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図書館から借りました
明時代。悪党「西門慶」の物語
さして悪いことしてないような気がするが。
家の中のことを中心に物語はすすむので、正妻の月娘になんやかやと言われて、愛人をあっちこっちにこさえて、そけらの言いなりになってあっちふらふらこっちふらふらする、主体性のない男。ついでに、悪党のくせに、人から言われた悪口をすぐ間に受けて、小者を折檻したり、古い愛人を足蹴にしたりする。
今少し、考えて動けよ、このお馬鹿さんは、と思うようになってくると…ああこの人、愛しいかも、という心境に達する。(あれれ???
顔はよく、姿もよく、洒落者で、金があり、若くて(死亡するのか三十三歳という若さらしくて巻末になってもまだ二十九か三十ぐらい。当初は二十五・六だった)、女が美しく装うのを喜ぶし、沓(くつ)一つの色にだって気がつくので、着飾りがいのある恋人なのだろう。
嫁さん達が酒盛りをしていると聞くと、どんな酒を飲んでるのか小者に聞き、それから酒蔵に自分から入って「これなら奥様方好みの味だ」と、出してやるシーンがある。
女癖はたしかに悪いが、この巻だけ読む限りでは強姦等はしていない。いつも女から言い寄られたり、ちょっと誘いをかけるとなびいてくる。人妻にもこなをかけるが、発覚して亭主を殺したりもしたが、それとて自分の手は汚してない。
本当に男が書いた物語なのか、これは?
奥(奥方たちの住まい)のやりとりの濃厚さ。
どちらかというと、女性たちの内面の濃さ、描写の緻密さを考えると。(そして西門慶の主体性のなさを見よ…)
連想するのは源氏物語なのだが。
淫書、悪書とか呼ばれるらしいが、描写の美しさはすばらしいし(灯籠祭りなんて絢爛豪華な描写だ)、食べ物の描写も細かい。いちいち女達の装いを説明し、西門慶の服も説明し。
これは…明時代のファッション誌ではないか?(食べ物に、行事に、服飾が載っていて…って)
西門慶は守備範囲が広く、奥さんはすでに六人(人妻だったのに手を出して、結局妾として家に入れたのが二人。遊郭から身請けしたのが一人。名家からもらった正妻。若い後家さんが一人。小間使いあがりが一人)、家に入れていて。わかるだけでも小間使い三人(中に春梅がいる。最強だと思うがこの彼女が)に手をつけていて、使用人の妻にも手を出していて(自殺しちゃうが)、郭に馴染みが二人いて。 その上で、美少年のお稚児さん(性格がけっこうシビアな16歳。他家で小姓だったのが譲られてきた)もあり。
なんでも食べてみるのだね、西門の旦那。。
物語としてはとてもとてもおもしろい。緻密だし、恨みやいろんな伏線があるから、キャラクターは不自然な動き方をまったくしないところがすごい。