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ギリシア哲学の入門書。ギリシア哲学者の学説の紹介だけでなく、「哲学の誕生」に至るまでの経緯をたどりながら、ギリシアにおいて真理を探究する「哲学」という営みがどのような意義を持っていたのかという問題に論じている。
まずギリシアにおける哲学の誕生について触れられている。バビロニアの占星術やエジプトの測量術は、きわめて高いレヴェルに到達していたが、彼らはついに天文学や数学を生み出すことはなかった。ギリシアにおいてはじめて、実利的関心を超えた「知ることを愛すること」、すなわち「哲学」(philosophia)という営みが生まれた。
ついで、ギリシアにおける神話的世界から哲学的世界への展開がたどられる。ギリシア人の「神話」(mythos)への関心は、非合理的なものに沈潜する神秘主義とは異なる。ヘラクレイトスはロゴス(logos)とエポス(epos)を区別し、前者が超感性的で理性的な言葉であるのに対して、後者は感性的なものから切り離すことのできない口舌の所産だと考えた。著者はこの言葉を踏まえながら、ミュートスを、ロゴスとエポスの双方から区別して、ミュートスの世界はエポスのように対象を感性化するのでもなく、またロゴスのようにそれを非感性化するのでもなく、それを「具象化」するのだと述べる。その上で著者は、神話とは、E・カッシーラーが『象徴形式の哲学』の中で論じた「象徴の論理」にほかならないと論じている。
ギリシア人は、神話の中で運命の必然性をくり返し語っている。そして、この運命の必然性がみずからの論理を開示するとき、運命の必然性は理性的なコスモスの必然性に席を譲ることになる。こうして、神話的世界から哲学的世界への展開が成立したのである。「万有は運命にしたがって生じ、しかもその同じものは必然的なものに帰する」とヘラクレイトスは述べた。哲学は、永遠に流転する世界の根源にある、統一的な世界法則を探究する営みである。
このあと、タレスからアリストテレスに至るまでの主要な哲学者の思想の紹介がある。