紙の本
科学技術の革新を信じて29年後を考える
2022/12/20 17:24
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
AIの完成度を高め、科学技術の革新が進んだ20年後の地球社会を想定して、10の物語が進む。SFというえばそうだが、AIを含めた科学技術が現在の延長線上に、80%以上の確度をもって達成されているものを、社会に登場させると、どのような世の中の変化が生まれるかが描かれる。現在の社会制度、貨幣制度、そして価値観の返還を余儀なくされるだろう。私の孫世代が直面する変動を、ソフトランディングで受け入れることが可能か。創造性と社会性と多領域の知識を持つ世代を育てるために、今から教育そのものを再発眼しなくてはならない。
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AIに関する短編SF小説+その解説という中々ユニークな構成。
短編SF小説なので、ストーリー展開に面白みがある訳ではないですが、
未来の世界を妄想することは結構ワクワクします。
ただ、まだ誰も見たことのない世界を
文字にして伝えるというのは結構な難易度なようにも思え、
小説ではなく映画として見れたらさらに面白かったのに、、
というのが正直な感想。
個人的には、8章の話が興味深かった。
BI(ベーシック・インカム)が成り立たない世界感や
人はみな労働するんだけど、できの悪い人はAI相手に
架空の労働(意味のない労働)をさせられるってのは、
中々のホラー(でも本人は無意識)で、
あり得る話でちょっと怖かった。
AIに無限の可能性があるみたいな、
楽観論で書かれているのではなく、
ちゃんと現状のAIの限界も踏まえて
フェアに書かれているところが好印象。
「AIに仕事が奪われる」みたいに
盲目的に危機感を持っている人は、
この本を通じて、AIの可能性と限界について、
フェアに知ることから始めたらいいんじゃないでしょうか。
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深層学習の短所
AIが個人を知りすぎること。目的関数が単一だと、個人の幸せにつながらないリードをすることがありうる。
不公平と偏見。AIの学習サンプルに偏りがある場合。またはAIの判断が差別につながる場合。
説明不能。理由はわからないがそういっている、という場合に何に従うのか。
ディープフェイク
フェイク動画を作成できる。デジタルのものはすべて偽造の疑いがある。ディープフェイク検出ソフトが必要。
ブロックチェーンを使えば画像や動画の真実性を証明できるがまだだいぶ先になる。
高度なAIコンパニオンの登場
教師付きNLPはデータの用意に限界があるが、自己教師あり学習による一般NLPは、AIが教師役になるので限界がない。
GPT3は、1750億個のパラメータを持つ。グーグルブレインは1兆7500億個のパラメータを持つ。
GPTは、例文を巧妙に記憶しているだけで真の知性ではない、という批判もある。
2041年には、創造性、戦略的思考、推理、反事実志向、感情、意識、などはまだ不可能。
汎用人工知能をどのように活用するか、は人間の領域。
AGIにこだわるのは、人間が至高の存在であると思いたがるナルシズム。
p168
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Google中国社長を務めた経歴を持つ人工知能学者とこれまたGoogle勤務歴のある新進気鋭のSF作家による共著。SF小説とその技術解説のセットが全10篇収録されており、2041年の未来予測となっている。いずれも荒唐無稽な話ではなく、例えば未来3『金雀と銀雀』は翻訳版が出るより先にChatGPTがブームになって現実世界が追い付いた。個人的にはドラマチックなストーリー展開という意味で未来4『コンタクトレス・ラブ』と未来7『人類殺戮計画』が好み。もちろんフィクションとしてだけではなくIT関連ビジネス書としても読み応え十分。
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AIについて何か知りたいなと本屋さんを眺めていて目に入ってきたこちら。とても分厚いので最初はひよりましたが、評価も高く帯の宣伝も力強かったので買ってみました。
