紙の本
どうしてそんな人になるのか。
2023/03/24 00:34
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投稿者:じゅんべぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
どうして、人はパワハラ上司になるのか、どうしたらならずに済むのかを科学的に説明する本です。
途中、データの羅列で難しいところもありますが、そこを乗り越えて納得できるところがあるので、頑張る甲斐があります!
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自分にパワハラの気があるので読んだが、パワハラとは何か、どんな人がどんな環境でするのかといったことから解決策まで提示していて大変勉強になった。
パワハラ行為者は協調性と誠実性が低く、外交的で一見人当たりが良さそうだが本当の意味で人に関心がない。邪悪な性格特性としてのダークトライアドは、マキャベリアニズム、サイコパシー、ナルシシズムの3つの特性から構成される。上記の性格傾向を持つパワハラ行為者に自ら気付いてもらうのは無理。文書等で明確に指摘するしかない。
パワハラ上司のリーダーシップは脱線型、専制型、放任型に分けることができる。放任型は意外にもパワハラを生む要因。
個人的パワハラの発生要件として自尊心が不安定に高い。日本人は潜在的自尊心は北米とあまり変わらず、表向き謙遜しているだけで不安定に自尊心が高い状態の人が多い。EQが低く、怒りのコントロールができない。想像力が乏しく、パワハラ行為とその影響を認識していない。他者への期待水準が高い。
職場環境について、冗談やからかいがエスカレートしてしまう可能性がある。
パワハラ上司にならないために、部下と自分は対等な同僚と認識する、安定した自尊心を持つ、感情知能を高める(アンガーログ。イライラした時は自分の信念わ価値観に気付くチャンス。積極的傾聴。)、ストレスにうまく対処し体調を整える、世代間文化間のギャップを認識する、個別配慮型リーダーシップ(上司が部下の長所を伸ばせるように手助けしていたり単なる集団の一員というより個人として接していたり)を発揮する、部下に指導するとき周りに人がいない状態でまずできている点、問題点の順で指摘しどうしてほしいか依頼する。
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とてもわかりやすい。単に法律上のパワハラをなくすためだけでなく、人が気持ちよく働いて、その人らしさを持ちながら最大限のパフォーマンスを発揮してもらう必要がある。
何をすればいいのか、どうすればいいのか、など科学的な根拠に基づき書かれており、著者の熱い思いが伝わってきた。
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総じて上司個人のパーソナリティ的な心理学的な話題が中心で、組織的なパワハラへの考察が殆どない。個人のパーソナリティ的な問題はある種の「犯罪行為」であって、個人がどうにかすれば(個人にどうにかさせれば)解決する問題であり、これを「科学的」に考察したのは評価されるべきではあるが、果たしてパワハラ問題の根本的な解決になりえるのか否か。
実際のパワハラの現場は所謂「追い出し部屋」に代表されるように、会社ぐるみである種「合法的」かつ巧妙になされる場合が大変厄介であり、裁判でも問題になる部分である。そこには「アイヒマン」的要素が多分に絡んでくるようにも思えるのだが、そういった視点での考察が欠如していたのは期待外れでもあり残念でもある。ただし、著者には力量を感じるので次作に期待したい。
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■パワハラの定義
「改正労働施策総合推進法」において、パワハラは「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素をすべて満たすもの」と定義された。
・「職場」は業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外であっても業務を遂行する場所については、「職場」に含まれるとされている。例えば出張先、懇親の場など。
・パワーハラスメントの「パワー」の部分を「優越的な関係」と表現している。
■パワハラの6類型
①身体的な攻撃
・暴行・傷害
②精神的な攻撃
・脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
③人間関係からの切り離し
・隔離・仲間外し・無視
④過大な要求
・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
⑤過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れて程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
■パワハラの判断は行為者側に悪意があるかどうかはパワハラの必須要件ではない。行為者に悪意があったか、どのような意図があったかに関係なく、結果的にその言動が相手を傷つけるものであるか職場環境や就業意欲を害するものであるかを重視して判断を行う必要がある。
■夫婦ともに就業している共働き世帯が急増しており、1997年には共働き世帯の数が専業主婦世帯の約2.6倍となった。
■パワハラ行為者に男性が多い理由は5つ考えられる。
①管理職に男性が多い
②男性の方が攻撃的な行動をとりやすい
③「有害な男性らしさ」の影響を受けている
④男性の方が相手の感情を読み取りにくい
⑤パワハラ行為を行いやすい性格傾向を持つ人が男性に多い
■パワハラ行為者に特有の性格傾向があることが報告されている。その中で特に注目されているのが、
①マキャベリアニズム(マキャベリ主義)
ルネサンス期の政治思想家ニッコロ・マキャベッリ及び彼の著書「君主論」の内容に由来する。君主は恐れられることが必要であり、どんな手段や非道徳的な行為も、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるという考え方。転じて目的のためには手段を選ばないやり方を指す。
②サイコパシー(精神病質)
良心が異常に欠如している、他者に冷淡で共感しない、慢性的に平然と噓をつく、行動に対する責任が全く取れない、罪悪感が皆無、自尊心が過大で自己中心的、口が達者で表面的には魅力的。
③ナルシシズム(自己愛性傾向)
「自分は特別で重要な存在である」と誇大な感覚を持つ。常に自分の能力を過大評価し、しばしば自慢げに見栄を張っているように見える。自分は褒められて当然であると思い込んでおり、賛美が得られないときは驚く。自分の成功や権力、美しさ、理想的な愛などについての空想にふけっている。対人関係で相手を不当に利用することも多く、共感が欠如している。
①から③の三つの要素から構成される「ダークトライアド」。
���これに当てはまる人は男性に多い
・ダークトライアドの三つの特性はいずれも、正直さー謙虚さと関連がある
