紙の本
皆のあらばしり
2022/06/20 18:08
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小津久足の発見されていない書籍を求めて、謎の関西弁の男と歴史研究部の男子高校生がタッグを組む物語。
書いたものを後世に残すとはどういうことか、残された物に後世の人はどう向き合うべきか、といった問題を取り扱っていて、とても面白かった。著者が何かのインタビューで、能力があってもそれを形にしないで亡くなる人の存在に触れていた気がするが(「阿佐美サーガ」の叔母さんなど)、そうした問題も絡んでいる気がする。
紙の本
騙すこと騙されること
2022/01/20 15:32
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第166回芥川賞候補作。
人はどうして本を読むのだろうか。
何事かを学ぶためであったり、自身の知らない世界を楽しむためであったりだろう。
あるいは、純粋に娯楽として読むこともあるだろう。
それらを大きくまとめるなら、知的好奇心を満足させるためといっていいかもしれない。(知的ではないこともあったとしても)
『旅する練習』で三島由紀夫賞を受賞した乗代雄介さんの受賞後第一作となった本作は、まさに知的好奇心をテーマとした作品といっていい。
舞台は栃木県にある皆川城。(ここは実際に存在する)
歴史研究部に所属する高校生の「ぼく」は、そこで見知らぬ男と出会う。
大阪弁を話すこの男は、妙に訳知りで、何故かこの土地の歴史にも詳しい。
毒気を抜かれた「ぼく」は、男の言われるままに、江戸時代後期の豪商小津久足(この人物も実際に存在する)が書いたとされる『皆のあらばしり』という本を探索することになる。
物語は、この謎の本の存在をめぐっての、「ぼく」と男との奇妙な駆け引きで進んでいく。
果たしてこの本は「幻の書」なのか、あるいは「偽書」なのか。
もっといえば、ここで語られることは作者である乗代さんの作為なのか。
どこまではが真実で、どこまでが虚構(創作)なのかわからないまま、物語は終焉に近づく。
結局、多くのことがわからない。
「騙すということは、騙されていることに気付いていない人間の相手をするということ」は、終わりにある男の独白だが、読者もまた騙されたのだろうか。
電子書籍
会話のノリ
2022/01/19 18:40
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
関西弁だからか、会話がすごくノリが良くテンポがいいというか……。だからか、読みやすく、後半まで一気読み!ところが、最後のこれ。コレは、ミステリーみたいな終わり方です。
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随分と昔に読んだ井沢元彦の「猿丸幻視行」のことを思い出した。正史には上がらない秘された柿本人麻呂の死と猿丸太夫の関係、その隠された謎を連綿と守り続ける人々、そしてもちろんその謎を追う主人公、という話。史実と創作の巧みな交錯に嵌まった記憶がある。何故そんな昔のことを引き合いに出すかと言えば、この「皆のあらばしり」もまた、歴史の中に埋もれていた書物の存在とそれを解き明かそうする主人公たちの物語だからだ。
とは言え「猿丸幻視行」が万葉集に残された歌やいろは歌に隠された暗号や、殺人事件などの謎がこれでもかと解かれていく話であるのに対して、「皆のあらばしり」には解かれる筈の謎はあるもののそれが物語の中心ではない。歴史ミステリー的な謎解きを期待しながら読んでいると一種の肩透かしに遭う。それもただの肩透かしではない。これでもかと投入される妖しい史実や、歴史探偵的な主人公たちの推理が話の展開の中心であるにも拘らず、その謎は半ば解き明かされたと報告されるものの読者に開示されることはない、という捻った顛末だ。
ではこの物語は何の物語かと言えば、例えて言うなら初めて登場する「吸血鬼」の中では描かれていない小林少年と明智小五郎の最初の出会いの物語のようなもの。まあだから芥川賞候補となったのか、と妙に納得する。この先、二人の活躍がシリーズ化されそうな予感のする作品。
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栃木の歴史を辿りながら、謎の本、皆のあらばしり、の跡を追うストーリー。歴史研究部に所属する高校生の主人公に、ある日皆川城址で変な中年のおじさんに出会う。異常なほど史実に精通し、酒造がもつ世に出ていない幻の書物の存在を知っている。怪しげなおじさんを疑いながらも、少しずつ距離を縮めながら、そのプロジェクトに惹かれていく。謎のおじさんと、謎の本、その間にくりひろげられる会話を追いながら、謎の本に少しずつ迫っていく。決して長い小説ではないのだけれど、がっつりと長編を読んだようなしっかりとした読み応えと展開に満足な作品。
