紙の本
バカSFというよりシュールなファンタジー
2019/12/24 23:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカの短編文学の急先鋒、ソーンダーズの短編集です。
アメリカ文学の何とも言えない馴れ馴れしさが苦手な人にはちょっと食傷気味な文章ですが、どの物語も似通ったプロットのない独創的な短編に仕上がっています。中でも「スパイダーヘッドからの脱出」は秀逸でした。
紙の本
新境地も
2021/07/29 22:52
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジョージ・ソーンダーズといえば奇想天外という言葉がふさわしい作風で知られている。この短篇集もまさにこのイメージ通りなのであるが、またこれまで以上に社会派的要素もある。ソーンダーズ的世界を保ちながらこのような面も増してきたのは、現実社会がそうさせたというところもあるのだろう。
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貧乏だったり、頭が悪かったり。
ちょっとかなりダメで愛すべき主人公たちが、荒唐無稽な世界観のなかで更にダメになっていく。(時には希望もある)
いわゆる下流の人々の生活の書きっぷりもさることながら、やっぱり世界観の作り込みが素晴らしいと思う。
普通のアメリカの風景、と思いきや少し違う。突拍子もないややSFチックな設定に驚かされる。
日常の風景の中になんの前触れもなくSF設定が紛れ込んでくるのだけど、あまりにも溶け込みすぎて疑問を持つ間を与えてくれない。
「センプリカ・ガール日記」の〝SG飾り〟とか。SGの正体が明らかになった時にゾッとする感じめちゃくちゃ楽しかった。
そしてその後にうううんと考えされられる。重い。
あと「子犬」がよかったな。
子どもって。
そしてやっぱり岸本佐和子さんの訳が最高に上手い。
特殊な文体とか言葉あそびを違和感なく日本語にしてくれてる。
「わが騎士道、轟沈せり」とかの発言がかなりヤバくなってるあたりの表現がとてもよかった〜。
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文化的背景なのか、登場人物の性格や言い回しに馴染めないところがあった
虚航船団を読んだあとのような感じで
設定自体は面白いものもあるが、自分の中でそれを楽しめる素地ができていないように感じる
十二月の十日だけは直前にビターエンドロールを読んでたこともあり楽しめた
自分の最期の時はどのようになるのだろうか
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そういえば、「短くて恐ろしいフィルの時代」を読んだ後も似たような感慨にふけったなと思い出して、どんなことを書いていたのか振り返ると、その感想にも「だからこそ敢えて聞きたいのだけれど、みんなは何が面白いと思うんだろう」とある。米国人が日頃から感じる無力感や不正義のようなものをジョージ・ソーンダーズがお伽噺風にして見せるのを、当の米国人が(それも本を買って読むような層に属する人々が)読んだとして感じる自虐的な(と言いつつそれは飽くまで自分自身が直接被る負の重しではない)感情が、適度に塗される滑稽さで受け止め易くされるのが面白いのか。
一つひとつの短篇が示す世界は、多少空想科学小説的であったりひどく単純化された視点からのみ綴られたりしてはいるが、ディストピア風の世界である。そしてそれはどこまでも現代社会に少しばかり色を付けて映した鏡像。その不幸、不運、がんじがらめの格差などから目を逸らすべきではない、と声高に言っている訳ではないけれど、リベラル風に単純に物事を切り取る様は、主張していることこそどこぞの大統領と全く逆のことかも知れないが、世の中に白黒付けようとする圧のタイプは同型で、潜んでいる白い嘘のようなものを感じてしまい手放しでは面白がれない。
岸本佐知子の翻訳するものは基本的に全て面白く読むのだけれど、ソーンダーズだけはどうもしっくりこない。
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たぶん本としては初めて読む作家なのだけれど、この作家のこの短編集、全米でベストセラーだったらしい。
また文体も学生たちがたくさん真似するような人らしい。
ということは本を読んだ後、あとがきで翻訳者の岸本佐知子さんが書かれていたから知ったこと。
これがベストセラーになったんや〜という率直な感想。
変わってます。かなり。
特別な刑務所に入っていて、感情に効くいろんな薬を注入されて、(恋愛感情とか操作される)人体実験される男の話 とか、
ある未来の大金持ちは庭に〇〇を並べて吊るして飾っているんだけど、その〇〇の実態が明らかにされると…恐ろしすぎる事だったり
戦争から帰ってきて、精神的にちょっとおかしくなってしまった男の実家を訪ねる話とか…
変な話
と思って読んでいたら、表題作のラストが泣かせる…
もちろん入り方は普通じゃなくて、
男の子(たぶんいじめられっ子)が独り言を言いながら森に入っていく。色んな人と頭の中で会話しながら。
