紙の本
待望の第二作
2021/03/26 09:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キハダ - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作「刀と傘」が良かったので購入。こちらは長篇だが、相変わらず時代背景を反映したストーリー運びや推理の進め方、そしてままならない登場人物の感情の描き方が唸らせる。前作とセットで読み返したい。
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幕末、薩長同盟に関わる会合が進められる中、長州の使者が襲われる。そばにいた薩摩者が血塗れで逃走するが途中で消えてしまう。
オチはかなり初期に分かってしまった。が、文章は読み易く、ある程度の時代背景を知っていれば楽しく読むことが出来る。
前作の方が好みではあった。
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また鹿野さんに会えて嬉しい。それに尽きる。
作風も勢いで読ませないで、じんわりと読ませるのが、ああ好きだなと思う。この方の作品って読んでて邦画を観てるときの湿気感を強く感じる。
ただ今作もとてもやるせない。
今作は流石に私も知ってる史実の人なので大枠の着地点を見ながら読めた。西郷さんと坂本さんらの方言がないのも新鮮で、個人的に良かった。
なにより鹿野さんがやっぱり魅力的で、会えて嬉しかった。それに尽きる。
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現代の日本に至る大きな歴史の転換期といえば、明治維新を外しては語れない。
伊吹亜門さんは、前作の『刀と傘 明治京洛推理帖』で第十九回本格ミステリー大賞を受賞し鮮烈なデビューを果たした。前作は連作短篇集でしたが今回は、維新の前日譚にして長編作品となっている。
時は慶応元年、坂本龍馬の仲介により薩摩藩と長州藩は協約を結ばんとしていた。
長きに亘った徳川幕府の世から新たな日本の夜明けを切り開こうとしていた矢先に、秘かに協約締結を阻む保守派が対峙し容易には事が進まない。密約を成就するため、中岡慎太郎と長州藩の一行は薩摩藩西郷吉之助を説得するため上京した。当時京は、会津藩松平容保の京都守護職見廻組又は新撰組の襲撃を覚悟しなければならない危険地帯だった。
主人公の探偵役尾張藩士公用人鹿野師光(かのもろみつ)は、龍馬から事件の真相を捜査依頼された。事件は、長州藩の柳生新陰流免許皆伝の小此木鶴羽(おこのぎつるは)が何者かに斬られ瀕死の状況にある。不可能犯罪が起きたのだ。犯人次第では、薩長協約は破断になる緊迫状況だ。
以上が触りのあらすじです。
この小説が面白いのは、歴史上実在の人物と師光との掛け合いではなかろうか。
そしてまさか〇〇がそんな事をする訳がないという固定観念を破っている点だと思う。ミステリーのありうべからざる常識を排除しなければ読めない。
幕末ファンにとっては、過去に読んだ書の知識を覆すかもしれないが、歴史を知らなくても十分面白い作品に仕上がっている点だ。史実は変わらないが同盟の成立過程に、ミステリー性を盛り込んだ作品です。まあ想像と発想は自由ですから。
実におもしろい。
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前作『刀と傘』の前日譚で鹿野師光が主人公。
坂本龍馬が働きかけた薩長同盟が実現しようとする時に長州藩士が斬られる事件が発生。彼の友人でもある薩摩藩士がその場から立ち去ったのを目撃される。師光は下手人と思われる薩摩藩士の捜索を龍馬に依頼されるのだが‥
薩長同盟という歴史的事件が絡み、龍馬や西郷隆盛、新撰組の土方など著名人も多く登場。なぜこの事件が起こったのかという謎を紐解く話で、ミステリというよりは歴史小説として面白かった。それぞれの大義がぶつかり合う時代だからこそのストーリーでなかなか切ない。
前作の師光と江藤新平のコンビの方が好きだが、こちらも大変面白かった。
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『刀と傘』があんな終わり方だったので同じシリーズとはどう続けるのかと思ったら、前日譚だった。
