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いつ、人生のスイッチを押したのか。それはきっと皆が思うことだろう。スイッチと言わなくても、例えば二択、三択の道の選択肢、または人生の曲がり角、的な。
同じ日に同じ病院で生まれたぼくとおれ。いくつかの共通点があり、どこかで交差しそうなそんな距離にいる二人の視点から物語は語られる。
ぼくみたいな男を私はとてもよく知っている。長年付き合っていた彼氏がそうだ。家庭が裕福、大学進学まで困ることなく、その気にならなくてもコネで就職もなんとかなってしまう環境。ゆるゆると、それはもうゆるい性格、バランスのまま中年期を迎え、そういう中でもきちんと道を、人生のスイッチを押していく。頑張らなくてもなんとかなるタイプ。
そしておれ。高校卒業と共に絶対に潰れない会社へ入社し、ときに恋愛もし、相手の女性に主導権を握られたまま二度の結婚をする。おれタイプもわたしの周りにもいるし、きっとどの読み手の周りにもいそうなタイプの男だ。
この作品の面白さは、いるいるこういうヤツ、となるところにあり、あるあるそういう経験というところと、さらには近年に、ぼくとおれが辿ってきた道筋に起きた数々のニュースの懐かしさにもあるだろう。ボリューム的にも読みやすく親しみやすい物語
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昭和47年9月8日。同じ日、札幌の同じ病院で生まれたふたりの赤ちゃん――
「ぼく」蒲生栄人と「おれ」仁村拓郎。進学、就職、結婚、離婚etc.……
毎日毎日、無数にあるスイッチの中からひとつを選んで押して、
選択を繰り返したふたりの男は、どんな道筋でそれぞれの人生の「地図」を描いてきたのか――。
感動作『田村はまだか』の名手・朝倉かすみが紡ぐ、40歳の「ぼく」と「おれ」の物語。
「スイッチは無数にあるんだよ。問題はどれを押すかってこと、ちがう?」
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同じ病院で生まれた二人の男の子、という時点で、赤ちゃん取り違え事件?と思ったが、そんな劇的なこともなく、二人はそれぞれの人生をそれぞれに歩んでいく。ときどきに選んだスイッチが正解だったのか間違いだったのか、別のスイッチを押していたら今より素晴らしい人生があったのか、そんなことを突き詰めるわけでもなく、二人はそれぞれにスイッチを押し続ける。この先の地図がどうなっていくのか、どこへたどり着くのか。誰しも生まれてきたからにはスイッチを押さずにはいられないのだ。そう思うと、いままで以上に真剣に人生の地図のことを考えるようになる。栄人と拓郎がこの先どんなスイッチを押していくのか、どんな地図を描いていくのか、興味が湧いてくる一冊である。
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昭和47年9月8日、同じ札幌の病院で生まれ、母親同士も同級生という2人男。
けれど彼らは互いの存在を知ることなく、それぞれの人生を生きている。
2013年。40歳になった「ぼく」蒲生は、インテリアショップで働きながら、腐れ縁の女と同棲中。
もうひとりの主人公「おれ」仁村はできちゃった結婚した年下の妻とそれなりに幸せに暮らしている鉄道マン。
幼少期、思春期、就職、結婚適齢期など時代をいったり来たりしながら物語は進むのだが、登場人物が必要最低限のため混乱したりまどろっこしく感じることなく読み進められた。
ぼくは裕福な家庭に生まれ育ち、ぶらぶら大学院まで進んでコネで就職するが、堪え性がなく(本人はそれを自覚していない)ほどなくして退職してしまう。
以来フリーター生活をしていたが、金持ちのぼっちゃんである友人が営むインテリアショップで働くことになる。
また、子供のいないおじ夫婦の営む病院の跡取りに望まれていることから、社会的に浮ついた存在でいることへの不安を感じず飄々と生きている節がある。
対しておれは工場で働く夫婦の長男として生まれ、貧乏目な四人家族。
堅実に鉄道会社に就職したが、嫁に押し切られた形の最初の結婚はうまくいかず離婚。
ずっと高校時代に付き合っていた恋人のことが頭の片隅にある。
このふたりを繋ぐのが、ぼくの同僚でおれの新妻であるちえり。彼女はインテリアショップのオーナー(ぼくの友だち)の愛人であるのだが、おれはそのことを知らない。
読者も含めて、おれだけがちえりの本性をわかっていないことで、物語の滑稽さと人間関係のリアルな多重性が表れている。
ぼくは社会をなんとなくナメているし、おれは根がアホというか単細胞。
彼らは恋や仕事に精を出したり、人生をはかなんだり思い悩んだりしない。
ただただ毎日を自分なりのテンポで生きている。
大きなドラマも感動もないのだが、でも人生ってこんな風に平凡だよな、と思わされる。
タイトルにあるスイッチは人生の選択のことで、それにより地図を描くように人生は広がっていく。
スイッチが現れたとき押すべきか、どちらを選ぶか。
そもそも生まれ落ちたときからスイッチの質や種類に差があるのではないか。
ぼくとおれはそんなことをちらりと片隅で考えながら、人生のスイッチを押したり押さなかったりして生きている。
