紙の本
クールで温い
2020/11/02 09:02
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
離島で託児所を兼ねた民宿を営む複雑な出自の主人公。子供について悩む様々な訪問客との炎の様な危うい温度での触れ合いが曇りなく心地好さを感じた。生きる事、生を育てる事に徒に正解を促さず見守る事を教えてくれる作品
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寺地さんの小説はやっぱホッコリするな。設定、というか登場人物たちの環境は決して恵まれてないんだけれど。
本作は、実の母親が亡くなってしまい、遠い親戚に引き取られた千尋と、彼女を取り巻く人々の物語。星母島。そこは子どもに関する願いを叶えてくれるパワースポットとして人気が出てきた島。そこで保育所を兼ねた民宿を営む千尋。
この小説を読んでると、人つて変化しない保証された居心地のいい人間関係を求めつつ、でも失うことが怖くて、素直に直球で求められないものだよなぁ~としみじみ。不器用というのか…。
だからこそラストで、それまで謎のイケメンキャラだった麦生が「ただ千尋ちゃんを大好きなだけの、すこやかで阿呆な男でよかった。」というのがギューッとくるよね。
あと複雑だったのが、「モライゴ」を否定的に捉える千尋と、それを「得だな」とでもいうような目線で捉えているまつりのGAP。なんとも言えない苦しさを覚えるのはなんだろうね…。
以下グッときた部分。
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目があった瞬間、叫んでしまう。考えるより先に声が、迸るようにして出てしまった。
「天使のままでいいんですか?」
※正直この第二章が一番もう…泣く。
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麦生はたしかにやさしい。そのやさしさをあたりまえに享受しないようにと、千尋はいつも気をつける。いつか自分のそばからいなくなるかもしれない、という意味では誰もかれも一緒で、だから執着してはいけない。慣れてはいけない。いなくなる可能性はある。父がそうであったように。
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「千尋はあたしのもんだよ!帰れ!」
(中略)あたしは何度でもあれをやるよ、と帰り道で政子さんはコップの水を口に含んで吹くジェスチャーをしてみせた。
「あんたが連れて行かれそうな時は何度でも何度でも」
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あ、あとハチミツ出てきた!クロエ蜂蜜園。ひっそり既刊とのリンク。
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最初、千尋は考えたり悩んだりしないのかと思っていた。
それほどに千尋は、
強い意志を持っているように感じていた。
でも、
あれこれと考えたり、思い過ぎたりしない人などいないのだと
そして千尋もそうだと読み進むと感じるようになった。
みんな不完全でみんな悩んでいる。
年齢に関係なく。
子育ては間違いなく大変だ、
それはわかる。
でも、大変さの種類は
多分、親と子どもによって違うのではないかと思っている。
だから、誰とも同じではなくて誰とも比べられない。
それを知るには随分な心の葛藤が必要だ。
人の気持ちや想いはきちんと伝えないと伝わらないことも
今さらながら教えられた。
全体を通して、
ただ、ぬるい優しさだけでなく
優しさを通した強さを感じた。
続編があれば是非読みたい。
最後の「スナック ニュースター」での
島民の振る舞いがすごく素敵だった。
#彼女が天使でなくなる日 #NetGalleyJP
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千尋の凛とした佇まいが印象に残った。彼女や彼女の周りの人間関係には、「ふつう」や「正しい」を超えた、とても強いやさしさを感じる。自分は自分、他人は他人、理解できるはずがない、という一見ドライな考え方には、相手をしっかりと見つめとらえようとする誠実さがある。
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九州北部にある小さな島、星母(ほしも)島。
島には「母子岩」と呼ばれる名所があるぐらいです。
でも、ある人のブログを機に何かしらの事情を抱えている人達が、星母島にある民宿兼託児所を訪れてきます。こういった流れだと、前向きな言葉を投げかけて、明日から頑張ろうと勇気を与えてくれるというのが想像つくのですが、この作品はそれに「現実」という苦さがアクセントとして加えられています。現実と向き合うことで、一味違った強さや優しさを与えてくれます。
訪れてくる人みんな、決して明るい事情ではありませんが、寺地さんの言葉が、読む人の気持ちをマイルドにさせてくれます。
民宿のオーナー・千尋は、読んでいて、どこかサバサバした雰囲気を醸し出していますが、この人も何かしらの事情を抱えています。でも、しっかりと現実と向き合い、来るお客をもてなしてくれます。千尋がお客に言う言葉がもう直球で、グッと胸に刺さりもしますし、痛いところを突かれます。
そういったところが、他の作品とは違った魅力でありました。
離島ものの作品だと、優しい島の人に支えられ、優しい言葉をいただき、前に進もうといった感動作に仕上がるものが多いのですが、この作品は一風変わっていました。どちらかというと、こちらの方が現実的でした。そういった点では、印象深く残りました。
