紙の本
『松本隆 言葉の教室』
2021/12/30 22:30
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
木綿のハンカチーフ、君は天然色、ルビーの指環、赤いスイートピー、硝子の少年……
作詞家生活50年を迎えた松本隆が作詞の神髄を語り下ろす
〈「雨のウェンズデイ」では菫色がいろんなことを物語っている。菫色は葉山のイメージ。〉
〈「春色の汽車」はオレンジと緑色の湘南電車のイメージです。〉
〈当時コットンという言い方が一般的で、木綿はほとんど死後でした。そこを敢えて「木綿」にした。ここは「木綿」以外になかった。〉
〈Kinki Kids に書いた「硝子の少年」は、ジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』がモチーフにあります。〉
など、大ヒット曲の着想を惜しげもなく披露
そして……
〈大瀧詠一さんが唄う「君は天然色」は、ちょうど妹が亡くなった頃つくった詞です。〉
70年代、80年代の楽曲が脳内リフレインすること間違いなし
伝説のロックバンド「はっぴぃえんど」を知らなくても楽しめるエピソードが満載
夕陽を言葉にしてごらん
世界が一変するよ
著者はラジオプロデューサー、作家
著者による「松本隆をめぐるナイン・ストーリーズ」も収録
投稿元:
レビューを見る
説明する文章とは全く違う。
削ぎ落とした言葉で、誰もが持ってる感情やイメージを想像させるって、もはやアートだと思う。
投稿元:
レビューを見る
めちゃくちゃおもしろいー
立体的な世界!
ディティールをまわりに積み上げていって、肝心なことを書かない、
歌詞ってほんと楽しい〜
最後の方はあんまり興味湧かなくて読まなかったです
投稿元:
レビューを見る
ずっとノイローゼのようになっていて、看病だ、身内の葬儀だ、実家の売却の相談に乗れだ、卒論どころでなく、文字を読むのも苦しい。論文の締切は刻々と迫り、書くことも纏まっているはずなのに、雑文やチャットも書けなくなってゆく。商業で私のような文字書きに
『やってみないか』
といってくださるお話も、万全でないものはお渡ししたくないから、これもご辞退申し上げる。ただ、眼前の、肩に背負わなくてはならないことだけは、ひとつずつ、何とかしていくしかない。でも、それができていたとしても、内側の私は普段どおりではなくて。
言葉を使わないということは、世界から隔絶していくことで、ふっとエアポケットみたいになった時間には、ただぼんやりと天井を見て、息をするのも苦しかった。言葉はいつも、世界への扉で、鍵で、味方だったのに。なんにも感情が動かない。そんなふうに。
死ぬことと遠くに行くことしか考えなかったこの数ヶ月。急に今日になって、突然本を読めるようになった。砂が水を吸うように、すごい勢いで読み進む。延滞して、もうさすがに図書館に返したい本の山から、今日の6冊目はこれだった。
松本隆さんの関わったアルバムで、映画『微熱少年』のサントラが、ものすごく好きだった。はっぴいえんどは知らないけれど、大滝詠一さんであったり、松田聖子さんであったり、好きなので…松本さんの詩に、いい!と思い続けてきた私は、これのレビューを見て、読んでみなくてはいられず、必死で借りて。読まずに返却したら、まるで二度と本が読めなくなるような、おかしな思い詰め方をしていた。
端的に言って、この本の表紙の、ターコイズブルーのジュレップを飲んだような、すうっと心地の良い読後感だった。誇張も自慢もない。ただ、確かに歩いてきたひとの、穏やかな語り口があった。その印象は、一度テレビで拝見した松本さんの印象と綺麗に重なって、ほっとした。
私が言葉を意識的に書くようになったのは、高校からで
つたなく稚い詩が最初だった。その頃、私の作品を読んだ上級生は
「これは上手いけど、詩じゃない。歌詞に近いんだ。もっと詩らしく書きなよ」
と、批評をくれた。その後、私は書きくちを変えて校内誌に投稿をしていたが、自分のノートに書くものは、相変わらず、もとの風味があるままだった。バンドで歌ったりもしていて、詞も書いていたから、それはそういう部分を切らないために、私が無意識に活動の場に合わせてものを書いていたのかもしれなかった。
