脳科学で探る認知症予防 「健全な脳」のつくり方と新しい治療法

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脳科学で探る認知症予防:「健全な脳」のつくり方と新しい治療法
認知症の人は高齢になるにしたがって増加し、超高齢社会
の日本では約460万人(65歳以上の高齢者の約15%）が認知症になっているとされています。2025年には65歳以上の人口の5人に1人が認知症になると推定されています。
「もの忘れ」では昨日の夕食に何を食べたか思い出せないことがありますが、ヒントをもらえると思い出すことができます。認知症では夕食を食べたこと自体を忘れているので、ヒントをもらっても思い出せません
認知症では、時間・場所・状況が分からなくなりますが、自然な老化現象ではそのようなことはありません。また、認知症では、精神状態や行動に節害が発生して人格的変化がありますが、自然な老化現象ではそのようなこともありません。認知症は、何かの原因によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態です
「動物は、運動することで脳が発達する。そのため、ヒトが出現してからも狩猟採集を行っていた時代に、歩き回ったり走ったりすることを日常化したことが脳を増大させ、脳が他全な状態だった
本杏は、第I部で、「認知症の予防は可能か？」というテーマを取り上げ、健全な脳とはど
ういう状態なのかについて述べ、最終的には認知症の予防法を述べます。第1章は、脳科学に詳しくない読者のための脳の仕組みの紹介です。脳科学を理解されている方は読み飛ばしていただいて結構です。ただし、5節の「細胞膜の働きと脳」では、比較的新しい考え方を紹介しています。この考え方は、神津氏のK・リゾレシチンと藤野氏らのプラズマローゲン開発、およぴ西崎氏の新薬やサプリメント開発の基礎になる考え方を示しています。第2章は、認知症に関する医学界の常識とされる考え方と、認知症の様々な種類についての紹介です。第3章では、認知症の原因に関する近年の情報および認知症に影秤を与える要因について述べます。第4章では、他全な脳とはどういう状態かについて、脳科学およびヒトの進化の歴史の観点から述べます。第5章では、脳科学で探る終知症の予防として、好ましい生活習慣、心の持ち方、生き方などについて述べます。
第II部では、「認知症になったらどうするか？」というテーマを掲げています。これは、自分自身が認知症を予防できたとしても、両親や配偶者など家族が認知症になる確率が高いと考
えられるためです。第6章で、一般病院および近年開発された五つの新しい認知症の治療法を紹介し、それらの特長や問題点を述べます。第7章で、家族から見た認知症の理解について述
べ、さらに、一般病院および近年開発された五つの新しい認知症の治療法を比較して、医療機関の選定方法について解説します。
第1部　認知症の予防は可能か？
ヒトの脳の重さは成人で1200～1500g で、体重の2～2.5％を占めています。一方、脳のエネルギー消践は身体全体の20％にもなります。脳は身体全体に占める割合が小さいのに非常に多くのエネルギーを使っていて、それだけ活発に働いているといえます。
ヒトの細胞は身体全体で約60兆個ありますが、そのうち脳の神経細胞は千数百億個です。神経細胞の機能は情報伝達と情報処理です。
脳は大脳、大脳辺縁系、小脳、脳幹よりなります。
大脳は脳の全諏批の約8割を占め、知覚や迎動を受け持つ脳の最高中枢です。
前頭連合野は、情動の制御、論理的な判断、将来予測、計画の立案など、高度な梢神活動を受け持ちます。運動性言語野は、プローカ野とも呼ばれ、言業を話す機能の中枢です。文字を書くなどの筋肉運動に関する言語機能も支配します。運動連合野は、前頭述合野からの情報をもとに、運動の開始や手順を計画して運動野に指令を出します
右脳は視覚情報や聴槌情報から得た空間的な梢報を扱うのが得意で「見た目の脳」と呼ばれます。左脳は話したり、開いたり、論理的な思考や計符が得意で、「言葉の脳」と呼ばれます。
脳幹は脳と全身を結ぶ感槌や迎動神経の中継点となっており、脳幹全体には網様体が広がっています。
