紙の本
私も一読して、〇をつけました
2020/09/16 15:36
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第163回芥川賞受賞作。(2020年)
芥川賞と直木賞の違いとは何か。随分と言われ続けている問題だが、明確な答えはない。あるとすれば、発表誌の違いとなるのかもしれない。
沖縄の古びた民俗資料館で資料整理を手伝いながら、世界のどこかの場所で日本語が堪能な異国の人たちとオンラインでクイズを出す仕事をしている女性が主人公の、この受賞作はまるで近未来を描いたSF小説のような感じすらする。(もっともこの程度の世界はすでにリアルな現状で、近未来ともいえないのかもしれないが)
発表誌は文芸誌の「新潮」であるから、やはり芥川賞にふさわしい作品なのだろうと納得するし、そういうことと関係なく、いい作品だった。
選評を読んでも、「ずば抜けて面白い」と松浦寿輝委員がのっけから書いているし、川上弘美委員も「静かな絶望と、その絶望に浸るまいという意志に、感じ入りました。一読、すぐに〇をつけました」と、大絶賛である。
主人公の家の庭に台風とともに迷い込んできた一頭の馬。「宮古馬」という小ぶりの馬だとはいえ、馬は馬。目立つはず。主人公はその馬を手なずけ、その馬を介して世界につながろうとする。
ここで提示されているのは、オンラインより先の、世界とのつながり方の提示ではないか。
こういう大きな世界観を描いたとすれば、高山羽根子という作家も面白い開花がみられるのではないだろうか。
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投稿者:テラちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
沖縄の郷土資料館で整理の仕事を手伝っている未名子が主人公。ウエブで世界の人々にクイズを出す奇妙なバイトもしているうち、家の庭に宮古馬が迷い込んでくる。この宮古馬を飼いならし、乗りこなす訓練をする未名子を通し、太平洋戦争下、激戦が繰り広げられた沖縄の歴史や、平和を考えさせていく。宮古馬が沖縄県の天然記念物に指定されたのは随分前だが、未名子が乗り、街中を歩き回る「幻の馬」をヒコーキと名付けたのは、歴史をベースにしたからだろうか。昭和初期、沖縄競馬で活躍した名馬が確か、ヒコーキ号だった。ただ、未名子の家の庭に現れた馬が、足を折りたたんでうずくまっていたというのは、許されるのか。普通、馬は寝る時でも四肢で立っており、足を畳んだら……宮古馬は例外なのか、「幻」だから良いのか、それとも一種のファンタジーと受け取るのか。
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投稿者:玉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ウルトラクイズに2回出ました。
1回目は、1問め、2回目は4問目で落ちました。
周りにいた参加者たちはどういう人たちだったのでしょう。
ついに、どなたとも話さないままに終わりました。
さて、本作。
筆者は、クイズ番組に出たことがあるのでしょうか?
孤独な方が多いのでしょうか?
