紙の本
不合理を理性でとらえるから理不尽なのか
2023/05/31 14:59
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
2008年に起きた海難事故について調査をし、国が提示した報告書に疑義を提示したルポルタージュ。犬吠埼沖合で、突然沈没し4名死亡17名行方不明という犠牲者を出した漁船沈没事故は、私の記憶になかった。読み進めば、2001年の漁業実習船えひめ丸の潜水艦との衝突事故を思い浮かべる。本題となる漁船の事故は、事故調査委員会の残した事故原因は、波という自然災害としているが、潜水艦衝突事故の可能性が高いことがわかる。明確な結論がでないまま放置すれば、歴史の中に埋もれてしまうからこそ、本書の存在価値がある。理不尽な世の中。
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国のあまりにも不誠実な対応が炙り出されている。こんなことが21世紀の日本で起こっていることが信じ難い、と思った日本は、日本政府に対して良い幻想を抱きすぎているかもしれない。
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この、漁船転覆について、やはり記憶が無くて、大震災もあるだろうが、日々多くの事件事故があるあまりに、埋もれてしまっているんだな!と感じた。
しかし、日本の国とは、誰の為に存在しているのか?この深海に、沈んでいる船を、確認したら、ある程度、少しでも、事実がわかるであろうに‥‥‥
誰もが、自分の事として考えたら、ともかく引き上げる事ができずとも確認すること位出来たのではないか?
世界の多くの国に、支援したり、第二次世界大戦後の、問題で、支援金を出したりと、多額の、お金は、ここに使ったって、良いのではないか?と、本当に、疑問でしかない。
まだ、解明は、続いている、希望は、そこにあると、思いたい。
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第一作とのことだが、筆力に驚く。堅実な調査と実証が大事であること。しかしやはりノンフィクションは事実と誤解してはならない。
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衝撃。知らんかった。つか、全くこの事件が記憶にない。
潜水艦事故といえばえひめ丸、あと、最近のそうりゅうかと思ってたが、実は実に沢山ある。
十七人がなくなった。
そうして、運輸安全委員会の報告書は、全く生存者の発言を顧みないものだ。
まだ、後ろに隠蔽工作があってと言うなら救われるが、どうにも、少ないエビデンスから結論を導くために、原因不明、と言う結論を避けるために、こう言う原因だった沈むこともあるよね、だったら、こう言うことがあって、こう言うことがあったんじゃないかなあ、という、桶屋が儲かったからには風が吹いていなければならない、と言うような展開が伺える。
しかも、それを隠蔽するためなのか、「守秘義務」を振り翳して何も見せないってのは、民主主義においてあり得ない。この官僚感は、残念ながら痛ましい死者まで出した、財務省の失言隠蔽にもつながる。
現在進行形で裁判が進んでいるようで、一筋の希望はあるが、所詮裁判官も官僚様であるのであまり過大な期待はしてない。結果は追いかけようと思う。
本の構成としては、この事件の真実を追いたいのか、関係者の翻弄される人生を描きたいのか、クソみたいな国の対応を批判したいのか、やや、曖昧な印象があった。
むしろ、もう少し章を増やして分厚くしても良かったかもしれない。
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2008年千葉県犬吠埼から350㎞付近で突如転覆・沈没し、17名が犠牲になった第58寿和丸事件を追った秀逸なルポルタージュ。「波による転覆」と調査報告では結論づけられたものの、生存者の証言による「黒い(油が一面に広がった)海」に疑義をもった著者が追跡取材した記録です。単なる記録ではなく、真犯人をさまざまな証拠・証言をもとに追い詰めていくミステリーのようで引き込まれます(文章も短くて読みやすい)。
「1番は旅客の事故、2番は商船、3番目に漁船の事故」と命に軽重をつけられ、情報開示を行わない「国」の不条理と闘う姿には著者を応援したくなります。
第58寿和丸を所有していた「酢屋商店」は福島県・小名浜をベースとしていたことから、2011年の福島原発の影響を受けてその後も悪戦苦闘。「絶対善も絶対悪もない」と言い、「不条理」に立ち向かう著者と酢屋商店・野崎社長には心から敬意を表したいと思いました。