・サイコパシーは反社会的行動や犯罪行為と関連がある
・いずれも他者への感情移入の欠如や他者を平気で利用することに代表される「冷淡さ」や「罪悪感のなさ」「自己中心性」を共通して持っている
■サイコパシーはいじめの加害行為と関係している。
一方でマキャベリ主義者やナルシストは表立っては暴力行為を行わずより慎重に、より注意深く人を捜査していく傾向にある。
■他者への共感性や他者に迷惑をかけたり傷つけたりすることへの罪悪感が著しく低いため対人関係で問題を起こしやすいことが共通して報告されている。
短期的には人間関係を築くことができても、中長期的に人間関係を築くのが困難であるのが特徴。
■マキャベリアニズムの高い人、ナルシシズムの高い人、サイコパシーの高い人は自分をよく見せることに長けている。
ダークトライアドについて報告した論文でも「人事部門は、特にマキャベリ主義が高く、正直さー謙虚さが低いような従業員が良い評判を守るために長期的に戦略を立て連携することが可能であることを知っておくことが必要である」と指摘している。
彼らは目標達成(金銭、権力、競争)のためには誰かを手助けしたり、巧みに操作したりすることができるからだ。何人も部下を潰しているパワハラ上司がなぜか上層部の人間から気に入られていることがあるのもこれが理由。こうした人は上から見ると業績も実績も申し分なく人としても魅力的なように見えてしまう。
■ダークトライアドの高い人は自分自身に対する評価も高ため、「自信を持っているように見える」ことも高い評価を受ける理由の一つ。
人はリーダーを選ぶとき「自信がなさそうに見える人」よりも「自信がありそうな人」を選ぶ傾向がある。
日本の研究では国内情勢が悪化したり治安が悪化したりするほど、人々は邪悪(ダークトライアド)な性格特性を持つ人に魅力を感じやすいことが明らかになっている。多少の非倫理性に目をつぶっても、その人の「実行力」に期待するため。国や組織が混とん状態になったときは邪悪な性格特性を持つ人が活躍する機会が増える可能性があるといえる。
ダークトライアドの中の一つ以上の性格特性を持っていたとしても、他者を魅了する他の要素(知性や外見の魅力さ)を持ちあわせていた場合、組織の中でリーダー的ポジションを獲得しやすいことが報告されている。こういった「他に魅力的な面」を持つ人は他者と信頼関係が築けなくても評価されてしまうため。
部下を潰したり他者を蹴落としたりしてでも目的を達成する人を評価している組織は知らず知らずのうちに、こういった「邪悪な性格特性」を持つ人が活躍する機会を与えてしまっていることになる。
組織に必要なのは人を傷つけたり潰したりすることに全く痛みを感じない邪悪な性格特性を持つ人に対して、決してパワーを与えない、そのような人を決して昇進させないという強い意志である。
そのためには、組織のトップや人事はその業績や実績が他者を不当に利用したものでないか、他者を潰した上で達成したものではないかなど、きちんと��価しなければならない。
■自己愛性パーソナリティ障害
自分が誇大であるという感覚を持ち、他者から賛美されたいという欲求を持ち共感が欠如していることが特徴。
①自分の重要性や才能について誇大な根拠のない感覚(誇大性)を抱いている。十分な業績がないにも関わらず自分が優れていると認められることを期待する。
②途方もない業績、影響力、権力、知能、美しさ、又は理想的な愛という空想にとらわれている。
③自分が特別かつ独特であり他の特別な・優れた人々だけが自分を理解し、関係性を築けると信じている。
④無条件に称賛されたいという欲求を持っている。
⑤特権意識を持ち、特別な対応を求める。自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する。
⑥目標を達成するために、他者を利用する。
⑦共感性に欠けている(他者の気持ち及び欲求を認識しようとしない)
⑧しばしば他者を嫉妬する、また他者が自分を嫉妬していると思い込む。
⑨尊大で傲慢かつ横柄である。
・自己愛性パーソナリティ障害も比較的男性に多いことが報告されている
・診断された人の50~75%が男性
・一般の人の最大6%にみられると推定され、身近にいる可能性が高い
・自分が重要である、そして素晴らしい人物であるという誇大的な感覚が特徴
・自尊心のために人を利用することを普通にする
・本当の意味で他者に共感したり、思いやりを持ったり、感謝したりするの能力に乏しく他者との現実的な信頼関係を持てないことも特徴
・他者に対しては関心がない一方、自分自身の業績やキャリアには深い関心を持ち理想的な自分を獲得するために努力を重ね、実際に成功を収めている人も少なくない
■自己愛性傾向の強い人は仕事上密に関わったことのある人からはあまり評判がよくないのに対し、身近でない人(組織の上層部や他業界の人)あるいは短い時間しかかかわらない人からは評判がよかったり称賛されることがある。
・身近でない人からの評判が高いのはセルフブランディングがうまいことも影響している
・謙遜しないので業界の中の有力者にも好かれる傾向にある
・人によって大きく評価が異なる人は要注意といえる
・一番近くでそして長い時間一緒に過ごした同僚や後輩から丁寧にヒアリングをすることがその人の本来の姿を把握する上で重要
■パワハラ上司は「脱線型」「専制型」「放任型」の三つのタイプに分けることができる。
①脱線型
・部下にも組織にも損害を与える組織にとって最も避けるべき上司像
・新しい技術や意見を取り入れることに抵抗を示す
・組織の上層部に気に入られることには時間と手間を惜しまないが、自分の同僚や部下に対しては時間と手間をかけない
・部下のことを仕事のパートナーというより、競争相手とみなしている
・自分をよく見せるために業績の水増しや架空の売り上げ計上等の不正行為を行うことがある
・過去の成功体験に固執している
②専制型
・自分のやり方や考え方を押し付けたり、専制君主や暴君のように全て自分の思いどおりにさせたりする行動をとること
・典型的なパワハラ上司のリーダーシップ形態であり、上司がポジション・パワーを用いている状態。ポジション・パワーとは正統権力(職位等の社会的地位)、強制力(制裁や懲罰)、報酬力(昇給、賞与、昇進を決める力)などの上司だからこそ持つパワーのこと
・恐怖政治になりやすく部下に大きなダメージを与え、「それが社員のモチベーション低下や人材流出等を通して、組織に対しても損害を与える
・機体水準に到達しない部下に対して「何でこんなこともできないの?」とバカにする
・仕事の進め方を細かく指示したり、細かい箇所まで説明や修正を求めたりする
・周囲に人がいる状態でミスを指摘したりできていないことを批判する
・自己顕示欲(自分の存在をアピールしたいという欲求)が強い
・自信家であり自分が正しいと思っている
・第三者から見て非合理的な罰を与える
・部下が主体的に動くことを歓迎しない
・すぐにカッとなって怒鳴るなど、感情のコントロールが苦手
・仕事が部下の犠牲(長時間労働、休日勤務、過剰なノルマ等)の上で成立している
・組織の目標達成(売り上げや経費削減)に貢献している場合があり、その場合は上層部から評価されている
