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2017/04/10 19:09

投稿元:ブクログ

サモサタ(シリア)生まれのルキアノス(120年頃~195年頃)は、私の好きな風刺作家のひとりです。彼のことを教えてくれたのは、エラスムスとその親友のトマス・モア。彼らのお薦めどおりルキアノスの話は本当に面白い。法螺話とユーモア満載の短編、月世界旅行や鯨の腹の中の冒険譚といい、世界最古のSF空想物語は、その後の数多くの作家たちにインスピレーションを与え続けていますね。

彼の代表作「本当の話」と本書は重なる掲載も多いのですが、あえていえば「本当の話」は冒険譚や奇人の可笑しな話が多くて読み応え満載ですが、訳者が複数いてトーンが微妙に異なっているのに対し、本書はもう少し思弁に富む話が多い感じで、訳も大変わかりやすいです。

なかでも「哲学諸派の競売」と「よみがえった哲学者」(「本当の話」に掲載あり。後者のタイトルは「漁師」)は、ゼウスとヘルメスが哲学者らをセリにかけるという前代未聞の話。ソクラテス、ピタゴラス、デモクリトス、ヘラクレイトス……つぎつぎと二束三文で市民や商人に競り落とされ(ときには値もつかない)惨憺たるありさま。その様子に冥府の哲学者らは驚天動地。不満たらたら現世によみがえり、語り手パルシアデスという名のルキアノスをこぞって裁判にかけるのです。メタフィクションに加え、ルキアノスが生きていた当時の「哲学」の腐敗ぶりをおもいきり皮肉った強烈な物語はとにかく笑えます。

また「カロン」(「本当の話」掲載なし。「神々の対話」掲載あり)は、ルキアノス作品中でも有名で、冥府の川の渡し守カロンは、死者ばかり相手にしている日々にうんざり気味。ふいに現世の探検ツアーをしたくなり、お友達のヘルメス神に浮世を案内してもらうのです。いや~素頓狂な創造と遊びとユーモアにただただ感激。

「もし彼らが、自分たちは死すべき存在であり、この世に逗留するのはほんのわずかな期間で、地上での生活をすべて放擲してあたかも夢から覚めた人のように立ち去っていくのだろうということを最初から知っておれば、もっと利口な生き方ができるだろうし、死に際の悲嘆もずっと少なくてすむだろうに……」

「……風の吹くなか水面にかつ結びかつ消える水泡であり、すべてが消えていく定めである。だからこそ人は目の前に死をぶらさげて生きるべし」

軽妙なカロンとヘルメスのやりとりには、まさに人間存在の正鵠を射たものではなかろうかと驚嘆する場面が多いのです。ふと思い浮かべるのは日本の三大随筆のひとつ「方丈記」。無常観や人は流れる水の泡のよう……というくだりは有名で、まるでルキアノスと鴨長明が二人を隔てる時代を超えて響きあっているよう。
 こうしてみると、人の創造は時空を飛び、言葉や宗教の壁を乗り越えていくのでしょうか……不思議でなりません。古典を読んでいると、そのような霊感に満ちた発見、人間の真理や叡智が多くて愉しくなります。そうしてますます読書がとまらない♪

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