詩にも、俯瞰とリズムと。書いた字面の印象が大事だ。言葉、と書くのと。ことば、と書くのと、コトバは違う。行間のリズムや韻が心地よくなくて、風景が見えないのはつまらない。そう思って書いてきた。それらは、私に、詞っぽい詩を書かせ、しまい込ませたり、息を吹き返させたり、私の折々に、ひょこっと気まぐれに顔を出してきた。
この本を読んで、松本さんのような天才はすごくて、この『言葉の教室』で、私のようなタダの音楽好きの、駄文字書きにも、こんなのはダメなのかな、としまい込んだ、でも大事にしていた何かを
「あ、これ。こういうことだ。私のこれ。きっと。」
と、明るいライトが灯るような思いを分けてくださった。文章には、物語と風景と、思い出と、書いてない先の先が、ほのかに光っていなくちゃ。
そして、他の方に触れていただくものは、趣味でも商業でも、うつくしい日本語で語りたい。小綺麗、ではない。糊の効いた日本語に、風合いを付けて使いたいのだ。そのためには上質のインプットもすごく大事だ。小さなこの本は、いっぱい気づきをくれた。
読み終わった時、どうしてか音楽を聞いて寝そべりたくなって、ワイアレスヘッドホンの充電を慌てて始めた。こんなに書いたのに、まだ銀色のヘッドホンの充電は、終わっていない。ライトが瞬いて、沈黙も心地よい。ならいっそ、アイスコーヒーを淹れて、台風の心配でもしながら、カーテンを閉めよう。
まだ論文は無理だけど、死ぬのはもう少し先でいい。神さまの言うとおり。だ。
普段の文章なら、また書きたくなりそうな、そんな夜になった。
投稿元:
レビューを見る
松本隆(1949年~)氏は、言わずと知れた、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION」、寺尾聰「ルビーの指輪」、松田聖子「赤いスイートピー」(ほか、24曲連続オリコン1位のうちの17曲)など、数々のヒット曲を手掛けた作詞家。シングル総売上枚数(2015年時点)は約5,000万枚で秋元康、阿久悠に次いで3位、シングル1位獲得作品数(同)は47曲である。作詞に専念する前は、細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂と組んで「はっぴいえんど」のドラマーとして活動していた。
著者の延江浩(1958年~)氏は、慶大文学部卒のラジオ・プロデューサー、作家。アジア太平洋放送連合(ABU)ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ等を受賞している。
本書は、松本が作詞について語ったことを著者が文章にした、いわゆる聞き書きである。(後半には、著者が松本の音楽・作詞活動について綴った「松本隆をめぐるナイン・ストーリーズ」が加えられている)
前半の章立ては、レッスン1「記憶は宝箱 創作の源」、レッスン2「視点と距離 どこから切り取るか」、レッスン3「光と陰 美しさを際立たせる」、レッスン4「あなたが好きって伝えたい」、レッスン5「リズムとバランスと美意識」、アフターレッスン「松本隆のポリシー」となっている。
いくつか印象に残ったセンテンスを挙げると以下である。
◆「テクニックに頼った瞬間、言葉は浅くなるんです。・・・意識には顕在意識と潜在意識とがありますが、テクニックや定型が向かうのは顕在意識のほうで、ここにいくら訴えても感動は生まれない。言葉は潜在意識に届けないと、人の心は動かないんです。」
◆「夕焼けを美しいと感じるとき、そのまま切り取っても、美しさは十分には伝わらない。・・・いちばん美しく見えるように、光と陰のバランスを調整する。陰を深くしたり、光を強く当てたりするのがデフォルメ(誇張)。針で突っついてやると増幅して波形がおおきくなる。それがアンプリファイ(増幅)。・・・どの角度から、どの部分を、どんな風に切り取るか。・・・コツは説明をしすぎないこと。余白を持たせる。間とか隙間が大事。」
◆「長いものより短いもの、難しいものより簡単なもの、複雑なことより易しいこと。ぼくにとって、世界でいちばん優れていると思う歌詞が、ジョン・レノンの「イマジン」です。難しい言葉がひとつもなくて、シンプルかつ短い言葉で表現が成り立っているでしょう。・・・難しいことを難しく言うのは簡単だけど、難しいことを易しく言うのは本当に難しい。表現を易しくすると、言いたいことが感動に値するか、あらわになる。」
