紙の本
過去と現在はつながっている
2021/09/26 12:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
注目作の多い中村文則。何冊も読んできたけど、いつもどんことを書いているのか、という興味から「読んだ」。本作は、違った。グイグイ引き込まれて、「読まされた」。"鈴木"の手記は、まるで息をすることさえもったいないと、いっきに読まされる筆致だった。
なぜ、過去を問うのか。過去の教訓を活かすのか、同じ過ちを繰り返すのか。同じ過ちを繰り返さないために、過去から学べ、という声が聞こえてくる。まさに、現代への警鐘。
"希望"という言葉を、斜線で消した。そこで止まった。ここに、著者の思いが込められているのだろう、と感じた。
"歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として"を引用した思いはいかに。きっと、人間を信頼したい、そんな思いも混じっているのだと思う。この続きを聞きたいと思わせる作品であった。
投稿元:
レビューを見る
いくつかの時代の、いくつかの国の、いくにんかの人々の人生が寄って撚りあって一本の綱になっている。けれどそのずっとずっと先はまたばらばらの一本ずつの糸になって分かれている。
その一本ずつは、いろんな人の罪と、いろんな人の血と寄って撚りあって、また別の綱へとつながっていく。
そんなイメージを抱えながら読んでいました。
この国が、あるいはこの世界が繰り返す過ちと罪。なぜ、私たちは何度も何度も間違えるのだろうか。
神はなぜ私たちの過ちに沈黙し続けるのか。
この、長く広く深い物語を、私はまだ抱えきれずにいる。
読み終わった後も続くこの不全感から、私はまだ逃げ続けるのだろう。
投稿元:
レビューを見る
第二次世界大戦で“熱狂”と称され伝説となったトランペットを手に入れた男の奇妙な物語
相変わらずダークで逃れようのない閉塞感に満ちているけれど、今作品には長崎の潜伏キリシタンや第二次大戦のフィリピンの惨状などの歴史が散りばめられ、一風変わって面白い
“B”という絶対悪
公正世界仮説
カルト教団
ヴェトナム人からみたヴェトナムの歴史、“鈴木”という戦場に散った楽士の物語、潜伏キリシタン…“すべての歴史とおまえはつながっている”という話には納得
実は思っているけど「〜しないし、〜しない」という文調が好き
投稿元:
レビューを見る
中村文則さんの新作は第二次世界大戦下で「悪魔の楽器」と呼ばれ、日本軍の作戦を不穏な成功に導いたとされるトランペットを手に入れた男が、それを隠して逃亡するのがベースにあり、その中でキリシタンの迫害、東南アジアでの政治、第二次世界大戦時の核戦争、愛、宗教などさまざまなことが絡んでいくスケールの大きな作品。物語を通して、現代への警鐘や暗喩が盛り込まれており、作中登場するキャラクターの中でも何を考えているのかわからない正体不明の敵キャラ「B」が味があってよかった。
投稿元:
レビューを見る
この文章力と思考は凄い。
進軍ラッパを元にこれだけの話を作り恋愛にまでたどり着かせる力は圧倒。
面白さの質が違う。エンターテインメント性に欠けるところがあるので星一つ減らしました。
投稿元:
レビューを見る
「ファナティシズム(熱狂)」を生もうとしている人は何が目的なんだろう。
それを生んで、人々を煽動することで、彼らは幸福になれるのだろうか。
自分は間違っていないと信じたい?お金がほしい?血がみたい?戦争したい?権力を持っていたい?
