紙の本
日本文化の研究で知られるアメリカの文化人類学者ベネディクト氏のロングセラー書です。
2021/03/01 12:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、アメリカの文化人類学者で、第二次世界大戦中にはアメリカ政府の戦時情報局に勤務し、日本文化についての研究を深め、『文化の型』や『菊と刀―日本文化の型』などの著作で知られるベネディクト氏の作品です。同書は、もともとは1940年に発表されたものですが、今もロングセラーとなっている 『RACE AND RACISM』の新訳版です。ヨーロッパでナチスが台頭し、ファシズムが世界に吹き荒れる中で、「人種とは何か」、「レイシズム(人種主義)には根拠はあるのか」と鋭く問いかけ、その迷妄を明らかにしていきます。白人、黒人、黄色人種といった「人種」にとどまらず、国家や言語、宗教など、出生地や遺伝、さらに文化による「人間のまとまり」にも優劣があるかのように宣伝するレイシストたちの言説を、一つ一つ論破してみせる同書は、70年以上を経た現在の私たちへの警鐘にもなっています。ぜひ、この機会に同書をじっくりと読んでみられては如何でしょうか。
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この伝染病に終止符を打つにはどうしたらいいのか
2020/08/27 16:58
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
米国で黒人男性が暴行され死亡した事件に端を発した人種差別への抗議行動が世界各地に広がっている。日本でも大規模なデモが行われ、外国にルーツのある著名人らも相次いで発信した。人種差別とは何か、どうすればなくなるのか。日本文化論の古典「菊と刀」で知られる米国の文化人類学者、ルース・ベネディクトは80年前、この問いに向き合い、「RACE AND RACISM」を発表した。世界に広がった「レイシズム」という「伝染病」とたたかう人類学者。人種概念に科学的根拠が無いものであることが示されて久しいが、未だに社会に影響を及ぼしている言説を捉える書籍。現在にも通じる重い警告が詰まっている。日本で人種差別に苦しむ人がいることにも目を向けるべきだ。
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レイシズムは何故起こるのか
2020/04/11 11:44
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、レイシズムについての歴史概観によって、なぜどのような原因でレイシズム(人種差別)が起こるのかを示してくれる一冊である。レイシズムは、特定の集団の利益(物質的、経済的、精神的など)を確保知るための行動とも言える。しかし、それが、その集団を含めた利益を本当に確保できるのだろうか。そういったことを、考えさせてくれる。
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レイシズムは科学ではなく政治によって作られ、利用される。一部の人間の利益のために憎悪が利用される。
言い方を変えると、レイシズムを唱える者たちはあらゆる科学に対して背を向けている。
文明や文化の発展が行われるためには、多彩な人種や文化が混ざり合う事が重要なのにもかかわらず、彼らは単一種族や文化でありつづけることが自分たちの生存に重要だと言い張る。
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ルースベネディクトを読んでみようと思い購入。レイシズム(身体的特徴に基づいた人種主義)には科学的根拠がないという主張。学者の割にやや情緒的でレイシズムはダメという結論ありきの印象。人種差は個人差に埋もれるとか、純粋な人種など無いというのは科学としてわかるが、優劣の有無は科学の領分では無いように思った。知能テストで先天的な人種差を測定できなかった話はおもしろかった。
最終章の「どうすれば人種差別はなくなるだろうか?」での主張は、人種主義は弱者迫害の口実に過ぎない、迫害を無くすには教育や啓蒙だけではダメで国家レベルの社会改良が必要、というもの。確かに人種差別だけ見ていてもだめだと勉強になった。ナチス時代にあった昔の話で終わらせず、現代の差別も同様の視点で見ることができそう。
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文化人類学者であるルース・ベネディクトが著した菊と刀に並ぶ代表作。
