紙の本
進化についての秀逸なテキスト
2001/03/15 10:46
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:やまだまさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
東大教養学部・総合科目「適応行動論」の教科書である本書。語り口も優しく、わかりやすい本です。キーワードは「適応」と「進化」。進化とは遺伝子を単位とした自然淘汰の結果であり、自然淘汰がおこる過程で適応という概念が組み込まれ、説明されていきます。
前半は進化・遺伝・適応という概念の整理となっています。「種の保存」という時代遅れの考えをもっていたり、「利己的遺伝子」という意味を取り違えている人に是非読んで欲しい箇所です。
後半は血縁淘汰・包括適応度・社会的ジレンマゲーム・性淘汰などの最近の進化生物学の成果が詰まっています。「女児殺し」などの進化論的説明、社会的認知モジュールなどの話はとても興味深いものです。
本書を通読した上で私にとって気になったのは、この本は生物に対してのみ考察をしており、無生物の進化について何も記述がない、という点です。「利己的な遺伝子」の著者であるドーキンスは、生物以外にも文化因子(ミーム)などに進化論は適用できると記述しています。このあたりのことを著者がどう思っておられるのか、非常に気になりました。
また本書は、(というより進化生物学は)社会システムを説明するものであって、それを批判検討するような意味合いは一切もっていません(とご本人が仰ってました)。知識の取扱には注意しましょう。
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かなり教科書的な本。
でも、進化心理学に興味があればそんなに頑張らなくても楽しく読める。
<メモ>
・進化=集団中の遺伝子頻度が時間とともに変化すること
・自然淘汰=偶然にランダムに生じてくるさまざまな変異のうえに、生き残るための競争が働いた結果、より環境に適した形質が残され、そのような形質が集団中に広まるプロセス。
・自然淘汰に目的はない
・進化は進歩ではない
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教科書として購入。進化という視点から動物や人間の行動・心理について説明。とくに人間社会についての部分は面白い。わかりやすく解説してあるので、特に生物学の予備知識はいらないと思う。
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進化心理学の入門書。人間と他の生物とを比較しながら論じている。「生物の中のヒト(人間)」という一貫したスタイルを通しているようであった。著者の語り口が優しく、進化心理学、延いては生き物の素晴らしさ、神秘を伝えようとする熱意が感じられ、読めば読むほど惹きこまれていった。
進化心理学の本は初めてだったこともあるが、本書を読んだことで世界観が大きく変わった。
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動物の行動を、遺伝子進化論の立場から解説した本。
講義形式で様々な事象を解説。人間行動にまで踏み込んでいる点も非常に興味深い
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進化論とは果たして科学か、はたまた思想なのか?
進化論にまつわる大きな誤解。
①氏か育ちか。 -古くて新しい問題
・全てのヒトの心の働きのほとんどは、遺伝的に決まっており後天的な影響は非常に少ないと考える遺伝決定論。
身体的特徴が遺伝的であるのは、誰しも納得するところであるのに対して、知能に至っても同様であると発言したならば誰しもが不快に思うのは何故だろうか。
・進化が人間の行動を規定しているとすれば、我々の自由意志とは何であるのか?
・一方で、人のこころは何も書かれていない白板のようなものであり、そこに経験や分化が情報を書き込むことによってヒトの心ができあがる。ヒトは育て方次第でどうにでもなる(J・ロックによるダライ・ラサ)
<本書の理論>
・マーガレット・ミードのサモアの青春の嘘。
・氏か育ちかはゼロサムではない。
・カッコウの事例
-託卵。誰にも教わっていないのに、他人の卵をけり落とす。
・ラットの迷路学習の事例
-迷路を早く通り抜けられるラットのみを交配させたグループと遅いラットのみ交配させたグループでは大きな差が出る。
・行動を支配する遺伝子とは、タンパク質を生成するレシピのように考える。
・ドーキンスが喩えた料理のレシピ。レシピが遺伝子のようなもの。レシピの一言一句は、結果のどこに対応しているのかは明らかではないが、レシピが変われば、確かに結果も変わる。遺伝子が変われば、あるタンパク質の差異が生じる。
・戦略の最適化
・遺伝率は、その行動や気質に遺伝的変異がある場合、個人差がどこまで遺伝によって説明されるのかを示す指標ではあるが、その行動や形質自体の発生や発現がどれだけ強く以前に規定されているかに関する指標ではない。例えば、片手の指の数の遺伝率を考えた場合、5本指であることは遺伝とは関係なく、4本、6本にするような遺伝子はないので遺伝率はゼロ。
②自然淘汰の原則に従い、魅力が無い製品は淘汰されるだけ...、-進化と進歩の誤解
・会社がつぶれるのも、労働者が解雇されるのも飢え死にする人間がいるのも全て適者適存の自然の理である。この世が弱肉強食の生存競争の世界であるのは、生物界の心理である。したがって、つぶれる会社を救う必要も
貧乏人を助かる必要もない
・アフリカやアマゾンのような未開社会から「進化」によって、人間社会に進歩がおきついには最も優れた「西洋文明」が誕生した。その後も人間同士の生存競争によって最も優れた人間だけが生き残り、今も反映している
<本書の理論>
・進化と進歩の違いの誤解。進化には、なんらかの価値は無関係。
・進化とは、集団の中の遺伝子頻度が時間とともに変化することをさす。重要なのは遺伝子の変化であること。狩猟が農耕に推移したのは進歩であり進化ではない。
・ダーウィンが考える進化論のベースは「自然淘汰」。自然淘汰の基本条件は
1)生物には、生き残るよりも多くの子が生まれる
2)生物の個体には、同じ主に属していても、さまざまな変異がみられる
3)変異の中には、生存や繁殖に影響を���ぼすものがある
4)そのような変異の中には、親から子へと遺伝するものがある
・突然変異はランダムに発生。たまたま、外部の環境に適応できたものが生き残るだけ。
③現状なんて肯定できない! 価値判断の誤解
進化論を認めることは、人間の現状がこうなっていることを認めることであり現状を肯定することになる。しかし、人間社会の現状は、差別、不平等、搾取などにあふれており、とても肯定できるものではない
<本書の理論>
・自然淘汰に目的などないし、なんらかの価値判断もない。例えば、人間は猫と違って夜目がきかないが、これは、夜は何も見る必要がないと言えるのか?
