも難しい.
・人為的な,平和的な施策では不平等の解消の効果は「暴力的衝動」のそれには到底及ばない.
政治家などの不平等解消を説得する演説も大抵が抜本的なものになり得ないだろう.
不平等の解消には「貧者が持つもの(労働力)の高騰」「富者の持つ資本の価値低下」「富者の持つ資本の分配」のどれかが強く働かないとダメで,人為的/平和的にそれを執り行うのは困難.ブラックスワン的「暴力的衝動」でしかそれができないんだろう.
・テクノロジーの発展などにより近代以前とは世界の様相は変わったが,不平等の拡大は止まらないだろう.
次なる不平等の緩和をもたらすものは核戦争?シンギュラリティ?少子高齢化による社会の崩壊?何だろうね.
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「数千年にわたり、文明のおかげで平話裏に平等化が進んだことはなかった。既存の秩序を破壊し、所得と富の分配の偏りを均し、貧富の差を縮めることに何より大きな役割を果たしたのは、暴力的な衝撃だった。」
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過去では、大量に人が死ぬことで平等化されてきたんだよ、という話。
富裕層に余剰の資産があるのが常で、有事にはその余剰が没収され貧困層に再分配される、という極めてシンプルな市場原理を、4つのパターン(戦争、革命、崩壊、疫病)に分けて50個くらいの事例を用いて解説している。経済書と言うより歴史書。
めちゃめちゃ示唆に富んでいる。事例の網羅性がすごいので、過去に平等化が進んだケース、進まないケースの違いが様々な側面から示されている。
この本から何を持ち帰るか、と言う点では難しい。あくまで歴史書であり、現代に近い話はほぼ皆無なので。ここに、技術の介在などの現代の要素を取り入れることで、自分の意見にできるのだと思う。昨今の情勢を分析する視点を手に入れた、という意味で僕的には非常に読む価値があった。
如何せん事例が詳細すぎるし、世界中の歴史が出てきてついていけないし、書き方がP580にわたる論文なので、(索引がP140にわたる)読むにはめっちゃ体力が必要。が、趣旨自体はそこまで混み合ってないはず。おすすめです。