電子書籍
不気味で幻想的な怪奇アンソロジー
2022/01/13 15:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:こんぶちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
粒揃いの珠玉のアンソロジーです。
量も質もお値段以上に感じました。
しかし、というか勿論というか、エロティックな描写やグロテスクな描写があるので苦手な方は注意してください。
「夕鶴の郷」妖しく甘美。人や怪異の描写が生々しく見事。
「ルボワットの匣」芸術的。驚きの真相。酒場で流れる音楽の演奏時間と作中の時間経過がしっくりこないところもあるが、実際に音楽を聞きながら読むのも乙。
「黒い面紗の」ヴィクトリア朝の香り。面紗の向こうに広がる黒々とした、底なしの海、或いは深淵。読者さえも引き込まれそうな魅力。
「禍 または2010年代の恐怖映画」近年よく目にする映像制作モノだが、王道の展開を見事な筆致で書ききっている。作中の小道具の出所には背筋が凍った。この本の他作品と比べると直接的な恐怖。
「馬鹿な奴から死んでいく」一人称のとぼけた感じや唐突な美少女、魔術アイテムの説明が古いラノベのようで、20代の私にとってはオジサン臭いしイタいしで苦痛だった。全部ニャルラ……のせいにするのも数年前のクトゥルフ神話TRPGブームで飽き飽き。しかし、毎回主人公が想定を下回る選択をして追い詰められていくのはユーモラス。最後の一文が痛快。
「兇帝戦始」義経=チンギスハン説のオカルティックな新解釈。騙された!な展開。
「ぼくの大事なくろいねこ」表題通り猫は人のものになるけど、ぬこは人のものにはならない。人を超越したものを愛玩しようとする無自覚な傲慢さ。可愛らしさと静かな恐怖。
「ストライガ」異質な愛。欲望の全てを対価にして、全ての欲望を受け入れる魔性の少女。欲望は生きる希望でも、健康にかわるものではないだろうに。人の理の中では怪異のほうが損をしているように思える不気味さ。まだ掘り尽くされていない恐怖を描く傑作。
「花のかんばせ」寓話的。男と女の普遍的なテーマ。突飛な設定だが不思議と説得力がある語り口。登場人物の名前や狂言回しの話し方が古めいていて、昭和の話かと思ったら3Dプリンタが出てきて驚いた。
「愛にまつわる三つの掌篇」独立した三編。愛に世間一般の価値観は関係ないと思わせる。爽やかな読了感。
「いつか聴こえなくなる唄」やるせない。子どもの主人公をこんな残酷に描くなんて……夢オチはどこからどこまで?出来の良いSF。
「化石屋少女と夜の影」化石、奇跡の出会い。太古の生物という浪漫。憧れと劣等感、期待と不安に彩られた少女の感情の瑞々しさ。傑作だがダークとは思わなかった。
「無名指の名前」レースとお呪い、蝶と妖精のフェミニンでダークなお話。真に美しいものに焦がれた幼子は、手段を選ばずに手を伸ばす。悍ましいほど無邪気な嫉妬。果ては美しい指に操られる傀儡。
「魅惑の民」難しい題材を取り上げた意味とは?それにしてもイニシャルにする以外にもやり方はあるだろうに……
「再会」この物語を冒頭ではなく末尾にもってくる構成の妙。異形の祭典。ファッション誌の文体模倣だけでも作品足り得るだろうに、ゴシックな青春小説の序章の趣が嬉しい。
紙の本
うっかり
2021/06/07 15:47
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投稿者:ツクヨミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
異形コレクションが復活していたことに、気づいていませんでした。
好きな作家さんたちがいっぱいで幸せです。初めて読む方もいて、嬉しや。
本当に、待っていました、ありがとう!です。
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1998年から続く、作家井上雅彦が監修するホラーアンソロジーシリーズ49冊目。
2011年の休刊から9年を経て復活。
復刊で初めて知ったシリーズ。復刊から矢継ぎ早に出ているようで(既に7冊!)、装丁が好みだし読んでみようかな~
「ロマンス」の定義がよくわからなくなる感じだったけど、恋愛色の強い話は少なめ。(恋愛以外に空想的な物語って意味もあるらしい。物語なら広義すぎて何でもありじゃない?って気もするが。)
櫛木理宇「夕鶴の郷」、上田早夕里「化石屋少女と夜の影」が好き。
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異形コレクションはこれがはじめて。
どれも面白かった。
中でも好きだったのは以下の5つ。
