紙の本
激しいながらも、やわらかい
2022/03/29 15:17
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作『高瀬庄左衛門御留書』で2021年の読書界を席巻した砂原浩太朗さんが、同じ神山藩(架空の藩だが)を舞台にしたシリーズ第2作となるのが本作品である。
『高瀬庄左衛門御留書』が静だとすれば、これは動といえる。
何人もの人が争いによって、あるいは策略の果てに死んでいく。それでいて、過激にならないのは砂原さんの抑え気味の文体ゆえだろうか。
タイトルのままに、この作品では神山藩筆頭家老の家、黛家の三人の兄弟の姿が描かれている。
巻頭の「花の堤」という章で、三人のまだ若い姿とそれぞれの性格、さらにはその後彼らの運命にかかわってくる次席家老漆原の姿がじつにうまく配置され、長編小説の導入として滑らかなに動き出す。
さらには長男に藩主の娘の輿入れが決まり、本作の主人公になる三男新三郎も大目付の家への婿養子が決まっていく。
次男はどうかといえば、父親との確執が激しく、ほとんど家にも寄り付かない。
2部構成の第1部では、漆原の息子を斬った罪で次男が目付となった新三郎に切腹を申し渡されるまでが描かれる。
しかし、本当の物語はここからだといえる。
2部ではすでに30歳を過ぎ、織部正と名を変えたかつての黛家の三男と主席家老となって今や藩を牛耳る漆原との、目には見えない闘いが描かれる。
多くの血が流れるが、どうしてこの作品が激しないのか。それは1部で姿を消すが、次男の哀しい眼差しが底流として本作に流れているからだろう。
父と子、兄と弟、そして彼らを支える女たち。
本作にあった、「なにかをえらぶとは酷いものじゃ」という言葉が心に響く。
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・一気読み。ものすごく面白かった。
・ほんの数ページで主要登場人物のキャラが鮮やかに立っている。
・品格の高さが漂ってる。
・折々の季節の描写が美しい。
・丁寧に物語が進んでいくが、アドレナリンが沸騰するような立ち回りがあったりする。
・第2部になった途端、主人公の変節に落胆するが…
・物語の展開が読めない。あっと驚く結末。
・伏線の改修も鮮やか。最後にそれを持ってくる!?
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お家騒動につながる筆頭家老争いに黛家の存続と三兄弟の絆の深さを格調高く描いている.文脈の切り替えが見事で陰謀渦巻く藩の政治にはらはらし,本当の愛と信頼を強く感じさせ読み応え十分の物語だった.
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これは見事。途中まで定石通りでどうなるかと思ったが、やはり違った。
少年時代の新三郎が世間知らずで凡庸な三男坊に見えた分、その成長に感心すると共に、その孤独に心が痛む。
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若く未熟な前半、大人の権力者となった後半に分かれた構成。テンポのよい展開、伏線の数々、明かされる本心。ふとした台詞がまた後々にしみる。
「どこかで袂を分かったとしても、それまでのすべてが嘘になるわけではない」
舅が新三郎に言ったことは、圭蔵にも内記との関係にも通じるのだなぁ。
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待ってました。「高瀬庄左衛門御留書」に続く神山藩シリーズ第2弾。神山藩が舞台とはいえ、時代も登場人物も全く違うが通底するエッセンスは寸分たがわぬもので、続編の宿命ともいえる「続編は1作目を超えられず」の法則を嘲笑うかのような至極の出来上がりに時間の経つのも忘れて一気に読破させてもらった。時代小説のもつ面白さをすべて兼ね備え、更にミステリー要素も加わったプロットも見事。前作でも感じたが、章や節の区切りの出だしが名人芸の域。こんな面白い本を読まないなら人生損します。中学校の教科書に掲載して読書の面白さを実感してほしいほどの作品。
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途中で途切れることのないように、全ての用事を済ませただただひたすら物語の中に浸っていた。
一ページ目からすでに私は筆頭家老の三男坊であり、身分違いの友であった。
家督を継ぐもの、婿養子となり新たな家を継ぐもの、そして、何者にもなれずおのれの身を持て余すもの。
大身の家に生まれた三兄弟と、家を守り藩を守るため翻弄される女たちの、その人生。
若い理想は、現実に塗り替えられていく。その手から零れ落ちていく正義と大義。
それでもなお、伏し、耐え、あるべき姿を求め続ける。武士とは、男とは、なんと不自由なものか。
何度折れても、何度煮え湯を飲まされても、それでも消えない火のありか。
読みながら何度も息苦しさを覚える。つらく悲しくはかない命に涙する。それでもそばにある冷たい指の温かさに救われる。