また、島の人たちのキャラクター性が濃く、憎めない人ばかりでした。
旅行というと、景色や観光名所のために訪れますが、そこに住む人に会うために訪問してもいいのかなと思いました。ちょっと違った人情物語を味わえた作品でした。
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この方の物語…好きだなぁ、何だか読むと、泣きたくなるような感覚。貰い子と呼ばれ育った千尋きりもりする島の民宿と託児所。子供にとっての親とは、子育てとは、友達とは夫婦とは…いろいろ考えさせる。麦生…いいなぁ、政子さんも。千尋みたいな自分をちゃんと持ってる人に皆憧れる。塔子が若干 無理矢理感があったけど、シリーズとしても読みたいなぁと思った。
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子どもであること、親であることを強く意識させられる物語。
誰かと繋がること、暮らすこと、責任を負うこと。
それらを恐れて逃げていたけれど本当は全部自分が望んでいることなのだと千尋たちに気づかせてもらった。
誰かの天使でなくなる、その発想にハッとさせられ、それとともに誰かを自分の天使にしないことも大切にしたいなと思った。
折に触れて読み返したい作品。
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九州にある母星島で、主人公の千尋が民宿兼託児所を営んでいる。
その民宿に事情を抱えた人がやってきて、温かい宿に癒されて帰っていく物語かと思いきや、少し違っていた。その違っていたところが、意外と面白かった。
確かに、事情を抱えた人達が母星島にやってくるけど、決して温かくて優しい言葉などで癒されるわけじゃなく、千尋は淡々としていてる。訪れた人も、抱えている事情が解決するわけじゃないけど、一歩踏み出して帰っていく。
そして千尋自身も訪れる人達と一緒で、いろいろな事情を抱えていた。
登場人物たちにイライラすることもあり、そして共感することもあり、最後は「一歩踏み出すこと」が心に沁みる一冊でした。
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千尋が、麦生が、政子さんが、まつりが、陽太が、みんなみんな愛おしい。
麻のような千尋と木綿のような麦生の絶妙なコンビネーション。政子さんのかっこ良さがそこに加わって、最強だ、この宿は。あぁ、泊まりに行きたいな。疲れ果てた心と身体を引きずってここで海を見ていたい。
島で託児所付きの民宿を営む千尋。幼い時母親が「事故」で死亡、父親が逃げ出し捨てられた娘。政子さんちの「モライゴ」であり島のみんなの子どもである。そんな生い立ちなのに、あるいは、だから、子どもたちに好かれる。その特性を生かして保育士になり宿泊者の子どもや島で働く親から子どもを預かる民宿を始める。
子宝のスピリチュアルスポットが近くにあるから宿を訪れるのは「子ども」にワケありの親たち。そのワケのひとつひとつが心にちくちくと刺さる。彼女たちはいっとき千尋の宿で過ごすことで、なにか大切なものを見つけて帰っていく。
千尋の凛とした生き方のかっこよさよ。複雑な生い立ちから他人に対してむやみに距離をつめないスタンス。けれどそれは無関心や放置とは違う。きちんと相手と向き合う姿勢。そこにみんな惹かれるんだな。ものすごくよくわかる。優しさの芯にある強さ、強さと共にある脆さが壊れそうな人の心にまっすぐ向き合う。
期待しないこと、相手に求めすぎないこと、は他人に対して冷淡なことではない。千尋のそれはやたらと子どもたちがなつくことで証明される。
あぁ、そうか。大切なものを見つけていくのはワケありの親たちだけじゃなかったんだ。千尋も麦生もまつりも、みんな新しい何かを見つけていくんだ。新しく踏み出すその一歩にはいつも誰かがそばにいる。
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千尋の人柄は『わたしの良い子』の椿に
理津子の夢の場所は《ミナトホテル》に
それぞれ重なる。
寺地さんの理想像や、作品を通じて言いたいことが一貫しているということなのだろうな。
人は年齢性別その他のカテゴリーごとに《こうあるべき》というあり方が決まっているわけではないし、同じカテゴリーにいたとしても自分と他人は同じではない(なので、他人の意見に振り回される必要はないし、自分の常識を他人に押し付けるのも違う)という信念。
「何かの経験をした人が、その経験がない人に『あなたにはわたしの気持ちがわからない』と言う行為、わたしは嫌いです」
「だって同じ経験をしても、見えるもの感じるものは違うはずですから。どんな経験があろうとなかろうと、そもそも自分以外の人間の気持ちなんかわかりません」
正しいことって、本当にそんなにいいことだろうか?少なくとも正義はそれだけで人を救うことはないのでは?という懐疑。
《あとになって他人があれこれ言うのはかんたんだ。まつりを置いていった亜由美さんを責めることだって、誰にでもできる。でも千尋やまつりが今日まで生きてきたのは、亜由美さんを責める正しい人びとのおかげではない。》
それから、かっこいい女の人ってのは、こういう人だよね、というある種の理想像か。
《なんといっても愛想笑いをしないところがよかった。「ふつうはそうでしょ」「常識でしょ」と言うような物言いをしないところがよかった。過剰包装を嫌いそうな、それでいて「ロハス」や「ていねいな暮らし」に一定量の疑問を抱いていそうな雰囲気が滲み出ていてよかった》