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歴史研究部に属する高校生の「ぼく」と胡散臭いが驚異的に博識な30代らしき男との幻の書『皆のあらばしり』を巡る物語。
一種のミステリー小説で面白かった。知的探求の面白さを再認識できた。知識があれば世界の解像度が上がって退屈しないのだ。「学問とは乞食袋の如きもの」という男の台詞が印象的だった。
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高校の「ぼく」は歴史研究部に所属している。
城址へ調査に訪れ謎の中年男に出会う。
二人による会話劇。
以下ネタバレになります。
小津久足の書物『皆のあらしばり』は存在するのか。
p65
〈ぼくは勉強しなければならないだろう。この男のようにとは言いたくないけれど、
この男ぐらいに、知識を溜めこんで、自在に使わなければならない〉
p101
〈そもそも、わしらだって大嘘つきなんやからな〉
p113
〈騙されたって構わない〉
これは、「ぼく」が男に対して思ったこと。
ラストp131
〈ICレコーダーに録音した二人の会話を再生して愉快に笑いながら、
この私的記録を書き継いでいたのだった〉
改めて読み返してみると
会話以外、「ぼく」の心象も謎の男が書いたことだとして納得できる。
そうなると「ぼく」の存在も怪しい。
それはさすがに深読みし過ぎかな。
楽しかった。
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第166回芥川賞候補作ということで手に取る。
歴史に興味がある高校生と、怪しい大阪弁の男との邂逅。
そして、解き明かされていく皆の歴史、ファミリーヒストリー。
細かい設定は説明されず謎は残ったままだが、話の流れに押し流されるように読了。
ふーん、という面白さが残る。
ふーんだけでは、芥川賞は獲れないのか?
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鮮度のいい刺身みたいな1冊。これこれ〜♪ と口に含めばまぁ小さな切り身なのにしっかり満足感出るから不思議。刺身の価値の本質は、希少性や味ではなくその小ささにある。サクにかぶりついたところで刺身の10倍満足するかと言ったらそうじゃないので。
図書館で適当に借りてきたので地元栃木の話だとは思わずびっくりした。よくできたショートショートを膨らませて書いたような感じ。かと言って水っぽさはなく身もしまっているし、史実に沿った内容なのでアカデミックな興味もそそる。
歴史の謎が解明されていく話の流れと、高校生が才に溢れた謎の男を認め、そして認められようと思う心の流れが合流して完結するラストは美しく実に見事。
ちなみに栃木市には共学の進学校はありませんので國學院栃木の特進クラスとかなのかね?だったらラグビーの話で男が食いつくだろうから、架空の共学進学校なんだろうな。栃高と栃女が統合した世界線の話?(そう遠くなさそう)
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次代の芥川承知作家、乗代雄介。堀江敏幸にミステリーとエンタメ色に塗したような小説家で、まだ芥川賞作家になってないのは、小説があまりにも面白すぎるからではないだろうか。
高校の歴史研究部に所属する主人公は、皆川城址で胡散くさい、関西弁の中年男に出会う。男はやたらと博識で、主人公を魅了していく。
謎がどう展開するのか、楽しく読んだ。超文系小説。はて、この作家のファン層というのはどういう人達なのだろうか。
#読書記録
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歴史研究部の浮田青年が妙に歴史に詳しい男との出会いで、皆川城内村に伝わる古文書などの来歴を調べる物語だが、地元の旧家の竹沢家の娘も絡んで話が展開する.『皆のあらばしり』と称する来歴不明にの古文書の存在が明らかになり、男の提案で竹沢のひいじいちゃんの周辺を探索する浮田と竹沢.浮田の冷静さが判明する最後の件は楽しめた.小津安二郎や土門拳が登場したり、天狗党の乱など栃木の歴史的事項も出てきて、著者の幅広い調査の片鱗が見えた感じだ.