結果、正解◎
読みやすい構成になっており、とてもスムーズに読むことができました。
AIについての本だと専門用語で書かれていたりAIの歴史に疎くかいつまんで聞いても理解が進まなかったりするかと思っていて敬遠していたのですが、こちらはSFフィクションの物語パートがあり、それがわかりやすく良かったです。
研究者による解説パートは、専門用語がたくさんあるのですが、物語パートでAIの機能の概要?実際生活の面ではどんな影響があるのかがわかるので解説パートの理解もそこまで困難ではありません。といっても専門用語も多いのですべての理解はできませんがAIを知る最初の一歩の本となりうる易しさはあるかなと思います。
自動運転の章が興味深かったです。
交通事故(特に高齢者による)のニュースがあると世論は自動運転の早い導入を待望する声が多く見受けられますし、いつかそんな未来が来るのかなと実現性が高いものと思ってましたが車だけの開発では成し遂げられないということが解説パートを読んでわかり興味深いなと思いました。
街全体を自動運転車に合わせた方が自動運転車の普及がはやい(ウーブンシティが楽しみです)とか、自動運転車で事故が起きたときの責任はどこに誰にいくかという倫理的な視点での課題など。
特に倫理的な視点については、AIの機能を語る際は技術の進化にばかり注目して欠けがちと思い不満だったのできちんとその視点からフォローされているのが良かったです。
というか、この本はAI技術に対して比較的倫理的な視点でのフォローもあるのが好感もてます。
未来10の舞台がオーストラリアというのがなるほどなと思うのですが実際この中に書かれたことが日本でもいえるのかはやや疑問です。
オーストラリアを訪れた際、人々の価値観や生活スタイルが日本社会と大きく異なると感じました。
未来の2041年ごろには各国の慣習の差が平坦になるくらいに人が行き来してグローバリゼーションが進み日本社会の国際情勢や世界のムーブを無視した歪な価値観も変わっているのでしょうか。
お金にしがみついた人が多いしのさばっているイメージがあるので、日本でどうなるか気になります。
『未来倫理』という本を読んだときにテクノロジーの破局を想像するときに研究や分析だけでは足りないという考えを読んで目から鱗でした。なぜなら破局以前のテクノロジーの機能自体の理解を研究ではできていないので、その反対の悪影響まで考え及ばないという。どうするのか、それはSFを参考にすること、人間の想像力を頼りにすること。
この本でも『スタートレック』が何度か出てきます。
実際に起きうることしか人間は想像できない→想像できるものはすべて起きる可能性をはらんでいる。
フィクションとして流しているSFほかフィクションの中に、ヒントや答えがあるかも。
AIの技術の進化に恐れて、自分の立ち位置を奪われるかもなんて反発するより、来たる避けがたい人間の歴史の流れとして受け入れながら、人間としてやっていけることを模索し、またAIが絶対にしてはいけないルールのかじ取りなど二人三脚で豊かな世界になっていくように動いていくのがいいのかなと思いました。
教員の負担が多く問題視される現代、2041年にここで描かれているように単純作業の負担をAIに任せて、内面の指導やフォローとして導くなど、役割分担ができるのはとても理想的だと思いました。
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AIに関するフィクションものを読みたい人におすすめ。
【概要】
●AIネタを入れ込んだ10の物語
●各物語の後に「テクノロジー解説」
【感想】
●ありそうでなさそうな話が読み物としては面白い。
●未来において実現できる(できない)の判断に明確な根拠がなく感覚的に述べられているものが多いため説得力に欠ける。明確な根拠を提示することは難しいが、今の技術のこの部分がこのように進んだら実現するかもしれない、といった程度の積み上げ論があれば理解しやすいと思った。
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【「未来予測本」のなかでベストな一冊! GAFAトップの人工知能学者が解説】AI教育、AI保険、AI兵器、完全自動運転、通貨破り、メタバース渋谷出現の20年後。マイクロソフトCEO&『三体』著者絶賛!
