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国際関係論や安全保障についてイチから学べる時間を得たので、早速国際関係論の本を手にとってみた。
本書は、国際関係論の理論と実際の論文のギャップを埋めることを目的として、国際関係論の論文でどのような方法論・研究手法を用いて分析するか、実際の論文形式で提示している。
本書が取り上げる研究手法は、①ゲーム理論、②計量分析、③テキスト分析、④サーベイ実験の4つであり、これら手法がどのように使用されているか実例を見ることができ、大変参考になった。
上記4手法は、言語学的な方法論の枠組みでは、①ゲーム理論は思い当たらないが、その他はそれぞれ②統計分析、③コーパス言語学、④アンケート調査と置き換え可能であろう。
感想としては、上記4手法が具体的にどのように用いられているか参考になったものの、初歩的な数式の作り方や重回帰分析など、社会科学的な専門用語、数式の知見がないと初学者の私にはよくわからなかった。
特にゲーム理論と計量分析に関しては、初歩の初歩から勉強して、実用できるようにはなりたい。
以下、備忘録
・〔引用1-2頁〕国際関係研究の主要理論体系であるリアリズムは,ケネス・ウォルツ(2010)がハンス・モーゲンソー (2013) らによる伝統的理論に構造主義の観点を導入して成立した. 同論は国際的アナーキー (無政府状態) において自己保存が主権国家の主要目的となり, 主権を脅かす覇権に反対する同盟形成などの均衡化行動が生じ, それによる分権的国際秩序, いわゆるウェストファリア体制が維持されるという命題を示した.
その一方, リアリズムに競合するかたちで発展してきたリベラリズムは,エルンスト・ハース (Haas 1964) らの新機能主義の国際機構論に対して,ロバート・コヘイン (1998)が合理的選択理論を組み入れて構築された.同論は,分権的秩序のなかで、たとえ同じ目的を持った国家の間でも情報の不確実性や取引費用の高さが原因で政策対立が生じ、国家の自助努力のみではそれを解消できないため、合理的な国家は、対立からの不利益を減らすために国際制度を構築して問題を除去するとして制度の構築理由と効果について斬新な説明を施した。
第3の理論体系として台頭してきたコンストラクティビズムは,ヘドリー・ブル (2000) らによる国際社会論に, アレキサンダー・ウェント (Wendt 1999)が間主観性の論理を加えて,国際的アナーキーの中でも,間主観的認識(共有認識)をベースに、その伝播や浸透を促す認識共同体が組織され、結果、国際規範の形成が可能となることを論じた。
・〔引用7頁〕そこで本書は,このような欠落を補い、我々が有用と考える量的方法を解説し、それらを適用した論稿を紹介する. 上記のような状況に鑑み,本書は,現代社会科学で開発されている4種の方法を紹介〔中略〕
本書は, ゲーム理論, 計量分析, テキスト分析, サーベイ実験という最新の社会科学の方法を解説し, 安全保障, 貿易, 金融, 難民問題などの領域において衰微が懸念されている国際制度の考察に適用し, 国際制度の効果・脆弱性・再生に関する洞察や知見を提示する. こうした解説と分析事例を通じて 現代の量的方法の効能と今後の課題を示す.
・〔引��9頁〕1 ゲーム理論
ゲーム理論は,人間社会の様々な現象に内在する意思決定の相互作用という状況に着目して,その戦略的構造と帰結を論理的に解析することを目的としている。複数のプレイヤーがもつ選好(予想される帰結の順位),行動の選択肢,相手の選好や選択肢に関わる情報という変数を想定し、一方の決定が他方の決定に重要な影響を及ぼす状況を想定したうえで,双方の決定の間の因果的連鎖を解析し,どのような帰結が安定した均衡状態として生じるのかを予測する方法である.
従来, ゲーム理論は,極度の緊張をおびた戦略的状況を想定し,武力行使か否かという問題に関わる国家間の対立を研究の対象としてきた.しかし近年では,ゲーム理論が,本書の課題である国際制度の分析にも適用されるようになってきている.たとえば,制度のルールに対する遵守,紛争解決手続きの実効性,制度に付随するただ乗り問題, 法の実態と効果, 国家と国際機関の関係を射程に入れ、 最先端の研究動向の一角を形成している.
・〔引用11頁〕2 計量分析
量的方法の起源は、19世紀中盤の英国でジョン・スチュアート・ミルが考案した比較法にある (ミル 2020) この方法は複数の例を比較して, 要素間の因果関係を検証する古典的社会科学の方法である. なかでも、差異法は,異なる結果に対しては,それらに対応する異なる原因があるはずであることを前提とし、その対応関係を複数の例から見出そうとする.また,一致法は,同じ原因からは同じ帰結が生じるはずであることを前提として, 事例に含まれる無関係の要因を排除してその共通原因を抽出する方法である。現代の比較事例法は,このミルの方法を発展させたもので,国際関係研究の多くの分野で適用されてきた。
ただし、説明される状況が複雑化し (前出の例で貿易自由化でも程度の差がある),それを説明する独立変数も多様である(民主化にも程度の差がある)ならば,従属変数と独立変数の組み合わせの数は急激に増加してしまう.また,貿易政策に影響を与える他の関連要因として工業化,都市化なども考えられ,これらの要因は従属変数に影響を及ぼし, 独立変数の効果も相殺することが考えられる。事実, 19世紀中盤の英国でも民主化に先駆けて工業化と都市化が進み, 農村から精神的に自立した都市がいまだ民主化しないまま, 都市の経済的繁栄を目的とした貿易自由化を政権に対して要求したとも考えられよう.そうならば,当初想定していた独立変数と従属変数の関係は擬似相関である可能性が出てくる.さらに, 同様の要因が増えれば増えるほど、比較事例法ではきわめて多数の例を検討することが必要となる.
・〔引用35頁〕国際的なジレンマの文脈において、相手国の不安を解消することを通じて自国の不安の解消を図る政策を安心供与と概念化できる。相手国の不安を解消するための意図のコミュニケーションは、一般に、各国が単独あるいは共同での声明等(宣言政策)を通じて意図の言明、確約、保証、誓約、約束を行ったり、それを関係国間で互いに確認して条約などを締結したり、あるいは軍備の拡縮や軍の配備・装備等の変更などを通して行われる。
・〔引用38頁〕〔西太平洋地域に関して〕これらを条約地域とする単一の多国間同盟は形成されなかったにもかかわらず、〔中略〕米国を基軸とした一連の���盟は相互に連結。〔中略〕〔「ハブ・アンド・スポークス」型の同盟構造は〕その同盟国を単一の多国間同盟に包摂するのでなく、別個の二国間同盟あるいは三国間同盟に束ね、基軸たる米国はすべての関係国を同盟国とする半面、他の関係国は基本的に米国以外に同盟のパートナーを持たない階層構造を築いた。