アンブレイカブル新刊

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アンブレイカブル
著作者：柳広司
発行者：KADOKAWA
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
主著に「ジューカーゲーム」「ロマンス」「楽園の蝶」「象は忘れない」「風神雷神風の章雷章」「太平洋食堂」などがある。

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1925年、治安維持法成立。太平洋戦争の軍靴が迫るなか、罪状捏造に走る官憲と、信念を貫く男たちとの闘いが始まった……。
『蟹工船』の取材と執筆に熱中するプロレタリア文学の旗手・小林多喜二。
反社会的、非国民的思想犯として特高に監視される反戦川柳作家・鶴彬(つる・あきら)。
同業他社の知人たちに不可思議な失踪が続き、怯える編集者・和田喜太郎。
不遇にありながら、天才的な論考を発表し続ける、稀代の哲学者・三木清。
法の贄(にえ)となりながら、男たちは己の信念を貫いた。

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第二次世界大戦直前の日本の中でも『治安維持法』というものは現代を生きる人間にとって理解しがたい法律ではあったけれど、うっかり今、この国の行く先に不安を抱く時、射程内にその恐ろしさが直に伝わってはこないか……

それこれ、うっかり一生懸命に読み込んでしまっての感想。楽しむ読書を経験した『ジョーカーゲーム』シリーズとはまた違って実在の人たち、東京大空襲の描写など真に迫ってきて、国を動かす力とは？というモノを考えてしまう。

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【収録作品】雲雀／叛徒／虐殺／矜恃
　いくつかの国がリアルタイムで行っている暴挙を思い起こすまでもなく、この国の中にある反知性主義の系譜を見る思いで読んだ。

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とても行間を読ませ、読後に色々な感想があふれ出す秀作スパイ小説（スパイ小説ではないけど）。治安維持法成立から敗戦までの特高や憲兵隊とアンブレイカブル（敗れざる者たち）との暗闘を描いているにも関わらず、一般市民がどうして戦争という道を選んでしまったか、所謂インテリ層が評論家に徹してしまった結果、国民の大多数が傍観者となり、麻痺して無関心になった（加藤陽子先生の「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」に通じる）ためにこのような恐ろしい結末を迎えてしまったことを、敗れざる者たちが陰影のように浮かび上がらせてくれる。歴史を学ぶ意義を改めて問いかけてくれる秀作歴史小説。

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これは過去の出来事ではない。今だ、今すぐそこにある闇だ。

日本が少しずつ狂い始めていた時代。治安維持法によって国民総監視社会へと染まっていった時代。
第一章の小林多喜二の段階では、まだ彼に毎週蟹工船の話をしていた二人の行動にニヤリとしながら読んでいられたが、少しずつページをめくる指先に震えるほどの恐怖を感じ始める。
これを、自分が生まれるずっと前の、「過去の話」と割り切って読むことのできない恐怖。

内務省の役人、いわゆる特高のクロサキがかかわってきた者たちの、人生と思想と、そして死。
これが、こういう社会が、形を変えてもしかするとまたすでに始まっている、そう思わざるを得ない。
これを読んで私たちは何を考えるか。考えることを放棄した時、すべてが終わる。

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著者の代表作『ジョーカー・ゲーム』シリーズを彷彿させるスパイ小説。なるほど内務省の役人クロサキがD機関の結城中佐的な役回りなのね、と思いきや全然違うことが徐々に分かってくる構成がニクい。個人的には川柳をはじめとする芸術の社会批評性に言及する部分がとても興味深かった。と同時に「治安維持法は本当に過去の遺物なのか？」という重い問いかけが読後に襲ってくる。

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　『ジョーカー・ゲーム』シリーズで知られる柳広司さんの作品を、久しぶりに手に取った。『ジョーカー・ゲーム』シリーズ同様に、時代は戦時下である。

　『ジョーカー・ゲーム』シリーズは、スパイ物であることを前面に出しており、時代背景とは裏腹に読後感は爽快で、からっとしていた。一方で本作は、戦時下の空気感を前面に出しており、当然ながら読後感は苦く、重い。

　悪名高き治安維持法を根拠に、暴走する特別高等警察、いわゆる「特高」と、内務省。その運用は、もはや恣意的などというものではない。そんな時代でも、屈することなく気高く生きた者たちがいる。歴史の教科書では省かれる事実。

　「雲雀」。タイトルくらいは知っている作品名と、作家。金に困っている2人への密命は、彼を嵌めること。名もなき一般人にだって矜持がある。本作中唯一、胸がすく1編だろう。彼らのその後に展望が開ければよいのだが。

　「叛徒」。憲兵隊の大尉には、強い信念があった。特高と我々は違う。だが、この時代では、その信念が裏目に出てしまう。軍人として高潔であることは、もはや求められていない。そしてこの国はさらなる泥沼に陥るのだ。

　「虐殺」。タイトル通りとしか書きようがない。直接的な描写はほとんどなくても、これは虐殺だ。その現実にあった事件は、知らなかった。内容自体はフィクションでも、このような虐殺の数々は事実なのだ。絶望しなかい結末…。

　「矜持」。全4編すべてに登場する内務省のクロサキにも、任務への矜持があったはずだ。戦況は悪化の一途を辿り、クロサキの感情も揺らぐ。幼い頃から、クロサキは呪縛に囚われていた。ある意味、最も影響を受けたのはクロサキかもしれない。

　実在の人物が多数登場するが、恥ずかしながら、その多くを自分は知らなかった。彼らが時代に殉じたからこそ、我々は現代の自由を謳歌している。そのことを忘れてはならない。なるほど、彼らこそ「Unbreakable」だ。