それと並行してガリガリの男が森の中に入っていく。こちらは着てたコートを脱ぎ捨て、このまま病気が悪くなる前に…という悩み事を頭の中で繰り返しながら。
そして起こる出来事は
この作家の作品では、今まであまり無かったらしい最後の救いがある。そこが最初の頭の中の支離滅裂な話からどんどんリアルになっていって結ばれる。あーいい本読んだな〜って気持ちになるラストでした。
この本のタイトル「十二月の十日」、これを書くまで「十二月十日」と思ってました…
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全く合わなかった。面白いかどうか評価できるほど読めていない。最初の数ページて読む気が失せた。生理的に合わないというやつでしょうか。
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これはまたいろんな意味ですごいな。
SF設定がくそみたいだけど、それが現代社会を痛烈に風刺するためのものだとわかるとほええええええと感嘆してしまうし、とくにセンプリカ・ガール日記はすごかった。
SGってなに?と思ったけどそれがなにかわかると背筋凍るしすごい嫌悪感。でもこれも移民への扱いを皮肉ってるのよね…
物語をこういうふうにかいて、こういう目的で『力』とするのは日本にはなかなかない感覚でおもしろかった。
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短編集10篇
どの作品も現実離れし妄想や想像の明後日のところに物語世界が広がっている。「センブリカガール日記」のSGの気持ち悪さ、「訓告」の6号室など意味不明存在など理解を超えるようなことが当たり前のようにある。
内容は悲惨ながら最後は少しホッとした「スパイダーヘッドからの逃走」が良かった。表題作も結果オーライ的な意味で好きです。
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なんだか、じわじわと考えさせられるというか、ああこのあとどうなったのかな、どういうことかな、やっぱりこういうことなのかな、彼は彼女はどんな気持ちだったのかな、と読後、ぼーっと考えてしまう。
うまく説明できないけど、どこかにいそうな人たちで、だからこそ、ずっと光の届く水中なのに、決して水面に上がれないような、そんな息苦しさもあった。気がする。
わたしはちゃんとこの物語たちを理解できてるのかな。そんなことを考えながらぼーっと、物語について、人について考えてしまう。
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ダメ人間たちの短編集
翻訳とは思えない読みやすさでした。
どれも好きですが、スパイダーヘッドが特に好きです。
段々薬がきれていく感じの表現を英語から日本語にする技術が素晴らしいです。
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翻訳がキレッキレ。原作を読んだわけではないけれど、それでも原作の軽妙さや言葉遊び的な部分を損なわずに伝えてくれていると感じた。翻訳物は得意ではないけれど、あまり抵抗なく読めた、というより没入して読んだ。
翻訳物はほとんど読まないので、著者の本は今作が初めてだった。風刺の利いた独特な設定は、訳者解説によると著者の持ち味らしい。
「センプリカ・ガール日記」のSG飾りを全くのフィクションとして感じられなかった。
「スパイダーヘッドからの逃走」がわかりやすく印象的だった 。「子犬」の二人の母親も。
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アメリカ屈指の短篇小説の名手による四冊目の短篇集。作者は「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」だそうな。この「若者に」というのが曲者で、一例を挙げれば、良識ある親なら子どもの目に触れさせたくないだろう言葉が、次から次へとポンポン繰り出される。ただ、使われ方に必然性があり、難癖をつけづらい。逆に、過剰なレトリックを駆使した華麗な文体模倣(「スパイダー・ヘッドからの逃走」「わが騎士道、轟沈せり」)もあって、作家志望の若者が真似したくなるのも分かる気がする。
「登場する人物は、ほぼ全員がダメな人たちだ。貧乏だったり、頭が悪かったり、変だったり、劣悪な環境下で暮らしていたり、さまざまな理由でダメでポンコツな人物たちが、物語を通じてますますダメになっていく」と、訳者あとがきにある。しかも彼らが住む世界では資本主義が暴力的なマシンと化し、人々を押しつぶしにかかる(「ホーム」)。人々はそこで、人間の尊厳を奪われ、とんでもなくひどい扱いを受けることになる。
一種のディストピア小説(「センブリカ・ガール日記」)なのだが、ソーンダーズには絶妙なギャグのセンスが備わっていて、言語を絶する状況下にある人物の苦境を追体験しながらも、ついつい笑いが止められない。脳内で暴走する妄想の数々や、どこから思いつくのか分からない突拍子もない商品名、それやこれやにニヤつきながら、地獄の底でのたうち回るダメ人間たちに送っても仕方のないエールを送る羽目になる。絶望的な話が多いが、作家の心境の変化によるのか、意外な結末に心癒されるものがあるのも確かだ。
