紙の本
人工知能について考える前に、是非読むべき1冊
2022/05/27 13:55
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間と自然な言葉のやりとりができるAIが登場していますが、「果たしてAIは言葉の意味を理解しているのかどうか?」という疑問について深掘りした1冊です。
現在のAIは「こういう単語や語句の後には、このような語句が続くことが多い」といったように統計的に解析して言葉を発しているようです。これを「言葉の意味を理解している」と言って良いかどうか、微妙な問題です。
その辺りの議論を正確に進めるために、本書は「言葉の意味とはどういうことか」という点、「人が言葉の意味を理解するとはどういうことか」などAIの議論をする前に一歩下がって、まずは「人間が言葉をどう理解しているのか」という点について言語学者の著者が分かりやすく述べています。
「意味→単語や文そのものが表す内容」、「意図→話し手が聞き手に伝えたい内容」といった定義づけや、子供の言語習得に際して文法などの知識をいかに習得していくのか、といった言語学の興味深いトピックスも登場しています。
私たちが日常会話でスムーズにコミュニケーションができている背景には、言葉の意味だけではなく文化や常識といった広い共通認識がベースになっていて(例えばある文脈で”あがる”という動詞について、「上昇する」のか「緊張する」のかどちらの意味か)、無意識のうちに瞬時に様々な情報を取捨選択したり推測したりしながら(”水を下さい”と言われた時、飲み水なのか、その量はどれぐらいか、熱いのか冷たいのか等)会話をしているという指摘は”なるほど”と思いました。そういう言葉の背景全てを処理できて初めて「言葉を理解できた」と言うのならば、”AIが言葉を理解する”というのはまだまだ先のように思います。
AIの性能が日々向上している今こそ、人間のこういった能力について改めて考えなおすのは非常に重要だと感じます。そのようなきっかけとして、大変分かりやすい文章で書かれている本書はおすすめの1冊と感じました。
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非常に機智あふれた『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』を書いた川添さんの著作ということで手に取る。擬人化したイタチが、言葉がわかるロボットを作ろうと、他の動物たちが持つ技術を頼りにして機能強化していくという物語で、まったく独創的ではあるけれども人工知能とはどういうもので、どういう課題があるのかをわかりやすく示すことに成功していた。この人は本当に頭がよくて、信頼できる人なんだろうという印象を持った。
本書『ヒトの言葉 機械の言葉』は、川添さんが言葉の意味とは何か、機械にとって言語を理解するとは何かを平易に書き下ろしたものであるとのこと。『イタチ』とは違って物語形式は取っていないため、ストレートに研究分野・技術分野としての課題は伝わってくるが、少しわくわくするような面白さというものはなかった。また、内容も同音異義語や文の区切りやコンテキスト、フレーム問題など具体的な日本語のわかりやすい事例とともに示されており、入門書としては良書であるといえるものの、やや物足りなかった。ただ、丁寧な語り口は相変わらず信頼できる人だという印象は変わらない。
AIについては、『自動人形の城 人工知能の意図理解をめぐる物語』という物語形式のものを『イタチ』と本書との間に出しているようなので、そちらもいずれ読んでみたい。
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『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』(川添愛)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/425501003X
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『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社、2017)では寓話として、『自動人形(オートマトン)の城』(東京大学出版会、2017)では中高生から楽しめるファンタジーとして、AIと言葉をテーマとした作品を送り出してきた著者による、物語形式ではない「AIと言葉」入門。
機械(AI)もヒトと同じように言葉を使えるか、機械にどうヒトの言葉を教えるか以前に、そもそもヒトがどうやって言葉を身につけたり理解したりしているのかだっていまだに謎だらけなのだ。ということで、機械とヒトがそれぞれどのように言葉をあつかっているのか、ここ数年で話題になった具体的なニュースやわかりやすい例も引きつつ、両者を比べながらわかりやすく説明している。
前の2作以後の最新の話題までフォローしており、これから物語を楽しむ人のサブテキストとしても、物語を堪能した愛読者(わたしと長女だ)の情報アップデートにも、そして物語形式だと読みにくかった人(そういう声もあったらしい)にもおすすめ。
(2021年2月追記)高3長女、同じようなことが書いてあるはずなのに、情報の教科書はなんであんなに読みづらいのだろう。こっちのほうがよくわかる、と。
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ここのところ少し時間があることもあり、川添愛の本をいろいろと読んでみようと思っていまして、今回は図書館で見つけたこの本を読んでみました。
