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この世の全ての事象を世界言語という概念で捉えることのできる世界を描いたスペキュレイティブ・フィクション。文章の密度が濃く、世界言語の設定はやや難解であるものの、ラノベらしさは損なわれていないため、消化に時間がかかるものの読みにくいということはなかった。構成面は非常に優れており、特筆すべきはナノカと呼ばれる少女のミスリードである。体を隠している理由が、世界言語の書き忘れという設定に触れるものでありながらも、本来の理由である「姿を隠すため」でもあったというのには脱帽した。ライトノベルでのヒロイン問題というのは大きく、メインヒロインが確定したあとは他のヒロインはおざなりになる、もしくは敵になったり死亡したりと悲惨な扱いになるわけだが、この作品は上手くヒロインを配置しつつ、そのあたりをちゃんと誤魔化せたように思う。また敵の設定も面白く、非人間的な人外の少女という、ありきたりに見せかけて描くのが難しいキャラクターをよくぞここまで丁寧に描写できたものだ。人間と物の区別がつかないという非人間っぷりが、ちゃんと能力や怖さに直結しており、生首を抱えるビジュアルも中々である。ある意味ではこの作品における裏ヒロインといっても過言ではなく、敵としての格を落とさなかったのは凄いと思った。クライマックスの裏切りも、主人公視点だとギリギリまで誰が信用できるか分からないため、緊迫感と意外性があったのは良かった。総じて、読者の視点やキャラクターの存在感を活かす配置の妙が非常に優れたラノベと言えよう。