・専制型リーダーシップは長期的には部下のパフォーマンスを下げる
・専制型リーダーシップがもたらす悪影響は部下をメンタルヘルス不調にしたり自尊心を傷つけたりすることだけではなく、組織内の不正行為(売上水増し、伝票偽造等)や逸脱行為(会社の備品を盗む、残業時間の水増し等)を増やすことも指摘されている
③放任型
・パワハラの発生と関連する破壊的リーダーシップの中でも最も高頻度で観察される
・部下と積極的に関わると「ハラスメントだ」と訴えられかねないので、部下とは最低限のかかわりしか持たない
・自分に決断や判断を求めないで欲しいと思っている
・部下が誰かをイジメていても止めに入ることはしない
・出張や会議で忙しく部下がいる職場を不在にしがちである
・部下を褒めたりねぎらったりすることはほとんどない
・仕事に対する情熱を語ったり、目指すべき将来像を語ったりすることはない
・放任型・消極型上司は日本に多い
・地方公務員約1000人を半年間追跡した調査では上司が放任型だった場合、パワハラが発生するリスクが高くなることが明らかになっている
■専制型上司の上に放任型上司がいる職場が最も危ない。
■この世にストレスという概念を生み出したハンス・セリエはストレスには「ユーストレス」と「ディストレス」の二種類があるとした。ディストレスは不快なストレスである一方、ユーストレスはモチベーションを高めたり幸福度を高めたりするものと定義。
■部下にダメ出しを行う際は
①周りに人がいない状態で行う
②褒めること・できていることを同時に伝える
③人格否定をせずに何をどうして欲しいのか伝える
の「3プラス3」が鉄則。
■人がイジメやパワハラをしてしまう原因に、「自尊心の不安定な高さ」、「感情知能の低さ」、「自分の言動が他者にどのように影響するのかの認識の甘さ」、「他者に対する期待水準の高さ」があることが分かっている
①自尊心が不安定に高い
・自分が自分���身の価値をどれだけ認めているかという評価のこと
・自尊心は行動に良い影響を与えたりコントロールしたりする動機となる
・自尊心が高い人はリーダーになりやすい傾向にある
・自尊心が「不安定に」高い人は、不安を感じたときに自己防衛反応が起こり攻撃的になりやすい
・自分が傷つくことを恐れて他者に攻撃的になる
・本当の意味で自分自身を認め精神状態が安定している人は他者のことも認める余裕があるため攻撃的になることはない
・自尊心は誰かによって強制的に植えつけられるものでもなく、また、根拠なく自分自身が優れていると思い込むことが重要なのではなく、何かしらの納得できる根拠をもとに少しずつ自然と獲得していくもの
・「不安定に高い」自尊心は、顕在的自尊心と潜在的自尊心との間のギャップが影響している
②感情知能が低い
・感情知能とは自己の感情を知覚し、適切に表現し、他者の感情を理解し、自分自身や他人の感情を調整することができる能力のことで、IQと比較して心の知能指数「EQ」と呼ばれることもある
・パワハラ行為者は感情知能が低い、特に感情の中でも怒りのコントロールができないことが多くの研究で指摘されている
③自分の言動が他者にどのように影響するか認識できていない
・パワハラ行為者の多くは自分がどのような行動をしていて、それが被害者にどのように影響を与えるかについて認識していない
・パワハラ被害者の殆どは加害者からの攻撃を一連の関連ある出来事として捉えている。例えば「先週舌打ちされた」「今日怒鳴られた」はいずれも上司から受けた連続性のあるパワハラであると認識される。そのため月に数回のパワハラ行為でも、「ずっとパワハラを受けている」と感じている。一方加害者は行為一つ一つを単発のものと認識する傾向がある
④他者に対する期待水準が高い
・パワハラ行為者の多くが被害者のパフォーマンスに不満を感じて非難や監視を行ったことが報告されている
・パワハラ行為の原因となる「期待水準の高さ」「怒り」は自分自身の価値観から生成される
・パワハラ行為者の話を聞いた経験から、多くは「イライラするのは部下の出来が悪いせいだ」と思っているが、決してそうではなく、上司が部下の能力・キャパシティ以上の期待水準を押し付けていることが殆ど
・自分に厳しい人、努力をしてきた人、…すべきという価値観を多く持っている人はパワハラをするポテンシャルが高いと言えるので、一般的に高学歴だったり、いわゆる「仕事ができる」といわれたりする人であるほど要注意
⑤厳格な親タイプ
・特に「拮抗禁止令」(ドライバー)と呼ばれる、幼少期に親から受け取ったメッセージのうち「…しなさい」と駆り立てられる指示や命令の影響を強く受けている人は要注意。なお、ドライバーには具体的に「完璧であれ」「努力せよ」「強くあれ」「(他人を)喜ばせよ」「急げ」の種類がある
■ソーシャルキャピタルとパワハラ
・ソーシャルキャピタルとは、ネットワークや規範、信頼などの社会組織の特性のことを指し、メンバー同士のつながりが強く、お互いを信頼し、相互規範が共有されているときにソーシャル・キャピタル���高いと判断される
・ソーシャル・キャピタルが高いと地域の様々な利益をもたらす。代表的なのが「非公式な社会統制」(地域の人々が地域社会の秩序を維持する力)や「集団的効力感」(自己効力感の概念を集団レベルに落とし込んだもので集合的な行動をとるためにどれだけ皆が一致団結できるかという能力のこと)である
・近年は職場のソーシャル・キャピタルが注目されており、職場の人間関係、繋がり、信頼、組織へのコミットメントの程度で測定される。職場のソーシャル・キャピタルが高いと、従業員のワーク・エンゲイジメント(仕事に誇りを持って熱心に取り組んでおり、活力を得ている状態)が高く、離職意識が低いことが分かっている
・一方で団結力が強かったり、同質性が高かったりすると異質なものを排除する力の強さに繋がるもの。これは「ソーシャル・キャピタルの負の側面」と呼ばれるもので「部外者の排除」「メンバーへの過度な要求」「メンバーの自由の制約」「規範の下方水準化」が挙げられる
■パワハラを受けた従業員の割合が高い職場の特徴(厚生労働省実態調査)
・上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない職場
・残業が多い/休暇を取りづらい職場
・業績が低下している/低調である職場
・ハラスメント防止規定が制定されていない職場
・失敗が許されない/失敗への許容度が低い職場
・遵守しなければならない規則が多い/高い規律が求められる職場
・従業員間の競争が激しい/個人業績と評価の連動が徹底している職場
・職場の雰囲気が砕けすぎている/上司が寛容すぎる職場
・従業員間に冗談、脅かし、からかいが日常的にみられる職場
・従業員の年代に偏りがある職場
・他部署や外部との交流が少ない職場
・従業員が男性ばかりである職場
・女性管理職の比率が低い職場
■パワハラが起こりやすい職場チェックリスト
・仕事量が多いのに裁量権が低い
・上司や同僚に気軽に相談できない
・明文化されていないルールが多い
・長時間労働が当たり前の職場
・従順さが求められる
・従業員同士の団結力や連帯感が強い
・職場のメンバーに多様性がない
・役割葛藤や役割の曖昧さを感じることが多い