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ものすごい執念だ。ただ誰かが動かないと捻じ曲げられた事実が正史になってしまう。最後までたどり着いてほしい。
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2008年6月、千葉県銚子市沖の太平洋上でカツオ漁を行っていた中型漁船の第58寿和丸は、碇泊中に突如として沈没し、17名もの犠牲者を出した。これは事実である。
生存者の証言によると、碇泊にもっとも適したパラアンカーを使っており、天候による影響も考えられない。周辺には船団を組む僚船が複数いたにもかかわらず、第58寿和丸のみが転覆し短時間で沈没。
また救出された当時は海面に大量の重油に覆われていたという。
関係者としても何故沈没することになったのか不明のまま月日が経ち、事故から3年も経過してからようやく事故調査報告書が公表される。
船から漏れ出たとされる油はごく少量とされ、積荷による船の傾斜と、偶然に発生した大波によって転覆し沈没したものだった。
あまりに不可解な内容だった。
著者は、とあるきっかけから、この事件について知り、地道に当事者へのインタビューと調査を進めていく。
そここら導かれた事件の全体像が見えてくる。
不可解な出来事と思えるような事故や事件がままある。その際、直後の速報報道は大量に流れるが、続報が聞こえることはまずない。ひっそりとコレコレこうでした的な原因が報告される。納得出来ない場合、状況証拠から推論はいくらでもできる。推論だけだと、それは所謂陰謀論的なものになってしまう。
しかし本作では、調査で明らかになった点と点を一つづつ繋いだまさにノンフィクションである。
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2008年6月23日、千葉県銚子沖の太平洋で底曳網漁船第58寿和丸(全長50m弱、135トンの遠洋漁船)が、ほぼ凪と言ってよい状況下で沈没、17名が死亡(行方不明含む)、3名が救助されるという海難事故が発生しました。生存者からは「2度にわたる右前方からの”ドスッ”、”バキバキ”という音と衝撃(この”2度”という点が後に非常に重要になります)」、「衝撃後数分で沈没」、「投げ出された海は重油で真っ黒。救助された時は全身油まみれ(相当多量の重油が漏れ出したことになるのですが、これも非常に重要なカギとなります)」等の証言が。
通常は事故の1年以内に公表される運輸安全委員会の事故調査報告書はなぜか3年も公表が遅れ、その内容は「事故原因は”波”。漏れ出した油は20数リットル」という生存者の証言をほとんど無視した内容で、関係者曰く「あり得ない状況を組み合わせることで、どうやったら波で転覆させられるかを考えたような内容」という内容です。公表のタイミングも東日本大震災直後という不可解なものでした。生存者の一人は事故数か月後、海上保安部の職員と偶然同席した居酒屋で「あの事故の事はかん口令が敷かれている」という話を耳にします。これだけの事実だけでも国が”何か隠している”という匂いがプンプンしてきます。しかし真相に迫るに従い、浮かんできたのは国が何かを隠蔽している、どころの話ではなかったのです…。
波、クジラなどの生物との衝突、その他多くの可能性を専門家への取材を基に検証し、最後にたどり着いたのは「潜水艦との衝突」。2001年ハワイ沖でアメリカ原潜「グリーンヴィル」に衝突された「えひめ丸」の事故状況の資料を目にし、あまりに本事案に酷似している事に驚く著者。日本の近海での潜水艦との衝突事故というなら、その潜水艦はどこの国の所属か?当然疑うのは自衛隊の潜水艦です。しかし、事故当時の元海上自衛隊潜水艦隊司令官の証言はその可能性はまずないと断言。なぜなら本事案の4か月前、イージス艦「あたご」が釣り船と衝突し2名の犠牲者が出る事故が起こっており、当時の状況から事故の隠蔽は不可能(乗員全員にかん口令を敷き、事故を起こした艦を密かに修理するまでを秘匿するのは実質不可能)だからというもの。そして元司令官が語る日本近海における各国の潜水艦の活動状況は、我々の想像の範囲を大きく越えるものでした。そこで多くの状況証拠から最も可能性の高い国の名を挙げるのですが、その国名は…。
謎の海難事故の真相を追求する過程で、船舶工学、海洋汚染、海難事故、そして潜水艦運用の各エキスパートに次々と取材を敢行し、そして多くの可能性から選択肢を絞っていく過程はノンフィクションを通り越してサスペンスを読んでいる感じでした。ここ数年で読んだノンフィクションの中でも最高の部類だと感じました。期待を裏切らない1冊、是非読んでみてください。
