紙の本
今最も注目すべきミステリー作家。
2020/11/08 17:25
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「13・67」で香港の過去を舞台に見事な傑作ミステリーを世に送り出した陳浩基。
本作で彼が舞台に選んだのは、現在の香港だ。
拡がり続ける貧富の格差やインターネット犯罪、メディアの在り方、それらに巻き込まれ声を上げる事の出来ない未成年の心情等、現在の社会問題を重層的に描いていた。
本作で描かれている社会問題は決して香港だけの問題ではなく、日本を含めた今現在の先進国全てが抱えるものである。
そして本作では現在の社会問題のみならず、そこから「正義」や「復讐」等の哲学的かつ根本的な領域にまで踏み込んでいた。
特に「復讐」と「憎しみの連鎖」が本作の根幹となっており、非常に考えさせられる作品となっていた。
ここまで読むと本作が社会派の堅苦しい作品だと思われるかもしれないが、そんなことはない。
あくまでも本作はミステリー小説であり、そしてミステリーとしての完成度の高さは「13・67」のそれと勝るとも劣らない。
自殺した妹の死の真相を探る主人公アイと探偵のアニエのキャラクター造形も見事で、すんなりと小説の世界にのめり込む事ができる。
そして何より、著者の十八番でもある伏線回収と構成力の上手さは本作でも健在だ。
特に、アイとアニエの物語と並行して語られるもう一つの物語の真相が明かされた瞬間の驚きは、今年のミステリー作品の中でも1、2を争うぐらい衝撃があった。
また、本作はシリーズ化が予定されているようでもう既に二作目が読みたくてたまらない。
「世界を売った男」、「13・67」と傑作ミステリーを世に送り出し続けている著者は、個人的に今最も注目している作家の一人である。
陳浩基の作品は、ミステリーが好きには胸を張ってオススメできる。
彼の作品を読んだことがある方はもちろんのこと、まだ彼の作品を読んだことのない方にも本作を是非手に取っていただきたい。
紙の本
陳浩基 /玉田誠 『網内人』
2020/10/22 17:25
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投稿者:心足齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学生の少女を自殺に追い込んだ犯人を捜す姉と探偵が、パズルのピースを一つずつ集めてはめていくように、真相に迫っていく前半は、謎解き要素が高く、楽しめる。
その主軸が走りつつ、登場人物の一人がのし上がろうとVCのトップと駆け引きを繰り広げるサブストーリーが展開する。
後半では、突き止めた犯人を追い込んでいく方向に話が展開し、非常に張り詰めた雰囲気が漂う。また、サブストーリーはここで本線に合流し、あっと驚く展開を見せる。
陳浩基はストーリーテリングよりは、構成力、特にどんでん返しの仕掛けに秀でていると思う。
ただ、玉田誠氏の訳が今回はどうも今までのものより練られていない感じがある。ストーリーには影響しないところで、前後のつじつまが合わない部分が数か所あった。
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【ネットに潜む獣を撃て! 華文ミステリーの最高峰】飛び降り自殺した中学生の妹。背後にネットに潜むどす黒い悪意があることを知った姉はネット専門の凄腕探偵とともに敵を追い詰める。
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網内人
著作者:陳浩基
発行者:文藝春秋
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
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「自己犠牲を理由とした自殺(自死)」がもたらすものは……。
「私はみんなには不要なんだ…」「私が死んだ方がみんなのためになる…」
湊かなえや辻村深月の“本”によく出てくるタイプで、他人から見て自分はどう見えるかばかり意識していること、これは究極のジコチュウ、「他人を思いやる」ことの勘違い。
この物語では、バットマンのようなダークヒーローが香港の社会問題とITの闇を闇の中で成敗していく。珍しくはないが、描かれた謎解きや登場人物の心理解説、伏線の構成には驚くばかりで、作者がただものではないことはよく分かる。
ただ…
法律や公序など無視して次々IT技術や最新機器を駆使して謎を暴き、復讐する姿に、なぜか爽快感はなく、嫌な気持が続いてしまうこと(作者の狙いかも)。
「社長と秘書の怪しい関係」が語られたり、「汚い部屋に住む偏屈なオタク」「スマートでおしゃれなIT起業家」「デブでチビで唇が分厚く醜い人物」がそのままの役割で登場したり、ちょっと「ステレオタイプ」であることが興ざめすること。
…少し残念。
「SNSが絡むいじめ問題」「匿名・その他大勢による他者攻撃」
これらが「現代社会特有の問題」とされるのは、本質的に人間の持つ醜い“毒”の出方がITによって強化されて“猛毒”となったため。
無言でスマホを見ている人たちには、今まさに“猛毒”を仕掛けている、または浴びているひとがいる……これは「ホラー」かも。
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2015年のリアルな香港。
果たして続編はあるのか、あるとしたらこの魅力的な都市がどんな姿で描かれるのか、それはリアルかはたまた。
傑作『13・67』の作者の新刊。
怒涛の伏線回収は胸がすくが、そこまでの我慢が長い。
書きすぎかと思うくらいの心理描写で、わかりやすい。
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前作「13・67」程の驚きは無かったが、十分楽しめた。構成や人物描写が鮮やか。ネットに疎くても、アイに説明させる事でわかり易くなり、さらなる共感をうませてくれた。
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ネットでのイジメにより妹のシウマンを自殺に追いやった犯人を見つけ出すため立ち上がるアイ。天才的ハッカーで復讐請負人のアニエがとても良かった!ミレニアムのリスベットに匹敵するキャラ立ちで、罠を仕掛けたり潜入捜査したりと大活躍。シリーズ化検討中ということで楽しみであります!
