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みんなのレビュー7件

みんなの評価4.5

評価内訳

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市民生活を暴力でこなごなにする三つの軍隊の内戦。当事者でなければ分からない「否応なく破滅に追いやられる恐怖」を、純朴な中年男性の語りで描く。ラテン・アメリカ注目の作家作品。

2011/03/02 13:48

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 小さな村の、とある庭ののどかな景色の中で、男が「まあ、言ってみりゃこんな具合かな」と、ほっこりした調子で語り出す。正確に言うと、庭と庭の境の壁のところ。
 語り手イスマエルは、オレンジをもぎつつ、お隣のブラジル人妻が全裸で日光浴するのを覗き見しているのだ。コンゴウインコが鳴いたり、ブラジル人ご亭主がギターを弾いたり、強い陽光の下、猫や金魚、木々の葉がみなゆらゆら揺らめいていたり……そういう平和な景色に始まる語りだ。

 のどかな中、ブラジル人宅のお手伝いさんがナイフで指を切ったらしく、血のしずくが一滴、物語にたれる。そして、その子が、孤児になったからブラジル人宅にいるという事情をイスマエルが話し出すと、平和な景色はどうやらひとときだけのものなのか……と分かってくる。

 はだかの覗き見とは何とも情けないが、実はこのイスマエル、元教師なのだ。彼の住むこじんまりした世界には神父がいて、バーの店主がいて、医師に民間療法士もいて、多くの教え子たちがいる。集まりに行ったり、通りで
出くわした知人としゃべったり、飲みに行ったり体の不具合を相談したり、女房と喧嘩したりするが日常だ。
 彼が外出し、あちこちへ立ち寄ってくれるから、人のいい村人たちばかりの共同体の様子が見えてくる。が、尋常でない状況も徐々に明らかになってくる。行き会う人たちの家族が、かつて襲撃されて亡くなったとか、連れ去られて失踪したままだとか、拷問を受けて銃殺されたとか……。
 そうこうするうち、陽光いっぱいの庭でのんびりしていたブラジル人妻にも、イスマエルにも、異変が生じる。ブラジル人家庭では、ご亭主も子どもたちも消え去ってしまい、イスマエルの家からは妻がいなくなる。
 物語の後半は、イスマエルの妻捜しになってしまう。

 イスマエルと村人たちとの会話で、市民生活の場が段階的に戦場となっていくのが分かる。「これじゃ、人として暮らしていくことなどできやしない」というのはまだ初期状態で、やがて、「明日には」「夜には」「一時間後には命はあるのか」という状態になってしまう。

 『顔のない軍隊』とは、よくした邦題だ。スペイン語原題では、「軍隊」の複数形である。
 コロンビアのどこにでもあるサン・ホセという小村を舞台にしたこの小説は、コロンビア人なら「軍隊」と言われて誰もが思い浮かべる「政府軍」「右派自警団のパラミリターレス」「左派ゲリラ」の三つを公平に扱う。
 何が公平かというと、学んで遊んで働いて子育てをして……といった市民の日々を、暴力で蹂躙するという点において三者に違いはない。どういう信念を持った軍隊だろうと、どういう戦い方をする軍隊だろうと……。どれも皆一様に、人に不幸や悲しみをもたらす。犠牲を強いられるから有難くない存在という意味で同じなのだ。
 三つの軍隊がどう対立しているか、どういう状態の国家を目指しているかといった政治的事情は心得ていなくて大丈夫。コロンビアでなくとも、紛争や戦争の犠牲となっている、どこかの場所を想定すれば読んでいける。
 元より、人のいいおじさんイスマエルの語りは、小理屈がないから難解でなく、ぼくとつでユーモラスで読みやすい。

 物語の展開も、パラミリターレスや左派ゲリラが分からない外国人にも分かるよう、架空の物語のように軍隊を匿名的に扱う。例えば、ある事件が起き、市民が暴力の犠牲になっても、どの軍の仕業なのかがはっきり書かれていない。それがつまり、「顔のない」という意味である。
 しかし、意図的に書かれないわけでなく、どの軍の仕業なのかが市民たちにも分からない状況が現地にはあるらしい。実に恐ろしいことだ。
 身内や知人が襲撃されても、連れ去られたり処刑されたりしても、本当のところ、どの軍の兵士がやったのかが定かでない。恨みに思うにも復讐しようにも、相手が特定できないということだから……。

 紛争や戦争、災害に謀略。たまたまそこに居合わせて「巻き込まれていく」ことで、個人の成長や発展、前向きな気持ちが狂わされてしまう。
 解説で説明されているコロンビアの政情や治安は、三つの軍による内戦だけでなく、麻薬組織抗争や米国の介入もあって国民皆が精神を病んでしまいそうな厳しいもののようだ。