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これぞ調査報道の醍醐味。国交省の事故調査結果に疑問を感じた筆者が探る漁船沈没の真相。
久々に骨太なノンフィクションに出会った。2008年6月24日犬吠埼から360キロの沖の太平洋で漁船が転覆沈没。死者4名ぐらい行方不明13名、助かったのは3名のみ。
事故原因とされた波だけだは普通はふねは沈みまない。生存者の証言する2度の衝撃と重油の浮いた黒い海。それらは報告書には反映されない。筆者は海難事故を調べ真相を探っていく。
船の母校は小名浜。東日本大震災による被害、船主の水産業者の経営者の苦悶。
筆者の調査はまだ続く。
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千葉県沖で起こった漁船の沈没事故。
当初は事故だと思われていたものが、実は潜水艦による衝突とそれを当て逃げをしたことによる事件じゃないのかということを追うノンフィクション。
まず、最初の事件の臨場感からグッと心を掴まれ本の中にどっぷりつかれる。
一気読み系の作品。
3分の2までは謎を追っている疾走感で読む手が止まらない。
後半は新事実は無しで、著者や漁船会社の社長の気持ちの動きを描く。
将棋で言うとどんどん詰めているうちは本当に面白かったのだが、結局王手まで至っていないので終盤は面白さのペースが落ちてしまったのが残念。
それがノンフィクションの良いところや難しいところでもあるのだけど。
事件自体は時間が経ってしまっていること、当て逃げを認めさせる難しさなどを考えるとここから進展は厳しそうに思う。
それを差し置いても読んで良かったなと思える良質なノンフィクションでした。
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衝撃を受けた場面。福島第一原発の放射能処理水を海洋放出するかの議論。国は福島の漁業従事者に、放出の是非を判断させている。どちらに転んでも、自分たちのせいじゃないと、そういう状況を作り出していること。あくまでも、漁業従事者の視点からの感じ方ではあるが、あまりにも卑怯。
2008年6月23日、千葉県・犬吠埼の東350キロの海上で、漁船・第58寿和丸が沈没、3人が救助されたが、4名が亡くなり、13名が行方不明。海は穏やかでパラシュート・アンカーによる停泊中、周囲の船には全く異変はなく。しかし、3年後に国の運輸安全委員会が発表した事故原因は「波による浸水」。救助された3名の証言では、大きな揺れと音が2度、それから1〜2分とあっという間に沈没、放り出された海には船から油が大量に流出していたと。
なにかのきっかけで2019年に事件を知った著者は、今も真相につながる情報を追っている。
面倒を避けるため、自己が責任追及されること(今回は結論が出ないとか、調査できない部分の可能性を追求されるとか)を回避するために結論を設定する、そこへ導くためだけのプロセス消化、ストーリーを成立させるために、一部分だけを説明して都合の良いコメントを専門家からもらう、専門家の見解から都合の良いところだけを切り取って利用する、とても真っ当と言えないやり方が見える。そこに多くの人命がかかっている今回の事件で、そんなやり方を通してしまう組織に絶望する。
とはいえ当事者は絶望だけで終われるはずもなく、事故にあった漁船の酢屋商店・野崎社長、遺族や関係者の方々が、本当に何があったのか、納得できる日が来ることを願いたい。そして、ジャーナリストとして、真相を追い続ける著者を応援したい。
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ジャーナリストとはかくあるべきという、お手本のような素晴らしいノンフィクション。
事件を風化させず真実を明らかにして、二度と同じような事故を起こさせないことこそが行政のやることなのにと国へ失望したが、困難に負けず思いを継ぎ続ける人たちに、改めて尊敬と畏怖の念を覚えた。
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本書を読んでいる最中時折、離島への連絡フェリーで遭遇した恐怖の感覚を思い出した。何度か利用している航路だったが、この時は波が高く二社あるフェリー会社のうち一社は波を越えられない船種であることで欠航になっていた。行きは特別何のことはなかったものの帰路は大揺れで終始ジェットコースターの急降下が繰り返されるような状態であった。それだけでも落ち着かないのだが私の恐怖を助長したのは、視界に飛び込んできた船周辺の大波である。それは大きく盛り上がった丘のような山のような水の壁であった。穏やかであれば遠くまで見渡せる海原がほんの数十メートル先の水の壁で視界を遮られその先が全く見えない。波にのまれるのではないかという恐怖が沸き起こった。