少しずつ動いていくふたりの人生と合わせて、回想的に登場する過去の文化やエンタメが懐かしく面白い。
きっと40代前後の人は一段と楽しめるのではないだろうか。
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「俺」と「僕」
同級生の母親どうしから同じ日に同じ産院で生まれた、ふたりの男のひとのお話。
どっちがどうって比べたりじゃなくって、
この時代・この年令の男のひとをふたり書きました、みたいな書き方。
タイプは違うけど、今どきとても多い気がする、卵の殻をお尻にくっつけたまんま年令だけ大人になりました ってな感じの。
対して、関わる女のひと達は
肩肘ごぃごぃ張ってたり、ねちっと強かだったり。
あんま友達にはなりたくないタイプ。
でもそれは、私も女だからこその近親憎悪なのかもしれんな。
でもまぁ
最終的にみんなそれぞれにそこそこのハッピーエンドで、多少の肩すかし感が逆にリアルかもね。
■ ■ 余談 ■ ■
「俺」と元ヨメとの諸々がさ、
なんかもぉ、これってウチの元ダンナが書いたんじゃ?って思ってしまったくらいの近似っぷり。
私達も傍から見たらこんな感じだったんだろか。
てな感じで、その辺りは羞恥の念にかられて、なんか冷静に読めなかったよ…。
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今までの人生で、いったいいくつのスイッチが目の前に現れいくつのスイッチを押したり押さなかったりしてきたのだろうか、とふと思ったり。
同じ日に同じ場所で生まれたオトコ2人。環境も性格も全く違う2人の目の前に現れて来るスイッチの種類も数も全然違う。
もしあのとき別のスイッチを押していたら、今とは別の人生を歩いているわけで、その選ばなかった人生をもしかすると別の誰かが歩いているかもしれなかったり。
と、いうようなことを考えながら読んでいて、いや、これはもしかするとしたたかなオンナたちとちょっとダメっぽいオトコたちのありふれた日常の物語なんかじゃなくて、あの日あの場所で2人が入れ替わったりなんかしたりしてたかもしれないぞ、なんて思いながらもう一度読んでみようかな、と。
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同日に生まれた二人の男性の人生をその時々の時代と絡ませて描く方法はおもしろいのに、印象が薄く物足りない。まず、"スイッチ"が活かし切れていない感がある。("地図"に至っては全く、という気がした。)また著者には珍しく文章がわかりづらく何度か読み返さなくてはならない部分があったこと。そして物足りなさの最大の理由は恐らく、主人公二人に魅力が感じられなかったこと。
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同じ日時、同じ場所で生まれた男2人の物語。なっ、星占いなんてかなりテケトーなもんやねんで…ってことが言いたいわけではなく
どっちの主人公もどこにでもいそうな40代
人生舐めてかかってそれでも上手く生きていく「ぼく」と、しっかり堅実に人生設計を立てているようで周囲の人間(特に年上の元妻と年下の現妻)にうまーいこと踊らされてる「おれ」
20代30代ならそれも魅力だが、40になるとそれが「イタさ」に変わるから困ったもんである(俺も間違いなくイタさをひきずった40越えのおっさんだし…)。そのイタさがまず本書の醍醐味である。関わってくる女性陣のしたたかさもエエ味出してる。怖いよなぁ~女って
この2人の微妙に交錯している半生が面白い。辻村深月の各小説キャスト関連のミニチュア版みたいな楽しさ、それがスパイスとなって小説のめり込み度合いもグっと進む、上手いなぁ~
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昭和47年9月8日、札幌の同じ病院で生まれたふたりの赤ちゃん。ほとんどつながりのない「ぼく」と「おれ」はその後、それぞれの「スイッチ」をところどころで押しながら、人生の「地図」を描いていく――。
湾岸戦争や阪神大震災などなど、その時々の出来事や事件を登場させつつ、2人が知らない場所でうっすらと絡み合う人生が描かれる。自分が同じ47年生まれのせいもあり、同じ時期に東京にいたり事件に対して同じような感想を持っていたりと、とてもリアルに物語に入りこめる感覚があった。
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幸せの形って、その人の気持ち次第なんだな。私たちは日々、小さなスイッチ(選択)を押してるんだな。と。
2014年12月30日
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同年同月同日に同じ病院でうまれた「2人」の人生がそれぞれ描かれていく話。各章の冒頭に、その章で出てくる「年」に何があったかの概略と、その「年」の紅白歌合戦で誰が司会で、トップバッターが誰で、トリが誰だったかという細かい情報が書いてあり、ちょろっと紅白ネタが出てくる箇所はあるにしても、どの章の冒頭でも律儀に紅白情報が掲載されているのがちょっとおかしかった。
