紙の本
「真実を残す」という勝利
2020/02/17 09:32
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナチスドイツにまつわる話や、ホロコーストの本は、いろいろあるけど、
この本は、ポーランド。
分割されたとか、ドイツに侵略されたとか、
おぼろげで断片的な知識はあっても、具体的なイメージは出来ない国。
それが、実は日本との絆があった。
国家と民族の運命という大きなものを、
一人の青年の目から見ると、
味気ない歴史でなく、熱くて切ない物語になる。
戦争の醜さ恐ろしさ、非人間性が詳細に描かれ、
知らずにすませてはいけない世界が見えてくる。
大きな流れの中では無力な人間も、「真実を残す」という勝利なら得られる。
あとに続く者は、残された真実をしっかり受け止めて、生かさなければ。
紙の本
須賀しのぶの圧巻の歴史小説。
2020/04/26 06:44
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:啄木鳥 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ大学でドイツ近現代史を専攻したものの、優生学の思想史、科学史的なものをやっていたので、第二次世界大戦の欧州における戦争そのものについての知識がなさすぎる自分にあきれ情けなく思った。また日波関係についても無知だった。参考文献の量と質たるや凄まじい。そして紡ぎ出された物語のリアリティといったら。作者はその場にいて見てきたかごとく、時代を活写し、登場人物の心情を、葛藤を緻密に描く。白系ロシアの血を引く慎がなぜポーランドに惹かれたのか、そこで見たもの、出会った人とは。マジェナの手紙にあった、外交とは人を信じることから始まる、という慎の言葉の意味を噛みしめる。途中何度もこみ上げてくるものがあり目が潤んだ。我々は日本を師としてきた、というイエジの言葉が胸に刺さる。日本は正しい道には戻らなかったが、慎だけは日本人としてポーランドと最後まで共にあった。ショパンの革命のエチュードが読んでいる間絶えず頭の中に響いていた。
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感動の長編
2020/12/30 22:50
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ポーランドが好きだ。不思議とポーランド人で嫌な人に遭ったことがない(いや,はじめてワルシャワに行ったときのタクシーの運転手は嫌いだ。しかし日本でタクシーに乗って不愉快でない思いをしたことは一度もないから日本よりもまし)。
さて,本書だが美しくも悲しい話だ。ポーランドというかポーランド人の苦悩と悲劇を余すところなく描いている。高校生直木賞になったのもうなずけるし,直木賞を逃したのもうなずける。左翼マスコミに媚びを売らなければならない文壇としては,国のために殉じる人々は鬱陶しいだけだろうし,ソ連を美化しないで日本を美化しているところも気に食わないのであろう。純粋な高校生が選んでくれたことがなによりも嬉しい。そして時代背景や史実の検証も性格だ。須賀しのぶ,これからも楽しみな偉大な作家だ。
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読みながら、『シンドラーのリスト』を思い出し、読書後、本棚から、V.E.フランクル『夜と霧』を取り出していました。
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『革命前夜』のあまりの面白さに興味を持ち、本作をセレクト。
本作の舞台は1938年、第二次世界大戦勃発間際のポーランドの外務書記生であり、戦争を避けようと様々な努力を行うものの、その努力も空しくナチスドイツによるポーランド侵攻、そして母国である日本も開戦に向かっていく・・・。
我々はポーランドという国が第二次世界大戦によってどのように蹂躙されたのかということを、知識としては把握している。しかし、知識として単に知っていることと、その内実がどのようなものであったかを把握することは、全く異なる。本書は、著者自らが実体験したわけではないにも関わらず、その見事な筆跡によって、当時のポーランドが置かれた悲劇を追体験することができる。そして物語としても一級に面白い。
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この小説を読み終えたときに、浮かんできた光景があります。ラストシーンの後、主人公の実家の庭に植えられるであろう桜の樹。
それが満開の花を咲かせ、それを感慨深そうに見る登場人物たちの姿です。そのシーンを思い浮かべるだけで、胸がいっぱいになるような気がします。