沖縄を扱ってくれていることはうれしいのですが・・・
いろいろ、すっきりしません。
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投稿者:藤 - この投稿者のレビュー一覧を見る
芥川賞きっかけで読みました。
カバーがかわいい。
テーマは孤独?世界の中心から離れたところにいる、それぞれ孤独な人々が、また孤独である主人公と繋がりを持って話が進んでいく…というような感じ。
沖縄の歴史も組み込まれていて勉強になりました。
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沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできてた。クイズの回答者に動物について質問。父親の部屋に入れる。交番に届けると近くの動物公園にあずけられた。
未名子は馬を公園から連れ出し洞窟で飼う。放し飼い。馬に乗って森の中を散策。
資料の持ち主、老婆(元研究者)が死ぬ。資料整理の仕事はなくなる。
馬に乗って資料館が壊されるのを見る。
直葬、病院から直接火葬場に送る、で老婆を娘が決めた。
沖縄の競馬場は本土と違う。美しさを披露するモーターショーに似ていた
戦争が始まり農耕馬に適さないので競馬馬は飼わなくなった。
首里は沖縄線で完璧に破壊された。
資料館のデーターはカセットテープから、クイズの回答者達へアップロード。データーの中身は不明。
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一気に読めるんだけどね~未名子は本土から来た資料館の館長に惹かれて中学時代から資料館で資料整理を手伝っているが、オンライン通話でクイズを出題するオペレーターもしているが、3人が3人とも孤独で退屈を持て余している外国人だ。双子台風の合間に宮古馬が庭にやってきて、家に入れ、仕方なくて警察に預け、自然公園で迷子馬として飼われているが、館長の死をきっかけに、その馬に乗ってみたいと思うようになり、仕事を辞めて、ガマに移動し、練習を始めた~ウーン、よく分からない。回りくどいね、特に最初は
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第163回芥川賞受賞作。今年の芥川賞もお取り寄せしているので、届く前に積読から抜き出して一気に読了。
はい。芥川賞ですね。読後感と言い、分量と言い。
首里という舞台。資料館、クイズの問読者、宮古馬。「宝島」のように沖縄問題に切り込んだ話なのかと思ったら、SFでしたね。クイズの解答者達はどうなるんだろうとか、未名子とヒコーキはこの後どうやって暮らしていくんだろうとか疑問に思ったけど、野暮なのでやめときます。
アメリカ横断ウルトラクイズもこう書かれてしまうのかと、時の流れを感じた。
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ちょっと不思議(すごい不思議 ではなく)な空気感。大人しく地味な主人公が一歩を踏み出す、という筋が好みだった。終始落ち着いたトーン、オキナワオキナワしてないけど、所々に出てくる沖縄の風物が印象的。
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主人公の未名子は沖縄に住み、奇妙な仕事を2つしている。
1つは私設資料館の資料の記録保管。1つはインターネットを通じたクイズの出題。
いずれも正式な仕事というよりは、アルバイト的な仕事である。
私設資料館は、民俗学者を長く続けていた女性が、最後の研究対象として沖縄を選び、建てたものだった。未名子は、不登校がちだった10代の頃から、なぜかこの施設に魅かれ、通ってきてはインデックスの整理にいそしんでいた。
クイズの出題の仕事は、「オペレーター」として募集されていたもので、世界のどこかにいる誰かを回答者として、3つの言葉から1つの答えを導いてもらう形式だった。いずれの回答者も日本語は堪能だったが日本人ではなく、素性はよくわからない。このクイズがどのような目的でなされているのかも不明だったが、未名子にはあまり気にならなかった。
孤独な彼女はどちらの仕事にも向いていた。
ある朝、未名子の家の庭に、突然、1頭の馬が現れる。それは、今は途絶えた琉球競馬に使われる「宮古馬(ナークー)」だった。突然現れた大動物に戸惑い、一度は駐在所に届けたものの、未名子はやはりこの馬を飼うことに決める。名前はヒコーキ。琉球競馬の名馬にちなんだ名である。
時を同じくして、資料館の館長の女性が病に倒れ、未名子の人生に、大きな転機が訪れようとしていた。
いささかふわふわとした物語の中に、港川人、「ソテツ地獄」、「鉄の雨」と沖縄の歴史が散りばめられる。インターネットの向こう側には、クイズの回答者たちの人生がちらつく。あるいは宇宙飛行士になる夢を絶たれ、あるいは家族との深い断絶を抱え、あるいは戦地のシェルターで暮らす。彼らの人生にもまた、未名子とは異なるが、どこか似通った孤独が滲む。