・冗談やからかいが日常的にみられる
・ハラスメントを容認する風土がある
・体育会系の競技出身者が多い
・感情を抑圧し力を誇示する頃が求めらえっる
・上司や先輩の言うことは絶対だ
■相手への期待の中で特に「…すべき」「…なはず」「…当たり前」「普通」「常識」という言葉は要注意。これらを信念として自分の中で大切にするには問題ないがそれを他者に押し付けるとパワハラにつながりやすい。
■社会認識力を高めるには、
・5分間口を挟まずに話を聴く
・相手の立場に立って気持ちに共感しながら理解しようと努める
・善悪、好き嫌いの評価を入れずに聴く
・自分と相容れない意見や考え方をしていてもなぜその様に考えるようになったのか、その背景に関心を持って聴く
・組織の中でどのような感情を持っている人が多いのか何人かに聞いてみる
■関係調整力とは、
・コミュニケーション
感情的な情報のやり取りを効果的に行い、困難な問題にも率直に対処し、よく話を聴き、情報の共有を歓迎する姿勢のこと。感情的にならないよう健全な対話が求められる
・コンフリクト・マネジメント
問題(意見の対立や衝突)が発生したときにそれを察知し、関係者を落ち着かせるための手段を講じること
・ビジョナリー・リーダーシップ
ビジョンやミッションに対する熱意を明確にし、必要に応じて前に進み責任を持たせながらパフォーマンスを導き、模範を示してリードするリーダーシップ形態のこと
・チームワークとコラボレーション
チームのメンバーは良くも悪くも感情を共有する傾向がある。チームメンバーが良い気分でいるとその部署のパフォーマンスが向上すること、上司のポジティブな気分や態度は従業員の定着率と業務効率を高める
等の要素から構成される。
■ストレスへの対処で一番重要なのは「溜めないこと」「吐き出すこと」。
■上司世代は「自分のやり甲斐や達成感」を最も重視していたが、今の若い世代は自分自身のやり甲斐や給与アップよりも「認められたい」という思いが強く出ているため、上司から叱責されたりすること自体が大きなストレスになってしまう。
■東京未来大学の転職経験のない新卒3年目の男女300人を対象にした2019年の調査によれば、「仕事に対するモチベーションが上がる上司の行動」の第1位は男女とも、「仕事ぶりを評価する」こと。男性の第2位が「労いの言葉をかける」で女性の第2位が「意見に耳を傾ける」だった。
■マネジメントとリーダーシップの違い(ジョン・P・コッター)
・マネジメントとは「計画と予算の策定」「組織編成と人員配置」「統制と問題解決」
・リーダーシップとは「方向性の設定」「人心の統合」「動機づけ」
■「リーダーシップ」と聞くと部下を強いカリスマ性で引っ張っていくような上司を思い浮かべるかもしれないが、そこまで必要ないとされる。
「一般的にリーダーシップは強調され過ぎている。コミュニティシップを両立しうる程度でよく、人が協力して働き、個を尊重し、組織をより良い場にするために互いを結び付けていくことで両立できる程度でよい(ヘンリー・ミンツバーグ)。
・最も重要なのが「個を尊重すること」
・地方公務員を対象に実施した調査でも「個別配慮型」の上司の下で最もパワハラ発生リスクが低く、メンタルヘルス不調発症を予防する効果があるという結果が得られている
■「個別配慮型リーダーシップ」とは、上司が部下の長所を伸ばせるよう手助けしていたり、単なる集団の一員というより個人として接していたり、部下それぞれが異なる欲求・能力・抱負を持っているものだとして接している状態のこと。
①部下の長所を伸ばせるように助ける
・ピグマリオン効果:上司の期待により部下の生産性を上昇させる効果
・ホーソン効果:「注目されている」ことで作業効率を高める効果
②部下一人一人が違うニーズ、モチベーションスキル、キャリア展望を持っていることを頭に入れて接する
・自分の仕事観、仕事へのモチベーション、今後の展望を開示する
・部下が過去に経験したことや考えていたことを聞く
��部下の現在~未来のことを聞く
③単なる集団の一員としてではなく個人として接する
・「相手の関心」に関心を寄せること
■部下に耳の痛いことを伝えるには、「3プラス3」の鉄則を守る。
①周りに人がいない状態で行う
②褒められる点・できている点を先に伝える
③人格否定をせずに、何をどうして欲しいのかを伝える
(a行動の指摘+bなぜそれが問題なのかの説明+cどうして欲しいのかの具体的な説明)
■パワハラ上司にならないためのポイント
・「自分と部下は対等な立場にいる同僚同士だ」と言い聞かせる
・運動や筋トレをして自尊心を高める
・感情知能(自己認識力、自己管理力、社会認識力、関係管理力)を高める
・部下のできていない点が目に付いたら①やり方を知らないのか、②苦手なのか、③何か事情があるのか判別する
・世代によって仕事へのモチベーションは異なることを認識する
・外国人が働きやすい職場にする
・部下の長所を伸ばせるように助ける
・部下一人一人が違うニーズ、モチベーション、スキルキャリア展望を持っていることを頭に入れて接する
・単なる集団の一員としてではなく個人として接する
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パワハラが何かをまとめた本だが、裏返して良いマネジメントについての気付きになる良い本。人を見る目を養うという意味でも参考になる。
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2023年6月読了。
役目柄、ちょっと面白そうなタイトルの本だったので読んでみた。正否はともかく科学論文による裏付けを取っており、少なくとも独りよがりでカッコつきの「パワハラ対策」ではなさそうな印象で、なかなか興味深い一冊だった。著者の話を是非リアルに聞いてみたい。
(49・50ページ、モノポリーを使った実験結果について)社会や組織の上位にいくほど、①慈悲や同情の気持ちが減り、②権利意識や自己利益についての意識が強くなり、③周囲の人の不利益を顧みなくなる…(中略)その逆に、社会的地位が低い人(または貧しい人)の方が、より寛大であり、他者を信頼する傾向にあり、他者に施すのに熱心であり、他者を手助けする傾向にあった(以下略)
(52ページ)登用前の研修で、管理職になっても人として偉くなるわけではないこと、業務内容にマネジメント業務が加わっただけであること、部下が上司の言うことを聞いて当たり前だと思わないことを、説明して理解してもらうことも大切
(66ページ)「自分は女々しくない」ことを男性仲間にアピールするために、(本当はしたいと思っていなくても)攻撃的行為や暴行をしてしまうことも、「有害な男らしさ」の一つです。
(67ページ)スポーツを通して有害な男性らしさを獲得した人々を、「有毒体育会系」と呼んでいる研究者もいます、。一般的にスポーツは心身の発達に良い影響をもたらしますが、「有毒体育会系」の学生の関心は、チームワークやスポーツマンシップよりも、他の選手より優れたパフォーマンスをしてスターになることに重きが置かれているため、自己中心的で衝動的である傾向が指摘されています。