『ルボワットの匣』
一族に伝わる美術工芸品をめぐるモダンホラー。
忌まわしい匣の正体とは…。
『禍 または2010年代の恐怖映画』
ホラー映画の撮影班たちを襲う怪奇現象。
やっぱり澤村伊智のホラーは安定して面白い。
『馬鹿な奴から死んでいく』
SFホラーアクション。
勢いと、爽快なんだか悲惨なんだかなんともいえない気持ちになるしめかたが好き。
『ストライガ』
ユカリとアオイの視点ですすむ、猟奇的な愛の話。
グロテスクで倫理観がなかなかにやばいが、それでも事の真相が好み。
『いつか聴こえなくなる唄』
SFであり、ロマンティックな話。
平山夢明にしてはグロさもたいしてなく、話も純粋にいい話だなぁと、思ったけど…。
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9年ぶりに復活した"伝説の"書き下ろしアンソロジー・シリーズ。その復刊第1弾。
《ダーク・ロマンス》とあるが単なる「ダークな恋愛」ということでなく、モード界隈から因んだテーマらしい。
旧シリーズでの常連作家から、休眠期間中にデビューした新鋭作家まで粒揃い。文字通り「満を持して」の復活だと思える。
各収録作品など詳しくはこちらに。
https://rene-tennis.blog.ss-blog.jp/2020-11-27
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「異形コレクション」復活! そしてテーマの「ダーク・ロマンス」ってどういうのだろう、と考えてみましたが。案外と「ロマンス」の概念は広いものなのですね。だけどどの作品にも魅了されてしまうことは間違いなしです。
お気に入りは井上雅彦「再会」。一番最後に収録されているのだけれど、これってシリーズ再開のファンファーレにも思えて、どうしようもなく気分が高揚してしまいました。豪華絢爛なイメージの美しさに圧倒されます。
図子慧「ぼくの大事な黒いねこ」は猫好きにとっては外せない一作なのですが。しかもこの猫ってあれですか! 読む人にとっては恐ろしく感じるのかもしれませんが。しかしそれでもやはり猫は可愛くて魅惑的。「ぬこ」ってのもなんか可愛い。
櫛木理宇「夕鶴の郷」も酷い(褒めてます)物語。しょっぱなからこれって! じわじわとした恐怖感が高まる物語だったのだけれど、ラストでがつんとやられました。ほんと酷い(めっちゃ褒めてます)。
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櫛木理宇「夕鶴の郷」★★★
黒木あるじ「ルボワットの匣」★★★
篠田真由美「黒い面紗の」★★
澤村伊智「禍 または2010年代の恐怖映画」★★★
牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」★★
伴名練「兇帝戦始」★★★★
図子慧「ぼくの大事な黒いねこ」★★★★
坊木椎哉「ストライガ」★★★
荒居蘭「花のかんばせ」★★★
真藤順丈「愛にまつわる三つの掌篇」★★★
平山夢明「いつか聴こえなくなる唄」★★★
上田早夕里「化石屋少女と夜の影」★★★
加門七海「無名指の名前」★★
菊地秀行「魅惑の民」★★★
井上雅彦「再会」★★
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ホラー。短編集。
タイトルから恋愛ものを予想していたが、意外とそうでもない。
"ロマンス"には"物語"や"小説"の意味もあるようでした。
苦手な作品もいくつかあったが、好きな作品がメチャクチャに好きで、十分に満足できる内容。
大好きなシリーズなので、復刊はとても嬉しい。
以下、好きな作品。
櫛木理宇「夕鶴の郷」
"異形"と"ロマンス"と"恐怖"。タイトル的に想像していた内容はまさにこれ。
牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」
魔術、魔女、アクション。ダークファンタジー的な作品。パンクな雰囲気が心地良い。長編でも読みたい世界観。
図子慧「ぼくの大事な黒いねこ」
バイオSF猫ミステリ。世界観が素晴らしい。結末の意外性も良い。
平山夢明「いつか聴こえなくなる唄」
理不尽SF。本書での個人的ベスト。著者の短編でも「独白するユニバーサル横メルカトル」より好き。
上田早夕里「化石屋少女と夜の影」
考古学SF。妙にノスタルジック。ベタな展開ながら、とても良い物語でした。
