紙の本
理不尽な犠牲者
2022/05/07 10:10
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、終戦直後のソ連侵攻によって満洲で何が起きたかを知らせてくれる。日本人は、安全を図るために一部の女性を性の犠牲者としてソ連に差し出したのである。その選別にも差別がある。
そもそも、ソ連兵が強奪強姦などの犯罪を起こしたことや、それを放置したソ連当局が問題なのであるが、本書は、主に日本側から見た問題や体験について焦点を当てている。最近のウクライナでのロシア軍の行動とほとんど一致する。そういう意味で、現在のロシアは、人権感覚のないソ連時代とほとんど変わっていない。
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ニュースサイトで見た時から「なんで未婚女性なんだ?」て不思議だった。
この時代だと婚前交渉に死ぬほど厳しかったろうし
ありていに言えば処女であることに価値がおかれると思ったから。
著者が「まだ誰の”所有物”にもなってない未婚女性」と
書いてて、そういうことか、と衝撃だった。
女性の扱いは私が思ってたよりはるかに下だった。
団の幹部は子どもにとっては「いいお父さん」だし
喜子さんの弟もお姉さんを慕ってた。
けど団の幹部は女性たちに謝ってないし喜子さんの弟もよその女性には
想像力が及ばない。
ジャーナリストの女性が大御所ジャーナリストからの性被害を訴えて
TVに出てきたとき、
たまたま一緒にテレビ見てた男性が非難するように「性被害訴えるのにこんな胸元開いた服で出てくるかね」と言い出してびっくりした。奇抜な服ではないし何着ててもいいし、何着てたって性被害を受けていいことにはならんのに。
この人は普段はそこそこ良識的な人。
この辺のことは2022年もあんまり変わらない。
TVの件はとっさに何も言えなかったけど言えるようにならなければ。
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満州開拓団として中国に渡った人達の敗戦後の悲惨な歴史。
敗戦後は現地の満州人からの暴動から、開拓団を守る為に数えで18歳以上の未婚女性が選ばれ、ロシア兵への「接待」を行った。
過酷な環境のために、生理も止まっており妊娠する事はなかったようだ。
敗戦後しばらくすると、日本へ帰る為に港へ移動する際にも満州人にも身体を提供する事を余儀なくされる。
戦前、戦中では女学校で貞節を守る大和魂を教え込まれた少女達の経験した事は筆舌に尽くしがたい。
帰国した後も、故郷でも、同じ開拓民からも差別を受けた彼女らの事を思うと胸が痛い。
戦争では全ての人に等しく被害があるわけではない。男性は戦線へ送られたとしても亡くなってしまったとしても、靖国や遺族からは尊敬を受ける一方、身を挺して開拓団を守った彼女達への賞賛などない。
本書はミクロのケースを取り上げる事で、戦争の悲惨さの一端を知らしめている。高齢の彼女達の話をここまでまとめるのは難しかったのかも知れないが、もう少し綺麗にまとめて欲しかった。
さらに現代の価値観で当時差別を行った開拓団の男性を責めている描写もあるが、エリートならいざ知らず当時の一般市民にそのような思想などある訳なく責めるのは酷だろう。
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真実の前では言葉はあまりにも空疎だ。なのでコメントは差し控える。歴史の片隅で忘れ去られることが必定の事実を後世に書き残すことがどれだけ偉大な仕事か、改めて考えさせられる。第三次世界大戦の扉が開かれるかもしれないこのタイミングで、殺し合いとは別の戦争の悲惨さを追体験しておくことは無意味ではない。
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読んでいる間、ずっと胸が苦しかったです。
ページを開くたびに、暗鬱とした気分になりました。
犠牲になった「乙女たち」に、心からの同情を禁じ得ません。
直截的なタイトルが示す通り、敗戦後、満州でソ連兵に「性接待」を強要された、日本人女性たちの話です。