(69ページ)近年、パワハラ行為者に特有の性格傾向があることが報告されています。その中でも特に注目されているのが、マキャベリアニズム(マキャベリ主義)、サイコパシー(精神病質)、ナルシシズム(自己愛性傾向)の三つの要素から構成される「ダークトライアド」です。そして、これらに当てはまる人は男性に多いことがわかっています。
(75ページ)(前略)これではパワハラは防止できません。性格は生まれ持った部分が大きく、年齢を重ねる
につれ成熟し変化していくものの、直ちに変化させることは難しものです。そのため、「部下に配慮して下さい」「思いやりを持って接して下さい」と言っても、元々持っていない部分の特性を突然何らかの方法で獲得することはできません。
(84ページ)マキャベリズムの高い人、ナルシシズムの高い人、サイコパシーの高い人は、自分自身に対する評価も高いため、「自信を持っているように見える」ことも、高い評価を受ける理由の一つです。というのも、人はリーダーを選ぶ時、「自信がなさそうに見える人」よりも、「自信がありそうな人」を選ぶ傾向にあるためです。
(85ページ)組織に必要なのは、人を傷つけたり潰したりすることに全く痛みを感じない邪悪な性格特性を持つ人に対して、決してパワーを与えない、そのような人を決して昇進させないという、強い意志です。
(95ページ)ダークトライアドのような邪悪な性格傾向を持ち、人の痛みを理解するのが難しい人に対して、「人の痛みに気付いて下さい」と言ったところで、何の効果もありません。
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図書館の新着コーナーで手に取った。
若い研究者の著作、学術的になりすぎず読みやすく構成も悪くない。著者の読者に丁寧にわかりやすい本を提供したいという思いが伝わってくる。参考文献も掲載されており理解を深めるのに大変便利だ。このような本がいままでにないというのが不思議なくらいだ。
本著は、働きやすい職場、安心・安全な職場、生産性が高い職場をつくるきっかけとなる一冊だ。
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とても読みやすい本でした。そして、パワハラについての理解も深まりました。
この本はぜひ新任の管理職に読んでもらいたいなと思います。
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被害者への聞き取りだけではなくて、組織や会社側への聞き取りも加味しながら、科学的(統計的にまとめた本。
内容は学術論文的ではあるが、できるだけ多くの人にとって欲しいと言う著者の思いから新書にされている。
興味を引いたトピック。
立場が優位であれば、言動も高圧的になってしまうと言う結論に至る実験として、ボードゲームの実験がある。勝っている人は、お菓子をついついつもり食べ過ぎてしまうとか、ちょっと横道にそれるエピソードではあったが、なるほど、確かにこういうところにも表れているのかと印象に残った。
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そもそも日本の価値観や風土がパワハラを発生させやすいようだ。
皆に同じ行動を要求したり、
ハードワーク(気合と根性)を評価したり、
理不尽なことがあっても黙って耐えることを美徳とするところなど。
同じを求めるが故にはみ出したものは、集中砲火に会う。
パワハラといじめの構造はかなり似通っていることを改めて感じた。
もちろんパワハラが生じるのは加害者が一番わるいのだが、
反論せず、自分が悪いのだと同調し続ける被害者や加害者を持ち上げる太鼓持ちのような存在。気づいていても黙認する放任型の上司など、
加害者をとりかこむ人の関わり方がパワハラを生み出す土壌をつくりだす。
パワハラ加害者は十中八九、自分がパワハラをしていると自覚できないという。
だからこそ周囲の人間が断固とした意思を持って、小さな理不尽でもそれは人としてやってはいけないことだと伝えなければならない。
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パワハラ上司になるメカニズムはわかりました。
そういう上司が居た場合は、パワハラを受ける側の対処法としては、やはり転職するしかなんですかね・・・。
とはいえ、万年平社員でいたい自分も、人を指導することは多少ありそうだし、自分などは放任主義で、それもパワハラになる場合があるとあり、ハッとさせられました。自分がパワハラ上司にならないための参考になりました。
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部下が上司の言うことを聞くのは、好きだからでも魅力的だからでもなく、「単に上司だから」です。もちろん、上司のことを尊敬していたり、魅力的だと感じていたりする場合もあります。ただ、一般的には、上司や先輩であることと、尊敬されたり好かれたりすることとは、必ずしも一致しません。
・人は優越性を得ると横柄になる
人は社会的に優位な立場に立つと、横柄になることがわかっています。社会や組織の上位にいくほど、①慈悲や同情の気持ちが減り、②権利意識や自己利益についての意識が強くなり、③周囲の人の不利益を顧みなくなることが、様々な研究からわかっているのです。
この実験結果はまさに、社会や組織の上位にいくほど、①慈悲や同情の気持ちが減り、②権利意識や自己利益についての意識が強くなり、③周囲の人の不利益を顧みなくなること、を証明しています。
その逆に、社会的地位が低い人(または貧しい人)の方が、より寛大であり、他者を信頼する傾向にあり、他者に施すのに熱心であり、他者を手助けする傾向にあったことが、複数の実験によって報告されています。
これらの研究は主に米国で行われた研究であり、貧しくても他者へ施すことを教えとするキリスト教信者が多いことが影響している可能性もありますが、少なくともこれらの研究会的地位や金銭的な豊かさと心の豊かさとは必ずしも一致しないことを示しているのです。
モノポリーの実験されたように、社会や組織の上にいくほど、自分の努力によってその地位まで到達したと認識してしまうため、努力しない者に対して自己責任論を押し付けたり、厳しい態度を取ったりするようになる傾向があります。これが、人が権力を手にすると横柄になってしまう理由です。
これは組織内の昇進にも同じように当てはまります。本当はたまたま年齢的だった、たまたま取引先に恵まれた、たまたま家事・育児・介護の負担がない等の有利な条件で仕事していた、あるいは上長のお気に入りだったなどに大きく影響していたとしても昇進した本人はそういった環境要因よりも「自分が努力したからだ」「自分は選ばれた人間なのだ」 と認識する傾向にあります。
その結果、「下は言うことを聞くべき」「自分のように、周囲も努力すべき」という思考になり、その期待に応えない部下に対してイライラするようになります。部下の努力を当然のこととして求めるので、次第にパワハラにつながるような言動が増えるのです。
さらに、上司になると、慈悲や同情の気持ちが減るだけでなく、部下の感情を適切に読み取ることもできなくなる傾向にあります。実際に、社会的地位の高い人は、そうでない人と比べて、相手の表情から感情を適切に読み取ることができなかったという研究報告が複数あります。