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最近、SFアンソロジーを読む機会が増えたが、いくつかの作品解説の中に出てくるのが、この「異形コレクション」だった。異形って何だろうと思うよりも、この異形シリーズをどうやってゲットできるかから始まった。近所のどの書店でも扱っていない。新宿に行く機会があったので大手書店に行ったら、なんと最新作5冊がまとめてゴロっと置いてあったので大人買いした。待てよ?Amazonで楽に買えたかな。何でも今回読んだ49巻は2011年の震災で休刊して以来9年ぶりの復刊とのこと。
ホラー作家を中心としたアンソロジーのため、SF作品はそれほど多くはない。当初、ホラーアンソロジーに何故SFが含まれるのか疑問だったが、よく考えたらSFのショート・ショートの中にも内容によってはホラー作品と同じく背筋が凍るようなオチで終わるのもある。今回、SF作家は上田早夕里、伴名練、牧野修の3名。上田早夕里の作品はいつも通り素晴らしいストーリー展開であるのに対し、伴名練の作品はいつも通りダメダメ。
毎回一定のテーマでアンソロジーが編まれるようで、今回は「ダーク・ロマンス」。恋愛に関するテーマであることは間違いない様だが、序文を読んだ限りはこの「ダーク」のイメージがピンとこない。今回の本では何が「ダーク」なのかを探す旅になりそうだ。
さて、いつもどおり作品の感想を簡略に述べる。
〇 櫛木理宇「夕鶴の郷」
典型的な「砂の女」ストーリー。性描写がちょっと生々しい。ホラー作品ではこういうのが多いのかな、SFでは少ない。
〇 黒木あるじ「ルボワットの匣」
各所にちりばめられているクラッシックの名曲で、登場人物がピアノトリオ。そのためか私にとっては非常に読みやすかった。そして、不倫につきロマンスとホラーが同居しているので、「ダーク・ロマンス」の模範解答とも言える。
〇 篠田真由美「黒い面紗の」
わからない。
〇 澤村伊智「禍 または2010年代の恐怖映画」
呪われた映画作成現場というのはよくある話なのに。
〇 牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」
ベストSF2021にて既読。
〇 伴名練「兇帝戦始」
伴名練の作品はどの作品もダメだね。
〇 図子慧「ぼくの大事な黒いねこ」
そうなの。
〇 坊木椎哉「ストライガ」
百合の極み。愛が無くなると怖いな。でも幸せなんでしょう?
〇 荒居蘭「花のかんばせ」
言葉使い悪いね。
〇 真藤順丈「愛にまつわる三つの掌篇」
パス。
〇 平山夢明「いつか聴こえなくなる唄」
パス。
〇 上田早夕里「化石屋少女と夜の影」
本書の中で一番感動した。ハラハラドキドキ。化石って地味だけど、地球の歴史にも関係してくる。まさにSFの世界での活劇。アニメ、映画化しないかな。
〇 加門七海「無名指の名前」
パス。
〇 菊地秀行「魅惑の民」
ナチスっぽい感じだけど、戦争の悲惨さを短編小説で描くのは限界がある。実際の戦争はリアル地獄。戦争の恐怖、恐怖の描写は、文字にするのはとても難しい。その戦争に直接かかわった人が小説家であっても、心理描写を正確に書き留めるのは難しいだろう。ましてや、加害���が小説家だったら・・・
〇 井上雅彦「再会」
伴名練も同じだけど、編者は小説を書かない方がいいな。サポートに徹して、色気を変に出して俺も小説書けるんだよ感を出さない方が好感が持てる。
さて、残り4冊を続けて読もうか迷っている。SF作家だけつまみ食いしようか?それだと折角買ったのにもったいないな。ちょっと時間をおいて新鮮な気持ちになったらまたこの異形の本を手に取るだろう。
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十五人の作家による短編集。
「異形コレクション」の復刊とのことで、奇妙な味、あるいはホラー、ファンタジーが揃っている。
「夕鶴の里」は、かの「鶴の恩返し」「鶴女房」、舞台「夕鶴」を下地にした、恐怖の物語である。
知らない土地で助けられ、うつらうつら……。
夢現の中見たものに叫びが止まらない。
山に潜む異形のもの。
いったいなんなのか。
閉鎖的な、しかし開かれた村に潜む恐ろしい物をえがいている。
「ルボワットの匣」は人を死に至らしめる、決して開けてはならぬ箱のことである。
一家に代々語り継がれる人殺しの箱。
しかしその箱を開いた時の旋律はなんとも甘美な調べだという。
その箱が災いを成す理由、その箱に魅入られたものがどうなるか。
聞こえないはずの美しい音色が聞こえてくるような物語である。
「禍 または2010年代の恐怖映画」は、いかにも現代的な物語。
低予算で作り上げる映画、しかし呪いがかかったかのように怪しい出来事が続く。
どこまでが映画で、どこまでが現実なのか。
本文中のSNSに記載されるハッシュタグも穏やかでない。
「ストライガ」は、エロスが招くなにかにぞわりとする。
愛は手に入れたら満足か?
