紙の本
クールで温い
2020/11/02 09:02
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
離島で託児所を兼ねた民宿を営む複雑な出自の主人公。子供について悩む様々な訪問客との炎の様な危うい温度での触れ合いが曇りなく心地好さを感じた。生きる事、生を育てる事に徒に正解を促さず見守る事を教えてくれる作品
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自分の感じたことを素直に口に出すことの難しさを思う。
誰かの天使でいたくて、自分の心に少しだけ嘘をついてしまうことは誰にでもあるだろう。
だからこそ、愛想笑いもお世辞も言わない主人公の千尋の生き方がとても胸に染みる。
千尋の生き方、素敵だな。
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寺地はるなさんの魅力は『小気味よい毒と、圧倒的な健やかさ』(デビュー作であるビオレタの帯にもある村山由佳さんのお言葉を拝借しております)なのは、もう言わずとも知れたことのように思えるけれど、この小気味よい毒は、きっと、いつだって誰かには『薬』になるのだ。
普通という言葉に押し殺されてしまいそうな人、他の誰かと同じようにできなくて自分を殺してしまいそうな人、自分の人生を自分で舵取りできずに苦しんでいる人、そんなどこにでもいる人にとって、彼女の物語は薬となる。
本作も、そりゃもう痛快なくらいにその毒が効いていて、ページをめくりながら何度『いいぞ!いいぞ!もっと言ったれ!』と頷いたことでしょう。
千尋という女性が、わたしのなかの寺地はるなさんのイメージに重なりました。
(それは千尋の生い立ち云々ではなく、優しくてニヒルで、すこしだけ生きにくそうで、でもコアがぶれなくて、突き放したような言葉に慈しみが溢れてて。すごく勝手なわたしのなかのイメージですが)
『他人に都合の良い役柄を押しつける人は嫌い。』
そう、誰だってそうなのに、それをしてしまう人は多くて。
いつだって、誰かを自分の都合の良い物語に嵌めようとする。
今、まさにこの作品が薬になるであろう、子を持つ人がどれだけいるのだろう。
わたしは『親になってないからわからない』けれど、千尋と同じように『その言葉嫌いです』と言って、この物語を差し出したいなぁ。
作中に『まつりの朝はまだ、遠くにある。』とある。なぜかこのひとつの短い文に、ハートを掴まれてしまった。
こんな短い言葉で、彼女の未熟さとか暗中模索の人生とか、葛藤とか不安とか足掻きなようなものがぎゅぎゅっと詰まって見えて、言葉を武器に生きる作家さんはやはりすごいなぁとしみじみ。
少しだけ近づいた彼女の朝は、きっと一筋縄ではいかないんだろうな。
そしてわたしは、ハチミツの碧ちゃんが元気そうでなによりだなぁと狂喜乱舞したことをお伝えします。
最後に、この装丁の素晴らしさはなんでしょうね!美術品のような一冊ですよ!カバーを外しても美しいんですよ!360度どこから見ても美しい一冊です。
この『薬』が必要とされる人に、しっかりと届きますように。
あと、わたし、麦生くん、好きです。(告白
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捨て子だった千尋は島のみんなに守られて,大阪でベビーシッターをした後,島に帰って民宿えとうを営む.そのえとうに泊まる客たちの疲れ、悩みが,千尋の揺るぎない真実に向き合う態度に救われていく.友達なんていなくて構わないという千尋にも,麦生のような理解者がいて,育ての親の政子さんもいる.このシンプルでわかりやすい人間関係が本当に貴重で何者にも代えがたい財産だと思った.