豊かさを内包する物語ではあるが、瑕疵を挙げるとすれば沖縄の歴史に対する視線がどこか第三者的であることだ。もちろん史料には多くあたってはいるのだろうが、個々の出来事の描写は、通り一遍であまり厚みが感じられない。その「薄さ」は、沖縄に生まれ育ったはずの未名子の視線というよりも、沖縄在住ではない著者自身の視線を感じさせてしまう。
地域に根差した歴史と、インターネットが象徴するグローバルな観点との絡みがいまひとつ心に響いてこないのも、そのあたりに理由があるのではないだろうか。
宮古馬とともに、未名子は人生の別のステージへと踏み出す。
生きづらさを抱えた1人の女の子が、ささやかではあるが、ささやかであるがゆえの「価値」を見つける幕切れである。
ある意味、彼女自身は物語の主人公にはならない。彼女は自らの役目を”物語の記録者”だと自覚する。
その役割はごくごく小さいのだけれども、伝説の馬にまたがるその姿は、どこか壮大なファンタジーの主人公のようにも見えてくる。
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人づきあいの苦手な主人公は
けして一般的な意味での幸福な人生を送ってきたわけではないが
それでも郷土(沖縄)を愛する心のようなものは持っていた
それは、不登校の自分を受け入れてくれたのが
近所にある郷土資料館だけ、という事情からくるものである
必ずしも他人と共有できる感情は伴わない
当然、政治的になることもないだろう
例えば彼女は、自らの不遇さを歴史に結びつけることはしないし
また歴史が闇に埋もれていくことを恐れたりもしない
せいぜい、肉じゃがに豚を入れるか牛を入れるか
芥子といってペーストを出すか菜っ葉を出すか
といった程度の悩みがあるぐらいだ
そういう共感性の低さは
むしろバランス感覚と呼ぶべきものである
しかしひょっとするとそれが
同級生から変人扱いされる原因にはなったかもしれない
面倒なことに
どっちつかずが他人を不安にさせることはある
で、これはそんな彼女が
奇妙な仕事を通じての体験を得たり
また一頭の馬と出会ったりすることで
生きていくことの恐怖を克服していく話なんである
将来の展望はあまり見えないけど
この馬が、いい男との出会いのきっかけにでもなってくれたら
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孤独というのではないが閉じられたような世界の中で繋がりを求める人たちの,息遣いを楽しむような人間関係のあわいを描いたような物語.その中で語られるクイズの解答者の人生がまた興味深い.物語も文章もとても好きです.
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高山羽根子さんの本は初読。
今までに読んだ本のジャンルのどれとも違った。
沖縄という舞台の歴史が大きなテーマとなっていると同時に、
不思議な仕事、不思議な馬、そのどれもが絶妙に響きあっている。
どこか異世界を旅しているような感覚にもなる。
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ひたすら事実のかけらを集めることで、人と上手く繋がれない人が繋がろうとする人がいてもおかしくないかも。
世界の向こう側に隔離された孤独な人と繋がるネット上の仕事も今の時代ならあってもおかしくないかも。
台風の多い沖縄なら野生の馬が、民家に迷い込んでいてもおかしくないのかも。
と思いつつ気づいたら読み終わっていた。
情報、歴史、孤独、リベラルアーツ
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沖縄に暮らす孤独な女性が、不可思議なバイトと、誰にも必要とされていない記録保持を掛け持ちながら、変化に対面していく物語。
荒を感じる部分はあるが、テーマの捉え方と、ややとっぴながらも鮮やかなモチーフの結びつきに、たいへん好感を覚えた。
本作のテーマは「接続」だと考える。
孤独を自認する主人公は、役に立たないかもしれない記録を保持し続け、同じく島の記憶を存在に背負った馬の背に乗る。記録は誰にも用いられることはないかもしれない。しかし、記録は記録されることそのものに、きちんと意味を持つ。照会のために記録があるのではなく、記録は記録という行為のためにも存在して良い。主人公は照会のためではなく、記録という行為のためにデータを残し、それにより社会へと接続している。このデータが役立つ日は来なくて良い、と思いながら。この物語において記録とは、いつか役立つ日を待つデータの群ではなく、作成者の意図を反映する魂でもある。
主人公には物語の開始地点から「喪失」があり、作中でも「喪失」は訪れる。しかし、この物語において「喪失」の対義は「獲得」や「回復」ではない。失われ、事実と物体となったものを保持していくこと。それが提示されている答えであり、魂はデータとして生き続ける。大きな肯定がないことこそが、物語のなかで貫かれている彼女の人生への肯定である。
より考えを深めて読みたい一冊。とても好きな小説だった。
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遠野さんのが先に読んで、すごく好みだったので、ちょっと残念に感じてしまったかな。。
まぁでも、単に好みの問題かもしれません。