今年出版された寺地はるなさんの本で、これが一番好き。
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寺地はるなさんの魅力は『小気味よい毒と、圧倒的な健やかさ』(デビュー作であるビオレタの帯にもある村山由佳さんのお言葉を拝借しております)なのは、もう言わずとも知れたことのように思えるけれど、この小気味よい毒は、きっと、いつだって誰かには『薬』になるのだ。
普通という言葉に押し殺されてしまいそうな人、他の誰かと同じようにできなくて自分を殺してしまいそうな人、自分の人生を自分で舵取りできずに苦しんでいる人、そんなどこにでもいる人にとって、彼女の物語は薬となる。
本作も、そりゃもう痛快なくらいにその毒が効いていて、ページをめくりながら何度『いいぞ!いいぞ!もっと言ったれ!』と頷いたことでしょう。
千尋という女性が、わたしのなかの寺地はるなさんのイメージに重なりました。
(それは千尋の生い立ち云々ではなく、優しくてニヒルで、すこしだけ生きにくそうで、でもコアがぶれなくて、突き放したような言葉に慈しみが溢れてて。すごく勝手なわたしのなかのイメージですが)
『他人に都合の良い役柄を押しつける人は嫌い。』
そう、誰だってそうなのに、それをしてしまう人は多くて。
いつだって、誰かを自分の都合の良い物語に嵌めようとする。
今、まさにこの作品が薬になるであろう、子を持つ人がどれだけいるのだろう。
わたしは『親になってないからわからない』けれど、千尋と同じように『その言葉嫌いです』と言って、この物語を差し出したいなぁ。
作中に『まつりの朝はまだ、遠くにある。』とある。なぜかこのひとつの短い文に、ハートを掴まれてしまった。
こんな短い言葉で、彼女の未熟さとか暗中模索の人生とか、葛藤とか不安とか足掻きなようなものがぎゅぎゅっと詰まって見えて、言葉を武器に生きる作家さんはやはりすごいなぁとしみじみ。
少しだけ近づいた彼女の朝は、きっと一筋縄ではいかないんだろうな。
そしてわたしは、ハチミツの碧ちゃんが元気そうでなによりだなぁと狂喜乱舞したことをお伝えします。
最後に、この装丁の素晴らしさはなんでしょうね!美術品のような一冊ですよ!カバーを外しても美しいんですよ!360度どこから見ても美しい一冊です。
この『薬』が必要とされる人に、しっかりと届きますように。
あと、わたし、麦生くん、好きです。(告白
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読了
なかなか感想がまとめられなくて。
親子の物語のようにも思えて、どこか違う。そればかりではない。むしろそんなこと関係ないような。
親子関係にまつわる話が多い。
『だって同じ経験をしていても、見えるもの感じるものは違うはずですから。どんな経験があろうとなかろうと、そもそも自分以外の人間の気持ちなんかわかりません』
この一文にハッとさせられました。
千尋もまつりも政子さんもナギサさんもかっこいい。
そして、千尋本人には何も言わずに、静かに見守る麦生も。
天使であり守るべき存在なのではなくて、対等な関係。
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誰もがみんな、いい塩梅でそれぞれが楽に考え生きていけたらいい。でも、そうじゃない。それぞれの方法が違うのと同じで、それぞれがそもそも違っているから、それでいいんだな、と。そこになにか、勢いや勇気や運や縁や些細な出来事や大きな事件が、もしくはなにもないことが、その人にとってちょっとした変化(という言葉でいいのかわからないけど、なにか)になったりするんだろうな。
千尋はとても素敵だと思う。はっきり口にする彼女はかっこいい。
でも彼女が正しいわけでも彼ら彼女らの救いなわけでもない。違うひとかそこにいて、お互い出会う。その結果、勝手に救われたり救ったりする。
そんなみんながわたしには眩しくて、ひとっていいなと思った。
子供がいるいないにかかわらず、生まれて育って生きてきたから、誰しもどこかにきっとこの物語が染みるんじゃないかな、染みてほしいな、と思う。
そしたら、ちょっと、後悔したり反省したり、そして優しくなれたり安心したり、そんな新しい気持ちを感じることができるんじゃないかな、そうだといいな。
とりあえずわたしにとってこのお話は、物語は、彼ら彼女らの日々は、そう思える、これから大切にしたいものをくれた。
個人的には、表題作に胸がむずむずして、この母親の肩を掴んでうおおおおい!て叫びたくなった。
麦生のセリフがとても好き。
あと麦生が阿呆でわたしもよかったと思います。好き。
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思っていることを本当に伝えなきゃいけない人は誰なんだろう?
伝えるべき相手がいるんだったら願うだけじゃなくて言葉にして伝えなきゃって思った。
彼女が天使でなくなる日。
言いなりになるだけじゃなく、自分の思いもちゃんと出していいんだよ
そんな風に背中を押してくれる物語。
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物語に描かれる親子の子育て中の悩みには共感でしかなかった。子どもを天使だと思えない親はたくさんいる。そんな親が一瞬でも休める場所、愚痴や何でもない雑談ができる場所が、この話の中にはある。
親だって休みたいし、逃げたい。
そんな気持ちに寄り添って、認めてあげることで、また明日から生きていけると思わせてくれる話だった。