愛するものがどんな姿になっても愛せるか?
愛は無限か?
愛とは何かを問いかける少女の微笑みは、危険なものだと私の体が信号を発する。
ファムファタル、そんな言葉では収まらないほどの妖しい愛の形は、まさに、異形。
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遂に復活。じっくり焦らず読んで行こうと思う。
でも、異形コレクションで小林泰三さんの作品が読めないのが悲しい。
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「星新一ショートショート・コンテスト」でデビューし、以後も活躍を続ける作家・井上雅彦監修による、全編書き下ろしのテーマ・ホラーアンソロジーのシリーズ。それが「異形コレクション」。1998年にスタートして以来、2011年の48巻(!)までそのすべてを氏が企画・監修し、総勢200人以上の作家が参加した伝説的なシリーズながら、震災の影響を受け、その後は長く企画を見送られていました。
しかし昨年、9年ぶりに満を持してのシリーズ再開が発表され、49巻目となる『ダーク・ロマンス 異形コレクションXLIX』は、大きな反響とともに迎えられました。
ホラーアンソロジーを謳うものの、その収録作は幻想ファンタジーにSF、伝奇にミステリと常にバラエティ豊か。モードファッション界でトレンドだった「ダーク・ロマンティック」に着想を得たという今回のテーマ――『ダーク・ロマンス』への豪華な執筆陣によるアンサーもまた、いずれ劣らぬ粒ぞろいの作品群です。
ヴィクトリア朝時代イギリス。芸術家の卵たちが暮らす屋敷にやってきた、肖像画を描いて欲しいという黒い面紗(ヴェール)で顔を隠した貴婦人を巡る不穏な昔話(「黒い面紗の」篠田真由美)。“ホラー映画の現場で怪現象が起こる”ホラー映画を撮影する現場。相次ぐトラブルやスタッフの降板により製作は遅れに遅れ、「呪われている」と噂される映画の参加オファーを受けた編集マンは、映像に不可解な影が映り込んでいることに気づく(「禍 または2010年代の恐怖映画」澤村伊智)。草原の民である部族に生まれた少年は、毒草を飲まされ倒れているところを美しく艶やかな謎の青年・ゲンギケイに助けられた。東の国から逃げ延びてきたというゲンギケイは乗馬や狩り、話術にも長け、以来部族に溶け込んでいたが……(「兇帝戦始」伴名錬)。小さく貧しい港町で、異形生物の化石掘りとその加工で生活する紗奈。街の外の世界と学問への憧れを抱く少女は、浜辺で出逢った見知らぬ女性に「あなたのような子を探していたの」と告げられる(「化石屋少女と夜の影」上田早夕里)。
他、菊地秀行や平山夢明に真藤順丈と、ベテランから新鋭まで贅沢な顔ぶれが並ぶ、目眩がするほど絢爛たる、まさに“異形”のショーケース。
昨年は記念すべき50巻となる『蠱惑の本』が、そしてこの6月には早くも51巻『秘密』も刊行されるとのことで、スタイリッシュにリニューアルされた装幀とともに、今後がさらに楽しみなシリーズ。震えて待ちたい。
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黒木あるじ「ルボワットの匣」
篠田真由美「黒い面紗の」
上田早夕里「化石屋少女と夜の影」
が特に好みです。
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恥ずかしながら、異形コレクションが復活していることを、最近知った。編集序文を読むにつれ湧き上がる胸の高鳴り。開始12pを読んだだけで星5。
‥‥感謝。
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たくさんの名作が生まれ、他の短編集にも収録されたりした、異形コレクションが9年ぶりの復活。前のシリーズ刊行時には読めてなかったので、今度は続けて読んでみようと思います。