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天山山脈を越えてはるかゴビ砂漠の向こう、サマルカンド、タシュケント、ブラハ、シムダリア・・・シルクロードと呼ばれるより以前にそこにあった人々の営みを、目の前に色鮮やかに書き出してみせる筆致は、書き手である井上靖がこの地を憧れの地だと言うからこそでしょう。 邑邑を旅してゆくキャラバンや、熱っぽい空気の中で交わされるバザールの取引・・・表紙と表見返しのカラー写真以外はいくつかの白黒写真があるだけで、全ては文章から立ち上ってくる色と香りに現されています。
玄奘が歩き、マルコポーロが旅した道。 国境は今でこそ地図に描かれていますが、本当はもっと緩やかに人々の流れがあって、アジアと西洋の境目ももっと曖昧だったのでしょう。
彼が歩いた地は、恐らく今はもう無く(タリバンやら砂漠化やら民族紛争がその主な原因だけれど)、二度と得られない風景になってしまったが、 井上の書き記したこの紀行文には恐らくその頃の匂いが残っている。 私達はこの本を通して、その時代の香りを確かめるのです。
井上靖の作品といっても小説ではなく30年も前の本でレビューがあまり探せないのですが、シルクロードに関心のある人にはぜひ一度読んで欲しい本です。