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雪の写真家ベントレー みんなのレビュー
- ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン (作), メアリー・アゼアリアン (絵), 千葉 茂樹 (訳)
- 税込価格:1,540円(14pt)
- 出版社:BL出版
- 発行年月:1999.12
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紙の本
積雪が3Mにも達するバーモント州の町で農夫として暮らしながら、50年間にわたり雪の結晶の写真を取り続けた人の伝記絵本。1999年コールデコット賞。
2001/11/15 10:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
巻末に3点だけベントレーが撮影した38ミリ角の雪の結晶写真が掲載されている。本当に驚くべき造化の妙といったおもむきだ。グラフィックデザイナーが形を考えて、こう製図しようたってうまくいくもんじゃないだろうという気がする。もっとも、最近ではCGによりパターンを変えていく作業は、考えるよりたやすいのかも知れないけれど…。
日本で雪と氷の研究の嚆矢として知られ世界的権威となった中谷宇吉郎博士——味わい深いエッセイを残し、近年では記念切手にまでなった——が、研究をはじめたきっかけがベントレーの雪の結晶の写真集だったそうである。「雪は天から送られた手紙である」という中谷博士の言葉がカバー折返しの訳者解説に書かれているが、カットされた宝石よりも美しい結晶の形と光の魔力に魅入られ、研究に生涯を捧げたということは至上の幸福だったのではないかと思う。
ちなみに日本には、もうひとかた偉大なる雪の研究家がいる。『あんな雪こんな氷』という楽しい絵本も作った高橋喜平先生である。
人知れぬ工夫や努力を重ねながら少しずつ写真を撮りためたベントレーの生涯にふさわしく、この絵本はなかなか渋く地味な作りである。木版画に彩色がなされている。何やら日本の昔ばなし絵本のような雰囲気がただよっている。
ほとんど学校に通わず、物知りの母から知識を吸収して育った少年ウィリーは、母から古い顕微鏡をもらって花や雨粒の観察を始める。一番のお気に入りは小さなころから好きだった雪、その結晶。冬になるたび、スケッチを書きためる。
やがてカメラつきの顕微鏡があることを知ったウィリーは、17歳の年、10頭の乳牛より高いカメラを父母に買ってもらえる。大きな仕事を成した人たちの常で、子どもの可能性を信じ、そこに思い切った決断をする家族の愛情がいかに大切であるかを知らされる。個性を認めて信じ続けてくれる大人の存在が、いかに人を広く生かすことだろう。
乾板カメラの撮影は容易じゃない。費用も相当かかったことと思う。絞りの調節とピント合わせに工夫を重ね、息をふきかけて解けないように寒い納屋のなかで、蒸発してしまわないうちに素早く、きれいに見せるためにナイフで輪郭をくり抜いて…などの工夫が試行錯誤される。大恐慌前夜の話である。
人にプレゼントしたり幻灯会を開くなどするうち、科学者や画家、デザイナーの注目するところとなる。写真集の出版はウィリー66歳の年。父母にカメラを買ってもらってから50年が経っていたのだ。そして、出版のひと月後、彼は吹雪のなかを歩いてかかった肺炎がもとで、この世を去る。
伝記は<第二反抗期>の12〜14歳ぐらい、自我意識が強くなるころにふさわしいとされている。小学生ぐらいを対象に本作りがされているが、広い年齢層に響くものがある1冊だと思う。