坂本龍馬の仲介により薩長同盟が結ばれようとしていた慶応元年、桂小五郎の命を受けて上洛していた長州藩士・小此木鶴羽が同じく上洛中の薩摩藩士・菊水簾吾郎に斬られるという事件が発生。しかも菊水は密室状態の事件現場から消え失せてしまった。幸い小此木は命だけは助かったものの、意識不明の重体。
このままでは同盟を結ぶどころか再び薩長が敵対してしまうと危機感を抱いた坂本龍馬は、尾張藩士・鹿野師光に菊水の行方を追うよう依頼する。
前作では助手役に徹していたように記憶している鹿野だが、この作品では助手役としての捜査能力とそこからの推理力を発揮する探偵役としての両方をこなしている。そして坂本龍馬も感心させる見事な謎解きをするのだからやはり優秀な人間だったのだなと分かる。
目撃者の証言や人が通り抜ける隙間のない鳥居道など、密室状態の事件現場からどうやって人間が消失したのかという謎についてはワクワクさせられるが、こういうものは大抵どこかに抜け穴があるものなのでそれほど驚かされない。ましてや事件の真相が分かってみれば。
この作品のテーマは人間消失の謎解きではなく、敵対していた薩長がそれぞれの立場を越えて結ばれようとしている大事な時に、何故このような事件が起きなければならなかったのかということ。
もともと小此木と菊水は互いに折衝役として親しかったらしい。互いに今が自藩にとっても相手にとっても重要な時期だと分かっていたはず。それなのに何故こんなことが起きたのか。
鹿野の捜査が進むに連れ、幕府と新選組、西郷率いる薩摩藩、長州藩、それぞれが暗躍していたことが分かる。
犯人にとっての計算外は鹿野が予想以上に優秀な警察官であり探偵だったことだろうか。
この作品での西郷や坂本は腹の底で何を考えているか分からない不気味さがある。むしろ新選組の方は血の気は多くて危険だが正直で分かりやすい。
読み終えてみれば歴史ミステリーというよりも歴史もののドラマを読んでいるような感覚だった。
鹿野という架空の人物を通じて、歴史的な出来事である薩長同盟が違うイメージに映る。
結局のところ、本当に国のためを考えて動いた人間はどれほどいたのだろうか。自藩のため、もっと言えば自分の利益のために動いた人間ばかりだったようにも見えてしまう。
これこそが国のため、正義のためだと信じて行動したことがアッサリと瓦解してしまったり、様々な奸計や調略を弄してまで進めたことも突然途切れてしまったり。
明日どころか、今日一日生きていられるかすら分からない時代に様々な価値観が行き交う中で自分なりの意志や正義を文字通り命がけで貫いた人たちがいたからこそ幕末ものは魅力的に映るのかも知れない。
最後にあの人が現れて『刀と傘』に上手く繋がった。
※「刀と傘」レビュー
https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4488020062#comment
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時代ミステリー、前作に比べると格段に面白かったが、ラストが…大きな志があろうが無かろうが、人の儚さ、嫌らしさ、どんな時代でも。「不安の種を探してたら一歩も前には進めない。まずはやると決めて、実際どう動くかはその後で考えればいい」
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この作家のデビュー作「刀と傘」という圧巻な作品を先日読んだ。受賞作品後の初めての長編作品「雨と短銃」は、前野作品の時系列的には前の物語になる。
戦国時代から平和になった江戸時代。だが、幕府である徳川以外の藩の力を削ぐことを考えた数々の政策で、江戸幕府は近代化、貿易という選択を手放してしまう。確かに細々とはしていたが国民が潤うというほどではなくその恩恵も一握りであった。だが、長い平和で唯一無二の文化を成熟させた。
その徳川の時代を力で、流血で力尽くで塀を取り崩し崩壊させた新しい政府が明治政府。
その成り立ちの短い時間に何が行われたのか?
数々のエピソードは輝かしい英雄伝。
だがしかし、本当は鉄の匂いが至る所に匂う、血で血を洗うような戦いがそこかしこであった時代だった。
薩長連盟を築く、誰もが知っている坂本龍馬の交渉事の裏にあった一つの事件を尾張藩公用人、鹿野師光が謎を解くのだが。
時代の裏側にあった闇を一つ一つ掘り起こす。
時代小説ミステリー。たっぷりと重厚な読み応え!
