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白鯨 モービィ・ディック 上 みんなのレビュー
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紙の本
鯨をめぐる冒険
2010/09/25 19:31
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
名訳の誉れ高い千石英世訳『白鯨』。上巻300ページになってやっと、あのエイハブ船長が出てくる。まさしく異形のもの。
『白鯨』というと、エイハブ船長vsモービィ・ディックの対決ってイメージが強いが、どっこい人間と鯨の関わりを多角的に考察していて、ストーリーよりもそちらの方が、読んでいて強くひかれる。
それまでは、鯨の文化史やその当時(日本に黒船が来航したあたり)の港町や国籍・人種の異なる船乗りなどが重層的に描かれている。解説を読むと、作者自身「捕鯨船の平水夫」で南太平洋を漂泊していたとか。
産業革命によって燃料の油が不足となり、マッコウクジラの鯨油に目をつけ、捕鯨業が盛んとなる。作者自身、異文化を体験する中で近視眼的、もしくはステロタイプ的な西欧文明の豊かさ、物質文明の豊かさには、疑問を感じていたのではないだろうか。アウトサイダーつーかヒッピー的な精神のさきがけといってしまってもいいような。
最初の方に「ピークオッド号の航跡」が紹介されている。ナンタケットからカナリー諸島を経て白鯨を追尾する。日本はジャパン沿岸漁場、ジャパン沖漁場。ハワイはサンドウィッチ群島、マルケサス諸島はマーケサス諸島。地図を眺めれば、想像力をよりかき立てられる。
捕鯨船は単に捕鯨するだけではなく、捉えたクジラを屠って、捌いて、鯨油を取る。それを精油して木製の大樽に詰めて帰港する。ほらよくいわれるけど、日本の捕鯨は獲った鯨を肉から骨からヒゲからすべて無駄なく活用しているが、西欧諸国は油だけとって捨てていると。それは、文化の違いだからどっちが正しいとかはいえない。
本書にも、鯨肉をステーキで食するシーンが出てくるが、あまりにも大量すぎて食べきれない。蟹工船ならぬ鯨工船とタッグを組んで、油を絞った肉は、船上で缶詰にでもしてもらえばよかったのに。など、勝手に妄想する。ジャパン沖漁場-小笠原諸島あたりか-は、
やはり昔から鯨の宝庫だったようだ。
白蛇、白竜、白虎、ホワイトライオンなど白い生物は聖なる象徴とされて信仰の対象になっている。アルビノなどと片付けてしまっては、面白くない。白鯨は、聖書(正しくは旧約聖書か)にも出てくるリヴァイアサンなのか、神の化身なのか。人間の自然への冒涜に対する戒め、復讐なのか。人間は崇める対象物を、時には侵犯して生き延びてきた。
紙の本
旧ペンギン版とともに、ぜひ
2001/02/13 15:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ミミズク - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつてペンギン・ブックスに、ハロルド・ビーバーなる学者が注釈を付した、Moby Dickがあった。作中何気ない個所にホモセクシャルな意識を読み込んでみたり、言葉遊びに明け暮れたり、と、注釈だけでも存分に価値のある版だった。ところが、注釈に割くページが本文に匹敵するという異常さのためか、はたまた従来考えられてきた『白鯨』という作品を解体しかねない至上の遊び心のゆえか、この版は一部のマニアックな読者層からは熱狂的にに迎え入れられたものの、良識派の学者連中からは不評を買い、絶版となった。現行のペンギン・ブックス版は、角の立たない、ありきたりな、薄っぺらい注釈になり下がり、物分かりのいい人は誰も見向きをしなくなった。
何十年かぶりの新訳、『白鯨』を読むときは、ぜひともこの旧ペンギン版を傍らに、と思う。訳者注は括弧付で本文中に組み込まれているのみだが、翻訳の姿勢は一貫して旧ペンギン版、ビーバー氏の注釈の意図を存分に汲み取ったものとなっている。時に読み込みすぎて、知らぬ人にとってはつらい場面もある。しかしこれは、翻訳とは横を縦に換えるだけの作業ではなく、変換するさいになんらかの意図を組み込むことが可能な、いや、図らずも組み込まざるを得ないような、そんな作業であることを体現しているからこそ、なのだ。
難渋な原文を読みやすい日本語に変換しているから、面倒くさい議論はいいよ、という人にとっても、いちばん読みやすい『白鯨』であること間違いなし。途中まで読んで、何コレ、どこが名作なの、と思った敏感なあなた。それは翻訳のせいではなく、原書が、普通一般に考えられている小説の概念をはるかに超えてしまっているからと考えて欲しい。八木敏雄『『白鯨』解体』および、千石英世『白い鯨のなかへ』がここらの事情に詳しいので、併せてぜひ。
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