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北九州に位置する小さな島、星母島。
元ベビーシッターの江藤千尋が切り盛りする『民宿えとう』には、託児施設がついている。
早朝から漁に出たり、保護者の体調が悪くて夜中も子供を預けなくてはならなかったり、保育園が請け負えない隙間の時間を埋める。
千尋は一歳で母を亡くし、父はすぐに行方をくらました。
はずれくじ。
しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、母の遠縁の江藤政子に引き取られ、こうして生き延びて、民宿も任されているのだ。
様々な親子が登場する。
仕事とワンオペ育児に疲れ果てる若い母。
育児が他人事の夫。
子を支配し続ける母。
妻を休ませ、育てづらい幼児を抱えて実家に帰る、追い詰められた父…
ねえ、親ってめちゃくちゃしんどいですよね。と、高校生にしか見えないまつりが言う。
顔は笑っているのに切実な口調。
千尋の義妹、政子の実の孫のまつりも母である。
まつりが言うように、子を育てるのは大変なことだ。
いや、大切なこと、と言い換えようか。
自分と対等の、一人の人間を世に送り出すことなのだから。
ただ、育て上げること以上に、どこで手放すかと言うタイミングも難しい。
自分のことが何一つできない時期に手放せば死の危険もあるし、物心ついてから放り出せば「捨てられた」と、心に深い傷を負う。
そして、可愛いからと言っていつまでも手放さなければ、花は咲くことなく枯れてしまう。
手放すことも愛情。
しかし、その時期は親子によって違っている。
失敗して、学ぶ。やり直す。
そうして生きていく。
仏頂面の女がヒロインで、どうしようかと思ったが、たまご色に包まれた温かいラストにふんわり着地。
この先もいろいろあるだろうけれど。
第一章 あなたのほんとうの願いは
第二章 彼女が天使でなくなる日
第三章 誰も信頼してはならない
第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい
第五章 虹
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【目次】第一章 あなたの本当の願いは/第二章 彼女が天使でなくなる日/第三章 誰も信頼してはならない/第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい/第五章 虹
千尋の愛想のないシンプルな物言いが心地よい。普通などない。みんななどない。枠にはめてわかった気になるのは簡単だけれど、自分がわかった気になられるのは不愉快。それなら十把一絡げにしてはいけない。裏切られないためには信じないこと。そう考える千尋は強く生きてこなければならなかった。その千尋の傍に、今、麦生がいることがうれしい。ともあれ、優しい人は、誰も信じていない人なのかもしれない。
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人々が建前で言う言葉の裏や
真理をついた登場人物達の台詞。
読んでいて共感したり
内省したり。
人間関係って
やっぱり難しいもんだ。
私も子どもに対して全力で対応しないと、
と、反省しきりである。
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読了
なかなか感想がまとめられなくて。
親子の物語のようにも思えて、どこか違う。そればかりではない。むしろそんなこと関係ないような。
親子関係にまつわる話が多い。
『だって同じ経験をしていても、見えるもの感じるものは違うはずですから。どんな経験があろうとなかろうと、そもそも自分以外の人間の気持ちなんかわかりません』
この一文にハッとさせられました。
千尋もまつりも政子さんもナギサさんもかっこいい。
そして、千尋本人には何も言わずに、静かに見守る麦生も。
天使であり守るべき存在なのではなくて、対等な関係。
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読み終えてブクログ書く段階になって初めてちゃんとタイトル意識した。子どもの寝顔は天使だなぁと思うし、寝てなくても天使だと思うことは多いけれども、天使にさせてはいけないんだ。
夜泣きつらいよね、とタイムリーで共感する部分もあり、でも私は周りの人に助けてもらって、本当になんとかやってこられている。周りの助けって大切、と改めて周囲に感謝。
「島の子ども」という言い方は千尋さんにとってネガティブな言葉なのかと思っていたけど(千尋さんにとってはネガティブなのかもしれない)、まつりちゃん視点で見るとそれもまた違って見えてくる。
千尋さんのサバサバも潔い感じがするけど、それもまた本人の中では自分への葛藤もあり、完璧な人なんていないよね、と気づく。
つらいときは叫んでいいし、余裕があるなら友人を助けていきたいし、人はみんなもがきながら生きるんだなぁと改めて思った本だった。
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誰もがみんな、いい塩梅でそれぞれが楽に考え生きていけたらいい。でも、そうじゃない。それぞれの方法が違うのと同じで、それぞれがそもそも違っているから、それでいいんだな、と。そこになにか、勢いや勇気や運や縁や些細な出来事や大きな事件が、もしくはなにもないことが、その人にとってちょっとした変化(という言葉でいいのかわからないけど、なにか)になったりするんだろうな。