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分厚さに圧倒されましたが、なんとか読了。AIが発達した2041年についての近未来SF小説10遍とその技術的解説。すくなくとも世界は終わりそうもないので安心しました。
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よくある未来予測の本と思いきやまさかのSF小説の短編集のような構成。
人工知能学者とSF作家がタッグを組んで、2041年の世界を舞台に実現しているであろうテクノロジーを題材とした10の物語と、その解説が収録されている。
読み物としても非常に面白く、20年後に実現しているであろう技術がすんなりと頭に入ってきた。
近未来を舞台とした小説という形式なので多少の誇張や、マッドサイエンティストが出てきたりとエンタメ要素が強いストーリーもあるが、各話の後に続く解説によって、登場する技術に対する説明がわかりやすくされていてとても親切な本だと感じた。
ビジネス書としてはもちろん、SF小説が好きな方も十分満足できる内容だと思います。
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【感想】
ChatGPTの出現により、「AIが人間にとって代わる」未来がいよいよ見えてきた、と私は思っている。
では、このままAIが進化し続けたとしたら、20年後の未来はどうなっているのか?ヒトの感性や経験など無用になるぐらい人間を凌駕し、世界を支配するのか?それとも従来のまま、人間の仕事を補助するアシスタントに過ぎない役割を担うのか?
本書はそうしたAIの未来を、2041年という時間軸に立って予測する一冊だ。筆者はカイフ・リーとチェン・チウファンの2人。リーは、40年間AⅠ研究にたずさわり、AppleやMicrosoftやGoogleで製品開発をおこなってきた、AI研究のプロフェッショナルである。そんなリーとタッグを組むチウファンは、近未来を舞台とした小説である『荒潮』を著したSF作家だ。
本書の骨格は、2041年の世界を舞台にチェン・チウファンが物語を書き、そこに登場するAI技術を、専門家であるカイフ・リーが補足・解説する、といった構成になっている。短編はテーマ別(恋愛、教育、パンデミック、VR、兵器、幸福など)に10作品収録されており、各短編でそれぞれ一冊の本にできそうなぐらい濃密にまとまっている。
――――――――――――――――――――――――――――――
冒頭で取り上げられるのは「恋占い」という作品だ。
2041年のインドでは、『GI』というアプリを活用した保険サービスが普及している。GIには動的なAIアルゴリズムが搭載されており、生活を送る中でこのAIが「リスク要因」に応じて保険料を自動調整していく。喫煙、飲酒、暴飲暴食といった非健康的で危険な生活をすれば、その分保険料が上がってしまう。代わりに、AIに従って規律正しい生活をすれば保険料はお得になるし、GIには保険以外のあらゆる生活情報も付帯しているため、日常生活の全てを便利に済ませられる、という仕組みだ。
問題は、GIの恩恵を受けるためには、家族全員の個人情報を企業に渡さなければならないことである。そして、自身が見ているウェブページや訪れた場所といった情報まで収集され、それが保険料の形で逐一「理想的/理想的でない」と判定されることである。
主人公のナヤナは、サヘジという男の子に恋をした。しかしサヘジはカースト弱者である。ナヤナはサヘジに近づこうとするものの、GIはサヘジを「リスク対象」とみなしており、接触を避けるように誘導される。そして保険料の上昇という形で家族に恋がバレてしまう。AIが全知の存在になったことで、恋や好き嫌いといった「感情」の部分も、AIによって測られるようになってしまったのだ。
2人の恋の行方は、ぜひ本書を読んで確かめてみてほしい。
――――――――――――――――――――――――――――――
以上のような形で、テーマ別に10個の作品が紹介される。