④キリンの首は何故長いのか? 用不要説の誤解
・キリンが一生懸命高いところの草を食べようとしていたので、首が伸びた。それが子供に遺伝して(それを何千回も繰り返して〉今の首の長さになったのだ(ラマルクの用不用説)
⑤チンパンジーは長い月日を得るとやがて人間に進化するかもしれない。 猿の惑星の誤解
・進化とは一本のはしごのようなものであり、その頂点に立つのが人間。すなわち進化の最終形が人間である。
<本書の理論>
・進化は枝分かれしており、梯子型のモデルではない。全ての生物は進化の最先端にいる。
⑥進化とは種の保存のために行われる -レミングの自殺の誤解
・固体の利益よりも種の利益を優先する。増えすぎたら、崖に飛び込んで自殺するレミング。
⑦好きだから助けるんだ。そんなの当たり前じゃないか!-感情システムの起源の誤解
<本書の理論>
・レミングは単なる事故死
・群淘汰は基本的にはNO
・利他的行動と利己的行動。血縁淘汰。
・吸血こうもり。血を飲まないと一定時間で死んでしまう。なので、血を分けてもらう行為を行って生き延びる。互恵システム。でも、いつももらってばかりのこうもりもいるはず。
・フリーライダー(裏切り者)を見つける検地機能。人は互恵的な生き物であるため社会契約を守らない寄生者に鋭敏な適応機能が備わっている。
・他人の裏切り(ごまかし、たかり)を発見するには、全ての取引を記録するしかないがコストがかかる。したがって、感情メカニズムが発達してきた。好き嫌いといった感情は互恵的利他的行動を発展させるために生み出されたもの。
-友情と好き嫌いの感情
-道義的な攻撃
-感謝と同情
-罪悪感とそれを補うための利他行動
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人間行動の基盤に進化論が示唆する遺伝子的要素があるとは。行き過ぎた文化至上主義に対して、認識を改めてくれる。学術書であるため、気軽に読める本ではないが、噛みしめながら読み進めることで得られるものは多い。特に性差に関して。
・文化には何でもあるというミードの研究は信頼性が低かった。
・「種」の保存の曖昧さ
・日本の家族のきょうだいと同じくらい、キブツの子ども同士はなじみが深くなる。近親婚回避の進化メカニズムから、キブツ出身者同士の結婚率は低い。
・継子は実子に比べて、子殺しに合う危険性が最大40倍も高い。
・一般に男性の免疫系は女性のそれより低い。男性ホルモンのテストステロンが免疫を阻害するから。
・長子は他の順位の者より年代にして70年分、新理論の受容に保守的だった。現代の政治思想に対してもそうだ。※これは女性よりも男性の方がさらに顕著だろうな。
・好き嫌いの感情は、互恵的なシステムが出現した後に、そのシステムを調整する上で重要な方法として進化した。
・性淘汰の強さを決めるものは、親の投資(子育ての労力)と潜在的繁殖速度。
・配偶者防衛
・一夫多妻の傾向が強いほど、雄同士の争いが激しくなり、身体が雌に比べて大きくなる。
・ヒトにおいて、ある程度の精子間競争が存在していた。
・極端な形の一夫多妻制は、農業や牧畜の発明後、富の蓄積と分配の不平等が生じるようになったとに出てきたもので、ここ1万年の間の現象だと推測される。
・生涯繁殖成功度の最大数は男性の方が大きく、ばらつきも大きく、生涯に一人も子を持たない確率は男性の方が高い。
・進化心理学的にいえば、そもそもなぜ男性が権力を得たがるかの進化的理由は、それが繁殖成功度の増大に寄与したから。
・少子化は人間行動生態学の大きな謎。
・初潮年齢が低いほど、生涯出産数が増える。処女の高い評価は父性の確実性と関係。
・自己主張しない女性がよいのも、男性から見た配偶者防衛の一つ。
・いずれの国でも、男性は女性よりも性的関係に対して(父性の確実性)、女性は男性よりも心変わりに対して(親の投資)、強い苦悩を感じる。
・生物の進化の歴史を考慮し、それぞれの生物がどんな問題解決をせねば生存して繁殖することができなかったかを考えれば、学習のメカニズムには異なるものがあり、それが行動ごとに、そして生物ごとに異なるのは当然。
・言語には音声コミュニケーションという側面と、世界の認知という側面の二つがある。
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これも古いけどよい教科書だな。社会生物学(論争)についてのパーソナルな視点からのコメントも多数あって参考になる。
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進化は遺伝子の変化
