紙の本
優しくない時代に
2021/01/31 13:49
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投稿者:ら。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋の韓国文学特集コーナーから購入。1ページ目を読んですぐ「これは私の物語だ」と思った。
韓国でも日本でも女性を取り巻く状況、弱者に対する社会の在り方は、変わらない。けっして優しくない時代を社会をどう生きていくのか、どう感情の折り合いをつけていけばよいのか、そんなことに日々悩む人たちにぜひ手にとって欲しい。
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久々に大好きなタイプの小説を読んだ。とんでもなくおもしろかった。喉の奥をギュッとつままれたような感触をどう表現するのか知らないけれど、すべての短編の最後はそんなふうに、苦しいのか、哀しいのか、ここに出てくる人たちに触れたくなるような何かを確実に残してくれ、それが喉の奥に伝わる感じ。どんな感じだ、って感じだが。この後にひく作者のことばに、ああ、そうだよな、と思う。
ー今は、親切な優しい表情で傷つけあう人々の時代であるらしい。
礼儀正しく握手をするために手を握って離すと、手のひらが刃ですっと切られている。
傷の形をじっと見ていると、誰もが自分の刃について考えるようになる。
そんな時代を生きていく、私によく似た彼らを理解するために努力するしかない。書くしかない。
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面白かったが、なかなか一言で言い表せない、評価もできない、読み取り切れてない事が多々ある気がする感じ…
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日常、きわめて普通に振る舞うことが出来ていた人だとしても、人に見せたくない闇の部分は誰にもある。通常はそこをさらけ出さないよう、明るく健全な部分を人に見せるよう努めている。この小説では、人の嫌なところを見てしまうが、それは表裏で人として共感できるところでもありました。
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短編と「三豊百貨店」を収録。「ミス・チョと亀と僕」、「何でもないこと」、「私たちの天使」、「ずうっと、夏」、「夜の大観覧車」、「引き出しの中の家」、「アンナ」。現代は、親切な優しい表情で傷つけあう時代だそうだ。どの作品にも相手を知らないうちに傷つけたのではないかと振り返る主人公がいる。
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2002年デビューの韓国現代文学作家による短編集。将来の不安はあるが、特段の解決策もなく、周囲への嫉妬も感じつつ、なんとなく日常を重ねていく中年世代を描く。
どの作品の主人公も自分の人生がずっと続く下り坂なのはわかっている。では、原因は何なのか。社会なのか、自分自身なのか、韓国という国なのか。この先、どうふるまっていけばいいのか。彼らのどうしようもなくて、やりきれない気持ちを作り出すのが、作者の言う「優しい暴力」だ。
マイホームを持ったり、子供に英才教育を受けさせたり、非正規社員から正規社員を目指したり、亀を飼ったり。もがく主人公たちに衝撃的なハッピーエンドもバッドエンドも起こらない。彼らのなんとなくな不安は解決されることなく、日常は続いていく。
所詮は隣国の話、とは感じなかった。本書ほど露骨に自国の格差社会を描写する作家が少ないだけで、日本だって似たような社会だ。「優しい暴力の時代」の次の時代はあるんだろうか。
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この方の著書は初めて読みましたが、もし韓国語ができるなら韓国語のままでこの方の言葉をじっくりと噛みしめながら読みたいと思いました。
ひとつひとつ日本の日常の中で、起こっている可能性があると思えるほど現実的で、その心の動きなどまるで本人になったと錯覚するほどの観察眼は驚きです。
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13.
図書館でタイトルに惹かれて借りた本
文章の雰囲気が私には合わなかったみたいで
スラスラ読み進めることはできなかった
だけどそれぞれのお話が少し不穏で湿っぽくて
"優しい暴力"というワードがしっくりきた
格差、人種差、性差が散りばめられていて
訳者解説が丁寧でよかった
「三豊百貨店」のお話が心に残ってる
手抜き工事による聖水橋の崩落は「82年生まれキムジヨン」で初めて知ったし、三豊百貨店のこともこの作品を読んで初めて知った
隣の国なのに私は全然知らないことが多い
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生きるのを邪魔しない程度の悲しみや痛み、諦め、絶望が、本を開いてふわりと舞い上がる空気みたいに、頁をめくる指先を切る。
ささやかに生きている日々の中に潜む密やかな暴力。それはすれ違いざまにふと袖を切り、握手をすれば掌に血が滲む。これを「優しい」と表す作家の筆致。
「ずうっと、夏」と「引き出しの中の家」が好きだった。登場する人たちはみんな善良な人たちだけど、だけど善良とは何を指して善良と呼ぶのだろうと時々わからなくなる。
彼らの人生への諦念が冷たい霧雨みたいに頬に当たった気がした。触れた瞬間は冷たくても、すぐに体温に同化していく無力な水の粒。
同時収録の短編「三豊百貨店」はドキュメンタリーと手記を交えたような筆致で事故そのものと一定の距離を保ちながら、それでも「その日」あの場にいた人は決して自分に無関係ではなかったことの重みが迫る。セウォル号事件にまつわる物語と似た感覚。一瞬にして世界の色を変えてしまう出来事。
