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人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想

人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想 みんなのレビュー

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紙の本

これだけ整理された内容の、ラカン研究書はこれまで無かった。素晴らしい。

2015/08/31 13:06

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:超絶技巧者 - この投稿者のレビュー一覧を見る

今までラカンについての解説書や考察書は、日本でもかなりの数が出版されているが、本書はそれらと比較してもかなり有意義なものとなっている。
著者は精神科医であるが、10代の頃からラカンに興味があって、精神科医と分析家のどちらの道に進むかで悩んだという。
しかし結果、精神科医という道を選んだことで、本書のような視点に立てたと思うので、進路選択は間違ってはいなかったと思う。

本書におけるラカンの精神分析の取り上げ方は、きわめて明確だ。
精神分析や精神科医はその分析や治療に入る前に、初回面接において「鑑別診断」ということを行う。
もちろんその患者の病状をはっきりとさせることをするわけだが、同時に神経症の領域なのか、それとも精神病の領域なのかということをはっきりさせる必要があるので、「鑑別診断」というものを行うことになる。
症状と病名のみたてができなければ、分析家も精神科医も先に進むことが出来ないわけであるから、きわめて重要な行為であるといえるのだ。

ラカンの著作として『エクリ』や『セミネール』というものが残されているが、それらは何れも大変難解なものとして有名だ。
その理由として、ラカン自身によって考案された理論や独特の用語、記号論理学的な記述や数式のようなものまで登場するので、それが難解さに拍車をかけているのだが、その理論的にも生涯に渡ってかなり変化しているという事実がある。
こうした「理論的変遷」というものもその時代順に著者は追っていきながら、必ずそのまとめとしてそれらを整理して記述している。
こうした丁寧な書き方が、これまで難解さに埋もれていたラカンの精神分析をかなり理解しやすく整理できている点は特筆に値するだろう。
正直こうした高水準でありながら、読みやすいラカンについての本というのは全く無かったので、本書が出版された意義は極めて大きいと思う。

ラカンの講義録として有名な「セミネール」は、フランス本国でも未だに完結してはいなく、その隙間をうめるためにゼミネールの海賊版の出版すらおおっぴらに黙認されているくらいであり、日本においてはその翻訳作業も遅々として進んでいない。
こうした現状では、ラカンの精神分析の全体像すら提供されていないことになるので、最初から最後までをしっかり追って書かれた本書のような存在は、かなり貴重であり役に立つものだといえる。

ラカンの理論的変遷を明らかにしていくために、後継者であるミレールやラカン派の論文からもかなり多くの引用がみられるが、著者のしっかりした考察力と整理力によって、しっかりと理解を深める道具になっているところも評価に値するだろう。

ラカンを読む者にとっては、本書は必読レベルの本であり、必ず読者の収穫になってくれる本であると思う。

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