紙の本
コンパクトかつ高度
2021/12/06 00:57
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:健 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最新の研究成果をコンパクトかつ高度にまとめていて、本当によくできた概説書だと思います。著者は遼金やモンゴル時代の歴史を漢文史料を中心に専攻していて、そうした成果も取り込まれています。
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歴史に興味ある人が現在の到達点をさらいたい時に読むと良い作品
2020/05/19 15:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この四半世紀の日本を中心に進んだ研究を網羅した決定版の趣がある。そしてついに「征服王朝」というタームが消えた。日本史だけでの理解はありえない。中国はもとより半島との関わりを考えないと、列島の歴史を動かす要因は見えてこない。もっといえばヨーロッパまで横断可能は機動力と戦闘力を持つ草原の騎馬民族の興亡史が背景にない各国史は意味なくなるかも。徹底的に中国史を「草原から」描くというのがこの本の狙いか。唐を拓跋政権としたり、宋を沙陀系王朝の系譜に繋げたりとかなり強い言葉を使っているが、それくらいのインパクトが必要ということか。北魏や突厥、契丹、金に大きく紙面をさき、普通中国史では宋がメインで「その他諸々」になってしまうところを、宋代をユーラシア東方の「他国体制」として周辺の国家の存在を宋と「同等に」扱う概念など、「中国史」とされてきた考え方を打ち破るインパクトが感じられる。
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世界史的意味
2020/03/22 10:52
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国史における元の時代は、世界史的に見てとくにユーラシア大陸ではジンギス汗以来大転換期の時代である。それを踏まえての中国史である。つまり、中国史という縦軸とユーラシア・大モンゴルという横軸をどのように交差させるかが重要です。本書は、とくに東アジアについてその視点を踏まえて説明がされていて、入門書として良いと思います。
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岩波新書のシリーズ中国の歴史第3巻は「ユーラシア東方史」という枠組みでの歴史叙述であり、これまでになかった「中国史」の大胆な読み替えが示される。何しろ第1章から「拓跋(タブガチ)とテュルク」である。北斉、北周、隋、唐は遊牧国家である拓跋国家の系譜に連なると! 隋や唐までも!
そして、第2章は「契丹と沙陀」。契丹は聞いたことあるが、沙陀なんてまったく知らなかったが、唐が滅びたあとの「五代」のうち後唐以後後漢まで連なるテュルク系武人の王朝で、さらにその後の後周、北宋も沙陀連合体(遊牧部族)に属した漢人武人王朝と見做すことができると説明される。
今までの常識だと中原の文明化された漢民族vs.北方の野蛮な遊牧民という図式の中でこの時代は捉えられてきたように思うが、なぜこのような読み替えがなされうるかと言えば、それぞれの王朝が「遊牧と農耕」の境界地帯を基礎としていたからだというのが本書の肝の一つである。大まかな見取り図は第1章で示されているが、この辺まで読んで第1章に戻るとわかりやすい(と個人的には思う)。
第3章「澶淵の盟と多国体制」では世界史の受験知識でも重要な「澶淵の盟」が出て来てホッとするが、その意味づけ、解釈はまったく異なっていた。当然、次の第4章の「金(女真)の覇権」も受験知識的理解ではおよばない深さと広がりがある。ある意味、第5章の「大モンゴルと中国」でのモンゴル帝国の出現が必然と思えてくるそれまでの遊牧国家の発展が詳述された本書は、現代の中国を考え直すための必読の書であろう。
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学生時代に触れた中国の歴史では、遊牧民の台頭はどこか傍流のような扱いだったと記憶している。
しかし本書ではその印象が覆された。
騎馬を中心とした機動力ある軍事のみならず、支配側の風習などを保護する必ずしも強権ではない統治。
東ユーラシアを覆うほどに版図を拡大したのもむべなるかな、と思わせられる。
そしてそのように隆盛を極めていても、内紛は抑えられない。これは人類の性か。
私のように、「元寇」でしかモンゴル王朝を知らない人間ほど読み応えのある一冊だ。
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ユーラシアの東側、すなわちモンゴル高原~東トルキスタン・チベット~華北・江南~インドシナ半島をひとつの地域概念として設定し、その視点で中国の歴史が再構築されます。それは中国文明を中心とした視点というよりは、広くユーラシアの一部として中国を見つめるものです。北(遊牧王朝)と南(中国王朝)は常に対峙していましたが、中国王朝の統治体制を取り込んだ遊牧王朝が中国の一部または全体を支配したことから(たとえば鮮卑拓跋部の北魏~隋・唐、沙陀の五代~北宋)、南北の「対峙と混淆」が中国を形成したといえます。
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遊牧民族と華北との関係を、北魏からモンゴル帝国までの期間で俯瞰する。華北は多国体制と統一国家を繰り返してるけど、遊牧民族国家は部族単位での興亡が続く。
武力を誇る遊牧民族と、生産力・統治能力に優れた中国とのせめぎ合いだったわけだ。
遊牧民族は環境の変動にあわせて移動する。匈奴が華北に侵攻したのも寒冷化が進んだからだそうだが、遊牧民族でなくても、環境の影響を受けない人間はいない。ちゃんと考えなくちゃね。