その表題の通り、人種差別に対して社会人類学者として確固たる証拠を突きつけながら明確なNOを突きつけている。
著作が書かれたのは1942年のナチスドイツが勢力拡大している最中であり、ナチスドイツが掲げる人種差別政策への批判を念頭に書かれたように見える。
ただ、話題はナチスドイツだけにとどまらず、白人の有色人種に対する差別にも踏み込み、こちらにもNOを突きつけている。
中には社会に阿るために差別を助長する学者もいる中で、白人である彼女が既得権益を捨ててNOというのはとても勇気ある行動だし、人として素晴らしい人物だったのだろうと思う。
以下はいいなと思ったところ
・レイシストに特徴的なのは、自分たちの主張を根拠づけるために絶えず歴史を書き換えるところである。
・子供が大人を手本として一から学び取っていくものだけを文化という
・歴史の教える通り、条件さえそろえばどんな民族であっても時には冒険者、時には侵略者となりうる
・衣食住が満たされれば、人間は自分が所属する社会が推奨している形で尊敬を獲得しようとする。
・本質においてレイシズムは「ぼく」が最優秀民族の一員であると主張する大言壮語である。
・私たちが傲慢無知であったり、恐怖に煽られて平常心を失う時、わかりやすくて耳に心地よい物語がそっと忍び寄る
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人種というのがそもそもはっきりしない区分けであり、人種間の優劣というのも科学的に否定されている、という説は、一般的にそう言われてますね、はい、という感じ。(ちなみに何と言われようと私は遺伝的な得意不得意はあると思っている…。一部の黒人は遺伝的に陸上が得意な人が多い。同じ理由で例えば数的処理能力は?音楽的能力は?ある特定の集団の中で、得意な人が多い少ないがあってもおかしくない。それぞれの能力の間に優劣はない=人種の優劣はない、とは思うが。)ただ、すべてのレイシズムは政治利用のために作り出された、という説は新説で面白かった。言われてみるとそんな気がする。
(以下レイシズムの政治利用に関するただのメモ)
ただ現在のレイシズムの政治利用はもっと巧妙になっていると思う。例えば米国における大学入試。普通に試験をすると難関校定員の80,90%はアジア人になってしまう。そこで、黒人、ヒスパニックが社会の下層から抜け出すために積極的格差是正をしなければならないという理屈を適用し、人種別の合格枠を決める。誰が一番得をするか。60%の枠を確保できる白人である。白人は黒人差別を利用して(特に脅威を感じている中国人に対して)有利な地位を作り出しているのでは?ひねくれすぎかしら。
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ルーズ・ベネディクトと言われると、『菊と刀』が思い浮かぶ。
だが、この『レイシズム』も、古典でありながらも、現代に通じる、というよりも、現代で改めて考え直さなければならない一冊だった。
人種差別はよくない、ということは誰でも知っている。しかし、なぜよくないかを、「人種」で説明しようとする。例えば、肌の色だとかわかりやすい外見を使って。
しかし、目を向けるべきなのは、「人種」でなく、「差別」の方であり、人種差別とは、「外見の特徴」という、「わかりやすい基準」に目を向けた、差別なのだ。
読みながら思ったのは、こうした、差別がなぜ起こっているのか、ということをこれほどまでに詳しく、網羅的に書かれている本が、第二次世界大戦の時代に書かれていたにもかかわらず、現代でも解決されていないのはなぜかということ。
それどころか、より複雑さを増してきているようにも思える。
今まで見えてこなかった、隠されてきたものが顕在化されたり、意識化されたりしたから、かもしれないが、解決策が示されているのにも関わらず、根強く残り続けているのには、「わかりやすさ」があるように思える。
『私たちはそういうシンボリックなものに心を奪われてしまいますから、私たちが具体的な対人関係を軽視して、抽象的なことばかり考え詰めてしまうパターンはこれからも続くでしょう。でもだからこそ確固としたもの、事実といえるところにまで立ち返って、そこから話を始める必要があるのではないでしょうか。『レイシズム』は、その拠り所となる本だと思います。』(訳者あとがきより)
複雑性に耐えられなくなったとき、例えば、自分にとってわからない知識が目の前に出てきたら、「検索する」ように、「解決策を探す」のではなく、じっくりと腰を据えて考えてみる。回答を思いついても、それを保留にしておく。
