人の研究を笑うな カイチュウ博士８１年の人生訓

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者：こゆき　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

ユーモア溢れる文章で｢笑うカイチュウ｣など数々の名著を世に送り出し、寄生虫（って失礼な呼び方かしら）に対する親近感を高めて下さった藤田先生が亡くなられたことは地球の大いなる損失だと思っていた。
周囲の読書ファンの中では藤田先生が好きだという人が沢山いたし、自分が好きな作家の中でも評判の人だったから。（ひょっとして偏った読書歴だったのかしら）
その明るく楽しい藤田先生が、戦時中は生きるか死ぬかの苦労話をなさり、家庭の愛に恵まれず、学校ではいじめられ、大学では冷遇されていたとは……。しかし先生は我々にはいつも明るく笑って楽しい話ばかりをして下さっていた。その人生哲学とは……？！

このエッセイはすごくつらいとき、苦しい立場の時に読むと励まされます。というか悩んでいたのを忘れて笑い死にそうになるかも。ふと挿入されている大人向きビデオの監督さんの話に爆笑。
また、現代日本の、ほとんど病気を媒介しないゴキブリを不快だからといってむやみに殺傷するのはよくないというお話にも同感。先生が言うと押しつけがましくもないし、｢そんなぁ？！｣というより｢そうですね、うん……｣と思ってしまうのです。やっぱり藤田先生は全生命体に、地球に、優しい方だった。こんな人なかなかいないです。

研究のために海外へ行き、なかなかとんでもない目にあった話も……オモシロかったりピンチだったりしたけれど今では笑い話的な冒険譚も沢山で、素直に楽しめます。
本が小さいな、すぐ読めてしまったら惜しいなと思ったけれど、中身は容積の百倍くらい詰まっていて（先生の人生がギュッと詰まっているかしら）とても濃密です。

藤田先生の文章は何となくユーモア作家の北杜夫さん（作家にして精神科医、躁鬱病をカムアウトしていた）にも似ていると思っていましたが、このエッセイでは文章が似ているどころか北杜夫作品の主人公そのものではないか？！と思うくらい天衣無縫にしてシリアスです。
先生本当にありがとうございました。