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乗代雄介さんの小説は、
誰かがいつか残した言葉・思いを受け取ることへのはち切れそうな気持ち、
読むことへの深い想いに溢れています。
そして乗代さんの小説を読むという行為は
そんな思いを抱えた人が「書く」ことを選んでいる、という事実に直面することで、
私はそれだけでもう胸がいっぱいになります。
この小説もP112とか、もう、ほんと胸がいっぱいです!!
というわけで、私は乗代雄介さんのファンです。以下、まとめと思ったことです。
「皆のあらばしり」という怪書を探して、高校生のぼくと、謎の関西弁博学おじさんとの知的冒険譚。
小説、フィクション、(に限らず文字に残されたものは)というのは作りものの域を越えることができず、いわば人を騙すことでもあって、それでいて、本当の思いを形にすることができる手段でもある。
『皆のあらばしり』は偽造書であると同時に、作り手の『芽はでんまでも乾かんかった思い』である。百年以上も経った今、それを読むことができるという、二人のえも言われぬ胸の高鳴りがこちらまで響いてくる。
・人を騙すことを教えた本人が、まんまと騙されていたこと
・作中に出てくる怪書のタイトルがそのまま、この小説のタイトルになっていること
・博学おじさんの語りで、本書が締められていること
これらの構成で、作品が複層的になっているとも言えるんだろうけども、分かりやすすぎてわざとらしい気もする。
「自分が知らんという理由だけで興味を持たれへん、それを開き直るような間抜けで埋め尽くされとんねん」
とか内容的にはめっちゃ共感できるけど、説教くさく聞こえてしまってちょっと・・・という部分がちょこちょこある。わざわざおっさんに言われなくても、あなたが愛しているものがその対極にあるものだから、分かりますよ!と思ってしまう。エセ関西弁と相まって、この人物に最後まで好感を持ち辛いというのはちょっとある。
でも全体を通じて、郷土歴史学?みたいな過去の小さな点に焦点を当てて調べていく面白さは、ミステリーともちょっと違って新鮮で、とても楽しく読めました。
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スィングする「会話」は、いつだって「未知との遭遇」であり「終わりのない振幅運動」であり、「自分自身ドライバー」である、と思いました。謎の饒舌な大阪弁中年男と地元史に興味のある高校生という不思議な組み合わせの二人の会話で、ほぼほぼ進行していく物語です。二人は、先生と生徒であり、師匠と弟子であり、ホームズとワトソンでもあり、猪木と藤波でもあり、松ちゃんと浜ちゃんでもあり、緊張関係と信頼関係が揺れながら「皆のあらばしり」という古文書を巡る謎解きが進んで行くのです。その「会話」は日付が素数である木曜日、午後4時、二人が出会った古い城址で、という限られた舞台で。こんな引き込まれるとは思ってもいませんでした。こんなにびっくりするとは思っていませんでした。こんなに清々しい気持ちになるとは思っていませんでした。乗代祐介、要チェックです。と、思ったら「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」途中まで読んで挫折していたことが判明。でもあの分厚い本の細かい短編の繰り返しにも会話とストーリーのスウィングが満載だったような記憶も蘇り…挫折した本へのリベンジの前に、この本の一冊手前の「旅する練習」トライしようかな…
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歴史の隙間に落っこちてしまっている様な物に調査と推理で迫っていく過程はとんでもなくスリリング。
ラストも痛快。
ゆかりのある地名も多く、より楽しめた。
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栃木出身の作家なのかと思ったらそうではない。著者は何故この書物探索物語を書くに至ったのだろうと、読後興味をもった。登場する上方言葉の男の正体が知りたくて、どんどん読み進む。この人に「青年」と呼ばれている高校生もなかなか優れた人物だ。この謎の男、すごい教養の持ち主。何者なんだ!この男の魅力は結末まで続く。ちょっとした小道具使いも憎い。『本物の読書家』を読んだ後にはこの作家の実力に気づかなかった。今回何故芥川賞受賞に至らなかったんだろう?もう新人とは認められないのかな?手練れの人たちの仲間に入ってるのかな。