つまり、部下が辛そうにしていても、上司はそれに気付きにくいため、さらにパワハラ行為をエスカレートさせてしまうのです。
一方で興味深いことに、「自分は社会的弱者である」と思いこませてから、もう一度相手の感情を読み取る作業をしてもらうと、今度は正確性が上昇したという研究もあります。つまり、上��が忘れてしまった慈悲や同情の気持ちを蘇らせるには、社会的弱者の立場を疑似体験できるような研修や、部下の立場に立って考える機会を定期的に作る等の方法が有効だと言えます。権力やパワーを持つと、悪意がなかったとしても行き過ぎた行動に出る可能性が高いと言うことは、パワーを持った時にどういう振る舞いをする人なのかの見極めが重要です。パワーを適切に使える人なのかどうかを、管理職に登用する前にスクリーニングする必要があると言えます。
また、登用前の研修で、管理職になっても人として偉くなるわけではないこと、業務内容にマネジメント業務が加わっただけであること、部下が上司の言うことを聞いて当たり前だと思わないことを説明して理解してもらうことも大切です。
■パワハラ行為者に男性が多いのか
パワハラ行為者に男性が多い理由として、五つの理由が考えられています。一つ目は「管理職に男性が多い」こと、二つ目は「男性の方が攻撃的な行動を取りやすい」こと、三つ目は「“有害な男性らしさ”の影響を受けている」こと、四つ目が「男性の方が相手の感情を読み取りにくい」こと、そして五つ目が「パワハラ行為を行いやすい性格傾向を持つ人が男性に多い」ことです。
■ダークトライアド(邪悪な三つ組の性格特性)の特徴
1マキャベリアニズム(マキャベリ主義)
ルネサンス期の政治思想家ニッコロ・マキャヴェッリ及び彼の著書『君主論』の内容に由来する、君主は恐れられることが必要であり、どんな手段や非道徳的な行為、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるという考え方。転じて、目的のためには手段を選ばないやり方を指す。
2 サイコパシー(精神病質)
良心が異常に欠如している、他者に冷談で共感しない、慢性的に平然と嘘をつく、行動に対する責任が全く取れない、罪悪感が皆無、自尊心が過大で自己中心的、口が達者で表面は魅力的。
3 ナルシシズム(自己愛性傾向)
「自分は特別で重要な存在である」と誇大な感覚を持つ。常に自分の能力を過大評価し、しばしば自慢げに見栄を張っているように見える。自分は褒められて当然であると思い込んでおり、賛美が得られない時は驚く。自分の成功や権力、美しさ、理想的な愛などについての空想にふけっている。対人関係で相手を不当に利用することも多く、共感が欠如している
特にマキャベリアニズムやサイコパシー傾向の強い人にとっては、目的のために嘘をつくことはたやすいものであることを認識しておく必要があります。そのため、少なくとも下記の三点を、その人と直接一緒に仕事をしたことのある同僚や後輩、部下からのヒアリングによって確認するのがいいと考えています。
1目的のためには手段を選ばない傾向があるか(マキャベリアニズム)
2他者への共感力や良心が異常に欠如していないか(サイコパシー)
3これまでに人をタダ働きさせたり、人の手柄を横取りしたりするなど、他者を不当に利用したことはなかったか(ナルシシズム)
なぜこういった人たちからヒアリングする必要があるかと言うと、ダークトライアドに該当する性格特性を持つ人は、相手によって見せる顔が大きく異なることがあるからで��。自分よ同等もしくは格下の者にどう対応するかに、その人の本性が現れます。例えば、経歴が華やかで、上層部から評価されており、見た目も良く、優しそう・頼りになりそう等、第一印象が非常に良い人であっても、過去に一緒に仕事をした同僚や後輩から話を聞くと、「二度と一緒に仕事をしたくない」「顔も見たくない」という全く別の評価が出てくることがあります。
■パーソナリティ障害分類(DSM-5)
A群:奇妙で風変わりに見える
・妄想性パーソナリティ障害群
他者の動機を悪意のあるものと解釈する、他者に対する根拠のない不信および疑い深さを持つ
・シゾイドパーソナリティ障害
他者に対する全般的な無関心、対人関係における感情の幅が狭い
・統合失調型パーソナリティ障害
親密な関係に対して強い居心地の悪さを覚える。親密な関係を築く能力が低く、思考や知覚が歪んでいたり、風変わりな行動を取ったりする
B群:演技的で、情緒的で移り気に見える
・反社会性パーソナリティ障害
社会の規範を破り、他人を欺いたり権利を侵害したりすることに罪悪感を持たない
・境界性パーソ ナリティ障害
現実または妄想で、人に見捨てられることを強く恐れ、不安を抱く
・演技性パーソナリティ障害
広い範囲の対人関係において、過度に注意を引こうとする。話題の中心にいないと気が済まず、知人を実際以上に親密だと思いがちで、公衆の面前で過剰な情動表現を行う
・自己愛性パーソナリティ障害
自分が重要であるという誇大な感覚を持つ。自分の能力を過大評価し、業績を誇張し、他者からの賛美と有利な待遇を期待する。他者を無意識に搾取する
C群:不安又は心配げに見える
・回避性パーソナリティ障害
批判、非難、拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある活動を避ける。好かれていることや非難せずに受け入れられることが確認できない限り、新しい友人を作ろうとしない
・依存性パーソナリティ障害
面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動を取り、分離に対する不安を感じる
・強迫性パーソナリティ障害
秩序、完璧主義、規則にとらわれ、柔軟性や効率性、開放性が犠牲にされる。手順や形式に極端にとらわれて仕事を終わらせることができなかったり、完璧にとらわれて掃除をいつまでも行い、約束の時間に遅れたりする
破壊的・建設的リーダーシップモデルによれば、専制型リーダーシップは部下を疲労させモチベーションを下げる一方で、組織の目標達成に貢献する行動(向組織行動)であると定義されています。
あると定義されています。
これが、専制型上司の評価が組織内で分かれる理由です。例えば、部下側からは「今日も怒鳴られた」「このままだと不調者が出そうだ」という悲鳴に似たような訴えが寄せられるのに対し、上長や経営層は「いや、あの人は仕事ができるから、少し部下にも厳しいところがあるのだと思う」「よく部下を指導してくれている」などと評価しており、問題意識を持ってもらえないというパターンです。
このことは、研究者の間でも議論されています��例えば、中国を統一した秦の始皇帝(紀元前二五九~二一〇年)は専制的であったことが知られていますが、万里の長城を完成させたり、また中国史史上初めて通貨や度量衡(計量の基準)を導入したりと、後世に残る功績を遺しています。
ビジネス界でも、例えば米国のApple Inc.の創業者であり、この世にMacBookやiPhoneを生み出した故スティーブ・ジョブズも、専制型のリーダーシップを発揮しており、部下を追い詰めるようなパワハラ的行為を行っていたことが指摘されています。