「AI(機械)による言葉」の説明に多くの紙面が割かれていまして、「AI(機械)はヒトの言葉を理解しているのか?」についても、かなり丁寧に考察がなされていました。
この本で、「『AI(機械)による言葉』に対する理解が、『ヒトの言葉』に対する理解につながる」と語られているように、「機械に対する理解が、ヒトに対する理解を深める」というのは、これからの社会において、重要な視点かもしれません。
同時に、「機械の振る舞い」と「ヒトの振る舞い」は、たとえよく似ていたとしても、本質的には異なるかもしれない、という視点も重要かもしれません。
AI(機械)の特徴や振る舞いを正しく理解するためにも、この本に書かれているような内容を理解しておくことは、現代人にとって重要なことだと思います。
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人間と自然な言葉のやりとりができるAIが登場していますが、「果たしてAIは言葉の意味を理解しているのかどうか?」という疑問について深掘りした1冊です。
現在のAIは「こういう単語や語句の後には、このような語句が続くことが多い」といったように統計的に解析して言葉を発しているようです。これを「言葉の意味を理解している」と言って良いかどうか、微妙な問題です。
その辺りの議論を正確に進めるために、本書は「言葉の意味とはどういうことか」という点、「人が言葉の意味を理解するとはどういうことか」などAIの議論をする前に一歩下がって、まずは「人間が言葉をどう理解しているのか」という点について言語学者の著者が分かりやすく述べています。
「意味→単語や文そのものが表す内容」、「意図→話し手が聞き手に伝えたい内容」といった定義づけや、子供の言語習得に際して文法などの知識をいかに習得していくのか、といった言語学の興味深いトピックスも登場しています。
私たちが日常会話でスムーズにコミュニケーションができている背景には、言葉の意味だけではなく文化や常識といった広い共通認識がベースになっていて(例えばある文脈で”あがる”という動詞について、「上昇する」のか「緊張する」のかどちらの意味か)、無意識のうちに瞬時に様々な情報を取捨選択したり推測したりしながら(”水を下さい”と言われた時、飲み水なのか、その量はどれぐらいか、熱いのか冷たいのか等)会話をしているという指摘は”なるほど”と思いました。そういう言葉の背景全てを処理できて初めて「言葉を理解できた」と言うのならば、”AIが言葉を理解する”というのはまだまだ先のように思います。
AIの性能が日々向上している今こそ、人間のこういった能力について改めて考えなおすのは非常に重要だと感じます。そのようなきっかけとして、大変分かりやすい文章で書かれている本書はおすすめの1冊と感じました。
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ヒトの言葉から機械の言葉への橋渡し。機械の言葉を論じる前にまず人の言葉についてよく分かっていないことを思い知らされる。外国に行くと逆に自分の国のことがよく見えたりするのに似ているかも。言葉で表せないものは機械では扱えないという至極当たり前のことからやっぱりシンギュラリティはまだまだ先(もしかしたら永遠に来ないのかも)と思わざるを得ない。言語モデルGPT-3って知らなかったけれど、これはすごい。相互排他性バイアス(「ヘクを取ってあげて」)の研究はなかなか面白い。
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第一章:機械の言葉の現状、第二章:言葉の意味とは何なのか、第三章:文法と言語取得に関する謎、第四章:コミュニケーションを可能にするもの、第五章:機械の言葉とどう向き合うか。
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書籍サイトの紹介で興味持ち、購入。
機械(AI)は言葉の入力にどんな反応を示すのか、という点はITパスポートで学んだこともあり、割と素直に受け取れた。
そして、ヒトが言葉を理解するというのは、実は分解してみると凄く複雑だということを、あらためて突きつけられたように感じる。AIが言葉を理解するというのは、まだまだ先が長い道なのではないかと、本書を読んでると思い知らされた。
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【信州大学附属図書館の所蔵はこちらです】
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC03834783
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AIと言語学の入門書。とっても読みやすいので、中高生が読むのにはちょうど良さそう。
国語学研究室出身者には聞き慣れた話が多かった。ウナギ文とか日本語の「ん」の音韻と表記の問題とか。そういや、そんな話もあったな、と。
ひとつ前に『14歳からの哲学』を読んでたからか、「意味」や「意識」の定義の難しさがある程度腑に落ちていたので、「AIが私たち人間と完全に同じ仕方で言葉を理解」する日は、まぁ、まず来ないだろうという筆者の考えには賛成。あくまでもAIは道具にとどめておくのが賢明だろう。
で、こっからは、杞憂。
