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五十鈴川の鴨(岩波現代文庫)

五十鈴川の鴨 みんなのレビュー

文庫

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みんなのレビュー5件

みんなの評価4.0

評価内訳

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5 件中 1 件~ 5 件を表示

紙の本

文学の希み

2016/03/25 23:36

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:諏訪耕志 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本屋で表題作『五十鈴川の鴨』を立ち読みしはじめ、
これは腰を据えて読まなければ、と感じ、購入しました。

もともと、竹西氏の評論作品は長年の間に数多く読んできて、
深い感銘を受けてきたつもりでいたのですが、
わたし自身の不明から彼女の小説にはなぜかこころが向かなかった、
向き合えなかったのです。

しかし、わたしも年齢を相応に重ねてきたからなのか、
いま、この短編集のすべての物語において描かれている、
人というものの陰影の深さに、静かに、強く、こころを動かされています。

人のこころに寄り添うということが、
いったいどれほどの労力を用いるものなのか、
いかに細やかで粘り強い内なる力を要するかということを、
恥ずかしながら、よく分からずにいたのだと思います。
 
人のこころとは、
なんという尊さと聖さをもちうるものであり、
また怖しく、畏しいものであることだろう。

静かな調べを奏でている竹西氏の文章の奥深くに、
そのことへの畏怖が流れているのを感じます。

人というものを、深みから、細やかに、汲みとる。

文を刻むとは、その行為そのものであるように思われます。

そうして文学は、つまるところ、人というものへの希みと愛を想い出させる。

竹西氏の文章からそのことを改めて鮮烈に感じさせられています。

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2014/11/04 13:48

投稿元:ブクログ

一行一行・・・いや、一文字一文字が風景を展開させる。そして、こみ上げてくる感動。
こんな短い文章でこれだけの感動をいただいたことはなかったこと。
言葉が選ばれ、繊細に表現され、数行で一気に登場人物の人生がどっとわかってくる。
すばらしい作品群です。

2016/09/11 14:51

投稿元:ブクログ

表題作「五十鈴川の鴨」と、「くじ」「桜」のみ読了。いずれも短編。
岩波文庫の媚びないフォントがよく似合う、濃い日本茶のような渋さと清々しさと。
戦争経験の確かな重みを感じつつ。感傷的にも感情的にもなりすぎず。適度な湿り気は残しつつ。
「品の良さ」ということを大事にしている方なんだろうなあ…と思いながら読みました。

2016/11/12 11:00

投稿元:ブクログ

2016.11.12 NHKAMラジオ 8:05~8:45 「朝のラジオ文芸館」半分くらい始まっていたが、引き込まれ最後まで聴いてしまった。アナウンサーによる朗読。

仕事で知り合った、男性二人の関係の物語である。
なにせ途中からなので、2人が男と女なのかと思ったが、仕事で知り合った男同士だと分かる。同性同士、なぜか惹かれ、話をし、気にかける関係に、こういう関係はなんと言ったらいいのだろう。だがその、相手に惹かれる、一緒にいると安らぐ、その感情のかもしだす空間は分かる。その空間が、ラジオから伝わってきた。最後はなんとも悲しいのだが、ぜひ文章で読みたいと思う。

2016/11/02 18:42

投稿元:ブクログ

物凄く、地味と言えば地味です。
ぜったい、テレビドラマ化されたりしません。

「知り合いが、実は被爆者だった。原爆症で亡くなった。いろいろ大変やったんやろうなあ」

みたいなこととか。

「マイホームの購入説明会に行った初老の女性。
隣り合った男性とちょっと仲良く話すけど、まあ、なんということもなく無事に帰ってきた。
その後、再会したりは、ないです」

みたいなこととか。

そういう短編小説。

売れ線の物語小説と比較すると、「えっ?」という感じです。



これが、実に面白かった。
舌を巻きました。



読書会の課題図書。
竹西寛子さんという方は、まったく知らなかったです。
読書会の愉しみは色んな角度がありますが、こういう小説を発見できるのも、その一つ。

1929年広島市生まれ、という作者。
16歳で被爆、中心地を離れていて助かったけれど、知人友人の多くを失ったそうです。
その後、ネット情報によると、30代半ばまでは筑摩書房で働いていたそうですね。(筑摩書房さんは大好きです)
そこから、文学評論や小説を発表して、今にいたるそう。



文章が、上手いなあ。

と言って、技巧を凝らしている、という印象でもないのです。

「どんな物語を語るのか」というよりも、

「どんな文章で語るのか」というところに、実に滋味があります。

ものすごく意識的に、充実して、張り詰めて、清冽に、文章が作られているなあ、と思いました。



なんでしょう。

同じ鯖の刺し身でも、貝柱の寿司でも、
100円回転寿司のソレと、中級クラスの寿司屋のソレと、
漁港の採れたてのソレと、こだわりの名店のソレでは、

それぞれに違うと思うんです。

この竹西さんの文章は、

「銀座の裏通り、あるいは京都の外れ、大阪の繁華街から外れた駅前。食べログに載るのも拒否しているこだわりの寿司屋の味」



採れたての生々しい味わいぢゃないんです。

繊細に仕事して、味をつけてあって、バランスを整えて、旨味が回る頃を待って、そっと出される一品。

好みがありますから。
そんな勿体つけたのは嫌だ、もっと下町がっつりが良い、気取った味はごめんだよ、という人もいるでしょう。

竹西さんの文章は。
まかりまちがっても、醤油をぶっかけて口にこうりこむのは勿体無い。そのままで、絶妙の塩加減、仕事がしてあるんです。

好みはあるでしょうが。
あちこちで寿司を食べてきた人が食べれば、旨さは明瞭。

圧倒的です。

でも、この店の作り、この佇まい。
ま、売れることは無いんだろうなあ…混雑するのも嫌いだろうなあ、この板前さん… って、そういう味わい。



まあ普通、若い人はそんなに好みぢゃ無いだろうなあ。

そして、読書の世界、の入り口で。
多くの人を引っ張り���んでくれるような役割は、悲しいくらいに望むべくもありません(笑)。

それぞれ、向き不向きがあります。



どれもお話は。
具体的な暮らしの中の、ふっとした想い。はっとする気持ち。
歳月の味わい。静かな中によぎる仄かな熱さ。

そんなような、言っちゃうと小津映画みたいな老成した看板の作品。

なんですけど、小津映画も同様なんですが、語り口に込められた技術、決断、挑戦、センス。

そういう意味では、物凄く若々しい。

エネルギッシュな張り詰め方、充実感を感じる本でした。



2016年現在でいうと、恐らく87歳くらいのはずですね。
お元気なのかわかりませんが。

こういう作家さんは、ぜひぜひ90歳過ぎても、活躍していただきたい。

色んな美味しい酒、ジュース、ヨーグルト、などなどを飲んできて。

すらっとやっぱり。絶妙の仕事をしてある、一杯のレモン水。ああ、この美味しさヨ、という感動。

脱帽。

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