煽動した先に、どんなものを見ているんだろう。
それとも「ファナティシズム(熱狂)」そのものが快楽で、ここに身を浸すことそれ自体が、喜びなんだろうか。
私には一生わからない気持ちかもしれない。
でも「ファナティシズム(熱狂)」に飲まれそうになる人の気持ちは、分かる気がする。
一人は怖いし、自分を肯定し、すべてを包んでくれる仲間が欲しい気持ち。
自我が抜け落ちて、その仲間や熱狂や高揚感に浸っているだけで、努力なしに得られる喜びというのがある。
ちょっと恋愛に似ているかもな、好きな人に自分のすべてを委ねてしまって、自分を忘れた喜び。
物語をつくろうと、志している私にとって、ものすごく考えさせられることが多い本だった。
人がみたいものを与えることが、本当に正しいことなのか。
それが正しくないとしても、「本当に手渡すべき物語」を作れるほどのことが、自分にできるのか。
ぐるぐる。逡巡。
この書き手を、私は、これからもずっと信頼するだろう、中村さんが変わらない限り。
今の日本に、こんな書き手がいてくれることが、嬉しい。
私は流されない人になりたいと、幼いころ願っていて、それはどんどん流れていく川に逆らって一人立ち続けるようなものをイメージしていたけど、もっと静かなものなのかもしれない。
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」。
そういうものなのかもしれない。
泥に染まらないために、染まっている自分に気づくために「今」読んだほうがいい物語だと思う。
投稿元:
レビューを見る
中村文則の最新作は江戸時代、戦時の昭和、現在と時代を横断する歴史もの×サスペンスだった。そこにいつもの中村バイブスが込められていて、これまでの作品とは趣が異なり新鮮でオモシロかった。前半はサスペンスとして主人公に死をもたらそうとする謎の存在”B”が魅力的だった。ただ後半の文学のノリの中では少しノイズだったかな…とはいえ、これだけ様々な要素をごった煮にして1つの物語にまとまっているのは驚きしかない。
時代を横断しながら日本の内と外およびその関係性を過去と現在でそれぞれ描いていく。日本が自分たちの価値観と異なる者に対して発揮する暴力性について、隠れキリシタンと現在の移民の対比で切り取っていくところが鮮やか。今に始まったことではなく連綿と続くこの排外スタンスをいつ改めることができるのか?という問いかけにのように思えた。隠れキリシタンの話では、個人の信仰に国家が介入することの怖さを彼らに対する弾圧を通じて描いている。多くの日本人においてキリスト教は今でも馴染みのない対岸の価値観だと思うけど、その中で弾圧されるキリシタン側の視点で権力の暴力性を語っていた。これは今、権力が悪い意味で積極的に市民に干渉している点と重ねることを意図しているのだろう。人は権力をもつと自制が効かないからこそ、権力について憲法や法律で縛る必要があるんだなとよく分かる。また作中でも言及されている遠藤周作の沈黙オマージュなのか、神の不在についても詳しく描かれていて本当にあったのかどうか分からないような残酷描写が強烈だった。
終盤はこの物語を牽引するトランペットにまつわるエピソードが展開する。小説内の音楽描写ってどうしても陳腐になるなといつも思ってしまうのだけど本著では音楽がもたらす高揚感とその地獄が痛烈だった。めちゃめちゃ取材していることがビシバシ伝わってきた。またエピローグにNという小説家が登場するメタ構造からも分かるように、自身の社会へ伝えたいメッセージが小説を駆動していくスタイルになっていて、このタイプをあまり読んだことないので興味深かった。過去も同様に忍ばせていたけれど今回は舞台・時代が転々とするので余計に目立っていたように思う。共に生きたい。
投稿元:
レビューを見る
読後すぐから、著者の新たな代表作と確信している。
すべては繋がっている、それを証明するための物語の構築力と、それを支えるいくつもの歴史への取材。
潜伏キリシタンの信仰心がとても痛切に伝わってきた。トランペットの音色表現も味わい深く、畏怖さえおぼえ、もう読みたくないほど。
投稿元:
レビューを見る
1つのトランペットを軸に大きなドラマが始まります。
史実に基づいた、政治・宗教が物語に重厚感を生み
骨太な小説です。
小説でありながらも昨今の社会問題を想起させる
シーンがあり、さながら
「お前どう思う?」と著者に問いかけられている
ような感覚に。
読書の醍醐味。
相も変わらず面白い。
投稿元:
レビューを見る
ぶつ切りにしたような短文の羅列が、淡々とした気持ち悪さや、真逆であるはずの愛の深さや悲しみを際立たせている。印象深い文体。
第二次世界大戦、潜伏キリシタン迫害、政治、音楽、愛。時代と人物を縦横に行き来しながら進むストーリーは重く、薄暗さとざわざわするような胸騒ぎを携える。謎の男Bの存在感。カルト宗教。突然死んでしまったアイン。時代を超えても止まぬ差別意識。あるいは悪魔のトランペットは人間の負の部分ばかりを集めてつくった楽器なのかもしれず、小説という媒体のなかですら力強く恐怖の音色を響かせていた。
わからないことが多すぎる。もやもやする読後感すら「考えろ」という作者の意図なのかもしれない。
読み応えバツグン。再読必至。読めば読むだけ沼にハマりそうな作品。
投稿元:
レビューを見る
ハラハラして読むのが止まらない!