著者の平井美帆さんは、丹念に丹念に女性たちの証言を集め、ハードカバーで332ページの大著にまとめました。
歴史の闇に埋もれていた「人身御供」の全貌を掘り起こしたのです。
まさに労作というほかありません。
犠牲になったのは、現在の岐阜県から満州へ渡った「黒川開拓団」の女性たちが主です。
敗戦後、暴徒化した満州人をソ連兵に守ってもらうため、黒川開拓団の幹部らは18歳以上の未婚女性をソ連兵に差し出すことを決めました。
性接待のための施設も設けられ、女性たちは、そこに入れ代わり立ち代わり現れる屈強なソ連兵の性の相手となったのです。
何というおぞましいことでしょう。
多くの女性たちは、現在では他界したか、存命でも90代の高齢です。
存命の女性たちの中には、今でも「ガチャリ」という金属の音に怯える方がいます。
ソ連兵が腰のベルトを外す音に聞こえるのです。
女性たちの受けた心の傷の深さは計り知れません。
女性たちは、満州から引き揚げた後も辛い目に遭いました。
むしろ「地獄」はここからだったと言えるかもしれません。
ソ連兵に性接待をした「汚れた女」と差別を受けたのです。
団を守るために犠牲になったにも関わらず、です。
自分が性接待に出ることで、2歳下の妹を守ろうとした「善子」という女性がいます。
善子に守ってもらった妹の久子は、引き揚げ後の善子について、こう証言します。
「帰ってきたら冷たい目で見られ、親戚からも嫌がられ、『帰ってこにゃ、よかった。途中で死にゃよかった』って……。姉さんがどんだけ……、どんだけ、私に言ったかしれん」
開拓団の男の中には、貞操を守って自決した女たちを称賛する者までいたそうです。
あまりといえば、あまりにも酷い話です。
このレビューを読んでいて、「非常時だから仕方がないのでは」と訳知り顔で思った方もいるのではないでしょうか。
あなたのような反応は決して珍しいものではありません。
著者はしかし、その反応の底にある心理を次のような言葉で鋭く見抜きます。
「しかし、その許容には、根拠なく設定されている前提条件がある。
自分が犠牲にされない限り、である。」
戦時性暴力の実態をつまびらかにした本書は、昨年の開高健ノンフィクション賞を受賞しました。
まさに衝撃作の名に値する本書をぜひ多くの方に読んでほしいと思います。
最後に、満州にある「乙女の碑」に刻まれた善子の詩を紹介します。
「傷つき帰る 小鳥たち
羽根を休める 場所もなく
冷たき眼 身に受けて
夜空に祈る 幸せを」
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同じ開拓団の仲間が、立場の弱い少女達を「接待」という名目でソ連兵に差し出す。初めてこのことが報道された時の衝撃を今でも覚えている。
集団内の強者が決めたことが「公然の秘密」として無かったことにされたり、帰国を果たしてからも貶められ過酷な日々があったこと。大きな声で語ることを封じられてきた彼女達の心の声が、本書によって世間に広く知られることで少しでも慰められ報われますように。
ひとたび戦争となれば、人間の尊厳はすべて奪われてしまう。ソ連によるウクライナ侵攻の報道を横目で見つつ祈るような気持ちで読了。
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こんな悲惨な事実が戦時下の満州では公然と行われてたんだ。
以前、NHKスペシャルで見ておばあちゃんがそういうことがあったと語っていたけど、実際、17歳以上の未婚の女性が”接待”という言葉で下にソ連兵に”強制性交”を強要されていたなんて。
どんなに辛かったろう。その女性たちのお陰で命が救われたのに、感謝の気持ちも表さず、好き者、傷ものと陰口を言われなんのために犠牲を強いられてきたにか、春江さんや玲子さんのやるせない気持ちが胸に迫る。
集団に中においての決定事項には、逆らえない、この事実もまた彼女たちの立場を苦しめたんだろう。
当時、17歳だった彼女たちも今は90歳過ぎ、存命者が少なくなってきている。
この悲惨な事実を後世に伝えないとという著者の渾身の労作だと思う。
戦争は弱いものが犠牲になる、絶対してはいけないと改めて思った。
