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海を越える翼 詩人小熊秀雄論

海を越える翼 詩人小熊秀雄論 みんなのレビュー

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紙の本

サンマ詩人って誰?

2014/10/19 08:04

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:うみひこ: - この投稿者のレビュー一覧を見る

ロシア文学者湯浅芳子と宮本百合子の書簡の中に、
盛んに、「サンマ詩人」とか「秋刀魚氏」とか呼ばれる、
若い童話作家の新聞記者の姿がある。
湯浅芳子はなんと初対面のこのサンマ詩人のために、
旭川に帰るための金策に走り回ったりする。
湯浅芳子が出会ったとたんに友情を感じ、
ロシア文学について語り合ったこの記者こそ、
『焼かれた魚』という童話を書いた、
詩人小熊秀雄だった。

小熊秀雄は実に多彩な人で、大正から昭和にかけて、
詩、短歌、童話、油絵、デッサン、漫画台本、人形劇等々の、
ありとあらゆる芸術活動を行った。

不思議な日本人離れした風貌を持ち、
才能にあふれながらも、
貧しい詩人として短い人生を閉じた小熊秀雄。

彼のとらえがたい人生と詩についての最新の研究書が、本書である。

著者は旭川在住の詩人で、
その独特の視線で、小熊秀雄の中の北へ向かう心をとらえている。

それは小熊の故郷旭川のさらに向こうにある生まれ故郷樺太、
さらに、その向こうにあるロシアに向かって行く。

そして、小熊秀雄の中にある世界性、
「海を越える翼」を見出していく。

小熊秀雄の詩、短歌、
彼の出会った歌人や詩人の作品を通して、
時代と小熊と彼にかかわった人々の心を辿る手法は、実に見事であり、
例えば、歌人斎藤史の短歌の中に現れる「小熊秀雄」の名についての章では、
同時代をすごした若者同士の時間の流れの中に、
長い年月を経た後、歌いだされた心を見出していく。
これは、ある意味スリリングな推理小説のようにも思えて、実に面白い。

また、従来軽く見られがちだった、
湯浅芳子とロシア文学の影響について語られており、
ロシアの研究者の言葉が引いてあるのも、新しい視点だと言えるだろう。

なんといっても、詳細な「小熊秀雄―人物事項小辞典」と、
「年譜」があるのがうれしい。
ここにおいて、この書は、今後の研究者にとって、必携の書となったのではないだろうか。


小熊秀雄の詩人群像のペン画、影絵、モデルを務めた彫刻像、
様々な画像も掲載されていて、
池袋モンパルナスの芸術家群像をうかがい知ることができる。

サンマ詩人、
多くの友情と才能に恵まれた、
詩人小熊秀雄。

著者が警鐘を鳴らすように、
今という時代の中では、ますます読まれる存在になるだろう。

この書をきっかけに、
私も、さらに読み進んでいきたいと思っている。

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