人には人生のどこかで決断を迫られる時がある。そのとき、他人のために自分を捨てられるか、というテーマが何度も出てくる。隣家で少女が拉致されかけていたら人は何らかの行動を起こす。だが、親の躾けで自由な行動を禁じられている少年の場合はどうか。ナイフを持った男に飛びかかれば返り討ちになる危険がある。それは一人子の少年には許されないことだ。少年は事態の推移を想像し、彼我の成り行きを天秤にかけ、思案の果てに行動に打って出る。
ところが、少年の中に抑えつけられていた欲望が、爆発しそうなまでに膨らんでいた。自分を縛っていたものから解放されたことで暴走した欲望が過剰防衛の形をとって人を殺しかける。突然の危機が引き金となり暴発するのを自分では止められない。辛くも難を逃れた少女が決断を迫られる番だ。十五歳の誕生日を前に少女は自分のことをお姫様のように感じ妄想を膨らませていた。最善だと感じていた、自分と自分を取り巻くその世界が目の前で破綻しかけている。
人の心と体は自由なように思えるが実は自由ではない。体は心に縛られているし、どう思おうが夢ひとつままにならない。巻頭に置かれた「ビクトリー・ラン」は、自己が確立していない思春期の少年少女を襲う青天の霹靂を描いている。重い荷を引き受けざるを得なかった二人は結果的に新しい自分というものを背負い込む。自分の中に潜む暴力性や世界の持つ荒々しい手触りといったものを。しかし、それもまた、一つの成長の徴なのかもしれない。
掉尾を飾るのが表題作。妄想癖のあるいじめられっ子と、脳の中で進行する病のせいで家族に厄介をかけることを怖れる中年男の物語。二人が出会うのは冬の寒さに凍った湖だ。パジャマの上に羽織ったコートをベンチに置き、男は痩せた体を寒気に曝し、凍死しようと丘を上る。自殺では保険金が下りないのだ。脳内で地底人との戦いに躍起になっていた少年が対岸からそれを見て、助けようと凍った水面を突っ切ろうとする。ところが、案の定、氷が割れ水中に落ちる。丘の上からそれを見た男は、少年を助けようと氷の上に向かう。
「ビクトリー・ラン」と同じように二人の人物の脳内の妄想が同時進行でかわるがわる語られる。少年のそれは地底人と戦い、麗しの転校生の愛を射止める、いじめられっ子の日常から逃避するための昔ながらのおとぎ話だ。中年男のそれは自分の過去の回想と、脳内で勝手に聞こえる父親とその友人の話し声。男には継父がいた。素晴らしい父親だったが、脳内にできたものが大きくなるに従い、汚い言葉を吐き、家族に手を挙げるようになった。男は自分も同じ運命をなぞることを怖れている。だから死に急ぐのだ。
普遍的なテーマである「死と再生」の物語のスラップスティック版だ。水に落ちた少年が凍死するのを防ごうと、男は身に着けていたなけなしのパジャマとブーツを気絶している少年に着せる。そして、少年を支えながら歩き出す。途中で気がついた少年は走って逃げだす。パンツ一丁で寒さに凍える老人を見捨てて。死にかけているものが若い命を救うことで、命の尊さ、生きる喜びを再発見する。「生老病死」からは誰も逃れられない。惨めな最期をどう生きるかのシミュレーションとして滋味あふれる小品である。
短篇集は評価するのが難しい。内容にばらつきがあり、好みが分かれることもある。上に紹介した二篇は只々評者の個人的な好みで選んだ。文中に書名をあげた六篇の他に「棒切れ」「子犬」「訓告」「アル・ルーステン」の四篇を含む全十篇。ジョージ・ソーンダーズの独特の世界を味わうに充分な粒よりの短篇集である。原文のはじけっぷりを見事な日本語に移し替えた岸本佐知子の訳業にも触れなければならない。原文と読み比べてみたいものだ。
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岸本佐知子さんの翻訳なので手にとりました。
どのように評価すればよいのだろう……
貧乏や精神に異常を持った人、病気の人など世の中の底辺にいる人々が主人公。
ちょっと……て思うほどの下品な言葉を使うんだけれど
でも、この小説の場合はそれが適切な表現で他の言葉に置き換えられない。
重くのしかかってくる、どうしてこんなこと思いつくのかしらと思うストーリーだけれど
それぞれの主人公に少し心を寄せると不思議と理解できて
彼らの言葉や行動のなかの真実や愛やまっとうさに突き当たる。
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アメトーークで紹介されていた1冊。
Aマッソの加納さん推薦。
翻訳は独特の言い回しで読むのにすごく時間がかかることがおおいんだけど、
これは「え?翻訳物?」って思うくらいするりと入ってきた。
聞いていた通り、翻訳家の岸本佐知子さんの手腕によるものなのだろう。
表題作の「十二月の十日」にいたっては、翻訳前はどうなっているのか気になるくらい、日本語の作品に感じられた。
世界観は理解し難いものも結構あったけど
翻訳ものが翻訳ものと感じない初めての体験ができた。
岸本佐知子さんの作品他にも読んでみたくなった。