主人公の「2人」は、1972年うまれという設定。わりと歳が近いので、それぞれの「年」を経験した歳も似てるところがあって、でもその中で、こんな人生もあんな人生もあるんやなーと思いながら読んだ。
「ぼく」=蒲生栄人(がもう・えいと)は、東京育ち。「おれ」=仁村拓郎(にむら・たくろう)は、札幌育ち。同じ札幌の病院で生まれたのは、栄人の母が里帰り出産をしたからだった。母同士は、小学校、中学校の同級生だった。といっても、さして親しかったわけではなく、「ぼく」の人生と「おれ」の人生がそれぞれ違っているように、その母の人生もまた違うのだった。
各章で、「ぼく」の話と「おれ」の話が綴られる。2人の話が、ところどころで、チラっとつながる。幼い日には、それぞれが母方のばあちゃんちを訪ねたときに、公園で遭遇してもいる。
いま2人は東京で、実はけっこう近くにいる。「ぼく」がインテリアショップの同僚として働いている「ちえり」さんは、「おれ」の2度目の妻なのだ。そして、「ぼく」と私立の小学校でずっと同級だった「相野谷(あいのや)」(つまりは、この男もまた1972年うまれ)が、「ぼく」と「ちえり」が働くインテリアショップのオーナーなのだ。
「ぼく」の話と「おれ」の話が並行して語られるだけではなく、この「ちえり」や「相野谷」の目から見た「ぼく」や「おれ」の姿が見えてくるところがおもしろい。とくに「ちえり」が平成生まれと、「おれ」よりかなり歳下(高1のときに生まれた赤ん坊、という歳の差)という距離感が。
たとえば、ちえりが、"使えないおじさん"の「ぼく」のことを、「おれ」に愚痴る場面。「ぼく」も「おれ」も相野谷さんも同い歳だが、だからといって何もかも同じじゃないと頭では分かるけれど…とちえりは言う。
▼おれは、首をかしげるちえりの頭を撫でた。
「『いまどきの若者』がみんな同じじゃないのと一緒だよ」
「そっかー」
ちえりは真ん丸い目を輝かせた。
「大人のひとに『いまどきの若者』って括られて、あーだこーだ言われると腹立つのに、あたしも『おじさん』にたいしては同じように考えてたー」(pp.123-124)
あるいは、結婚パーティーに親きょうだいを呼びたくないという「ちえり」の心に、「おれ」は戸惑う。
▼本心はひとつとはかぎらない。四十にもなれば、そんなことくらいは承知の上だ。なのだが、おれの可愛いちえりのなかに潜む、得体の知れない暗いものを見てしまった気がしてならなかった。それが、おれの胸になすりつけられたように残った。(p.174)
歳こそ「ちえり」が一番下だけれど、同い歳の3人のうち、わけても「ぼく」のフラフラ具合は、むしろ「いまどき」か��なぁと思った。
雑誌連載時には、「地図と年表」というタイトルだったそうだ。「スイッチ」という言葉が入って、人生のどこでどんなスイッチを押して、自分の道はここまできたのだろうと思わせる。
(1/14了)
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肩肘をはらない人生。こんな言葉をはくのは簡単だ。でも、どのような状況の人が言うかで、重きって変わるんだよね。
若い人は、自分に与えられた環境を恨むし、もしくは喜ぶし。
でも、二十年後には気付くんだよ。与えられた環境よりも、自分がどう生きたいかが大事だってこを。
そんな感想を持ちました。
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同じ日に生まれた「ぼく」と「おれ」それぞれの40年。色々あった40年がそれぞれ交互に語られていく。微妙にニアミス。
坦々と進んでいくけど、客観的に2人をみる描写もあり、いるなーこういう人と思いながら読んだ。それにしても、登場する女性陣がみなさん強かでした。。
自分も今までたくさんのスイッチを押してきて、これからも押していくんだろうな、としみじみ。
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母親が、同級生で、同じ病院で、同じ日に生まれた男の子2人。
「おれ」と「ボク」で、構成されており、生まれた47年の出来事と、紅白歌合戦の司会者まで書かれている。
時々、歌のは歌の話など、懐かしく思ったり、湾岸戦争や、9.11など、ついこの間のように思える。
この二人の人生40年程の間に、何処で、スイッチを入れて行ったのだろう。
右左、三叉路、と、人生の選択肢は、色々あるだろうが、老いてから、ああ~幸せな人生だった、、、と、思えるようなスイッチを入れて行きたいものだと、思った。
内容的には、何か、平凡過ぎて、題名よりの印象から、外れていた。
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女子にやに下がる男子が登場するお話。
そしてそれが読んでいて心地よいというか、こちらもにやにやとしてしまう牧歌的さである。
こうあるべきというより、あるものの中にあるぬるま湯のような幸せ(褒め言葉的な意味で)。こういった男性たちを、憎むべきも愛しい女性たちを女性作家が書くのかぁと思わせた。
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昭和47年9月8日に同じ病院で生まれた2人の男、僕とおれの交差した人生を描いた長編。昭和の時代の出来事とともに語られる普通の人の40年の人生ですが引き込まれました。