◆「歌の快感は、音にしたとき気持ちいいかどうかで決まります。意味はあとまわしでよくて、大切なのはリズム。気持ちのいい語感かどうか。日本語として気持ちいい語感というのは、リズムやイントネーションによってつくられる。」
私は松本より一回り以上若い世代ながら、今でも、大瀧詠一の「A LONG VACATION」や松田聖子の若い頃のベスト・アルバムをよく聞くし、松本の詩の世界にはとても惹かれるのだが、本書を手に取ったもう一つの理由は、最近短歌を作り始めたことにある。
松本は、はっぴ���えんどで「日本語ロック論争」に挑んだ人間だが、その「日本語でロックを作る(歌う)」戦いとは、短歌で言えば「口語で短歌を作る(詠う)」戦いともいえ、俵万智がその戦いで、松本と同じ役割を果たしたのだ(1987年発表の『サラダ記念日』)。その俵万智は松任谷由実に、また、同世代の穂村弘はザ・ブルーハーツに影響を受けたことは有名で、口語短歌は日本語ロックの作詞技術を取り入れて洗練されてきた。よって、松本の作詞の心得が、短歌作りに役に立たないはずはないのだ。
松本の詞のようなかっこいい短歌が詠えるようになりたいものだと思う。
(2021年12月了)
投稿元:
レビューを見る
日本歌謡史に残る、数々の名曲を誕生させた作詞家・松本隆。当時私は、曲先行で好みを選んでいたが、「これ、だれの作詞?」と、”言葉”の方を意識し始めたのが、松本隆さんの曲だった。昨年、トリビュートアルバムを購入し、TVの特別番組を拝見し、彼の作詞に対する姿勢に大変興味をもった。「言葉の教室」というタイトルのこの本は、予想した内容とは若干違ったが、それでも、人の心の琴線に触れる言葉を生み出すために実践されている松本氏の数々のエピソードに心打たれた。言葉の奥深さと美しさ、そして可能性について見つめ直してみたいと思う。
投稿元:
レビューを見る
「木綿のハンカチーフ」「ルビーの指環」「硝子の少年」…。2000曲以上を手掛け、50曲以上がヒットチャート1位になるなど、数多くの記憶に残る曲を生んだ松本隆。稀代の作詞家の、言葉とのつき合い方について解説する。
やさしい言葉で書いてあるので読みやすい本。でも、詞はそんなに簡単に書けないと思う。
投稿元:
レビューを見る
大好きな曲たちの生まれた背景が洪水みたいに次から次にページから溢れてきて純粋に「うわ〜〜おもしろ〜〜」となりながら読んだ
投稿元:
レビューを見る
作詞家の考え方が少しだけ分かったような気がする。松本さんは古き良き日本語(死語)を歌詞にして守られている。
日本語のもつ優しさややわらかさは、声に発することでより浮き上がる。日本語のまとまりは3.5.7が1番しっくりくるのだそう。俳句や短歌が根付いているのはこういう理由かもしれない。
目に映った情景を言葉にすることで、案外色んなものを見ていることがわかる。その情景に心打たれるか、無関心か。日常に心動かされる人間でありたい。
投稿元:
レビューを見る
この本は教室という言葉が題についているため、作詞方法やアイデアの作り方など、何かしらの学びを習得しようとする方が読むのかもしれない。そういった、本の内容を箇条書きにしてまとめるような、学びの情報のみを求めている方には向かないと思う。
松本隆のこと、はっぴいえんどが好きだった方にはきっと届くはずだ。
松本隆はこぼれ落ちるものさえ魅力的なひとだ。
まさしく潜在意識をつつくような本だった。
作り手の愛情が届く本は素晴らしい。
投稿元:
レビューを見る
つい読んじゃう松本隆もの。
しゃーないよね、パラパラと開いたら、知ってる詞がたくさん並んでいて、その舞台裏を語ってくれているのだから。
でも、どこかで聞いたような話も多いし、聞き手が突っ込んだ質問をしてないのか、松本隆が好きなように語りたいことを語っている域を出ていない気がする。同じ松本隆との対話の書き起こしなら『喫茶店で松本隆さんから聞いたこと』(夏葉社)のほうが面白い(https://booklog.jp/edit/1/4904816374)。