個人的にはネット社会になる前に学生時代を終えていて心底ホッとしてる。現代の10代は大変だな… あと香港も…
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自殺した妹の死の真相(犯人)を突き止めるべくしゃにむに突き進むアイ.探偵(復讐請負人)のアニエの天才的頭脳とハッカーとしてのコンピュータスキル.読みながらアイちゃんよくぞ聞いてくれましたという感じで,さっぱり分からないコンピュータ関連の説明をゾーッとしながら読んだ.ネット社会は恐すぎる.登場人物がかなり詳しく書かれていることで親近感も湧き,嫌な奴はそれなりに嫌いになりながら,胸のすくようなアニエの仕事ぶりで,どんどん真相に近づいていく.読者はアイ視点で振り回されつつ最後はきっちり説明されて大満足.シリーズ化とのこと次作でアイちゃんやアニエに会いたいです.
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内容(「BOOK」データベースより)
ネットいじめを苦に女子中学生が自殺。姉のアイはハイテク専門の探偵アニエの力を借りて、妹の死の真相に迫る―。『13・67』の著者がいま現在の香港を描き切った傑作ミステリー。著しい貧困の格差、痴漢冤罪、ダークウェブ、そして復讐と贖罪。高度情報化社会を生きる現代人の善と悪を問う。
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ネットでの悪口を苦に自殺した妹の事件の真実を暴こうとする姉と、それに協力するハッカーの物語。
キャラクターが全く魅力的でないのと、ネットの知識についても凡庸。また、古典的な陳述のミステリーの手法が使われており、読後感もあまりスッキリしない。
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たった一人の家族である妹を自殺で失ったアイ。ネットで妹を追い込んだ犯人を突き止めるため、凄腕ハッカーの探偵・アニエに依頼するものの、調査するごとにどんどん明らかになる悪意の数々と残酷な真実。香港の貧困格差、ダークウェブ、ネット虐め、というさまざまな問題が盛り込まれたミステリですが。これは香港に限ったことでもなく、日本でも充分に通用する物語だと思います。
正直ネットの難しい話は、と尻込みしてしまいそうだけれど。主人公のアイがなかなかのネット音痴なのでそのあたりはスムーズについていけました。一見単純なネット虐めによる自殺かと思いきや、その陰に潜む複雑な人間関係とその確執、そこから生まれた疑惑と復讐心、いったい誰が諸悪の根源と言えるのか。そしてその一方で描かれるとあるIT会社員の陰謀に満ちた行動。これがいったいどう関係してくるのかも読みどころです。
……という社会派ミステリと思って読んでいたけれど。あんな仕掛けがあったとは! まんまと騙されてしまいました。もうこれ以上は語れません。そしてやはりアニエのキャラがいいなあ。敵をとことんまで追い込んでいく様子は実に爽快。たしかにこれを「正義」だなんて言葉で片付けてはいけないのでしょうが。これ以上に「正しい」方法なんてないような気もしました。一方でアイの決断もまた、勇気のある行動だと言えるかもしれません。
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500ページ超えだが一気読み。
ネットのややこしい話はあるが、ターゲットを絞り込んでいく推理は圧巻で納得感がある。
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面白かった!2015年の香港。ネットでの悪意により妹を自殺で失ったアイがネット専門の探偵と共に書き込み主を追う。正直、またネットの誹謗中傷?と思ったが、この探偵に妙な魅力はあるし、ITに無知なアイに逐一説明することで彼のしていることが手に取るようにわかるし、香港の生活も興味深いし、で、あっという間に夢中になった。謎を追う経緯も大変面白かったが、二人の距離感が変わっていくのも、並行して語られていた話が一本にまとまるのも、章末に現れるLINEのやりとりも、そして鮮やかなラストも…!2段組のこのページ数を堪能。
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歴代の翻訳ミステリーで一番良かった。一因は日本人が苦手な外国人の人名が少ないこと。後半の内面描写がやや間延びしたがそれ以外はスリリングで時代も反映した内容だった。