しかし、なんか作りが、そして文章が、雑な気がしたので少々ガッカリ。中村文則というだけで期待しすぎた。アレれー?という感じ。
投稿元:
レビューを見る
歴史小説と、中村文則独特の異様な世界観がうまく融合されたような作品。
やや中弛み感もあるが、中村文則らしさ全開の終わり方でそこは良かった。
投稿元:
レビューを見る
「逃走者」中村文則
「学生の頃は、どんな事とにも動じない人間になろうとしていた。」
「音ってのは時々人を狂わせる。女の声なんて特にな!」
「馬鹿みたいに?馬鹿じゃない人間がいるのかなら」
「きみが嫌いなのは集団化した人間だろ」
人は歩くと空気が揺れる。でもその空気の揺れを過度に気にしながら、慎重に手足を動かし、でもおそすぎるとめだちくうきがざわめくため、なんとか普通に歩く人間の姿を想像する。
理論に理論をぶつけても、人間は変わらない場面がある。理論や思想が感情と化してしまい固まってしまう人もいる。
その本人が変わるのは、同じくらい強い感情や魅力的な思想用意しなければ変わることはない。
公正世界仮説
「善悪の境界」は揺らいではならず、人間の中に、つまりは自分の中に不条理な惨劇がある世界を実感したくない、だから拒絶する。
これの危険なところは、考えが強くなると弱者批判になる。努めて起きた事柄の責任は当事者のみに責任がある。
物事の結果は起こした時点で決まっている。
私が石を投げる、投げた瞬間に落ちる事は確定している。
投稿元:
レビューを見る
うーん・・・
読解力や語彙力に乏しい私が読むには、難しい小説だった。
ちょっと難しい言葉が多い上に、小説というよりは、著者の思想の論文を読んでいるような感じで、読むのに時間がかかり、結果を結びつける事ができなかった。あまり楽しめなかったのが素直な感想です。
潜伏キリシタンや、狂気のトランペット、第二次世界大戦など、これらが関わり合う内容は興味があり(だから読もうと思ったのだけど)、それらについて書かれている物語は、没頭して読んでいました。だからなおさら、もう少しわかりやすい筆致だったらよかったのになと、個人的にそ思いました。
でも、著者が、人々はあまりに現実から目を背け、なんとかなるという思考で、危機感が足りないという事を訴えている感じがして、その思想には凄く共感します。私の読解力と理解力が正しければの話ですが。
投稿元:
レビューを見る
もう、辛い、辛い。
辛いシーンが多すぎて
読むのは本当にしんどいが
「知りたくなかった」とは思わない。
むしろ、たくさんの人に読んでもらいたい。
特に隠れキリシタンについては
ほとんど何も知らなかったから
衝撃がすごすぎて…
でも、小説としてはもとても面白く
やっぱり好きだ。