間脳は、脳幹の中心的な部位で、左脳と右脳の中間にあり、視床と視床下部よりなります。
視床は、嗅覚以外の感従梢報を大脳に伝える機能を持ち、視床で中継された情報は大脳皮質の特定の感覚野に伝えられることで知覚が実現されます
下垂体は働きが異なる前業と後業からなっています。前葉は生体の成長や生殖、身体の恒常性を保つホルモンを生産します。
後葉はホルモンを生産せず、視床下部で合成されたホルモン
を貯蔵し、視床下部の神経刺激によって血液中に分泌します。
小脳の主要な機能は知覚と運動機能の統合で、平衡感覚、筋緊張、随意筋運動の調節などを受け持ちます。
神経伝達物質の種類は、60種ほどあります。その構造によって、小分子神経伝達物質と神経ペプチド伝達物質とに分けられます。後者はエンドルフィン、オキシトシンなど50種ほどあります。
BDNFは、神経細胞の成長を促し、新しい神経細胞やシナプスをつくることを促す液性タンパク質で、学習、記憶、高度な思考に必須の領域である海馬、大脳皮質、大脳基底核で活性化されます。
MRIは、脳に強い静磁場と弱い電磁波を与えて、脳の組織にある水素原子の電磁気的な挙動から組織の状態を一二次元的な画像にする方法です
fIMRI（機能MRI) は、脳内の血流量の変化から脳の活動状態を調べる方法です
最も多い病気はアルツハイマー型認知症で、全体の約65％を占
めます。次は、レビー小体型認知症および脳血管型認知症で、
それぞれ約15％を占めます
認知症の原因として、アルッハイマー型認知症に関しては、アミロイド仮説が持ち出されるのが一般的です。なぜアミロイド0が生ずるかに関しては、加齢や迎伝子の影開などが指摘されますが、より明快な説明がないようです
認知症に最も大きく影評を与えるのが生活習慣です。私たちは、親から受け継いだ遺伝子を変えることはできませんが、生活習慣を変えることはできます
迎動の習慣で認知症の発症リスクが減少することが、世界各地の疫学的調査で明らかになっています。
睡眠中は細歯やウイルスと闘う免疫が調節されています。睡眠不足が続くとこの機能が不調になり、認知症のリスクを高めます
食生活はどうやって認知症に影響を与えるのでしょうか？
ーつ目は、炭水化物や糖の摂りすぎによる糖尿病のリスクの培加
です。
二つ���が、脂質の摂取の仕方です。脂質は神経細胞を構成する細胞膜の重要な構成成分で、脂肪酸の摂取の仕方が問題になります
三つ目は、タンパク質です。タンパク質は、脳細胞の構成成分でもあります。タンパク質の多い食品は肉魚、卵、大豆製品などですが、どの食品から摂るかも問題です。
四つ目は、残留農薬、食品派加物、加工食品からの化学物質汚染、さらにトランス脂肪酸や重金属などの身体によくない物質の摂取が問題になります
狩猟採集時代、人が猛獣に襲われるなどの危険な状況にさらされると、脳はコルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンを分泌して交感神経を刺激しました。すると心拍数と血圧が上がり、ケガに備えて末端の血管を収縮させ、血液が固まりやすくなるというメカニズムが機能しました。
私たちは、睡眠不足、過労、けが、病気、身近な人の病気や死、失恋、解雇、倒産、職場や友人とのトラプルなど慢性的なストレスを抱えています。これらのストレスは、すぐに解消される問題でないので、長期化しやすい傾向にあります。ストレスホルモンが長い間分泌され続けると、全身の血管が収縮して血流が悪化し、脳の神経細胞が活動するのに必要な酸索や栄旋が届きにくくなり、結果的に脳の海馬などが萎縮しやすくなると考えられています。
脳の健康に必要なのは、第一に栄養としてのブドウ糖（グルコース）と酸素があることです。血流によってプドウ糖と酸素が運ばれることで、脳は機能します。
第二に必要なのは情報です。脳の役割は情報処理なので、情報が来なければ脳の存在価値はありません。情報が来れば来るほど、脳を使えば使うほど、脳は元気になり成長します。した
がって、情報が来て成長している脳こそが他全な脳だということができます。
脳の活性化を阻害する生き方：家に閉じこもる　イライラして怒りっぽい　人の悪口を言う　焦る　迷い続ける　非音のン目を気にしすぎる　人の言いなりになる