本書は「~教室」というタイトルの割りに、作詞、あるいは言葉の使い方についての教えは少ない。それは冒頭、松本隆も「定型やテクニックは、ぼくからいちばん遠いところにあります」と切り出しているので、そういう内容でないことは知れる。詞の作り方なら、むしろ『喫茶店で~』のほうが、その心がけが語られている。
「僕が使わない言葉は、言わなくてもいい人称代名詞。(中略)理由は字数の無駄だから。重要なところに「あなたに」なんて書いてしまうと、それだけで四文字も使っちゃう。それを言わなくても分かるように書けばいいわけだから、必要最小限度にとどめる。そうすれば、ほかでいろんなことが言える」
「否定形を使うと一見かっこよくなるんだよね。(中略)でも、「not」を多用しているとどんどん弱くなってくる。心理学的にはマイナスの方向に働く力だから。あんまり多いと世の中が暗くなるの。それを歌のなかでやりたくないから、できるだけ「not」を削ろうと思うのね」
もちろんこれもテクニックの話ではない。ただ、こうした話者の思いをいかに引き出せるか、そのあたりが聞き手の力量か。
本書は、その時代時代の想い出や裏話的な話題が多いのは、聞き手(著者)が松本隆と同時代を過ごし(世代が近い、出身校が同じ等)、業界的にも近いところにいたことが災いし、そうした思い出話を面白いと感じ傾聴してしまった結果か。よう知らんけど。
とはいえ、「定型やテクニックは、ぼくからいちばん遠いところにあります」と語ったわりに、多くの作品を並べて語らせることで、色をいかに表現するか、目に見えないものをどう表わすか、対象との間に1つフィルターを挟む作詞家の視点など、松本隆のテクニックが垣間見える内容になっているのは逆説的に面白い。
“「ポケットいっぱいの秘密」の秘密”の話は、面白かった!
投稿元:
レビューを見る
夕日を言葉にすることが
いかに大切なのか、、
言葉に出来ない人は言葉にしようとしていないし
心のフィルターがそもそも 綺麗な景色色々なものを
捉えようとしていないのかもしれないね。
車じゃなくて、歩いて何処かへ向かう その道すがらに何かを掴むのかもね。
投稿元:
レビューを見る
松本隆の言葉との付き合い方について、本人へのインタビューを通じてその片鱗を垣間見ることができます。難しいことは語らず、ただただシンプルな内容が語られており、まあ、やっぱり才能やセンスに溢れているんだろうなぁと再認識しました。
投稿元:
レビューを見る
三人称の醍醐味についてとても勉強になりました。
自分の感動や思い出がフックになっていても、三人称の世界や二人の対比に世界に落としていく松本さんの表現。だから共感度が高いのか
Amazon ミュージックで松本さん作詞の曲をかけながらの読書。とても贅沢な時間になりました。
投稿元:
レビューを見る
大滝詠一と松本隆のキラーコンビに陶酔殺戮されたあたしがこの本を読むことは必然だった。実際、雨のウェンズデイを聴きながら幾つも落涙をした。どうしようもなく、恋!
県北の教会へと続く旅路にこの本を携えて汽車を、バスを乗り継いだ。彼の作詞した曲をいくつも聴きながら。流れる景色に言葉とメロディが耳と目に優しかった。恋煩いを限りなく正しくしていることを自覚した。
好きよ、は一番好きな言葉です。そう書かれていた。とってもときめいた。あたしだってなんどもすき、と伝えたでしょう。だのになんだか流れて行くみたい、いつも。歌詞って、歌って、とってもずるい!だって恥ずかしくないんだもの、きちんと染み込むかんじがするでしょ。松本隆さんみたいなことばをもって好きを伝えられたらいい、好きって言葉を使わずとも。装丁の緑がかったブルーが美しい。図書館で借りたけれど、購入したいと思っている。あの日sweet memoriesをあなたと唄ったね、甘い記憶ってほんとうにあるんだとわかったの。過ぎ去った過去、しゃくだけど 今より眩しい、ってあたしもそう思う。君は天然色の妹さんのエピソードを、大滝詠一に伝えることもなく彼が亡くなってしまったこと、初めて知った。大滝詠一がこの世に居ないことが本当に悲しい。あまめく歌声をもっているひと、あたしの恋を深くしたひと。美しい仕事をするひとが好きです。随分と堕落したわたしの生活も(どこでまちがえたのか?)と呟くはっぴいえんどの春よ来いを聴きながら愛していきましょうね、言葉を育てて伝えたいひとがいることを忘れちゃいけない