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みんなのレビュー9件

みんなの評価4.2

評価内訳

9 件中 1 件~ 9 件を表示

紙の本

ハードボイルドでありながら、読者に手がかりを残す、正統的なミステリの手法を重視した村上版フィリップ・マーロウ第五作目。

2015/01/07 18:07

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る

ハチドリが謳い、揚羽蝶が紫陽花に眠る夏のパサデナ。マーロウが依頼主の豪邸を訪ねると、裕福な未亡人エリザベス・マードックは義理の娘の行方を捜せという。失踪の陰にはブラッシャー・ダブルーンという稀少な金貨の盗難が絡んでいた。息子は溺愛しているが、他人に傲岸不遜な夫人に好感は持てないものの、息子に好意を寄せる秘書の不幸そうな様子が気になった。仕事にかかった探偵を待ち受けていたのは、またもや複数の死体だった。

一人は落ち合うはずのアパートで頭を撃ち抜かれ、もう一人は店で死んでいた。探偵が動き出すと死人が出るのは、捜査によって何かが明るみに出るのを嫌がる人物がいることを示す。怪しいのは、失踪した妻の友人の夫か。それとも夫の留守に現われる愛人の方か。その愛人が落とした歯科技工士の請求書が意味する物は何か。やたら煙草を吸いたがる男たちの落とす灰や吸殻、燃え残った燐寸の軸は事件を解決する糸口に結びつくのか。ハードボイルドでありながら、読者に犯人を見つけるための手がかりを残す、正統的なミステリの手法を重視した論理的な展開を見せる。

マーロウが口にする気の利いた科白は相変わらず。さらに見るべきは、老刑事の葉巻を扱う儀式めいた手順に潜む真の恐ろしさ。エレベーター番の老人の思いもかけぬ人間観察力。客の罵声に見事に耐えた若いバーテンダーがつい見せてしまう素顔。金貨の保管先に選んだユダヤ人の質屋の主人との息の合ったやりとり、といつもながらのことではあるが、ほんの少ししか登場しない人々の人間味溢れる傍役ぶりには、チャンドラーが市井の無名の人間に寄せる愛情と信頼が感じられ、味わい深い。

それにもまして心に残るのは、馬を繋ぐ輪っかを足元につけた着色された乗馬服姿で鞭を持った黒人少年像の扱いだ。ミセス・マードックの屋敷の前にいつも立っている像の頭に手を置き、訪問のたびにマーロウは少年に語りかける。ふだんは、人を見れば減らず口を叩き、相手に腹を立たせてばかりいるマーロウが、このときばかりは親身に話しかけてみせる。まるで生きている人間より、よほど本当に生きていて心許せる相手ででもあるかのように。金持ちの家に雇われているというだけで人を人とも思わぬような応対をする使用人たちの横柄さとの対比が何ともいえず小気味よい。

清水俊二、田中小実昌両氏の訳と比較していないので、新旧訳の比較は後日を待ちたい。はじめて村上訳のマーロウが登場したとき、賛否が分かれたのを記憶している。旧訳になれたファンには、訳の良し悪しより、逐語訳に対する違和感が強かったのではないか。以前、原文と比較して新旧訳を読み比べ、原文の持つリズムやドライブ感に舌を巻いた覚えがある。会話部分の台詞回しは名調子なのだが、人物の容姿、服装や家具調度、建築様式などを必要以上とも思えるほど丁寧に描写するチャンドラーの文章は、忠実に訳せば訳すほど日本語としては冗漫に感じられ、所謂ハードボイルド調とは異質なものとなる。チャンドラー自身はハードボイルド小説を書いているという意識はなかったのだろうが、ジャンルで本を選ぶ向きにはチャンドラーもまた、その一人と受けとめられていたにちがいない。『高い窓』は、ハードボイルド的要素が比較的少なく感じられる分、村上訳も受け入れられやすいのではないだろうか。ダークブルーの地に建物のシルエット、黒白の文字を効果的に配した装丁は、これまでの村上訳チャンドラーの中で最も作品の雰囲気を伝えている。