各作品に共通するのは、「AIによって人間のありかたはどう変わるのか?」というテーマだ。
ChatGPTの出現が示唆するように、今後のAIはかつて無いほどのスピードで発展していく。数年前には、AIが人間の領域に進出しても、人にしかできない新たな仕事が誕生し、そちらにシフトチェンジするだけだ、という論調が見られた。しかしながら、そう��た楽観論はもはや終わったというべきだろう。
実際、『AI2041』で描かれるのは楽観的な世界ではない。人間らしさが発揮できる領域にまでAIが進出し、人々はAIの決定事項を追認するだけの存在になっている。ほとんどの作品で、AIを上位存在のように位置づけ、その下で暮らす人間のあり方を描写している。
しかしながら、AIに世界が埋め尽くされながらも、決してディストピアではない――そうした希望に満ちた結末を、どの作品も示している。AIには確かに未完成の部分がある。倫理的な良し悪しを判断できないAIは、人間の価値観を脅かし、不安にさせる場面がある。それでも、人間とAIは共生でき、よりよい未来を作り出すことができる。
未来への光を指し示すような本。小説部分は非常に面白く、技術解説もわかりやすく詳しい。ぜひ読んでほしいおすすめの一冊だ。
――強力なAIのせいで人間は無用階級になると考えるなら、自己改造の機会はなくなる。きたるべき豊饒時代にただ享楽し、進歩も努力もしなければ、人類文明の発展もそこで終わる。シンギュラリティが近いからと絶望と無力を感じるようなら、本当にそれが来るかどうかにかかわらず、人間は深い闇に落ちる。
それに対して単純作業からの解放や、飢えや貧困の消滅を感謝し、AIが持たない自由意思を大切にし、人間とAIの共生関係は1+1以上の価値を生み出すと信じるなら、人間はAIをよき伴侶として、前人未踏の宇宙へ勇敢に船出することができるだろう。
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【まとめ】
10編のうち、印象に残った作品を以下にまとめた。
0 まえがき
本書がめざすのは、AIの本当の姿を語ることだ。率直でバランスのとれた語り口で、建設的で希望ある内容を書く。
描くのはAIの実像だ。すでにある技術、または今後20年で成熟すると合理的に予測できる技術を紹介する。そうやって2041年の世界のさまざまな側面を描く。20年後に80%以上の確率で登場しているはずの技術をあつかう。
1 恋占い
舞台はインドのムンバイ。2041年のインドでは、GIという動的なAIアルゴリズムが搭載された保険を導入することで、最小の費用で最大の保証を実現している。GIと連携した生活アプリをインストールし、模範的な生活――保険料が下がるような健康的で安全な行動――をすれば、暮らしのあれこれを非常にお得・便利に済ませることができる。しかし、その対価として家族全員のデータリンクを企業に提供しなければならない。
主人公の少女、ナヤナは不可触民のサヘジという男の子に恋をするが、SNSでサヘジの投稿を閲覧したり、サヘジと直接接触したりすると、保険料がどんどん上がっていく。GIにとって、カースト弱者であるサヘジは「リスク対象」であるからだ。カーストはとっくの昔に法律で禁止されたが、AIはデータ分析によって潜在的なカースト差別を読みとって、それを保険料の算定というかたちで顕在化させている。
「AIによって禁じられた愛」のゆくえはいかに......。
AIは人の気持ちが読み取れない。現実に残る不公平や偏見を顕在化させる。そして、未来のAIによる深層学習には、「個人を知りすぎる」という短所が眠って���る。それを解消するにはかなり手間がかかるだろうが、それでもやるべきことのいくつかは明白だ。
まず、AIを使っている企業は、どこで、どんな目的で使っているかを公表すべきだ。次に、AI技術者の訓練には一定の職業倫理が適用されるべきだ。製品に埋めこまれる倫理的選択によってだれかの人生を変える判断がなされることを理解し、ユーザーの権利を保護すると誓うべきだ。さらに、AI訓練ツールにはきびしい検査機構を埋めこむべきだ。不公平なサンプル比率のデータでモデルが訓練された場合は警告し、場合によってはその使用を不許可にするといった機能が必要だろう。また、AI監査法を制定する必要もある。