舞台は第二次世界大戦間近のポーランド。日本人とロシア人のハーフである外交官の棚倉慎。彼はドイツとポーランドの戦争回避のため、様々な機関や組織に働きかけるのですが……
ポーランドという国。自分の場合は国名や占領されたり独立したりといった歴史的なことを、なんとなくは知っている程度。しかしこの本の著者の須賀しのぶさんは、歴史的な側面はもちろんのこと、その歴史ゆえの国のアイデンティティも描きます。
歴史的な側面からは日本とポーランドの関係性に感嘆し、国としてのアイデンティティの描き方に、大国に振り回されつつも自国の誇りを捨てない国の強さが見えてくる。
小説なので美化されてるところもあるとは思いますが、それでもこの一冊だけでポーランドという国が好きになってくる自分がいます。
慎たち外交官の努力も空しく、徐々に迫ってくるナチスドイツの影。それはポーランドという国の自由や尊厳も奪います。
ポーランドはユダヤ系の人が多く住んでいて、また差別も格段目立つものはなかったらしいのですが、ナチスの占領によりユダヤ系とそれ以外に明確に区別されます。それは市民の中にも徐々に影響を現し……。
ユダヤ人を助ければ自分たちにも危害が及ぶかもしれない。その思考が汚いと分かっていても、どうすることもできない人々。戦争とは個人の善意や良識も奪われることを、痛感させられる場面です。
ポーランド語の禁止、理不尽な拘束と処刑、ユダヤ人街に建設される壁、戦争が覆う影はますます濃くなり、そして日本の第二次世界大戦参戦で、慎は失意を抱えながらポーランドを去ることに……
小説を読んでいると時折、物語や登場人物たちの姿を通して、自分の中の矜持を問われているような気持ちになることがあります。この小説もまさにそんな小説で、後半の慎たち登場人物の選択は、心を揺さぶられるだけでなく、自分の中の矜持や正義はなんなのかと呼びかけられるような、そんな気持ちになるのです。
日本人とロシア人のハーフとして、ずっと自身のアイデンティティに悩んできた慎。そんな彼が紛れもない日本人でいれた土地は、皮肉にも日本ではない異国の土地での、異国の人々の信頼によるものでした。
そんな微妙な感情を、丁寧に丁寧に少しずつ物語に織り交ぜ、彼の決断のシーンで一気に描きこむ。この決断のシーンの熱さは、言葉では言い尽くせません。
そして物語はクライマックスへ。手に汗握るような迫真の展開が続き、誇りを背負い、そして未来へ希望と物語を繋ごうとする人々の姿にまた胸が熱くなり、そして迎える結末。
日本人とロシア人のハーフのため、子どもの頃から自身が何者か悩んできた慎、世界から迫害され続けるユダヤ人。占領で故国の実感を持てないポーランド人。彼らの心のどこかにある大き���空白。
そして戦争や差別、国や外交、軍など強大な力が、良識や善意でのつながりすらも許さない中、人は最後に何を拠り所として行動するのか。その答えの一端を熱く熱く描き切ったのが、この小説だと思います。
国家観、歴史観、戦争観、アイデンティティ、そうした大きなテーマを全て組み込み生まれた物語。不穏さを増す現在の世界ですが、いつか平和の桜が世界中に咲き誇ることを、そして登場人物たちの願いと想いがカタチになることを、祈らずにはいられなくなる一冊でした。
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ポーランドと日本にそんな繋がりがあったなんて全く知らなかったので驚いた。ポーランドの歴史も実は全く知らなかったことを知った。知らないことが多すぎてそれに驚いてるうちに読み終わってしまった。。。いや、とても面白かったんです
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ポーランド 、ワルシャワ蜂起をテーマにしている、と聞いて購入。
ポーランド、ゲットー蜂起、ワルシャワ蜂起という日本でメジャーとはいえない国とその歴史を扱っていて、情報量も多く、重厚な一冊。ポーランドといえば、日本ではドイツに侵攻されたというイメージが強いけど、ポーランド人とユダヤ人の微妙な関係に触れているのも、日本の小説では新しいのかもしれない。特に、ポーランド侵攻後からゲットーができるまでのワルシャワ内の人々の描写は、「確かに、そんな感じだったのかも…」と、発見があった。
ただ、登場人物の設定がなんだか軽い。これはライトノベルだったっけか?と感じてしまった。重厚なテーマを扱い、そしてところどころ実在の人物を混ぜているから、余計にそんな登場人物たちにちぐはぐ感を感じたし、彼らの関係性、行動、そして信念というか、行動倫理的なものも、え?あぁ…んん?!なぜ?と理解しようと思っても理解できず、後半は読むのが辛かった。