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2015/03/08 01:05

投稿元:ブクログ

07/03/15
ほんともうそも、優雅に厳重に、オブラートに包まれて語られるから透かして見るのに苦労する。謎解きゲームを追体験していくようなライブ感。
ことばの選び方がきりっとしてて素敵。

2015/01/07 15:51

投稿元:ブクログ

村上春樹の訳すチャンドラーも、これでもう五作目。さすがに、村上版マーロウも板について、今回の作品では全く違和感がない。これからは、このマーロウが定本になっていくのだろうな、などと少し感慨に耽りながら読み終わった。何度も映画化され、他の作家によって続篇まで書かれた『ロング・グッドバイ』や、『さよなら、愛しい人』などと比べると、自作の中短篇から、いいとこ取りして作られていないぶん、シンプルでストレートな仕上がりとなっている。そのぶん、脇筋の印象深い登場人物に引きずりまわされて痛い目にあったり、警察でいたぶられたり、といったチャンドラーらしさが足りないような気がするのは致し方ない。

いつもと同じように、マーロウが依頼主の住む豪邸を訪ねるところからはじまる。ハチドリが謳い、揚羽蝶が紫陽花に眠ったようにとまる夏のパサデナ。裕福な未亡人エリザベス・マードックの依頼は、義理の娘の行方を捜してほしいというものだった。失踪の陰にはブラッシャー・ダブルーンという稀少な金貨の盗難が絡んでいた。息子は溺愛しているが、他人には傲岸不遜な夫人に好感は持てなかったが、息子に好意を寄せているらしい秘書の不幸そうな様子が気になった。仕事にかかったマーロウを待ち受けていたのは、またもや複数の死体だった。

一人は落ち合うはずのアパートで頭を撃ち抜かれ、もう一人は店で死んでいた。探偵が動き出すと死人が出るのは、捜査によって何かが明るみに出るのを嫌がる人物がいることを示す。怪しいのは、失踪した妻の友人の夫か。それとも夫の留守に現われる愛人の方か。その愛人が落とした歯科技工士の請求書が意味する物は何か。やたら煙草を吸いたがる男たちの落とす灰や吸殻、燃え残った燐寸の軸は事件を解決する糸口に結びつくのか。ハードボイルドでありながら、読者に犯人を見つけるための手がかりを残す、正統的なミステリの手法を重視した論理的な展開を見せる。

マーロウが口にする気の利いた科白は相変わらず。老刑事の葉巻を扱う儀式めいた手順から相手の手ごわさを知るところ。エレベーター番の老人の人間観察眼を見くびったことに対する自戒。客の罵声を耐えた若いバーテンダーの抑えた怒りのとばっちりを受けながらも鷹揚に許す度量。金貨の保管先に選んだユダヤ人の質屋の主人との息の合ったやりとり、といつもながらのことではあるが、ほんの少ししか登場しない人々の人間味溢れる傍役ぶりには、チャンドラーが市井の無名の人間に寄せる愛情と信頼が感じられ、味わい深い。

それにもまして心に残るのは、馬を繋ぐ輪っかを足元につけた着色された乗馬服姿で鞭を持った黒人少年像の扱いだ。ミセス・マードックの屋敷の前にいつも立っている像の頭に手を置き、訪問のたびにマーロウは少年に語りかける。ふだんは、人を見れば減らず口を叩き、相手に腹を立たせてばかりいるマーロウが、このときばかりは親身に話しかけてみせる。まるで生きている人間より、よほど本当に生きていて心許せる相手ででもあるかのように。金持ちの家に雇われているというだけで人を人とも思わぬような応対をする使用人たちの横柄さとの対比が何ともいえず小気味よい。