前作以上に凛とした世界感。緊張感の中にある美しい自然の描写、日々の営みの平凡な安堵。
人が人として生きていく、命の輝き。親子の、兄弟の、夫婦の間にある誰にも消せない灯。
これぞ時代小説の極み。砂原小説を読むと普段はあまり手に取らないけど、自分が本当は時代小説が好きなんじゃないか、と思ってしまう。
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「高瀬庄左衛門御留書」の舞台となった神山藩。本作もその神山藩を舞台とした物語。言わすものがな砂原浩太朗による架空の藩の物語の第二弾。
今回の主人公は、藩の筆頭家老を代々勤める黛家の三男、黛新三郎。家柄は良いものの三兄弟の末っ子ゆえ、将来はどうしたものかと思わせておいての、新三郎の怒涛の展開が始まる。ラスト1ページまでそう来るか!と。
しかしである。
抑制された静寂な筆致で描かれる文体は、全体を通して上質な小説を読んでいることを意識させる。
このギャップがなんともたまらない。
季節を感じさせる庭木の花や鳥や小動物の描写を多用し季節や登場人物の心理状態を絶妙に表現している。また随所出てくる食べ物の描写も巧い。
天之河という銘の酒、是非とも一度は呑んでみたい。
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黛家三兄弟を描いた時代小説。家老の企みにはめられ二番目の兄を失い、長兄と三男はどのように動くのか。まさかの裏切りと、場面をひっくり返す爽快さが読んでいて面白かったです。黛家三兄弟カッコいい。
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江戸時代、架空の神山藩における筆頭家老は黛家。長男と三男は出世していくが、次男はやさぐれて、徒党を組んで酒喧嘩三昧。ライバルの漆原家は次席家老。娘を藩主の妾にし、息子を次期藩主にしようと画策している。ある事件で黛VS漆原の戦火が勃発する。
ううむ。しびれた。
主人公黛新三郎の目線で、静かに話は進む。いや、静かなのに熱い。どうすれば自分の家のためになるのか、自分のためになるのか、敵を欺けるのか。
江戸時代のある藩を舞台にした、普遍的な「闘い」を描く大傑作。
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大河ドラマに匹敵する新感覚の時代小説、黛家の三男新三郎の成長物語、黛家の女中「みや」一膳飯屋の「おとき」がいい味出してる感じがしました。
久々に良い時代小説を堪能出来ました。
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砂原作品3冊目。前二作に比べると個人的には劣るが、非常に彼らしく、かつ魅力的な作品だった。仇討ち物、相手の懐に入り込み土壇場でひっくり返す“よくある展開“となり、王道の展開をどう描くかと期待と不安が入り混じる中盤を経て、結果としてはまずまず堪能できた感じ。結末は少し事故性が強くしっくりは来なかったが、圭蔵の裏切りは予想外で驚いた。冷静に考えると序盤から不自然に友情が描かれてきたので勘づくことはできたかもしれないが。
ただ、新三郎がただの善人ではなく、内記の元で清濁知り尽くした人物として完全な聖人と描かなかったのは非常によかった。最後の問いかけが実父でも舅でもなく内記宛なのが上手いと思う。
作者の真骨頂と感じたシーンはp178の次兄の運命が決まりかけた段階での兄弟のシーン。これまで堅物で描かれてきた長兄が冗談を交えて静かに語り、止まらない感情を抑えつけている描写。「つねと同じく怜悧な風をくずしてはいないが、長兄のこめかみがはっきりとわなないていた」このシーンは非常に印象深い。
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期待作の登場。しかし期待しすぎたのか盛りだくさんのエピソードの割には読後の余韻が少なかったように思う。読んでいる間は面白かったんだがな。
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神山藩シリーズ第二弾。静寂さの中に動があり、情景の美しさが映える。人物と出来事を丁寧に描いてゆく筆致は秀逸。廉潔の士が主人公の著者の作品がきっかけで時代小説のファンになりました。
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黛家の三兄弟の三男坊である新三郎が主役である。本来ならば、武家の三男坊なんぞは主役にはなれない。大兄上と小兄上もなかなかイイ男達である。そんな黛家はなかなか優秀な家柄で、神山藩の家老職にある。そんな家だからこそ、権力闘争に巻き込まれる。おいらは権謀術数満載のそんな話しは大嫌いである。物語り方も回りくどいし、漢字も難しくて、読むスピードが一向に上がらない。だから、この本は余り好きになれなかった。唯一救われたのは初恋の相手であった妻・りくと、終盤になって心が通じあった場面に出会えた事である。フフフ、おいらは意外と軟派なのである。