2 金雀と銀雀
金雀(キムザク)と銀雀(ウンザク)は双子の孤児。兄のキムザクは社交的だが、弟のウンザクはアスペルガー症候群を患っているため内向的である。
孤児院では最先端のAI教育を行っており、孤児一人ひとりに専用のパーソナルAIコンパニオンがつく。自分ひとりだけの「先生」からマンツーマン教育を受けることで、眠っている才能や個性を効率的に伸ばしていくことができる。キムザクとウンザクは自らの性格に適したコンパニオンを作り出し、キムザクは競争心と知性を、ウンザクは創造力を伸ばしていった。しかし、相反する性格からか、二人の仲は次第に悪化していく。
キムザクとウンザクは養子として別々の家庭に引き取られる。キムザクは、裕福だが規律の厳しいパク家へ引き取られた。パク家の他の子どもたちは、10代にして最先端分野で活躍している天才ぞろい。キムザクはそんなエリート一家の中で投資家になるために訓練を積んでいく。一方のウンザクは、トランスジェンダーの芸術家夫妻に引き取られるのだが、集団生活になじめず、仮想空間に没頭していく。
二人はAIによって育てられ、AIによって動機付けられ、そしてAIによって変化していく社会の中で成長していくのだが……。
AIが教育現場の多くの場面を肩代わりすることで、教育コストは下がり、より多くの子どもたちが平等に学ぶ機会を得られるようになるだろう。エリート教育機関に囲いこまれていたトップクラスの教師や教育コンテンツが開放され、コストがゼロに近いAI教師によって広く普及するだろう。
一方で経済的に豊かな国や地域では人間の教師を多く育成し(あるいは家庭教師を雇って)、少人数教室を実現したり、専任のメンターやコーチにするだろう。人間とAIの教師は共生可能であり、柔軟な新しい教育モデルをつくれる。AI時代は教育機会を大きく広げ、生徒一人ひとりの能力を引き出すはずだ。
3 ゴーストドライバー
主人公はスリランカ人の少年シャマル。シャマルはVRドライビングゲームのトップランカーである。
2041年の世界では自動運転レベル5が達成されているが、AIによる操作が役に立たない場面がある。大規模災害でインフラが麻痺しているときだ。
シャマルはVRゲームでの挙動を現実世界にフィードバックする装置を使って、自動運転車をマニュアル操作し、災害の被災者をリモートで救助していくのだが......。
真の自動運転車の実現に必要なのは一個のブレークスルーではなく、何十年にもおよぶ試行錯誤の積み重ねだ。
頭においておくべき重要なことは、現在の自動車の単純な発展版として自動運転車が登場するわけではないということだ。自動運転は完全スマート都市インフラの一部として実現するだろう。作品中で描かれたような相互接続技術インフラの存在が前提となる。
レベル5実現の最大のハードルは、AIは大量のデータで学習させなくてはならないところにある。そのデータは、多くのシナリオでの現実の運転を反映したものでなくてはならない。しかし、そこで求められるシナリオの多さと多様さは膨大だ。路上にありうるあらゆる物体と、移動方向と、天候状況のすべての組みあわせをデータで収集する方法は、現在のところない。
しかしある大きな前提に取り組むことで、開発を加速できる可能性もある。レベル5は都市や道路状況を正確に把握する必要があるわけだが、それが「情報化された都市や道路」であったらどうか。つまりセンサーや無線通信が道路に埋めこまれ、前方の危険の有無や、見えないところの道路状況を道路が車両に教えられたらどうか。今後の新しい都市建設で中心街の道路を二層構造にして、自動車と歩行者を完全に分離して衝突の可能性をなくしたらどうか。インフラを再整備して歩行者が自動運転車に近づかないようにすれば、レベル5車は大幅に安全になるし、早い時期に実現できるだろう。
4 人類殺戮計画
国家予算級の大金が入った暗号通貨のウォレットが、何者かによって盗まれた。量子コンピューターレベルのパワーが無いと実現不可能な犯行だ。