つまり、専制型上司は部下にとっては辛くても、会社にとっては歓迎される“リーダーシ ップ”でもあるのです。パワハラ上司が部下を追い詰めてくれているおかげで、会社全体の売上等の数値目標や新商品開発、短期の納品等の業績が達成されていることがあるからです。
■破壊的リーダーシップを発揮させる毒の三角形
①リーダー(上司本人)
②フォロワー(部下)
③環境
■専制型リーダーシップは、長期的には部下のパフォーマンスを下げる
専制型リーダーシップがパワハラにつながりやすいと言っても、それを乗り越えた部下はきちんと成長している、という意見もあるかと思います。確かに、上司側から見て、自分の思う通りに部下が動いてくれている実感があると「成長している」と感じるようです。
ただ、本当は成長させているのではなく、主体性を奪い依存させているだけという場合もあります。上司が仕事のやり方や意見を押し付けなければ、もっと他に効率的なやり方や革新的なアイディアがあるかもしれないのに、その機会を奪ってしまっているのです。
専制型リーダーシップは、短期的には部下の仕事のパフォーマンスを上げるとも言われています。短い納期で仕事を仕上げるように言われれば、人は無理してその納期を達成する、つまり高いパフォーマンスを出すことができます。しかし、長期的には必ず部下の仕事のパフォーマンスを下げると報告されています。
中国のとある製造業の企業の上司九〇名、部下三六〇名を対象にした研究においても、直属上司の専制的な関わりは、部下の仕事のパフォーマンスを下げる働きをしていたと報告しています。そして、部下のパフォーマンスが下がったり依存的になったりすることが、ますます専制型上司の管理指向を高めてしまうという悪循環を生み出すのです。
部下の生産性が下がる主な理由は、①上司からのプレッシャーや要求度が高いことにより疲弊していくこと、②継続的に批判され続けることで、自尊心を傷つけられることです。実際の職場でも、専制型上司の部下は入れ替わりが激しかったり、メンタルヘルス不調者が一人以上出ていたりする傾向にあります。
私たちは、関東地方の地方公務員約一〇〇〇名を対象に縦断調査を実施しました。このとき、新規にパワハラが発生するかどうかを見たかったため、初回調査時点でパワハラにあっている人は解析から除外しています。
その結果、直属上司のリーダーシップ形態が放任型だと、半年後にパワハラが新規発生するリスクが四・三倍に、直属上司のリーダーシップ形態が放任型だと、半年後に部下がメンタルヘルス不調になるリスクが二・六倍になることが��かりました(いずれも、性、年齢、学歴、婚姻歴、慢性疾患の有無、職種、職位、交代勤務の有無、追跡期間中のライフイベントの影響を調整済の結果)
■個人的パワハラの発生要因
①自尊心が不安定に高い
つまり、自尊心は誰かによって強制的に植え付けられるものでもなく、また、根拠なく自分自身が優れていると思い込むことが重要なのではなく、何かしらの、納得できる根拠を基に、少しずつ自然と獲得していくものだと言えます。逆に、明確な根拠なく高い自尊心を持ってしまうと、不安定ゆえに何かのきっかけに不安を感じやすく、自尊心が傷つくのを恐れるがゆえに、自己防御として他者を攻撃したり排除したりしてしまうのです。
②感情知能が低い
③自分の言動が他者にどのように影響するか認識できていない
パワハラ行為に至る理由の三つ目は、想像力が乏しいことです。多くの場合、パワハラ行為者は自分がどのような行動をしていて、それが被害者にどのように影響を与えるかについて、驚くほど認識していません。ノルウェーの研究でも、パワハラ事例の四六%に、原因として行者の無思慮(thoughtlessness)が見られたと報告しています。
インタビュー調査によって、パワハラ被害者のほとんどは加害者からの攻撃を、一連の関連ある出来事として捉えているとわかっています。例えば、「先週は上司に舌打ちされた」、「今日は怒鳴られた」と経験すれば、いずれも上司から受けた連続性のあるパワハラであると認識します。そのため、パワハラ行為を受けているのが月に数回でも、「ずっとパワハラを受けている」と感じるのです。
一方で、加害者は、パワハラ行為一つ一つを単発のものと認識する傾向があります。加害者にとって、先週舌打ちしたことと、今日怒鳴ったことは、「別物」なのです。怒鳴った日があっても、次の日に怒鳴らなければ、ダメージはリセットされると考えるため、加害者側は個々の行為を「耐えうるもの」だと判断する傾向にあります。
こういった上司の行為に対し、被害者は最初は我慢するのですが、次第に我慢できなくなり、「やめてください」と言ったり、泣いたりといった反応を示すようになります。しかし加害者は自分の行動を理解していないため、被害者の反応に驚き、「自分はそんなひどいことはしていない、被害者が誇張している、過敏すぎるだけだ、自分には理解できない」等と主張するのです。
これは、事実確認調査で双方の意見が全く噛み合わないことにもつながります。そもそも行為者は自分がパワハラをしていると認識していません。過去二年間にパワハラで訴えられたことのある管理職一九名を対象にインタビュー調査を行ったオーストラリアの研究では、なんと参加者の九割が「これまで誰に対してもパワハラをしたことがない」と回答しています(一割のみが「ごくたまにパワハラ行為をしたことがある」と回答)。
そして参加者全員が、指摘されたパワハラ行為に対して「合理的なものだった」「管理職としての仕事を全うしただけだ」と説明したと報告しています。この調査結果にも、パワハラ行為者は自分自身の言動が部下にどのようなダメージをもたらすかについて認識できていないことが、如実に表れています。
④他者に対する期待水準が高い
⑤厳格な親タイプ
■役割葛藤・役割の曖昧さのある職場
本章で既に、パワハラ行為者の多くが役割葛藤や役割の曖昧さ等に関するストレスを感じていたことは触れました。繰り返しになりますが、「役割葛藤」は仕事において矛盾した期待、要求、価値観を感じる度合いのことで、「役割の曖昧さ」は自分に何が期待されているのかわからないこと、あるいは計画された明確な目標や目的がないと感じている程度を示します。
従業員に役割葛藤や役割の曖昧さを感じさせるような職場でパワハラが増えることは、縦断研究によっても報告されています。職場のルールやシステムが曖昧であるばかりに、パワハラが誘発されてしまった相談事例もあります。
例えばコロナ禍で、消毒作業を誰がいつどこまでやるのかというルールが明確にされていなかった職場がありました。朝一番早く出勤した職員がやっていたため、遅めに出勤する職員が非難されたり、人によってどこまで消毒すべきかの認識が異なっていたため、「念入りに消毒すべき」と主張する職員と「ほどほどでいい」と言う職員とで対立が起きたりしていました。
所属長が的確な指示をしなかったため、勤続年数が長い職員が、短い職員をいじめるという構造になってしまったのです。これも、職場の構造が生み出したパワハラです。