清水俊二、田中小実昌両氏の訳と比較していないので、新旧訳の比較は後日を待ちたい。はじめて村上訳のマーロウが登場したとき、賛否が分かれたのを記憶している。旧訳になれたファンには、訳の良し悪しより、逐語訳に対する違和感が強かったのではないか。以前、原文と比較して新旧訳を読み比べ、原文の持つリズムやドライブ感に舌を巻いた覚えがある。会話部分の台詞回しは名調子なのだが、人物の容姿、服装や家具調度、建築様式などを必要以上とも思えるほど丁寧に描写するチャンドラーの文章は、忠実に訳せば訳すほど日本語としては冗漫に感じられ、所謂ハードボイルド調とは異質なものとなる。チャンドラー自身はハードボイルド小説を書いているという意識はなかったのだろうが、ジャンルで本を選ぶ向きにはチャンドラーもまた、その一人と受けとめられていたにちがいない。『高い窓』は、ハードボイルド的要素が比較的少なく感じられる分、村上訳も受け入れられやすいのではないだろうか。ダークブルーの地に建物のシルエット、黒白の文字を効果的に配した装丁は、これまでの村上訳チャンドラーの中で最も作品の雰囲気を伝えている。

2014/12/21 09:24

投稿元:ブクログ

☆1つ
いやあ実に誠に全く面白くない。
どうしてこんな本をカバンに入れて一泊二日間の旅に出てしまったのだろう。
おかげでこんなふざけた感想を書く羽目になってしまったではないか。
(おもしろくないのから感想なんか書くな!ってこと・・・)

ともかく状況の説明ばかりが延々と続く本である。
そしてその状況のほとんどはストーリーとは何の関係も無い。
ただ説明しているだけ。作者は読んでいる人の興味がどこにあるかは文字通り興味ないのだ。

わたしがこの本を選んだ理由はひとつだけ。フィリップ・マーロウが登場すること!

そして読みしくじることは予め分かっていた。だってなんと村上春樹の訳だもの。
日本語で書いてわからんのに海外の訳してわかるわけがない(・∀・) すまぬ。

2014/12/29 18:12

投稿元:ブクログ

どうやら、12月に入ったら発売されていたようなんですが。
ちょっとばたばたしていて、本屋さんの店頭を通りながら、「おや?」と、気が付いたのが、確か12月24日でした。
ちょうど、自分へのクリスマスプレゼント!
ご機嫌にちびちび酒を飲むように愉しんで読みました。

フィリップ・マーロウという中年の私立探偵。
若い頃は(?)警察なり検察でも働いていたようですが。
舞台は1930年代~40年代のカリフォルニア、ハリウッド。
格差社会、消費社会、個人主義、成果主義、といった坩堝に、人種差別と性差別と暴力を流し込んだような町な訳です。
相棒もいなくて、恋人もいません。
そして、全てこのマーロウさんの皮肉と警句に満ちた一人称で、物語は語られて行きます。

大抵が、いけすかないお金持ちからの謎めいた依頼に着手するうちに、次から次へと死体と遭遇。
複雑な陰謀に巻き込まれながら、特別にスーパーに活躍する訳でもなく、ぶつぶつ言いながら運転したり尾行したり考えたり殴られたり脅されたり。
そんなこんなをしているうちに、大概はマーロウさんの活躍のお蔭、という訳でもなく、特段ハッピーでもない結末になります。
一応、犯人は捕まるか、死亡します。
毎回、それなりに複雑で入り組んだ謎の、ほとんどは解明されます。
(時折、「あれ?中盤で運転手が死んだけど、あれの犯人は誰なんだ?」みたいなことが起こります)

なんとなく、高校生から大学生の頃だったか、一通りは清水俊二さんの翻訳で読んでるんですね。
そして、面白い、と思っていました。
ただ、上記のような作風なので、内容は一切がっさい覚えていません。

そこで始まった村上春樹さんの翻訳シリーズは、大変に愉しんでおります。
村上春樹さんの翻訳文章って大好きなんですね。
ほんとに、外れなしの素敵さです。個人的に。

意地悪でけちな初老の女性=未亡人。
この人に雇われたマーロウ。
「息子の嫁が、家宝の金貨を盗んだ。証拠は無いが」。
さて、歩き始めたマーロウさんは、次から次へと死体と出くわし。
物語は広がりながら、その未亡人の私設秘書のおどおどした女性が話題の中心になってきます。

