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紙の本
保険および年金の原理と現実をミクロ経済学の理論を用いて分析し,それに基づいた改革の方向を提示
2000/10/06 15:15
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投稿者:前原 金一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
保険および年金が価格・効用理論を中心としたミクロ経済学の理論と深い関係があることはかねて周知の事実であるが,それらを実務や現実の制度と結びつけて取り上げた本は数少ない。しかし,近年のミクロ経済学の飛躍的発展によってそれらの応用としての保険・年金等への関係者の関心は着実に深まっている。本書は,保険・年金を専門とするがミクロ経済学の最新理論にも精通している著者が両者の“連結”を試みた野心的な著作である。
本書では,まず基礎編においてミクロの理論面を取り上げる。ここでは保険・年金を従来の主流である期待効用理論の面から解析する。ここにおいては,人々は市場における「自己利益の最大化」のために「最も合理的な選択をする」と前提される。しかるに本書のユニークな点は「人々は必ずしも常に合理的な行動をするとは限らない」という視点に立つ,「非期待効用理論」を紹介し,それを保険・年金の分析に適用した点にある。著者はこの点について,これまでの正統的な経済学が,人々や企業が合理的行動を取らなかった場合にどのように経済メカニズムが混乱するかについて余りにも無思慮であったことを指摘し,非期待効用理論がその意味で伝統的な経済学の「外在的批判」ではなく「内在的批判」であることを主張する。
次の応用編においては基礎編の理論分析をふまえ,社会保障および保険についての現状分析と具体的改革提言が述べられる。まず,公的年金については賦課方式と積立方式の優劣につき,人口成長率と経済成長率の合計と投資利率との大小関係で決まるとし,現在の日本のように急速に高齢化の進む社会でも,実は利子率が十分に高ければ賦課方式の方が望ましいという一見意外な結論を導く。
次に,医療制度においては1人当たり老人医療費の伸びを勤労者1人当たりの給与の伸び程度に維持することを目標とすべきとし,さらに具体的な制度改革を提言する。著者の提言は医療保険制度の「一本化」である。保険料・給付についてそれぞれ「標準」を設定し,この部分に関しては完全に制度を一本化した上で,各保険者間の財政調整を行った後,給付についてその標準を上回る部分を付与(付加給付)することを各保険者に認めるというものである。これは非高齢者のみでなく高齢者にも適用される,いわゆる「突き抜け方式」となる。かねてから医療保険制度についてユニークな提言をしている著者の新たな問題提起として注目される。また,保険業の資産運用上の課題として長期投資の視点の不足と国際分散投資の不十分さが理論面から導かれていることも重要な指摘である。
本書は理論と応用のバランスが良くとれている上,全体の記述も平易でわかりやすく書かれており,保険・年金に関心を持つ読者のニーズに広くこたえ得る好著である。
(C) ブックレビュー社 2000
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