「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
- カテゴリ:一般
- 発売日:2021/12/14
- 出版社: みすず書房
- サイズ:20cm/254,55p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-622-09053-3
- 国内送料無料
紙の本
自由の国と感染症 法制度が映すアメリカのイデオロギー
著者 ヴェルナー・トレスケン (著),西村 公男 (訳),青野 浩 (訳)
国家構造を規定するイデオロギーや市民の選好が互いに影響を及ぼしあった結果である公衆衛生。天然痘・腸チフス・黄熱病という3つの感染症の事例について、アメリカの法制度との関係...
自由の国と感染症 法制度が映すアメリカのイデオロギー
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
国家構造を規定するイデオロギーや市民の選好が互いに影響を及ぼしあった結果である公衆衛生。天然痘・腸チフス・黄熱病という3つの感染症の事例について、アメリカの法制度との関係を中心に精緻に考察する。【「TRC MARC」の商品解説】
「この分析で重要な点は、政治制度の質と公衆衛生の成果の間に単純な相関関係はないことである。望ましい政治的・経済的成果をもたらすと考えられている政治制度の中には、公衆衛生を妨げるものもあれば、逆に促すものもある」(序文)
ワクチン接種義務や検疫のように個人や商業の自由を大きく制限する措置は、合衆国憲法の規定のもとではさまざまな軋轢を生んだ。一方、上下水道システムが充実して公衆衛生が大きく改善されたのは、合衆国憲法が私有財産権を保障して信用市場の安定を促したためだった。公衆衛生とはこのように、国家構造を規定するイデオロギーや市民の選好が互いに影響を及ぼしあった結果である。
本書では、天然痘・腸チフス・黄熱病という三つの感染症の事例について、アメリカの法制度との関係を中心に精緻に考察する。ハミルトンら合衆国憲法の起草者たちが各条項に込めたイデオロギーはどのようなものであったか。トクヴィルはアメリカ社会をどのように観察したか。諸外国ではどうか。そして実際に何が起こったのか。
本書の洞察は現今のアメリカ社会だけでなく、日本をふくむ世界各国の国家構造と公衆衛生との関係を考える手がかりとなるだろう。【商品解説】
目次
- 序文
- 謝辞
- 第一章 はじめに
- アメリカにおける感染対策の起源
- アメリカの憲法秩序と死亡率転換
- 現代に生かす なぜ歴史が重要なのか
- 第二章 タウンシップのイデオロギーから細菌説の福音へ
- 正の外部性と公衆衛生
著者紹介
ヴェルナー・トレスケン
- 略歴
- 〈ヴェルナー・トレスケン〉1963〜2018年。経済学者。元ピッツバーグ大学経済学部教授。
関連キーワード
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
「自由」という名の伝染病The Pox of Liberty
2022/03/15 21:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読み始めた頃米国連邦最高裁判所がCOVID19ワクチン接種義務化の差止決定を下した(1月13日)。従業員100人以上の企業に求めていたワクチン接種か定期検査の義務化を認めなかったもの(オハイオ州v.連邦労働安全衛生局OSHA)。また同日保健福祉省HSSが医療従事者への義務化は容認する決定を下している(バイデンv.ミズーリ―州他)。ワクチン接種義務化が司法の場で争われた初めてのケースであった。米国に限らず、欧州ではワクチン接種・ワクチン接種・外出制限など一連の感染対策と個人の自由との関係が問題となり、反対運動も起きている。翻って日本では、ワクチン接種は義務化されていないし、緊急事態宣言下の営業制限は「自粛」であり、「行動制限」のような強烈な規制がないことから、目立った反対はなく、これらは対岸の出来事である。
原書は2015年出版なので、コロナ禍とは関係なく出版されたものだが、米国の憲法・政治制度と公衆衛生・感染対策の関係を見たもので、冒頭の事件などの背景を理解するには、タイムリーな邦訳出版である。
米国は「天然痘」「腸チフス」「黄熱病」の三つの感染症の大流行を経験してきたが、感染症克服の方法は同じではない。そこには米国憲法・政治制度とイデオロギーが大きく関係している。天然痘はワクチン接種がなかなか進まず、同時代の先進国に比べると、罹患率は高く、撲滅には長い時間を要している。当時の米国は豊かで自由であったにもかかわらず天然痘罹患率が高かったのではなく、豊かで自由であったからこそ高かった、と著者は指摘する。阻害要因となった「個人の自由」への執着は、一方で経済成長や政治的自由を促し異なる経路で感染症対策を実現させた。すなわち、ワクチン接種義務化を停滞させた憲法と政治的信念が同時に経済的繁栄と個人の自由を育ててきたのである。
腸チフスは上下水道の整備によって克服されたが、それは憲法の事後の契約不利益変更禁止により民間投資が安全にできるようになったからである。黄熱病は、水際規制が各州の権限であり、各州間の貿易港競争で有効な対策はとれなかった。連邦は憲法の州際通商条項で規制はできなかったが、発生源の国で米国軍隊が徹底した感染対策をしている。天然痘は、注射という人体への侵襲性の高い行為であり、また、いわば病原菌を植え付けるものであるので、個人の自由の観点、修正第14条適正手続条項の問題があった。しかし連邦最高裁は、ワクチン接種義務化は憲法に違反しないとした(Jacobson v. Massachusetts,1905)。しかし州の権限の問題であり、法律で義務化の権限を定めなければならなかった。そのため少数派のワクチン接種義務化反対ロビー、本書副題の「自由という伝染病」The Pox of Liberty-が法律成立を阻止したために天然痘罹患率の改善は進まなかったのである。また、どの程度の「強制」なら自由の侵害とならないかは未解決の問題である。
冒頭ケースはワクチン接種義務化と個人の自由を正面から扱っていない。連邦と州の権限の問題である。感染症対策など公衆衛生の権限は州にあり、連邦にはない。連邦組織OSHAが職業上の危険を規制する権限は連邦法で認められているが、州の権限である公衆衛生を規制する権限をより広くする権限までは認めていない、としたもの。一方医療従事者への接種義務化はHSSの権限の範囲内だとした。ワクチン接種義務化は州の権限だが、「強制」の程度によっては個人の自由を侵害する可能性はある。仮にOSHAに従業員への接種義務化できるとした場合、ワクチン接種か定期検査を選択できることから、「強制」の程度は低いと判断されるのではないかと思う。