 自分の意思に関係なく「巻き込まれていく」――否応なく破滅に追いやられる理不尽さへの無念、恐怖感は、当事者でないと分かるものではない。それまでの自分を失う時の内面は、「恐ろしさ」という感情の「まともさ」を超えたところにある。
 そういう状況から出てきた文学作品が、悲壮感たっぷりに書かれているのではなく、いつの時代にどの国の人が読んでも見当がつくように書かれる。「人に起こり得る悲劇」「物語る価値」を内包し、本の形になっている。
 表紙装画のボテロの絵も同じで、太っちょの体のどこかに、ほころびを開け、リンゴを喰う虫のようなものを飛び出させていたユーモラスなかつての作風も、恐怖にさらされたコロンビアの何十年かを表現するものに変わり、こうして目の前に現れた。

 村や国が滅ぼされたとしても、それを記録した文学や芸術は残っていく、受け止める者さえいれば……。だから、意識的に選び取り、読んで書くことを単なるお遊びだとは思うべきでない。読むこと、書くことは文化の継承を支える行為となり得る。
 


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2012/04/21 22:46

投稿元:ブクログ

コロンビアの名もない小さな田舎村では、のんびりとした穏やかな時間が流れていた。

隣の嫁の裸体を覗き見ては老妻に怒られている元教師のイスマエルは、自分の庭のオレンジをもぐのが日課である。

ただ、ゆっくりと時間が流れているはずだった農村が、気がつけば、不気味な連中に静かに侵略されていた。

身代金目的で、次々と村の人たちが誘拐され、指を切断され、犯され、殺される。

自分の村を歩いているだけで、見たこともない連中に侮辱されて虐殺される。

この村の人々のほとんどが、イスマエルの教え子だ。イスマエルの妻も行方不明になってしまった。
あまりの悲惨な現実にイスマエルは、死を乞う。「いっそ、大洪水にして何もかも沈めてくれよ、神様」

コロンビアは、日本に住む私たちにとって遠い国である。徴兵制が敷かれており、左翼ゲリラ、パラミリターレス(右派民兵)、麻薬組織の間では、長年、激しい戦闘がおこなわれてきた。
先住民や農民に対する非人道的行為はまだ、継続しているらしい。

この書物は、元教師の老人イスマエルの視線で描かれてる。彼の見ている自分の村の真実は、悲哀に満ちており、苦しいほどリアルである。
小説を読み進むにしたがって、厳しい現実がより厳しく残虐になっていく。読者は、イスマエルの語りに耳を塞ぎたくなる。しかし、飛び散った血の匂いにも死んだ少年の顔を啄ばむ雌鳥のくちばしの色にも読者に凝視強いる筆力をエベリオ・ロセーロは持っている。

ロセーロは、ジャーナリストを経て現在は作家に専念しているという。
ラテンアメリカだけでなく、ヨーロッパでの評価も高く、イギリスでは、「ガルシア=マルケスの後継者」と称されているらしい。

今後の活躍が大いに期待される作家だと思う。

2013/01/08 08:31

投稿元:ブクログ

のんびりした語り口の中の凄惨な現実。ユーモアもあり、読みだすと止まらなかったが、マルケスの再来は言い過ぎじゃ(笑)文体が美しいとのレビューなので、これは原文を読むべきなのかもしれない。しかし近年西語の本がたくさん翻訳されてうれしいかぎり。

2012/06/09 15:32

投稿元:ブクログ

ここには、映画で観るような凄惨極まりない殺戮シーンがあるわけでなく、村人はただ静かに誘拐され殺されていく。村は爆弾や地雷で破壊され、人々の多くは村を捨てていく。村に残った僅かな人々に夢や未来はない、その事実を主人公イスマエル・パソスの目をとおして、淡々と語りかけてくる。 南米の物語であるにもかかわらず、ひんやりとした冷たい恐ろしさに覆われている。

2014/05/17 22:30

投稿元:ブクログ

山間いののんびりとした村の日常に突如割り込んでくる暴力。誰だか皆目わからない相手。自分がいつ標的になるかもしれない恐怖。一向に役に立たない村の組織。軍隊を他のものに置き換えればどこであってもおかしくない話だ。現にこの国でも似たようなことが起きていないだろうか。主人公である語り手ののんびりとした語り口と語られる内容とのギャップが不条理さを際立たせている。

2012/01/24 21:37

投稿元:ブクログ

老人の視点で進むシンプルな文章で読みやすいながらも読み物としても面白く、社会的な問題提起を行うとともに文学作品としても満足できる作品だったと思う。

2012/08/31 11:25

投稿元:ブクログ

左派ゲリラ、右派自警団、政府軍などが勢力争いを繰り返すコロンビアの町や村の現実を、ジャーナリストでもある作者が、実話を再構成して描いている。語り手となる70歳の主人公が静かに絶望していく様が、日常のシンプルな言葉でくっきりと描かれていく。南米文学は、ひとつの村を舞台にそれがひとつのかけがえのない世界であることを、そしてそれがどのように滅びていくのかを描くことが得意だなと思った。(今までに、マルケス『百年の孤独』やリョサ『世界終末戦争』など、たまたまそうしたものばかりを読んだだけなのかもしれないけれど。)

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