そうして、感動的な偶然とご都合で…徐々に、8年前に「高い窓」から突き落とされた男の事件が浮かび上がってきます。
金貨を探すマーロウの仕事は、一日で2体、翌日にまた1体…と死体が現れ、混迷の中でなんとなく解決します。

うーん。
ほんとに粗筋はどうでも良いですね…
細部、文章。つまりマーロウのキャラクター。気の利いたセリフ。
一人称というのはその人物の性格付けが強く出ますね。
もう、そのキャラクターが躍動していれば、満足の行く物語世界になる…そんな強烈なキャラクター。
映像の世界では、ルパン三世、中村主水、工藤俊作、などなどが思い浮かびますが、文章の世界で言うと。
シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、メグレ警視、うーん、好みによっては長谷川平蔵、新宿鮫、というところでしょうか。
もちろん、フィリップ・マー��ウも圧倒的にこの集団に入る訳ですが、
特筆すべきはその中でも最も、「何が起こってるんだか分からない小説世界」なんですね。
外側だけのミステリーと言いますか。

そこの「判りにくいことが短所ではなく長所である魅力」を、翻訳者としての村上春樹さんは、理屈じゃなく体で良く判っているような気がします。
何が何だかわからないけれど、みんなが嘘をついて、孤独で、お金に惑い、男女関係にだまされ、モラル無き欲望のカオスの中で泣きそうになりながら虚勢を張って生きています。
そんな中を淡々とけだるそうに彷徨う、実はインテリで繊細だけど、憎まれ口を聞かざるを得ない不思議なモラリスト。フィリップ・マーロウさん。

今回「高い窓」を読んでいて、レイモンド・チャンドラーさんは、ほんとにしみじみ、もはや面白いことは面白くないんだろうなあ、と思いました。
私立探偵が死体から死体、美女から美女へと渡り歩くお話なのに、チャンドラーさんは恐らく、すごく判りにくい、そして深い面白さをイメージしていたんだろうなあ、と思いました。
その孤高の志の高さ、無意識の高潔さが、この小説世界の汚れない美しさの理由なのかなあ、と思いました。

2015/03/29 15:45

投稿元:ブクログ

[図書館本]
チャンドラーの文章を味わうには良いのかもしれないが、いかにも地味というか、静的な話で、まあまあという評価しかできない。

2015/02/17 23:07

投稿元:ブクログ

レイモンド・チャンドラーは村上春樹の翻訳で読み始めました。この「高い窓」は今まで読んできた中でもっともしっくりきた作品です。

マーロウは反省からの帰納的な認識から倫理と遊侠の人として描かれている。帰納的な推理からの認識、それは反省を経なければ可能ではない。マールへの姿勢はそこからある倫理と遊侠の姿勢を明確に示している。これがチャンドラーの真髄かとしっくりきた。村上訳で読んできた今までのチャンドラー作品を再読してみたい衝動に駆られている。

あとがきにあった疑問点などの一つの答えは認識の蓋然的な性質の示唆だろうと思う。

2015/03/16 09:39

投稿元:ブクログ

いつもながらの原文のニアンスを大切にした丁寧な訳文ですが、『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』を読んだ後だけに、少々冗長すぎるように感じてしまいました。清水訳の簡略と簡潔さに改めて感心といったところでしょうか。古典だけあって、後から踏襲された作品が多くあり、オリジナルの方が逆にステロタイプ化してみえてしまうきらいはありますが、ハリウッドの怪しくて危険な人間関係の中で、貴重なコインを中心に繰り広げられる物語は、すごく楽しめました。

2015/04/29 00:56

投稿元:ブクログ

何度も読んで、それも必要に迫られて追い詰められた緊張感の中で、嫌になるくらい読みかえし。
挙句、本を読んだ気持ちを味わえなかった。残念‼︎
丁寧に読んだけれど、イライラすること〜
伏線が回収されていませんよ。
そんなコトはどうでもいいじゃん!って思わせるほどの魅力は、まったくないしね〜
なんて雑な構成、それと反比例して緻密に翻訳しています。さすが村上春樹と、言いたいですがこの本のアラが逆に目立っていないかなぁ〜って思っちゃいました。

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