盗難事件から2週間後、世界の主要な石油輸送航路が通る7つの要所がドローンによるテロ攻撃にあう。ホルムズ海峡、マラッカ海峡、スエズ運河、エーレスンド海峡、ハブ・エル・マンデブ海峡、トルコ海峡、パナマ運河。主要産油地から世界各国へ運ばれる、1日あたり6,000万バレル以上の原油の大半が、これらの水路を通る。
石油なしに成立する商品やサービスは世界に存在しない。影響はすぐにあらわれた。物価の急上昇、株式市場のパニック、インフレ、交通渋滞。物流とサービスは途絶し、金融システムは崩壊する。車は走らず、飛行機は飛ばず、船は出ない。プラスチックは生産できず、代替エネルギーはない。地域資源の略奪、局地戦、全面戦争。
やがて世界中で、重要人物がドローンによって暗殺され始めた。
この世界での、地球規模の犯罪活動のしくみについては次の通りだ。
非中央集権的でありながら、ブロックチェーンとAI技術で高度に組織化されている。あらゆる取り引きは暗号化され、製造と輸送は自動化されている。犯罪主体と犯罪行為は時間的にも空間的にも分離され、暗号化された契約のみでつながっている。武器は全自動で製造、配送される。麻薬は無人の山間部でロボットによって栽培、収穫、精製され、無人の自動運転車で商業地へ運ばれ、ドローンで末端へ配送される。買い手はオンラインで購入ボタンを押して、人目につかない暗がりで待つだけ。人手を介さないので、昔のギャング映画の定番だった裏切り、密告、潜入捜査などは起こりえない。もし警察に取り引きを嗅ぎつけられても、モジュラー構造のその部分を切り離すだけでいい。すぐに代替構造ができて、損失は最小限ですむ。
ブ���ックリストに記載された重要人物がすべて殺害されると、ドローンは活動を停止した。
次のテロ計画は、宇宙貨物に偽装した核爆弾の打ち上げだった。成層圏で核爆発を起こすことで電磁パルスを生じさせ、地球上の電子設備を全て破壊する。
テロを計画したルソーが望んでいたのは、人類の活動にブレーキをかけることだった。人類社会を情報革命以前にもどしたいのだ。グローバリズムの網の目を断ち切り、二酸化炭素排出量を低下させ、自然が自己回復する猶予をつくろうとしている。
「人間の活動を原始生活に戻す」。終末の日を目前にして、テロ捜査官のロビンが選んだ選択とは......。
IBMのロードマップでは、量子コンピューター(QC)の量子ビットは今後3年間に倍々で増加し、2023年には1,000量子ビットのプロセッサができると予測している。4,000論理量子ビットあればそろそろそれなりに有用な応用計算ができる。そこで一部の楽観的な予測では、5年から10年で量子コンピュータが登場するという見方もある。
しかしそのような楽観主義者は見落としている困難がある。IBMの研究者は、量子ビットが増えるほどエラーの制御が難しくなると認めている。この問題に対処するには、複雑で繊細な機器を新技術と精密工学で製造しなくてはいけない。また一個の論理量子ビットをエラー訂正のために多数の物理量子ビットで構成し、安定性とエラー耐性を持たせなくてはならない。となると、4,000論理量子ビットの性能を発揮するQCをつくるには、おそらく100万個以上の物理量子ビットが必要だろう。
たとえこうして量子コンピュータの実用運用に成功したとしても、量産となると話はべつだ。そして古典コンピュータとはまったく異なるプログラムで動くので、アルゴリズムを一から開発しなくてはならない。ソフトウェアツールも新しくつくりなおすことになる。以上のような問題を考慮して、ほとんどの専門家は実用的なQCの実現に10年から30年かかると予想している。
5 大転職時代
転職斡旋業界に突如現れたオメガアライアンス社は、人員整理の対象となった労働者を「架空の仕事」に割り当てていた。その仕事は、VRゴーグル越しに、遠隔地にある建設現場の資材を組み立てて行く作業なのだが、実際にはそんな現場は存在しない。全ては美麗なシュミレーションゲームであり、人間に「仕事している感」をもたらすための幻想であった。