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文明の中華に野蛮の遊牧民とを対比させる中華主義的歴史観こそなくなったものの、遊牧集団があまり文字史料を残さなかったため、どうしても周縁的存在とみなされがちであった。それが近年は、対立のみではなく、経済的交流や相互影響関係があったことが解き明かされてきた。
本書も、そうした潮流の中で、ユーラシア東方史という枠組設定の元、遊牧民及び遊牧国家の動向とその中国とのかかわりを描いたものである。
地理的に重要となるのは、モンゴル高原の南側と華北の北側とにまたがる農耕・遊牧境界地帯で、遊牧民の生活に適した草原と農耕民の生活に適した可耕地とが入り組んで存在していた。
生態史観ではないが、環境によって生活様式が決まってくる場合も当然ある訳で、実際、遊牧国家の武力は騎馬軍団によって支えられていたのであるが、良馬の産地は限られていたのである。
このゆるやかに開かれたユーラシア東方との地域概念を用いることにより、中央ユーラシアの騎馬遊牧民の集団・王朝と中国王朝の双方の歴史的展開、あるいはその相互の対立・交流・融合、遊牧王朝による中国統合・支配、中国本土に拠点を置く王朝の中央ユーラシア進出といった多様な関係性をあわせて見通すことが可能になる、と著者は言う。
各論として、北魏の華北統一、北魏分裂以降の拓跋国家の推移、隋・唐と対峙した突厥、ウィグルの動向、契丹と沙陀系王朝、契丹と宋(北宋)との「澶淵体制」、金と南宋との対峙、そして大モンゴルの統一へと、順次紹介されていく。また、あまり多くは取り上げられないチベットや西夏についても、他の国家との関係に重点を置いて説明がされており、細かな史実はともかく、多国間関係を大掴みに理解できるようになっている。
相互関係の理解に資するよう、適当なところに地図が掲載されているが、中央ユーラシアは広大である。少し詳し目の地図を手元に置きながら読むことをお薦めする。
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シリーズ中国の歴史の第3巻。第2巻での江南の歴史の叙述から一転、ユーラシア大陸中央部における雄大な騎馬民族興亡史が描かれる。多様な部族の興亡の中から大モンゴルが誕生し、ユーラシア全体を制覇する様はまさに圧巻。中国の何たるかを知ろうとするには、多元多様、俯瞰的な視点が必要であるとの本シリーズの趣旨に深くうなずく。
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シリーズ第三巻。この巻でも従来の中国史の枠組みを排し「東方ユーラシア」という視点でその歴史を追う。従前、周縁として扱われた騎馬遊牧民が、騎兵という前近代においては非常に強力な軍事的優位を保持し、大きな役割を果たしたことが分かる。隋・唐を含む「拓跋(タブガチ)国家」、五代から北宋に至る「沙陀系王朝」、「澶淵体制」を画期とした多国体制、モンゴルによる契丹の制度の承継など近年の学説がコンパクトにまとまっている。現代中国を知るという点では元による統合が中華人民共和国による統合にまでつながっているという示唆も重要。
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本シリーズの第2巻(江南の発展)は、漢詩や書、水滸伝などで知った名前が多くでてきて、読んでいてパズルのピースがはまるような感じがあった。一方、こちら第3巻は馴染みのない人名、地名がぞくぞくと登場。各地で王朝の興亡も激しくて、何が何の話だったか脈絡を見失いがち。他の方も書かれていたが、詳しい地図の一つでも手元にあればいくらか読みやすいかも(私は手頃なのを見つけられず)。
読むのにすこし苦労はしたが、隋も唐も遊牧民系の政権だよなんて話は、まさに「へえ」と思わされるもので、今までにない視点を教えてもらった気がする。
精強な軍事力を背景に中国の歴史に深く関わり、ひいては元という空前絶後の大国家を打ち立てた中央ユーラシアの遊牧民だが、近代になってその後裔はすっかり中国・ロシアの辺縁に後退してしまった感がある。本書でもウイグルの名は何度も登場しており、現代のウイグル情勢についても考えてしまう。
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岩波新書のシリーズ中国の歴史の第3巻で、北方草原地帯の遊牧民に焦点を当て、ユーラシア東方史という枠組みで中国史を捉え直している。時代としては、大体、五胡十六国時代から大元ウルスの時代までを扱っている。
従来の中国王朝交代史では周辺扱いされがちだった草原地帯の遊牧国家(契丹、金など)を中心に据えたダイナミックな興亡史で面白かった。本書で扱われている時代についていえば、いわゆる中華王朝よりも草原地帯の遊牧国家こそが時代の主役だったということがよくわかった。
拓跋国家、沙陀系王朝、澶淵体制といった概念は、本書で初めて知り興味深かく思った。特に、唐朝が、拓跋国家としてまさしく遊牧国家と位置付けられる存在だったというのは目から鱗だった。
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従来ではモンゴルが中心になるであろうこの巻で、契丹に詳しく書かれている点は新しい。かつては北宋との関わりで文化的に発展したと言われていた契丹であったが、早い段階で遊牧民ながら都城を造るなど新たな発見により大きく印象を変えている。そんな彼らが北宋と結んだ澶淵の盟は後の国家にも大きな影響を与えている。また、沙陀系王朝についても詳しく書かれていて学ぶところが多かった。
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大元ウルスが物凄くて、これ以外の歴史の出来事がどれも小さく見えてくる。
特に面白かったのは安禄山の話。通訳から頭角を表して強大な軍閥を築き上げ、そして楊貴妃の養子になる。めちゃくちゃ興味を惹かれた。