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本書が扱う範囲は、太政官布達16号により「公園」とされた、封建時代からの遺産である遊覧所、寺社境内、屋敷庭園、城址を主としている。
これらの成立過程や、幕府(将軍)による都市行政、当時の庶民との関係、江戸期における名勝・遊覧所の活況等に触れている。
市区改正以降に誕生する、近代的な都市計画がもたらした洋式公園に関しては、末尾のほうで日比谷公園に触れるのみで、締めとして、欧州の公園の発祥過程に軽く触れ、日本の公園との比較を行っている。
明治時代に入り江戸は東京と名を変え、急速に近代化していったかのようなイメージを、自分は抱いていた。しかし、支配体制の転換にともなう様々な要因により、実は衰退した時期があったという。
軍事衝突等による建物の損壊以上に、帰郷にともない空家となった大名屋敷の荒廃、地権の委譲がもたらした土地利用の変更などを原因として荒廃したらしい。
江戸の土地の大半は支配層と寺社が所有しており、庶民は片隅の土地にへばりつくように暮らしていた。土地管理者が消えた当時の東京の状況は、さながら巨大なゴーストタウンのようなものだったのだろうか。
日本における景観保全、公園・緑地整備は、江戸から明治への移り変わりの中、荒廃していく封建時代の庭園や城郭を保全する動きから始まった。
そして、前時代の匂いを残しながら、明治の時代に新しい公園がつくられていく。
…余談だが、日比谷公園開園の12年前。東京に「坂本公園」という小さな公園が開園している。市区改正事業により整備されたその公園は当初、茶店を備えた和式庭園だったという。