いくら失業者の再訓練に労力をつぎ込んでも、日夜進化し続けるAIには勝てない。しかし、人としての尊厳――社会のために価値を生み出しているという感覚――まで取り上げてしまっては、社会の崩壊につながる。そこで、人員整理の対象者をAIによって生かし続けていたのだ。
AIが、住宅ローンの審査だけではなく、建設作業のような肉体労働、さらには人間の従業員の採用や解雇までも行う未来で、働くことの意義はどうなってしまうのか.......。
AIは多くの業務を人間よりうまくやれる。しかもコストはゼロに近い。この事実は莫大な経済的利益を意味するが、同時に前例のない規模で人間の仕事を奪う。ブルーカラーもホワイトカラーもひとしくこの混乱にのみこまれ、人間の仕事の40%が、2033年までにAIと自動化技術によって代替可能になるだろう。
失業率の上昇は、問題のごく一部でしかない。失業者が増え、わずかに残った仕事を奪いあえば、平均賃金は下がる。それにより富の格差はさらに拡大する。AIが多数の人間の職業を消滅させる一方で、これらの新技術を掌握した巨大テクノロジー企業はさらに巨万の富を築く。このままだとAIは21世紀の新たなカースト制度を生み出すだろう。頂点には一握りのAIエリートが君臨し、その下に比較的少数の特別な労働者がいる。彼らは多領域のスキルセットを持ち、戦略性とプランニングと創造力を多く発揮する(ただし賃金は低い)。その下は大多数の無力で苦しむ大衆だ。
AIによる職業置き換えの大波を受けて、単純作業の職種はほぼ絶滅する。このような仕事の多くは初心者むけだが、それがなくなったら、初心者はどうやって学習や経験を積み、単純でない上級者むけの仕事をめざせばいいのか。仕事のスキルを身につける手段は自動化の時代にも残さねばならない。実地で学び、能力をつけて上をめざせるようにしなくてはいけない。下積みと呼ばれるような地道な仕事はなくなり、VR技術で代替されるだろう。
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かなりのボリューム、ゆっくり読まないと疲れます(笑)
G検定受験前に読むと、物語として頭に入るのでよかったかも。
前半は楽しいSF世界だが、後半はデストピアを連想させる深刻さもある。いつの時代も、優れたものは諸刃の剣。人間力が問われる。
量子コンピュータの世界をもっと知りたい。
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▼配架・貸出状況
https://opac.nittai.ac.jp/carinopaclink.htm?OAL=SB00547720
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技術解説が載ってる短編小説集。
本の作り方といい、各小説の生々しさといい、斬新。想像力をかき立てられる、ワクワクするような、ゾッとするような、作品。
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AIと人間が共存する未来を娯楽的SF小説と専門的解説で描く力作。10の短編はいずれも興味深く読めるが、中でも人間の雇用をAIが代替する話は自分事として考えさせられる。ぜひ一読をお薦めしたい。
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著者陣の肩書の物々しさにたじろぐ感もあるものの
硬質な翻訳SFの妙味を堪能しながら、AIの話題が急加速的に目につくことが増えた現状を経てシンギュラリティ予測の間際に起こる諸現象について
その最前線に対峙する専門家の知見をこれでもかと指し示すものとして、よくぞこのような企画の大著が結実したものだと思う。
物語の骨組みがどうしても技術革新の現実性に論拠せざるを得ない都合もあってか、エピソードの幾許かはある種予定調和的な、裏で糸を引く黒幕の存在に収斂する都合もあったが、質感のあるSFを組み上げる作家の素養としては、知への探究心とそれによって磨かれた知識が大いに役立つのだろうと昔日の同作家群にも同様の敬意を改めて払いたいと思う。