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辻(新潮文庫)

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紙の本

重みのある連作短編集

2014/08/13 01:45

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:une femme - この投稿者のレビュー一覧を見る

ずっしりとした重みのある小説、という印象。日本人特有の、内に秘めた暗さのようなものが、「辻」を持つ場所に根ざすようにして、描かれる…。

 言うまでもなく、読むことで、気持ちが明るくなるというタイプの本ではないが、心の奥の狂気に隣り合う暗さを、この作品を通して考えてみることは、意義深いことのように思う。

 連作短編集となっているため、一つずつ区切りをつけて読めるのが、そのような重さを考えるのには、ほど良いと言えるのかもしれない…。

 また、年を重ねてから、再度手に取り、読んでみたいと思う小説。

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2016/03/16 12:23

投稿元:ブクログ

ほろ酔い気分でタクシーにのって自宅へむかう。
じゃあここでといって、タクシーをおりると
家の近辺と思っておりたはずが
あれここどこ?とまるで見知らぬ場所におりたことに
気づく夜。そのぞっとする瞬間。

人生はそんな不可思議の連続で
ふと立ち止まって考えると今現在
思いもしない場所にたっていて
思いもしない町にすんでいて
思いもしない仕事をしている。
ふと、ここはどこだかわからなくて
ものすごく怖くなる。
ここどこだろうって、孤独がおしよせてくる。
間違いじゃないかって不安になる。

読んでいて、
迷子になったような気持ちで読み終えました。
捕えたとおもったら
すぐに逃げていく不思議な文章でした。

2016/07/18 14:06

投稿元:ブクログ

やって来て、通り過ぎてゆく。
歩いているとふと差し掛かる。
確かに見たような気がする。でもどこで見たのか思い出せない。
どこから続く道だったのか、どこに行くための道だったのか。
ただ浮遊し続けている、交差点であり通過点。

2014/07/10 22:59

投稿元:ブクログ

巻末に収められた大江健三郎との対談では、「私の作品は全然難しいことないのに」と笑いながら語っているが、やっぱり難しい。
氏の作品は用いられている言葉自体はどれも一般的なものばかりであるにも関わらず、文章になった瞬間に、1つ1つの文章が重層的になり、単一的な読み方を許さない解釈の幅がある、そんな点にあるように感じる。

そして物語られる世界は、極めて日常的な生活における情景であるが、たとえそれが我々が当たり前だと思っている世界だとしても、物語られる文体というフィルターをかけることによって、全く別の様相を呈してくる。日常の中に潜む幻想性ともいうべき世界を、直接的な題材ではなく、文体により描ききる技法は、見事としか言いようがない。

誰にでもお勧めできる作品ではないけれど。

2014/06/29 14:47

投稿元:ブクログ

・天と地の間に悪い気が満ち渡るのだよ、と祖母は話した。寒いと感じられるのはじつは火で、熱いと感じられるのはじつは寒の気で、火も寒の気も一緒の毒なのだ、と言った。陰と陽の和合が過ぎたり足りなかったりでやぶれると、その毒が空中に昇って、普段でもすこしずつひそんでいるのが、人の行ないがあまり道を踏みはずすと、一度にふくらんで、からだの内の毒もそれに感じて暴れ出すのだ、と言った。ある暮れ方に見知らぬ人が村から村へまわって、昔この辺で労役と呼んで、家ごとに堤の工事などに駆り立てる、その札のようなものを、目には見えないのだけれど、貼って歩くと、三日もして、そこらじゅうで人が寝つく、と。
それは誰なの、と子供はたずねた。疫病神の手下さ、と祖母は答えた。その疫病の疫と、労役の役が今になり、熱にうなされた中で結びついた。


・夢の中のことだとわかって森中はひとまず安心した。しかし現実のことなのだ、と青垣は言う。覚めるから夢ではあるが、覚めても現実だ、と言う。長年の夢だと言う。近頃はまだ見ないと否定しながら、もう見ている、と振り戻す。一度見たものは過ぎない、と言う。青垣の話すことの矛盾に森中はついて行けずにいたが、その話す声があくまでも平静で、穏やかでさえあり、狂ったようなところはすこしもないので、青垣の言う覚めても続く夢の中へ、思い浮かべかねたまま、なかば惹きこまれた。

・曖昧な辻があった。行くにつれて三つ辻にも四つ辻にも、それ以上の路が合わさっているようにも見えてくる。後にしたはずの辻が、また前に現われる。空はいまにもまた降り出しそうにかぶさったかと思うとふいに抜ける。抜けたかと思うとまた塞がる。光の変わるたびにまた知らぬ辻へ差しかかる。これもすべてあくまでも平常だ、それでいて一回限りに際立って、そこにある。ところが見ているはずの自分がいない、その辻にも、それが見えている現在にも、どこにもいない。

・その頃から父親は一日置きぐらいに、眠りから覚めて娘を呼び寄せ、口もとへ耳を近づけさせて、妙なことを頼んだ。喘ぎの混じる細く掠れた声で、どこかへ行く道順らしく、往還とか辻とか分かされとか、畑とか林とか薮とか切通しとか、たどって聞かせるのだが、声は切実で、詳細らしい口調なのに、話すことがどうも通らなくて、そのうちに自分でも道に迷ったような、あせりの色を浮かべて、どうか、その先はどうなっているか、見て来てくれ、と懇願する。さからわずに女はうなずいて部屋を出る。父親の話すような場所は丘陵に挟まれた自宅の界隈にも思いあたるところがなく、ましてこの高台の病院の近辺にはありそうにない。どうせ徒労なら病棟の廊下のはずれに置かれたベンチで時を過せば済むことなのに、病人に足音を遠くまで聞かれているようで渡り廊下をわたり、初めの時には本館の玄関から表にまで出て、ずいぶん建てこんだ住宅地の、それでも間にまだ畑を残して、要領の得ない道を迷いながら歩くうちに、以前覚えのあった所を探すような足になっていた。

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