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内容は勿論の事、文章の小気味良さが好き。無駄がないから緊迫感もハンパない。血を血で洗う場面でも、ページのそこかしこから鉄錆の臭いさえ湧いてくる。龍馬=絶対正義のように刷り込まれてきた私には、「おお、そうきたか」と最後はもの悲しい。次作が早くも待ち遠しい。
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「刀と傘」前日譚に当たる時代ミステリ。薩長協約が結ばれる直前の時代を舞台として、神社で起こった殺人未遂事件の犯人消失の謎や隠された謀略などが描かれます。個人的には日本史があまり得意でなく、特にこのあたりの情勢は本当にざっくりとしか知らないのですが。それでも充分に面白く読めました。歴史の勉強にもなるかも。
坂本龍馬に依頼され、事件の調査をする鹿野師光。どちらの味方、というわけでもなく世情を大局的に見ている彼の目線はまさしく探偵にふさわしいものかも。そして動機を巡る各人物の思惑を掘り下げる調査部分も面白いのだけれど、読みどころはやはり息を呑むような剣戟のシーンかな。とかくカッコよくてスリル満点。師光はこの後の登場があるので無事なのはわかっているけれど。それでもはらはらさせられました。
事件の真相が何ともいえず悲哀。大きく時代が動くための礎にされてしまったということなのか……。やりきれなくはあるけれど、だけどそういうものなのかもしれませんね。
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薩長同盟の立役者、坂本龍馬とその陰で起こっていた事件。
歴史背景がしっかり魅力的で、今作でもまたこの時代を生きる人の業がもの哀しい。
前作の結末にもまた思いを馳せて、誰もが己が信念の為に身を堕とすことはあり得ると...。
人の生き死にに善人も悪人もない。
こういう時系列だと前作もまた読み返したくなるやつ。
あとはあれ、もしかしてこれは局所的なアクロイド殺しオマージュなのかな??
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2021/08/17 読了。
図書館から。
シリーズ2作目ですが、前日譚の長編。
知った名前がたくさん出てきますが、
謎解きの部分はしっかりしていると思います。
史実に絡めて、
こういうのあったらなってことですよね。
歴史推理小説・・・流行ってるのかな…。
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慶応元年、坂本龍馬の仲介により薩摩藩と長州藩は協約を結ばんとしていた。長きに亘った徳川の世から新たな日本の夜明けを迎えるのだ。しかし、一件の凶事が協約の締結を阻む。上洛していた薩摩藩士が稲荷神社の境内で長州藩士を斬り付けたというのだ。更に下手人は目撃者の眼前で、逃げ場のない鳥居道から忽然と姿を眩ませた。このままでは協約協議の決裂は必定、倒幕の志も水泡と帰す。憂慮した龍馬の依頼を受けて、若き尾張藩士・鹿野師光は単身捜査に乗り出す。歴史の大きな転換点の裏で起きた、不可能犯罪の真実とは。破格の評価を受けた『刀と傘 明治京洛推理帖』の前日譚にして、著者初となる時代本格推理長編。
坂本竜馬に頼まれて事件の調査を行うという探偵もの。時代が幕末だから使える道具も限られる中で、しっかりトリックが仕込まれていて感心しました。
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菊水は薩摩藩。
小此木は長州って所がまずは。
稲荷に向かったのを見たのは坂本。
菊水を逃したのも坂本。
雨に…雪駄?すべるじゃんとそこ引っかかるのは雪駄を日常的に履いているものだから仕方ない。
…とここまでが読んでいた時のつぶやき。
物語として、歴史舞台としても面白い。
前作を読んでいないのでラストの導線が前作にどう繋がるのか期待値が増した。
犯人は正答。
ただ菊水をわざと逃したと読んだが、そこは誤答だった。
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「刀と傘」から続けて読んでみた。
前作の短編集の方が密度も切れ味も高かったとはいえ、こちらも充分に水準の高い時代ミステリだった。師光の活躍をもっと読みたくなったので、次作を期待して待ちたい。短編集だとなおうれしい。