「答えを出すこと」に急ぎすぎてしまった自分にとって、「寝かせる」という発想は『ネガティブ・ケイパビリティ』に通じていくような気がします。
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サンデーモーニングで紹介
社会の断絶と不寛容が深刻になりつつある現在、あらためて読みなおすべき一冊。
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時代がアメリカにおいて必要としたパンフレットという性格もあるのか、わかりやすく書かれている。レイシズムは、「弱い少数派の自分(たち)」の仲間を増やし、向こう側よりも少しでも優位に立とうとして、無理やり「差異」を言い立てて攻撃することで、不安を内在する同志たちが内なる自尊心を甘やかすというプリミティブな心情に基づくものなのだろう。藁人形論法とも共通するところがあるな。
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人種の優劣を科学的に否定。さらにレイシズムが体制側の都合の良い考えに利用され続けたこと、科学的根拠がなく、その時代、社会体制により都合よく使われてきたこと等、70年以上前に書かれたが、古臭さを感じず、将来に渡る人類への問題提起と思う。
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人種差別をしていい理由などない。科学的にも、道徳的にも。
差別をなくすには社会の不公正を解決する手立てを見つけることだと著者は言う。一人ひとりが尊厳ある生活ができるようにすることのほかに人種差別をなくす方法はないとも。
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「菊と刀」のルース・ベネディクトがレイシズム批判のこのような著書を著しているのを、他の本の解説等では紹介されていたのかもしれないが、本書により初めて認識した。人種による差別はヨーロッパ至上主義による前史はあるが、ナチズムによって絶頂に達する時期に、本書は発表されたものである。科学の外被の基にレイシズムは主張されるが、著者はその無根拠性を暴いていく。
新たな差別意識が世界に蔓延している今こそ、改めて読むべき一冊である。
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『菊と刀』の著者が第二次世界大戦のさなか執筆したもの。国家や言語、遺伝、文化に対して優劣があると喧伝するレイシストを糾弾している。俯瞰的に考えれば、純粋な人種や民族などというものは存在しないことはわかりきっており、特にヨーロッパは長い歴史の中で混血が繰り返されている。
その中でレイシズムに陥るのは自分の立場が不安定になったときだ。
「自暴自棄になったとき、私たちは誰かを攻撃することによって自分を慰める」という表現は実に的を射ていると思う。当時は政治がその心理を利用し、レイシズムを推し進めることになった。結局は差別を原動力とした国々は自壊したものの。
現代ではオリンピックなどにより、国家、民族の意識が大きくなっている。その意識が暴走した時、第二次世界大戦ほどではないがレイシズムが席巻するのではとの危惧がある。さらに、未来永劫レイシズムは根絶されないと思う。社会システムに不公正が存在する限り、敵愾心はなくならないからだ。
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レイシズムが錦の御旗にされたのは、ヨーロッパによる大航海時代からナショナリズムにかけてと説明があったと思うが、それではアジアにおける中華思想や日本国防における神風や鎖国主義は何だったのであろうか。さらに、おそらくイスラームは、コテンラジオで聞いてNETFLIXのメフメト2世のイスタンブール陥落のドラマを観たが異民族を取り込みイスラームの制度のもと寛容な社会。中世のキリスト教からルネッサンス、大航海時代という「歴史は勝者のもの」という価値観で書かれた本ではないかと感じた。もちろんレイシズムという言葉を現代社会に定着させた功績は疑う余地がなく、「菊と刀」は余りにも有名。ヒトラーのアーリア人至上主義に対する批判は、この本を記した後に同氏が米軍に徴用され日本文化に対する研究分析を担ったというような説明がしてあり納得。ユダヤ人の悲劇に対しては理解が深まった(中産階級が多く資産の没収というレイシズム以外の財政的利益の裏書もあった)。ルースベネディクトは、「甘えの構造」で土居健郎が話した時に、本人の日本文化への理解が一面的であると喝破してあり、その時の印象がこのような感想につながったかも知れない。