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ミイラにダンスを踊らせて メトロポリタン美術館の内幕 新装版 みんなのレビュー
- トマス・ホーヴィング (著), 東野 雅子 (訳)
- 税込価格:4,180円(38pt)
- 出版社:白水社
- 発行年月:2000.6
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紙の本
踊る大美術館
2006/10/14 18:04
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
問い「ヴァチカンとベルサイユとスルタンの宮廷とアリ・ババの洞窟を全部一緒にしたようなところとはどこでしょう?」答えはアメリカはNYの5番街に面している、メトロポリタン美術館-通称メット。
1967年までに六人の館長が就任し、うち一名は辞任した後間もなく死亡、二名は任期中に死亡。まるで呪われた美術館のようだが、それだけ館長が精神的にも肉体的にも激務だという事だ。そして1967年、36才の若さで第七代館長に就任し、1977年まで無事任期をつとめあげたのが、本書の著者であるトマス・ホーヴィングである。
タイトルは、ホーヴィングが館長就任を、当時の上司である市長に報告した際、市長から言われた言葉から取られている。「あの場所は死んだも同然という感じじゃないか。君ならミイラでも踊らせるからな。」
そしてホーヴィングはその言葉通り、ミイラも踊らんばかりの活気を美術館にもたらしたのだった。その当時、メトロポリタン美術館といえば、1870年に創設された歴史と権威はあったものの、一般の人にとっては、決して近寄りやすい場所ではなかった。だがホーヴィングは、現在では一般的になった美術館ショップの設立や、美術品の買いあさり、展示会の誘致、物議を醸す展覧会の企画などと次々と新機軸を打ち出し、美術館を一大イベントスペースへと変えてゆく。その様子が、バラエティに富んだエピソードを交えて、生き生きと描かれている。ツタンカーメン展にこぎつけるまでのゴマすり。ジャクリーン・ケネディ・オナシスのロシアでの歓迎ぶり。理事達との駆け引き、米原万里さんの著書でもお馴染みの、ロシア政府のアバウトさ、個性豊かなキュレーター達。盛りだくさんな内容は、なまじのフィクションより面白い。中でも、ギリシャのクラテール器を巡る騒動は、それだけでミステリーとして成立しそうな内容の濃さだ。毀誉褒貶が激しいが、うさん臭い人物や使えない部下への容赦ない切り捨てぶりは小気味良い。本書を読むと、名誉職と思われがちな館長が、イベントプランナ−、交渉人、ロビイスト、興行師と、企業経営者に匹敵する才能を必要とする職業だった事がよくわかる。TVシリーズでのドラマ化などすれば、もっと多くの人に知ってもらえるのではなかろうか。
紙の本
このタイトルで心を動かさない美術愛好家は、いないよね
2002/11/22 20:39
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
テロ以来、ニューヨークのことに触れるのが悪い気がしてならないこの頃だけど、アメリカが最もアメリカらしかった1970年代のニューヨークという都市の清濁併せ呑むような熱気を報告するこの本は、逆に今にこそ相応しいものかもしれない。それにしても、何と素晴らしいタイトルだろう。その不敬な言葉の組み合わせの、なんともいえない高揚感。こういうタイトルを日本の美術書で見てみたい。
「美術館の経営も企業の経営も同じ」と豪語するホーヴィングは当時まだ36歳。キュレーターからニューヨークの政治家へ、そして今度はメトの館長にとその転身ぶりは華麗としか言いようがない。使い古された言葉だがアメリカンドリームというのがぴったり。そして、舞い戻った世界では、美術というきれいな言葉と裏腹に、理事たちの足の引っ張り合い、無能な人間の追い出し、オークション参加の権謀術策が渦を巻く。保守的な美術館を劇的な場へと変える為の戦い。その相手はマスコミ、議会、環境団体、身勝手な富豪、遺産を手放そうとしない遺族、無責任な学芸員、有力美術館。
メトを世界一にするという信念。それを支える理事たち。メトの改造を巡る、建築家ケヴィン=ローチとの出会い、増大する費用や改造反対の声、便乗する政治家たちのエピソードは企業小説そのもの。ともかく登場人物のスケールが違う。ロックフェラー、メロン、ケネディ、ジャクリーン・オナシス、サダト、マルローそしてソビエトの官僚たちと、まさに人物現代史。
ともかくお金が動く。理事たちが競うように資金を提供する。いい作品が売りに出るというだけでお金が集まる。自分の展示室を作ってくれれば、作品と管理費を出すというコレクターたち。彼らの前に現れる名品の数々。優品であれば盗品であっても手に入れようとする美術館。いい作品を借り受けるための苦労、ヨーロッパでの豪遊。本当のことなら堂々と書いてもいい、そういったアメリカの信念が伝わる傑作本。初版は1994、図版が少ないのが唯一の欠点だろうか。
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