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黒川開拓団のこの事実を知ったのは、割と最近のNHKだった。ほとんどテレビを見ないのに、なぜにたまたま見たのだろう。はっきり覚えていないのだが、こちらから「差し出された」ことと引き揚げ後も感謝されるどころか差別、侮辱されたということが衝撃的だった。
この何年か前のNHKの取材に対して、著者の平井さんは面白くない思いを持っておられるようで、確かにその通りだろう。ただNHKが「後追い」をして事実がより広く知れ渡り、私みたいに平井さんのご著書を手にする人もいたのではないかと思うのだが、それはまた別の話か。
あまりの酷いことの連続で、何からどう書いていいのかわからない…
「減るものじゃないし」という言葉が最後の方に出てきた時、ハッと気づいた。どこで誰から発せられたか全く具体的には思い浮かばないが、何度も何度も聞いた言葉のような気がする。今の若い人はどうなのだろう。そんな発言する若い男性がいるのはあまり想像できないが(若い男性をあまり知らない)、おじさん(初老?)の人なら今でも平気で言いそうな人がいるのは思い浮かぶ。これではもし同じようなことが今現在の日本に起こった時、同じことが起こる。
戦争は絶対反対。女性が性被害にあうということだけでも絶対反対。日頃隠されている人間の闇の部分が顔を出してしまう戦争。
性被害というのはやはり日頃から女性を下に見ているから出てくるもの。下に見られるような私たちではない。
議員や官僚の女性の比率をもっと高める。
日常的に女性差別、蔑視にあったら抗議する。身近な人にも指摘する(今書きながら「減るもんでなし」とか言われたら一緒になって笑っている自分が見えた。あり得ない!)。
もう少しきちんと書いておきたいが、どうも無理。しばらく考えたい。
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まだ今年始まってばっかりだけど、2022最高の一冊かもしれない。
この接待の話、数年前からパラパラ、夏の終戦記念日あたりになると出てくるようになり、それまではほとんど表に出てないような話だったと思う。
記事を何個か読んだので、気になって購入。
善子さんが守り抜いた弟さんさえ、被害者を無意識に差別していたことを、亡き姉の思いを著者が訴えかけるところがすごかった。
男と女はこんなにも深い溝がある。
玲子さんの90歳を過ぎても癒えない傷。
彼女の生涯かけた苦しみを、受け止めてくれ、世に問うてくれる著者に出会えてよかったのではないだろうか。
その言葉に間に合ってよかったと思う。
そして電書化もおねがいします!
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岐阜県の山村から満州へ向かった開拓団。ソ連の侵攻、娘たちは兵士への「接待」を命ぜられる。現在も続く女性蔑視、長い戦後を丹念に取材した力作ノンフィクション。
時代だからと言って一言で片付けてしまうわけにはいかないだろう、隠れた歴史。
開拓団を守るため犠牲となった少女たち。それを利用する団幹部。帰国後も続く蔑視、差別。
松本清張の「赤いくじ」だったり黒澤明の「七人の侍」のエピソードは実際に多くの場所で起こっていた出来事だったことに衝撃を受ける。
本書の投げかけるテーマは実に重い。結局周囲の男たちが情けないという結論しかないのだが。武器なく抵抗できない場面では今後も起こりうる事態である。
社会から見捨てられた女性たちを描いたノンフィクションは実に哀しい内容でした。
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自分のだったら、自分の家族だったらと思うとやりきれない。戦争は弱いものから踏み躙るけれど、弱いもの同士でまた、踏みつける相手を探す。
作者が掬い上げ聞いてくれて、彼女たちの前で憤ってくれたのが少しだけ救いになった。
絶対に忘れないようにしようと思う
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敗戦後、満州に取り残された黒川開拓団。暴徒化した満人やロシア兵から団を守るため、ロシア兵側と交渉し、日本の娘らを「接待」として提供することに。