進化は何によって起こるのか?自然淘汰
科学の理論は、どれも究極的には仮説であり、絶対に正しいと断言できるものなどない
行動は、からだの生理学的・生化学的反応と神経系の制御によって生じ、これらの反応の生成や、神経系の伝達の方向づけと速度、刺激に対する感受性の高さなどは、関与するタンパク質の種類と量によって変化する。その違いが、行動の違いを引き起こす。
行動も自然淘汰によって進化する
行動には、利益と同時になんらかの損失が伴うもの
安易に「種の保存」というような群淘汰を考えては道を誤る
ヒトの心の進化を考える上では、先史学や人類学に加えて、他の動物との連続性を調べるアプローチが重要
葛藤状況が殺人にまで至るようなことは、主に非血縁者どうしで生じ、葛藤があったとしても、血縁者どうしが殺し合うことは実際には少ない
ニホンザルやチンパンジー、ハトにも人間と同じ授乳に関する「おっぱい戦争」がある、つまり親と子の葛藤状況がある
日本では他の文化より血縁者を殺すことが多い
特に母親による嬰児殺し
日本の文化は母親に対して悪く作用する要素が多いため
親子の葛藤や出生順位が人格形成に影響を及ぼす可能性はそれなりにある
どの文化でも程度の差はあれ、男性は女性よりも、権力に固執したり暴力的に振る舞ったりする傾向が強い
進化モデルと標準社会科学モデルがうまく統合できれば、新しい地図が出来あがるはず
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学んだこと
適応度や、父親の不確実性など
不倫に関するダブルスタンダード
人間は遺伝子によって操られる?
遺伝子的には男は一夫多妻を望み、女は一夫一妻を望む。
それは、子供を残す適応力の違いからおこる。
しかし、一夫多妻となると、男性に不平等が生まれる。
現代社会では、女性が社会進出したが故に、女性が自ら生活することができるようになった。
また、男性は富の不平等がなくなったわけではないが、制度的には一夫一妻制なので、現代社会では性差が消えていくのは不思議ではない。
男が体が大きいのは女を支配するためではなく、男同士での闘いを勝ち抜くためである。
など
本について
少し学術的で読みにくいところもあるが、
内容はとても興味深く、面白かった。
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適応行動論(履修してない)の教科書。人生トップレベルに面白かった本かもしれない。トンデモ理論や似非科学に惑わされない進化の捉え方を教えてくれる。メインとしては人間の知性も行動もまた進化の産物であるという視点に立って人間を説明していくパート。わかっていることもわかっていないこともあって面白い。また、人間研究は数多くの学術分野に関連して成り立っているんだなあと深く感じた。生物学と文化人類学・社会科学の対立が描かれたりもしてた。以下関連する分野を自分の思うままに挙げる。包含関係はあるけど面倒なので描かない。生物学、進化学、遺伝学、動物行動学、生態学、分子生物学、脳科学、心理学、認知科学はもちろん、文化人類学、社会科学、社会心理学、行動経済学、メディア論や言語学まで色々。教養という感じ。
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では、配偶者防衛に端を発する、女性の行動のコントロールをしようとする傾向は、進化によって形成された男性の心理なのでしょうか? それは、わかりません。このような資源の独占と富の蓄積、男性間の繁殖の不平等がヒトの配偶システムを特徴づけるものとなったのは、少なくとも農耕と牧畜の発明以降であり、せいぜいここ1万年のことです。この1万年の間に、権力欲や配偶者防衛欲がどれほどであるかに関して、男性間につねに強い淘汰が働き、男性の脳の構造やホルモンの分泌のパターンが、権力欲や配偶者防衛欲に優れるように変わってしまっていたなら、遺伝的基盤のある心理と言えます。
しかし、「女性は多数の男性と性関係を持ちたがらない」という通念と同様に、家父長制的文化のもとで作り上げられているものにすぎないかもしれません。権力欲が強く、男性どうしで連合を組み、女性の行動をコントロールする男性が成功するという社会が長く続けば、男性は、毎世代、学習によってそのようなジェンダー・イデオロギーを身に着けるかもしれませんが、それが遺伝的な変化までは引き起こしていないかもしれません。いまのところ、これはどちらとも言えないでしょう。