それでもパニックにまで至らなかったのは、たまたま隣の席に居合わせた漁師さんのお蔭である。おしゃべりな人で出発港へ戻るおよそ30分、この後どこへ行くの?に始まって気さくにいろいろ話をしてくれたのだがその間、大揺れの船を微塵も気にする様子がなく、それゆえ海のプロが平然としているならこんな揺れでも転覆なんてない、大丈夫なのだろうなと思ったのだった。とはいえ山のように盛り上がった波に囲まれた中にいたときの恐怖は今も鮮明で忘れることができない。しかしその恐怖は起きていないことの想像の恐怖である。突然の沈没で現実に海に投げ出された人たちの恐怖はいかばかりだったか想像を絶している。本書には生存者が命を繋ぐまでの様子が細かく記されているが、終始死と隣り合わせの状態でギリギリ生側へ傾いたことが分かる。海の上で人は二本足で立てる場所、船がなければただただ無力なのだということを痛感する。
本書を読み進めるうちに胸に迫ってきたことは、もし当事者の立場だったとしたら、私は何を考えて何を思いどんな行動をするのだろうかということだった。それは、生存者、遺族、船主、国の調査機関などそれぞれの立場のときである。死の恐怖、仲間を失う体験して再び海に出ることができるのだろうか。身内を失って且つ納得のいかないうやむやな調査にどんな気持ちを抱えそれをどう癒すのか。船主のように乗組員を思いどんなに理不尽な思いをしても心を折ることなく出来る限りのことをやり尽くせるのか。そして本書が指摘をしている矛盾を問われる立場ならどんな回答をするのだろうか。事故の検証を通じて船主に協力していた人物が『国とのあつれきが生まれる』という理由で周囲から圧力受けてもなお将来の事故を防ぎたいという強い思いで国の調査方針に異を唱えることを止めなかったという箇所を読んだとき、私は圧力に屈することなく意思を貫けるだろうかと思わず考えた。そして自分自身の考えを明確に持っているか日々志をもって行動しているのかを思った。冷静に考えればこれらのことはカタチも中身も規模も全く違ったとしても自分自身の身近で起きる出来事に置き換えられる場面が多々ある。そのとき私はどのような行動をしていただろう。ブレない芯ある考えをもって行動していただろうか。本書は人として自分はどのような考えをもって行動をするのかを問われている側面もあるように感じる。
著者が情報を集め少しずつ真の原因と思われる事柄に近づきつつ同時に国の機関の問題点にも迫っていくその行動は本当に敬服する。その原動力となっている記録を残す価値のあるものを書くという信念。著者もまた芯をもって行動ができる人物なのだ。一滴の雫が大きな波紋になっていくように本書の出版がそのきっかけになり、どうか実になる結果へと繋がってほしいと思う。
タイトルの“黒い海”は率直に船が沈没した場所で大量に広がった油を指していると思うのだが、本書を読んだ今はそれだけの表現ではないのではないかと思う。失われた命が理不尽な扱いをされ被害者が納得できない内容で結論付けられている深い闇をも意味しているのではないか。機密という見えない世界、それゆえに事実をゆがめざる得なくなってしまう世界。そのような意味もあるように思った。
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これぞ、ジャーナリズム精神!著者の並々ならぬ執念が胸に迫る。ファクトを積み上げて真実に迫る意気込みが行間から溢れている。
第58寿和丸は何故「沈みようがない状況」であっと言う間に海中に消えたのか?その真実が、すべて本書で解明されているわけではないが、私を含む読者は国の運輸安全委員会の調査報告の結果と結果に至るプロセスに啞然とさせられる。①事故調査の優先順位は、旅客、商船、漁船の順、②沈没原因は不明だが、そうは書けないので「波によるもの」にして、その結論に合う理屈を付ける(しかも、同事案の特定分野について意見を求められた専門家は、同事案に関与していたことさえ忘れている!)、③調査の内容は一切不開示(不開示決定の取り消しを求める訴えが起こされている)。そもそも原因究明に真剣に取り組んでおらず、事案処理を効率的にこなすことに重点を置いているのだろう。
船はどこかの国の潜水艦との衝突によって沈没したことはまず間違いないだろう。しかし、その潜水艦がどこの国のものであるかを知ることは、著者の引き続きの努力によっても難しいであろう。本書で紹介されている1981年の貨物船日昇丸と米原子力潜水艦ジョージ・ワシントン号の衝突事案を知り、そう思った。
本書は見事な調査報道であるが、その展開は語弊をおそれずに言えば良質のミステリー/サスペンスドラマのようであり、その面での読み応えもあった。
こうした調査報道に真摯に取り組んでいるジャーナリストがいることをたいへん嬉しく思った。