千尋はとても素敵だと思う。はっきり口にする彼女はかっこいい。
でも彼女が正しいわけでも彼ら彼女らの救いなわけでもない。違うひとかそこにいて、お互い出会う。その結果、勝手に救われたり救ったりする。
そんなみんながわたしには眩しくて、ひとっていいなと思った。
子供がいるいないにかかわらず、生まれて育って生きてきたから、誰しもどこかにきっとこの物語が染みるんじゃないかな、染みてほしいな、と思う。
そしたら、ちょっと、後悔したり反省したり、そして優しくなれたり安心したり、そんな新しい気持ちを感じることができるんじゃないかな、そうだといいな。
とりあえずわたしにとってこのお話は、物語は、彼ら彼女らの日々は、そう思える、これから大切にしたいものをくれた。
個人的には、表題作に胸がむずむずして、この母親の肩を掴んでうおおおおい!て叫びたくなった。
麦生のセリフがとても好き。
あと麦生が阿呆でわたしもよかったと思います。好き。
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赤ちゃんが天使と思える時はほんの一瞬。
後は闘いだと思える日々。
成長しても親と子の関係は愛情と闘争なのかも。
小さな島で託児所を営みながら、そんな親子を見つめ、自分自信をも見つめ直す。
ドロっとした気持ちを丁寧に描いてあるなぁの読後感。
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最初、千尋は考えたり悩んだりしないのかと思っていた。
それほどに千尋は、
強い意志を持っているように感じていた。
でも、
あれこれと考えたり、思い過ぎたりしない人などいないのだと
そして千尋もそうだと読み進むと感じるようになった。
みんな不完全でみんな悩んでいる。
年齢に関係なく。
子育ては間違いなく大変だ、
それはわかる。
でも、大変さの種類は
多分、親と子どもによって違うのではないかと思っている。
だから、誰とも同じではなくて誰とも比べられない。
それを知るには随分な心の葛藤が必要だ。
人の気持ちや想いはきちんと伝えないと伝わらないことも
今さらながら教えられた。
全体を通して、
ただ、ぬるい優しさだけでなく
優しさを通した強さを感じた。
続編があれば是非読みたい。
最後の「スナック ニュースター」での
島民の振る舞いがすごく素敵だった。
#彼女が天使でなくなる日 #NetGalleyJP
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千尋が、麦生が、政子さんが、まつりが、陽太が、みんなみんな愛おしい。
麻のような千尋と木綿のような麦生の絶妙なコンビネーション。政子さんのかっこ良さがそこに加わって、最強だ、この宿は。あぁ、泊まりに行きたいな。疲れ果てた心と身体を引きずってここで海を見ていたい。
島で託児所付きの民宿を営む千尋。幼い時母親が「事故」で死亡、父親が逃げ出し捨てられた娘。政子さんちの「モライゴ」であり島のみんなの子どもである。そんな生い立ちなのに、あるいは、だから、子どもたちに好かれる。その特性を生かして保育士になり宿泊者の子どもや島で働く親から子どもを預かる民宿を始める。
子宝のスピリチュアルスポットが近くにあるから宿を訪れるのは「子ども」にワケありの親たち。そのワケのひとつひとつが心にちくちくと刺さる。彼女たちはいっとき千尋の宿で過ごすことで、なにか大切なものを見つけて帰っていく。
千尋の凛とした生き方のかっこよさよ。複雑な生い立ちから他人に対してむやみに距離をつめないスタンス。けれどそれは無関心や放置とは違う。きちんと相手と向き合う姿勢。そこにみんな惹かれるんだな。ものすごくよくわかる。優しさの芯にある強さ、強さと共にある脆さが壊れそうな人の心にまっすぐ向き合う。
期待しないこと、相手に求めすぎないこと、は他人に対して冷淡なことではない。千尋のそれはやたらと子どもたちがなつくことで証明される。
あぁ、そうか。大切なものを見つけていくのはワケありの親たちだけじゃなかったんだ。千尋も麦生もまつりも、みんな新しい何かを見つけていくんだ。新しく踏み出すその一歩にはいつも誰かがそばにいる。
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千尋のさばさばとした性格が良い。
悩みを抱えた人たちが訪れる民宿で、「ほっこりと」した言葉をかけてくれる宿主…ではない。
自分の正しいと思うことを、率直に語る。
それによって傷つく人もいるかもしれないけど、客観的に自分を見つめ直すきっかけになる。
寺地さんは、心のうちを照らすのが本当に上手い。また、救われた。
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初読みの作家さん。
人気でなかなか借りられなかったのだが、運良くこの作品が読めた。
とても良かったー。
星母島で民宿をしている千尋のもとに、訳ありの人が客としてやってくる。
不器用でごまかしの無い千尋が良いし、一見人当たりの良いやわらかな笑顔の麦生が時折真っ直ぐに突き刺す言葉を発するのも良い。
劇的な物語ではない、でもとても好きな作品です。