仮に人間と同じように思考できるものを作っちゃったらそのAIには人権が発生してしまう。そうなったら倫理的にとっても面倒臭いことになる。カズオ・イシグロの『私を離さないで』を読んで感じた「目的ある生」の問題がここにもある。
ただまぁ、研究者さんたちは作りたいんだろうなぁ、「人間と同じように言葉を理解」するAI。技術そのものに善悪はない、とか、悪意のある国家に先に作られて利用されないように、これは平和のためです、とか、いろいろ理由のつけようはありそうだ。これ、原子力や生物兵器以上に厄介だ。だって、死なない人間が相手になるんだもの。
以上、杞憂、終わり。
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面白かった。大変読みやすく、読むべき一冊。読みながら、もしかすると人間が対話をする機会が減っていることで揺らぎを読み取る力が目に見えて失われ、AIが人間に近づく以上に人間が現状AIのように単純化していくことなのではないか?と思えて非常に怖くなった。ハッシュタグ運動などはまさにその現れなのではないだろうか。最近読んだ翻訳や通訳にも通ずる内容。
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AIを「数の並びを入力したら、数の並びを出力するもの」と定義して、AIがが出来ること、出来ないことを平易な言葉で解説してくれている。
ヒトの言葉の難しさ、言いかえれば人間の言語能力の凄さが分かって面白かった。本書はAIの可能性と限界について考えるきっかけになる。
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AIが「言葉を理解する」ということの意味を、平易な言葉で説明している。最終的には人が言葉を理解するとはどういうことなのか、言葉の意味とは何か、という問題に行きつく。人が言葉を判断する時は、辞書にある意味だけでなく、常識や文脈、状況やその言葉を発している相手が属している文化などを全体として理解しているから、言葉の単独の意味が分かることだけでは人間と同様の理解にはならない。
AIの中身がブラックボックスである以上、その性能は「振る舞い」で評価するしかない、と著者。チューリングテストと同じだ。受け手が「人間だ」と感じる程の振る舞いをすること。中身を「理解しているか」とは別問題だ。でもそれは人間同士にも言えることだ。言葉を尽くしているつもりでも、理解してもらえないということがあるわけだから。そう考えると、なかなか話が通じない、空気を読めないなどと言われる場合の”人間世界”のコミュニケーションは、AI程度、と形容できそうな気もしてちょっと面白い。
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本書は言語学者で小説家でもある著者が、言葉の意味とは何かについて、人間と人工知能を対比しながら論じている本です。一貫してわかりやすく書かれており、あっというまに読了しました。「意味」という概念について改めて本書で深く考えさせられました。
たとえば「おかあさん」という言葉は、母親というような辞書的な意味はあるものの、この言葉から浮かぶニュアンス、心象は人によって異なるはずです。具体的な自分の母親を思い浮かべる人、「おかあさんのごはん」のような抽象的な心のよりどころとしての存在を思い浮かべる人、また人によってはこの言葉からネガティブな心象を持つ人もいるかもしれません(幼少期の何かしらの経験が反映)。
また同じものを指しているのに違う表現が可能なケースも多々あります。「おかあさん」と「母親」もそうですし、本書に書かれているように「金星」と「宵の明星」は同じ星を指示していますが、どちらの言葉を使っているかで、話者が伝えたいニュアンスは異なるはずです。
本書で印象に残っているは、人間が持つ様々なバイアスが言語習得において重要な役割を果たしているという説明です。本書では事物カテゴリーバイアス、形状類似バイアス、事物全体バイアス、そして相互排他性バイアスが紹介されていますが、これらの「思い込み」が言語習得にプラスであるというのは面白かったです。バイアスは悪いことだと思われがちですが、バイアスの存在、そしてそれが修正されていくというプロセスを経て人間は様々な能力を獲得しているということです。昨今人工知能にバイアスがあることがやたらと批判されていますが、そんなのは当たり前で、それをどう修正していくか、というところに人間の知恵や努力が今後必要になるのかなと思いました。また言語習得については「学習説」と「生得説」なるものがあるというのも初学者として勉強になりました。
もう1つ本書で興味深かったのが、言葉の「曖昧性」と「不明確性」の違いです。曖昧性とは、文の解釈が複数あるものの、その範囲が限られている場合ですが、不明確性とは解釈の可能性が無数にある場合です。そして「不明確な」文章は世の中にたくさんあると言います。この議論は、経済学者のフランク・ナイトが提唱した「リスク」と「不確実性」の違いに似ていると思いました。ナイトはリスクとは確率分布がわかっているもの(例:自動車事故)なのに対して、不確実性とは確率分布が全くわからない事象だといいます(例:世界金融危機)。AIが確率で言葉を発している状況下において、確率分布がわからない事象、文章に出会ったときに、さてどう解釈するのだろうか、日本源と同じく、過去にあった確率分布が明確な事象の一部だと「思い込んで」処理するのだろうか、もしそうなら実はAIと人間は違うのではなくむしろかなり似ているのではないか・・・など想像がふくらみました。