被害者の女性側の視点から語られているので、それが生々しく、痛々しい。重かった。終戦から70年経っても性的虐待、暴力を受けるのはほとんどが女性。打ちのめさせられました。
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戦争だから、戦地の女性が酷い目に合うことは想像に難くない。しかし、この本が真に訴えたかったことは、その時あった悲惨な事象をあげつらうことではなく、そういうことになった経緯やその後を丹念に浮かび上がらせること。岐阜の黒川村が満州に移住し、引き揚げて来た中で起こったこと中心の記述だから、大戦の中のほんの一つの事象なのだけど、そこから見えてくる普遍性がある。
読んで良かった。差し出される時の様子や単独での引き揚げ方、戻ってきてからの扱いなどは想像を越えていた。
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図書館で予約して借りたのだけど、ウクライナ情勢が現在の状況になると思いもしなかったあの時の自分、何でこの本を読もうと思ったのか。毎日ニュースを見て気が滅入るのに、絶対に重い内容・・・、と一週間放置。『戦争は女の顔をしていない』が頭の中を過ぎり、ソ連兵が日本人をって内容なのかなと読み始めたら、日本人が日本人を犠牲にして生き延びた話だった。
意気揚々として乗り込んだ満州開拓団が終戦後、敗戦国として辿る道筋はテレビドラマや小説では大抵は涙無しには語れないような辛い話として描かれる。戦勝国であるソ連兵や、虐げてきた現地民に襲われる。帰国は思うように進まず、食べる物も無く薬も無く、弱い者から死んでいく。
その中で黒川開拓団は、引揚船を待つ間、大勢の団員を守る為に未婚の女性達15人をソ連兵に差し出した。「接待」する代わりに暴徒から守って貰い、塩などの必需品を分けて貰ったのだ。
女性の線引きは団の代表である男達がした、未婚女性、当時は結婚が早いし結婚しないなんて有り得ない時代だから、未婚女性の年齢は若い。少女達だ。
あれは何の話だろう、ドラマだったと思うんだけど、海外の話か日本の話かも思い出せないのだが、同じような状況で敵国兵に身体を求められた時には既婚女性が進んで、若い少女の代わりに犠牲になるシーンがあった。
でも、黒川開拓団では未婚女性が選ばれた。既婚女性は男性に属しているが、未婚女性は誰のものでもないからだ。未婚女性が誰のものでもないって変じゃない?ともやもやしたが、その辺は筆者が書き切っていたので当時の考え方が良く分かった。
私が気になったのは既婚女性達のことだ。犠牲になった女性達のことや、団の代表だった男性達、選ばれなかった未婚女性、戦後のそれぞれの当時のことについての向き合い方などについては書かれていた。
でも既婚女性のことは無かった。男達の陰に隠れて守られた女性達。接待に出させられた女性の最年少が90歳だからもう生きている方は居ないだろうけれど。本書のテーマである男尊女卑とは違うテーマになってしまうのかもしれないけれど、気になって仕方がない。
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知ることができてとても良かったと思いました。
その当時の状況というのは想像しても想像しきることができないのだけれど、それでも一番弱い立場にあった未婚の女性たちが強制的に(といっていいと思う)ソ連兵の元へ〝接待〟という名の性暴力を受けなくてはならなかったということが想像するだけでこれ以上ない地獄。引き上げ時にも女性たちは体を売らなければ生きていくことができなかったという過去は、理解しようと思ってもなかなかできない。
弱い立場の女性たちの声は消されていく。今でもそうなのではないか。当時から、ずっとそうなのだよな。その声を拾ってくれた著者に敬意を表したいと感じている。
「減るもんじゃない」という思いを持っている人はそこかしこにいっぱいいるんだろう。性暴力の体験はいくら年月が経とうとも当事者にしかわからないんだろうと思う。本当にわからない人は、そうやって軽い言葉を投げかけたり笑ったりと、今もずっと起こっていることだ。
本当にうんざりする。
美化したりとか、ないことにしたりとか、特に戦時下の女性に起こったことはそうやって見えないようにされていく。
だから戦争は絶対起こってはいけないんだとも思う。