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この本から何を得られたか、すぐに答えられないまま心にぐるぐるとした不快感が残る。でも確かにある現実なんだと、私の隣にもぴったりとくっついて離れない焦燥感。
読み終えてから、ストーリーの中心に置かれていた韓国の社会問題に気づいたところもあり、まだまだ筆者の思いを読み切れていないと悔しく思った。
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原題『상냥한 푹력의 시대』
“車が高速道路を百二十キロで走っている間ずっと、夫婦は沈黙を守った。会話がなくても、音楽がなくても、ラジオの音がなくても愛がなくても、世の中のすべての音と光が消えた場所にいても違和感のない関係なのだった。”(p.181)
“ある人にはありのままの事実を口にすることに大変な勇気が要るのだという事実がほかの人たちからはしばしば軽んじられる。”(p.149)
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厳しいのだけれど、優しい。
読んでるとつらくなるのだけれど、人の悲しみとかやるせなさとか、それでも人は生きていくのだとか、そんなことが切々と伝わってくる。
大きな事件はないのだと、それでも、人の気持ちは揺れ動き、日々を生きていくのだと、ざわざわとした気持ちになる。
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困った時に自分を優先することで良心が曇るようなことをしてしまったり、見なければならないものに見えないふりをしてしまうことはよくある。
悪意ゆえではないけれど、無意識にでもなく、利己主義というほど強いものでもなく。良心を意識的に無視せざるをえない時代、その弱さや汚さに寄り添う作品。
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チョン・イヒョンが2013年から2016年にかけて書いた短編の、日本版オリジナル編集作品。
訳者あとがきにて「ここに集められた物語は、さまざまな形の鎮魂歌である」と書かれているように、死や喪失がテーマになった物語が全体を占めているが、決して暗いばかりではなく、「生の弾力に満ちている」(p277)。一編は短くて読みやすいが、読後感は一本のショートムービーを観たかのように重厚だった。筆者の鋭い観察眼と、その観察したものを描き出す筆力に圧倒された。
他の著作もぜひ読んでみたい。
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短編集。ちょっと文章が硬くて読みにくかったけれど、内容は小さな『暴力』と苦悩と葛藤が書かれていた。
『三豊百貨店』
これだけ、ちょと色が違う作品という事で、作者のアトガキの後ろに載せられていた。これを先に読んだ。百貨店崩壊の事件は聞いたことがある……ような気がする。と思いながら読んだ。女性同士の交流の話。
『ミス・チョとカメと僕』
父親の愛人と交流する話。父親の愛人という説明がなければ、ただの世代間交流とでも読めてしまいそう。亀がいい味を出して二人を繋いでいる。でも単純な、交流ではなくてそこには『亡くなった父親』が挟まっているシュールさ。
『何でもないこと』
高校生の出産に慌てる母親たちの話。父親が一切出てこないし、男の子の方は『母が育ててくれたらいい』と親に丸投げ姿勢。ある意味リアルで……リアルすぎて怖い。親たちの打算もすごいと思った。
『私たちの中の天使』
よく分からない契約のお話し。人を殺す代わりにお金を貰ったというが、殺したかどうかは分からず未来に禍根を残している。このお話しで良いなと思ったのは、『したくないのにしようとするな』と喧嘩したというところと、『作らないつもりだったのに出来た』というところ。しっかりとセックスについて考えていても、子供は生まれてしまう。……でも、物語の論点はそこじゃないんだろうな。
『ずうっと、夏』
ちょっとファンタジーチックな少女たちの交流の話。そこにしっかりと差別と侮蔑も入れ込んである。子供の話だからといって『みんなで仲良く』ではない。太っているので『ブタ』と言われる。引っ越してすぐ現地での『ブタ』と言う言葉を覚えるというシュールなシーンに目が点になってしまった。
『夜の大観覧車』
既婚女性の淡い恋と諦めの話。描写が上手く逸らされていて、二度見しないとそれが『そういう』意味だと読み取れなかった。すごいな。読み飛ばしたらただの片想いになってしまう。大人の恋って難しいという理解もないとさらにそれが『何』なのかすら分からないかもしれない。たぶん、十年前に読んでいたら、意味が分からず首を傾げたと思う。大人な話だった。
『引き出しの中の家』
これもよく出来ているなと思った。事故物件を掴まされる話。その事故物件を掴まされる理由も社会構造の問題として書かれていた。少し説明臭いのが難だけれど、納得できてしまう。
『アンナ』
これも女性同士の交流の話……なのかな。格差の話なのだろうけど、いまいち掴めない。
どの作品も韓国を基本的に舞台にしているので、正直、背景が上手く掴めない。特に住宅事情は所々で出てくるが日本と違うので頭に上手く入って来ない。
あとがきに説明が入っているが、その説明を読んでもざっと『手付金がいる』というくらいしか理解できない。日本で言うと、敷金礼金といったところなのだろうか。
とはいえ、いくつかの作品は読み応えがあったし、拒否で喧嘩をするというのは心地よかった。日本の男性作家のセックスなんて、無理やりしても気持ちいいという意味不明なもの���ったので……そんなものよりは『やりたくない』と喧嘩をするカップルの話は素敵すぎる。そんな話を読みたかったんだ。という気分になった。
韓国って実は日本よりも素敵な作品があるのではないか……という期待を持ってしまった。と、同時にその話を日本の作家で読みたい!!という気持ちもある。
対等な性の立場を描いている作品はないのかな。出会えてないだけ?