また、仕事用具や機器を従業員が共有しているある職場では、ルールが明確でなく、きれいに整理整頓したい後輩と、適当にしまえばよいと考えている先輩との間で対立が起きて、後輩側が「先輩に意見を言うなんて生意気だな」といじめられる一歩手前の状況でした。
仕事用具や機器を共有する場合、どこまできれいに使うべきか、丁寧に使うべきかについて、個人の価値観がぶつかりやすくなります。その結果、従業員同士の葛藤が起きやすく、圧倒的な差がある場合はパワハラの発生につながるのです。
■感情知能の構成要素
①自己認識力
-感情の自己認識
-正確な自己評価
②自己調整力
-感情の自己抑制
-信賴性
-変化への順応性、柔軟さ
-主体性
③社会認識力
-共感
-集団の感情把握
④関係調整力
-コミュニケーション
-コンフリクト・マネジメント
-ビジョナリー・リーダーシップ
-チームワークとコラボレーション
人は、一度「あいつはだめ」「あいつはできない」「あいつは生意気」等とネガティブな印象を持ってしまうと、無意識のうちにその印象に合致した言動をさらに探してしまい、「やっぱりあいつはできない奴だ」等と決めつけてしまう性質があります。そしてこれが、さらなるイライラの原因になってしまうのです。
それを防ぐために有効なのが、別の思考オプションを予め用意しておくことです。「あの人はだめな人だ」「仕事ができない人だ」と思うことがあったら、次回からこう思うようにして下さい。「あの人はだめなのではない。①(その仕事の)やり方を知らないか、②(その仕事が)苦手なのか、③何か事情があるのだ」と。
■マネジメントとリーダーシップの違い
本題に移る前に、ここで「マネジメント」と「リーダーシップ」との違いを整理しておきたいと思います。ハーバード大学ビジネススクール名誉教授であるジョン・P・コッターによると、マネジメントは「計画と予算の策定」「組織編成と人員配置」「統制と問題解決」によって構成されるのに対し、リーダーシップは「方向性の設定」「人心の統合」「動機づけ」から構成されると定義されています。
管理職であればいわゆるマネジメント業務を行うのは当然ですが、その管理職にリーダーシップがあるかどうかは別問題です。この「リーダーシップの不在」こそが、第3章で取り上げ上司のもとではトラブルが起きやすいこた「放任型リーダーシップ」です。こういった放任型上司のもとではトラブルがおきやすいことは、既に解説しました。
また、放任型でなくても、部下への積極的な関わりがマネジメントに大きく傾いてしまうと、「血も涙もない上司」になりがちで、気持ちがついていかなくなります。逆にリーダーシップばかりに傾いてしまうと、夢や目標設定をしたり、ひたすら部下を鼓舞したりするだけで、予算を取ってくる・十分な人員を確保する等の実務的な問題解決がなされず、疲弊していくことにつながります。
大切なのは、「マネジメント」と「リーダーシップ」をバランス良く発揮することです。現在の部下への関わり方が、マネジメントの三項目、リーダーシップの三項目すべてバランスよく発揮できているかどうか、振り返ってみてください。マネジメントの方に大きく傾いてしまっていたら、リーダーシップの部分の関わりを増やす必要があります。
■個別配慮型リーダーシップ
個別配慮型リーダーシップとは、上司が部下の長所を伸ばせるように手助けしていたり、単なる集団の一員というより、個人として接していたり、部下それぞれが異なる欲求・能力・抱負を持っているものだとして接している状態のことを指します。
①部下の長所を伸ばせるように助ける、②部下一人ひとりが違うニーズ、モチベーション、スキル、キャリア展望を持っていることを頭に入れて接する、③単なる集団の一員としてではなく個人として接する、ということを実行すればよいだけです。これなら、特別な訓練をしなくても、自分の性格を変えなくてもできることではないかと思います。
①部下の長所を伸ばせるように助ける
・ステップ1:部下の長所を見つける
・ステップ2:感謝する・承認する・ほめることで、報酬を与える
ルール1事前に評価基準を伝えておく
ルール2相手が行動を起こした直後にほめる
・ステップ3:期待していることを伝える
②部下一人ひとりが違うニーズ、モチベーション、スキル、キャリア展望を持っていることを頭に入れて接する
・ステップ1:自分の仕事観、仕事へのモチベーション、今後の展望を開示する
・ステップ2:部下が過去に経験したことや考えていたことを聞く
・ステップ3:部下の現在~未来のことを聞く
■ダメ出しの鉄則:3プラス3
①周りに人がいない状態で行う
②ほめられる点・できている点をさっきに伝える
③人格否定をせずに、何をどうしてほしいのか伝える
(a行動の指摘+bなぜそれが問題なのかの説��+cどうしてほしいのかの具体的な説明)
ではどうすればよいかと言うと、部下に直してほしい「行動」を明確に指摘する、なぜそれが問題なのかを補足説明する、どうしてほしいのかを依頼する、の三点セットで行うことが有効です。場合によっては、部下に直してほしい「行動」を明確に指摘する、どうしてほしいのかを依頼する、の二点だけを伝えれば十分な場合もあります。
■パワハラ上司にならないためのポイント まとめ
・「自分と部下は対等な立場にいる同僚同士だ」と言い聞かせる
・運動や筋トレをして、自尊心を高める
・感情知能(自己認識力、自己管理力、社会認識力、関係管理力)を高める
・部下のできていない点が目に付いたら、やり方を知らないのか、②苦手なのか、③何か事情があるのか判別する
・世代によって仕事へのモチベーションは異なることを認識する
・外国人が働きやすい職場にする
・部下の長所を伸ばせるように助ける
・部下一人ひとりが違うニーズ、モチベーション、スキル、キャリア展望を持っていることを頭に入れて接する
・単なる集団の一員としてではなく個人として接する
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日本で横行するパワハラ。科学的視点がこれまでの日本において驚くほど欠けていた事が分かる。パワハラに悩む人は勿論、経営者や管理者など職場運営に携わる人は必携といえる内容。改善手法はあるものの改善事例には触れていなかったため関連書を読んで学びたいと思う。
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そもそも、パワハラしている人は、自分がパワハラしているという自覚がないのではないかと、思います。
そんな相手に「それはパワハラです!」と言ったところで、相手はきょとんで、なんのことだかわからないということが多いのではないかと思います。
パワハラ気質の人たちには、何か共通点があるのではないかと思っていた時に、この本に出会いました。
どういった人がパワハラに陥りやすいかなど、なるほどと納得することばかりでした。
読みやすくて、おもしろかったです。
おわりが、筆者の3歳と1歳の2人の息子さんに対して「君たちが就職する前の日本では、パワハラがないことが当たり前の社会になっていることを願います。」で締め括られていて、涙をこられるのに必死でした。
ホント社会からパワハラなくなって欲しい。
人の欠点やできていないところを責め立てるよりも、
相手も認められるようになるといいのに。
自分はそうありたいと思います。