ポーランドという国やワルシャワ蜂起について知る良いきっかけを提供してくれる本だと思う。高校生直木賞受賞作品だそうだが、たしかに高校生には良い小説。だが、骨太な歴史小説を期待して読んでしまうと、うーん…となってしまうかも。
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今まで知らなかったポーランドについてとても興味を持った
久しぶりに読み終わった後「良い本に出会ったなあ」と思った本
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最後、涙が止まらなかった。
恥ずかしながら、ポーランドの歴史をほとんど知らなかった。 この本に出会って、ナチスから凄惨な侵略を受け、兵士、民間人を問わず、何十万という人々が犠牲になり、ワルシャワは街ごと全て焼きつくされた事実を初めて知り、衝撃を受けた。
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「外交の基本は、信頼である。国と国といえでも人と人であり、人間関係の信頼によって成り立つのと同じだ。だから我々は、常に信頼に足る人物でなければならない」(P59)
第2次大戦時のワルシャワ、ポーランドを舞台とした小説。
主人公は若き日本人外務書記生。彼は上記のその言葉通りに生き抜いた。
著者の筆致に引き込まれ、1日どっぷりとこの本を読んだ。
主人公の思い、理想は分かる。でも、自分の命を危険に曝してまでしなくてもいいのではないかと、後半思うこともあった。
でも、信念に生きるとは、それほど厳しいものなのだ。だから、常に信頼に足る人物となり得る。
感動の1冊。
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日本人にほとんど縁のないポーランド、ワルシャワ蜂起の物語。
分厚い本でしたが一気に読めました。
革命前夜の方が良かったので★4つ。
ですが、こちらもなかなかいいです。
この本のBGMはショパンの革命のエチュードですね。
今度ヨーロッパに行ったときにはポーランドに足を延ばしてみたい、と思いました。
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第二次大戦下、周辺国に翻弄されるポーランドの様子が日本人外務書記生の視点で描かれる。
停滞を許さない展開の早さは、作中何度も出てくる『革命のエチュード』の旋律そのもの。
激しい旋律に転がされるような読み味。
「ポーランドから見る世界は、過酷かもしれないがきっと美しい。」
主人公・慎の父の言葉は、最初こそ諦念を感じるような印象だったけれど、第7章に至り慎がその言葉を思い出す場面では想像を絶する過酷さが存在し、そして美化していいものではないと思ったが、たしかに美しかった。
慎、ヤン、レイの3人が交わす約束のシーンは、それまで積み重ねたそれぞれのアイデンティティの揺らぎや同じ場に至った数奇さも相まって、とても美しかった。
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2020年10月17日読了。
須賀しのぶ、二作目。
「革命前夜」が秀逸だったので、本屋で見つけ迷わず購入。
舞台は1938年のポーランド、ワルシャワ。
外交官書紀生の棚倉慎はミュンヘン合意直後、戦争が回避されたと思われていたポーランドの地を踏む。
棚倉は日本人だが、ロシア人と日本人のため見た目にはスラブ民族に見える。
ご存知の通り、翌年には第二次世界大戦が勃発、9月にドイツ軍がポーランドを侵攻し、ワルシャワは戦場となる。
今まで同胞だったのが、ユダヤ人というだけで差別される日が始まり、ポーランドが思想的に分断されていく。
外国人の顔をした日本人、ユダヤ系ポーランド人のヤン、極東青年会で後にポーランドレジスタンスのリーダーとなるイエジ、アメリカ人の新聞記者レイ、日本大使館職員のマジェナ、それぞれが戦争で翻弄されていく。
須賀しのぶは「革命前夜」でもそうだったのだが、その場にいれるわけがないにも関わらず、まさにその場を取材してきたかのような描写ができる。
歴史に埋もれた「ワルシャワ蜂起」、ドイツ軍侵攻時のワルシャワやポーランドの様子など手に取るようにわかる。
ユダヤ人の惨劇も同じようにわかってしまうので胸が痛む。
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ポーランドといえばショパン。数多あるピアノ名曲の中でも英雄ポロネーズは激情的なメロディが溢れる。戦火迫るワルシャワでこの曲がラジオから聴こえてくる光景は美しいのではなく、厳しい過酷なものでしかなかったのだろう。この時代に日本人にどのような関わりがあったのか。フィクションながらその時代を少しだけでも見ることができたのかもしれない。圧倒的な構成力による感動大作と思う。