脊椎動物が、魚類→両生類→爬虫類→哺乳類へと進化した過程および、人類が、アウストラロビテクス→ホモ・ハビリス→ホモ・エレクトス→ホモ・サピエンスと進化した過程の脳の変化から、ヒトの進化における脳の他全性について考えます。
ホモ・エレクトスは約190万年前から狩猟を本格的に行い、大型哺乳動物を日常的に狩るようになりました。
ホモ・エレクトスの狩猟の手段は持久走でした。ヒトの特徴は優れた汗腺を持っていることです。気温が高いアフリカの日中で、体温が上がってきたら汗を出し、水分が蒸発するときの蒸発熱によって体温を下げることができます
ヒトの持久走の能力に対抗できる動物としては、ウマ科やイヌ科の動物がいます。しかし、これらの種は冷却機能が十分ではなく、暑い環境ではヒトの持久走にかないません
ホモ・ハビリスやホモ・エレクトスが暮らしていたアフリカの生息環境では、植物が食物の大半で、2/3以上だったと推測されています。採集は簡単そうに思えますが、実際はそうではありません。熱帯雨林に暮ららす類人猿なら一日に2～3kmも歩けば食用の果実や業をもぎ取るだけで十分な食科を集めることができました。開けたところに出てきたホモ属はもっと長い距離を歩かねばなりませんでした。現代の狩猟採集���を参考にすると、一日6km
以上は歩いていたでしょう。
190万年前からのホモ・エレクトスの時代になると狩猟が本格化し、長時間走ることが日常化しました。走ることそのものが脳の発達を促し、他全化が進みましたが、それ以外にも脳を発達させた要因があります。その一つが、道具の使用です
この約250万年間のヒトの祖先の生活習恨に学ぶことが、健全な脳を獲得するための近道です。狩猟採集民は自然のリズムに
したがって生活していたと考えられます。朝太陽が昇ると共に起きて活動し、夜になって日が暮れると眠りにつきました。この一日のリズムは私たちの脳の中に刻み込まれています。朝に太陽の光を浴びることによってセロトニンが分泌されます
厚生労働省によると日本人は一日平均、男性が8200歩、女性が7300歩ほど歩いているそうです。厚生労働省は、外国文献にあるエネルギー消費量の計算式を根拠に、１日１万歩歩くことを推奨しています
ストレスに対処するには、第一に無理をしないことです。第二は、見方を変えることです。第三に、グチを誰かに聞いてもらうことも必要です。第四に、気分転換をすることです。
「分かっているつもり」が新しい事柄に対する感動や意欲を奪ってしまうことになります。どんな知識も一つだけ離れて存在しているわけではありません。必ず関連する別の世界の知識や情報とつながっています。それがどうつながっているのかを調べてみることによって新しい知識を得る喜びや感動に結び付きます。
コグニサイズは、国立長寿医根研究センターが開発した運動と計算、しりとりなどの認知課題を組み合わせた認知症予防の取り組みです
音楽を認知症の改善に用いる方法は音楽療法と呼ばれており、音楽のもつ生理的、心理的社会的働きを用いて、認知症の予防に役立てることができると考えられます。
第Ⅱ部　認知症になったらどうするか？
認知症は80歳になると4人に1人は罹るといわれています。平均50歳の夫婦にとっては合計4人の親がいることになりますが、もしその4人とも長寿に恵まれた場合には、確率的にその
うちの1人が認知症になる計算になります。
幻覚とは、実在しない知従の情報を、実在するかのように体験する症状です。実際にないものが「見える」幻視のほか、幻聴などがあり、レビー小体型認知症で多くみられるといわれています。
脳を他全にする方法の一つ目は、人類の歴史の中で最も脳が他全だった時代を考察し、その時代の生き方に学ぶということです。二つ目は、脳科学の成果から学ぶことです。近年脳科学が発達し、成人の脳で新しい神経細胞が生まれることが発見されています
最も効果があるのは迎動することです。週に3回以上有酸素運動をすることを習慣化すれば、認知症になるリスクは大幅に少なくなることが実証されています。
次に、炭水化物や糖の摂り過ぎをやめて、腹7～8分目を心がけ、野菜、良質なタンパク質や脂質、ピタミンやミネラルを摂ることです。
さらに、朝早く起きて太腸の光を浴び、夜は良質な睡眠を確保することも良いでしょう。